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2016年06月17日
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カテゴリ: 羅刹
 父は何か知っているのだろうか。

 結局、能季は父には何も打ち明けなかった。

 年老いた父にはできるだけ迷惑は掛けたくなかったし、それにもう済んでしまったことだ。

 ただ、数日前、父はふと思いついたように、能季へ道雅が死んだことを告げた。

 曲がりなりにも、廟堂の長老の一人である父のことだ。おそらく誰かから報告を受けたのだろう。

 もちろん、能季が友人の婿入りの件と偽って、以前道雅のことを詳しく尋ねたことを思い出したからかもしれない。

 だが、そうさりげなく切り出した父の眼差しには、どことなく深い慈愛のようなものが感じられた。

 もしかしたら慧眼の父は、能季が一人で苦悩していることを、すべて見抜いていたのかもしれない。

 だが、自分の力だけで何とか問題を解決しようとしている能季を、一人前の男と信頼してじっと見守っていてくれたような気もする。

 能季はそんな父の心遣いが嬉しく、せめて一つくらい父に頼って親心を満足させたくなった。

 それで、当子内親王の乳母から預かった道雅の文を、父に見せたのだった。

 父は古い結び文を解いて、書き記された和歌を何度も読み返した。

 それは、和歌の上手として知られ、当代一の審美眼を誇る父の心さえも、揺り動かすようなものだったらしい。

 やがて、父は感慨深げに溜め息をつきながら、静かな声で能季に言った。

「これは私が預かっておこう。このまま埋もれさせてしまうには惜しい歌だ。私の手元にあれば、いつか何らかの形で、この世に残していくこともできようから」


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最終更新日  2016年06月17日 14時18分45秒
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