MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「心の声」1




「厳冬」 という曲を聴いてください。

涙

人の心の声が知りたい。

そう思うことってあるよね。

私はあの人にどう思われているのかな?

自分の本当の心さえ分からないのに。

聞きたいけど、嫌なことなら聞きたくない。

そう思ってしまうけど、

私には嫌でも聞こえてしまうのだ。

それを知ったのは子どもの頃。

口を開かなくても言葉が聞こえる。

みんなも聞こえているのだと思っていた。

だから話さなくても分かってもらえると思って、

言葉を話さなかった。

そうして私は発達相談に連れて行かれたのだった。

なぜか母は私が話さなくても分かってくれた。

たぶん母も同じような体質だったのだろう。

だが、その母を幼い頃亡くし、

分かってもらえる人を失ってしまった。

父は戸惑い、相談所に連れて行き、

発達の遅れを指摘された。

ただでさえ母を失い、子育てに戸惑っているのに、

手のかかる発達障害だなんて・・・。

父は私を手放した。

私は施設に預けられ、ますます口を聞かなくなった。

口だけでなく、心も閉ざしてしまったのだ。

人の思ってることは分かるから、

別に不自由することはない。

ただ自分の意思を分かってもらおうとするのを

諦めさえすればよかった。

流されるままに生きてきた。

あの人に逢うまでは・・・。

私は普段、なるべく人の心を聞くまいと

心にガードをかけている。

醜い心の声を聞きたくないから。

それでも強い心の声は聞こえてきてしまう。

いくら心の耳を塞ごうとも・・・。

そうして聞こえてきたあの人の心の声。

聞くまいとする私の心が聞こえて、

それを不思議がっていたのだ。

私もうつむく顔を上げると、

あの人と目が合った。

お互いに同類だと分かった瞬間、

思わず手を差し伸べてしまった。

そしておそるおそる手を取り合った。

彼も言葉は話さなかった。

それでも通じるのだから。

母が亡くなって以来、

初めて私の心を分かってくれる人に出逢った。

彼は同じ施設に入所してきた人だった。

やはり口を聞かず、

両親の死後、ここに来たのだ。

二人は似たもの同士として、

一緒に過ごすようになった。

他の誰とも話さなくてもいい。

彼とさえ居れば、それで安心できるのだ。

手を繋ぐことしか出来なかったけど、

私たちはそれで幸せだったのだ。

このままずっとこの施設で彼と暮らしていたかった。

だが、この施設に居られるのも、高校卒業までだ。

彼は一つ年上で、一年早く施設を出る。

就職して、自立して、私を迎えに来ると言っていた。

もちろん心の中でだが。

でも不景気で、しかも施設育ち。

なかなか就職口は見つからない。

やっと見つかったのは、住み込みの工場の仕事で、

一緒に住むわけにはいかないのだ。

彼はお金を貯めて、部屋を借りると言った。

私も高校を辞めて働きたいと思った。

でも、高校くらい出ておけと彼は言うのだ。

離れていると心の声も聞こえない。

電話をすればいいのだけど、

もうどうやって話していいかさえ分からなくなっていた。

携帯も持っていない私たちは、

手紙を書くしか出来なかった。

それさえ、そんなに頻繁には書けない。

私は書けても、彼には余裕がないのだ。

私は自分の心の持って行き場を失って、

ますます自分の殻に閉じこもった。

このまま彼さえ失ったら、

私はどうなるのだろう。

彼を知る前なら、孤独も耐えられたのに。

引き込もりになりそうになったが、

高校の単位を落とさない程度に登校し、

なんとか卒業することは出来た。

でも、そんな状態では就職は出来ない。

私は彼の足手まといにはなりたくなかった。

かといって、一人で生きていく術もない。

仕方なく、父を頼っていった。

父は再婚し、新しい母との間に子どももあった。

迷惑そうな顔をされても、

ここにいるしかないのだ。

彼とは連絡を絶っていた。

でも、施設で聞いたのか、

彼が突然訪ねてきた。

なぜ自分から逃げるのかと。

彼の声がいやおうなく聞こえる。

私を責めているのではなく、

彼自身のふがいなさを嘆く声に

とても耐えられない・・・。

私は家を飛び出した。

あわてて追ってくる彼。

腕をつかまれて引き寄せられる。

温かい胸に顔を埋めると

涙がこぼれてきてしまう。

「このまま彼を頼ってしまおうか。

でも、そんなことしたら、彼の重荷になってしまう。」

そう思ってることさえ、彼には聞こえてしまうのだ。

「それでもいいよ。一緒にいよう。」

彼の優しい声が聞こえてくる。

私の凍った心が溶けていくのを感じた。

崩れ落ちる体を支えるように抱きとめてくれる彼。

なんとか部屋を見つけて迎えに来てくれたのだ。

私も仕事を探そう。

口がきけなくても出来る仕事はあるはず。

話そうと思えば話せるかもしれない。

もし二人の間に子どもが生まれ、

その子が私たちのように心の声が聞こえる体質でなかったら、

私たちの声は届かないのだ。

二人だけなら通じるけれど。

そう思ったことは彼にも聞こえている。

彼も話すことを考えていた。

二人だけの世界に閉じこもっていたけれど、

二人だけでは生きていけない。

一人ではもっと生きられないけど。

心の声は聞こえても、

自分の声は伝えられない。

言葉を話してみようとやっと思えるようになった。

二人で共に社会で生きていくためにも。

続き



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