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MUSIC LAND -私の庭の花たち-
「メビウスの輪」14
幸恵からの連絡があまりない。
こちらから電話かければいいのだけど、
それも悔しいから、かけたくない。
かといって、このまま離れてしまうのも淋しい。
なんか女々しくて嫌になる。
電話はなかなか通じないから、メールを送っても、
返事が返ってこないからイライラする。
女子高生の相手ばかりしてないで、
俺の相手もしろよと言いたい。
仕事を始めたばかりで余裕がないのは分かるけど、
女の癖に仕事に夢中になり過ぎだよ。
まあ、俺も新入社員の時は幸恵を放っておいたけどな。
男と女じゃ違うんだよ。
男女平等と言ったって、一生働く訳じゃないし、
家族を養う義務もないじゃないか。
俺と結婚したら、仕事なんか辞めてもらいたいが、
まだそこまで収入はないか。
子供が出来るまでには、収入も上がるだろうし、
仕事にも飽きてるころかもしれないから、
妊娠を機に辞めて欲しいものだ。
人の子に構ってるより、自分の子を構えと言いたい。
俺も結構、亭主関白志向かもしれないが、
男の本音はそんなものじゃないか?
幸恵は大人しそうに見えて、芯が強いから、
俺の言うことは聞かないかもしれないけどな。
ただハイハイと言うことを聞くだけの奴もつまらないから、
かえって、信念を曲げさせるというのも一興だな。
俺のためにどこまで妥協できるか見たいのだ。
家庭に押し込めたら、不満が募るかな。
家事と子育てでいいじゃないか。
幸せな家庭が欲しかったんだろ。
そのために俺を選んで、父親に認めてもらう為に
この会社にだって入るように勧めたんじゃないか。
俺は幸恵に賭けているんだ。
こんなことで挫折する気はない。
早いとこ、父親に認めさせて、
結婚させてもらおう。
ついでに次期社長候補にもしてもらいたいとこだけど。
結構大きな会社になってきたから、
いつまでも同族会社というわけにはいかないかもしれない。
それならそれで、重役くらいでもいいけど。
そのくせ、愛人の子である啓一なんぞも入社させて、
何を考えてるのか分からないな。
社長は婿養子なんだから、愛人の子では後継ぎにはできないと思うが、
娘の婿養子だって、血が繋がらないという意味では大して変わらないか。
まずは実力を付けるしかない。
営業成績では負けてはいないと思うが、
あいつの愛想良さは半端じゃないからな。
周りをどんどん味方にしている。
客だけでなく、上司や同僚の受けもいいのだ。
俺はぶっきらぼうな言い方しか出来ないし、
なぜか敵を作ってしまうタイプらしい。
生意気と思われがちだし、
実際言うことなどききたくない。
上から指示されるのが嫌いなのだ。
親父にさんざん嫌味や文句を言われてきたから、
同じような年の奴は見たくもない。
それでも、我慢できるようにはなってきたが、
内心思ってることは、やはり顔にも出るらしい。
客は短時間だからなんとか誤魔化せるのだが、
会社には居る時間が長いからな。
啓一に営業成績が追いついたと思ったら、
また段々差を付けられてきたような感じがする。
すぐに挽回してやると思うが、
つかみどころのないやつだからなあ。
愛人の子で、顔色を伺うことに慣れているのか。
俺だって、そういう点では負けてはいないと思うが。
啓一が、知ってか知らずか俺に話しかけてきた。
幸恵と付き合ってることは誰も知らないはずだから、
ただの営業のライバルとしてだと思うが。
「信吾君」ときたものだ。
名前で呼ぶなんて、ギョッとした。
幸恵と同じ呼び方だ。
「なんだい、啓一君」と
こっちも名前で言い返してやった。
微塵も動ぜずに、
女みたいにきれいな顔で微笑まれると、やりにくい。
これで、女性客はいちころなんだろうな。
