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妙に知180131:蟻と梨の木(山本藤光の創作寓話)『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、大澤千加訳)を読んで、猛烈に自分でも書いてみたくなりました。本書はお薦めです。 【蟻と梨の木】(山本藤光の創作寓話) 木枯らしの吹く季節になりました。蟻はせっせと、巣穴に食料を運んでいます。蟻の巣穴は、梨の木の根元にあります。 忙しく働く蟻を見下ろし、梨の木はじっと冬将軍の到来を待つしかすべがありません。 勢いの弱まった太陽は、そんな蟻と梨の木に尋ねました。「ごめん。夏のような豪華な日射しを届けられなくなった。こんな貧弱な日射しだけど、雪の降る時期にもわしの恵みは必要かな?」 蟻は雪に巣穴がふさがれる情景を思い浮かべ、すばやく「なし」と答えました。梨の木は太陽の恵みがなくなったら枯れてしまうので、「あり」と天に向かって、枝を揺すりました。山本藤光2018.01.31
2018年01月31日
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知だらけ095:野中郁次郎先生から学んだこと(その5) 野中郁次郎先生から学んだことはたくさんあります。全部を紹介することはできませんが、本日は「場」について書きたいと思います。ナレッジマネジメントの国際学会で、「場」は「Ba」と発音されます。野中先生が提唱した、先駆的な概念です。 「場」は、知を収集し、整理し、磨き、交換するために、とてつもなく重要な環境です。私は個人のときにも、この概念を大切にしています。たとえば興味があるテーマがあって、それにまつわることを収集している人はたくさんいます。ところが彼らの多くは、知のステップアップのための「場」のサイクル(前記の収集・整理・磨き・発信・交換)を完結していません。 ほとんどの人には「発信」の部分が欠落しているのです。せっかく集めて磨いたものを、発信しなければその知はレベルアップしないのです。発信とは、誰かに話す(交換)という行為もふくまれます。 発信することで評価を受け、さらなるステージへと誘導されるのです。私がSSTのことを本にしたいと社長に相談したとき、こんな風にいわれました。――全部書いてしまってかまわない。誰かがマネをしたところで、我々は露出したことで、さらなるステージに移っているのだから。 そして私は日本ロシュに在籍中に、『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす・日本ロシュのSSTプロジェクト』(プレジデント社)という本を上梓させていただいています。本書は日本ナレッジマネジメント学会奨励賞を受賞し、名人芸移植プロジェクトとして多くのメディアに取り上げられました。 もちろん本の帯には、野中郁次郎先生が推薦の言葉を書いてくださっています。(明日につづく)
2018年01月31日
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町おこし288:町民電話相談のスタート――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里16 十月一日土曜日午前八時ちょうど。早田友恵がおあしすにある「町民電話相談」のヘッドフォンを装着した瞬間に、電話が鳴った。傍らでは上司の加納雪子が見守っていた。――はい、標茶町電話相談です。お名前と住所と用件をおっしゃってください。 友恵はすかさず、ボールペンを握る。磯崎文子からだった。――お風呂がかびで、いっぱいになっています。それを、きれいにしていただきたいのですが。 友恵は、ボランティアのリストを引き抜く。該当者を探す。今日は土曜日なので、高校生を優先させなければならない。――お受けいたしました。該当者からの電話をお待ちください。本日の都合がつかない場合は、こちらからお電話させていただきます。 友恵は電話を切って、標茶高校生徒会長・松田優樹に電話をかける。母親が出た。優樹が窓口に出るまで待つ。優樹に代わった。――お風呂のかび落としの、依頼がきています。お名前と電話番号を申し上げますので、連絡を取っていただけますか。何かあったら、「町民電話相談」へお知らせください。――わかりました。行きます。 友恵は電話を切った。待ちかねていたように、新たな呼び出し音が鳴っている。「一人では、対応できないわね。これからもう一人応援に寄越すので、頑張って続けてね」 鳴り続ける呼び出し音のなかで、雪子は早口で告げた。そして役場へと急いだ。 松田優