「話があるんだけど、ちょっと時間いいかな。」
一応俺の方が半年先輩なんだぞ、と思いながら、
「いいよ、少しなら。」と余裕を見せる。
「幸恵と知り合いなんだって?」
いきなり単刀直入だな。
なんでこいつがそんなこと知ってるんだ。
それに呼び付けかよ。
動揺を見せないように、声を押し殺して
「同じ大学の合唱団の先輩後輩だよ。」と答えた。
「それだけかい?」
探るような上目遣いだ。
「そうだよ。何かあるにしても、君に関係あるのか?」
「一応、半分血の繋がった兄弟だからね。」
「兄弟ね。幸恵はそうは思ってないみたいだけど。」
つい幸恵と呼んでしまった。
「幸恵と呼びつけなのかい? 先輩なのに?」
「うちの合唱団は、ラフだからそう呼び合ってたんだよ。」
慌てて言ったが、バレバレだな。
「隠さなくてもいいよ。もう調べてあるんだから。」
ニコッと笑いながら言うのが、嫌味だよな。
「知ってるんだったら、最初からそう言えよ。」
「君の口から聞きたかったんだよ。」
「聞いてどうするんだ?」
「どういうつもりで付き合ってるのかも聞きたかったんだ。」
「お互い結婚するつもりでいるよ。
そのためにこの会社に入ったんだ。」
「それで社長にでもなるつもりかい?」
「お前こそ、どういうつもりなんだ?」
言葉も語気も荒くなってしまった。
啓一がやけに落ち着いてるだけに悔しい。
「僕はどちらでもいいんだけど、
父が僕を社長にしたいらしいんだよね。」
相変わらず、微笑の仮面を崩さない。
「俺が邪魔というわけか?」
「早い話がそうなんだけど、
社長の娘婿じゃ、邪険にするわけにはいかないしね。」
「お前こそ、先代の婿養子である社長の愛人の子のくせに、
周りが許すものか。」
俺だって、牙をむいた。
「先代の祖父は、もう認知症になりかけているし、
他の親戚には発言権はないよ。
この会社をここまで大きくしたのは父の力だもの。」
高みから見下ろすような言い方。
こういう奴が一番嫌いなのだ。
「もし、お前が社長になったら、
俺の待遇はどうする気だ?」
「難しいんだよね。副社長とかにはしてあげられないけど、
平社員とは言わないから、安心してよ。」
「馬鹿にするな。お前の言いなりにはならないからな。」
「そんな風に反抗されると、この会社に置いておけないよ。」
虫も殺さぬ顔していながら、脅すように言う。
ここで逆らっても無駄かもしれない。
「実力で勝負じゃないのか?」
「それも、僕の方が有利じゃないかな?」
涼しい顔して言ってくれる。
「仕事じゃ負けないぞ。」
「その意気で頑張ってよ。
僕もライバルが居ないと張り合いがないからさ。
時間ないんだろう。それじゃ、この辺で。」
爽やかな笑顔で言われると、
気が抜けてしまう。
手を振って去っていく啓一の後姿を眺めながら、
闘志が萎えていくのを感じた。
こんな奴と張り合わなければいけないのか。
「のれんに腕押し」しているようだ。
それに社長が啓一を後継者と決めているのなら、
いくら仕事で頑張っても、俺には勝ち目はないかもしれない。
連絡もくれない幸恵のために、何をどう頑張れというのか。
負けず嫌いな俺に、闘志を湧かさせない啓一は、
勝負せずに勝ったようなものだな。
こんな会社辞めてやろうか。
でも、今更就職といっても、
ここより落ちる会社しかないだろう。
後悔はしたくない。
ここで、出来るだけのことはする。
たとえ、社長になれなくたって、
幸恵と結婚さえ出来ればいいのだ。
それを認めさせる為にも
仕事だけは頑張らないとな。
でも、目標が小さくなって、
あまりやる気も出ないが。
こんなときこそ、幸恵に電話してみるか。
弱さを見せたくはないが、
幸恵の優しい声が聞きたい。
続き
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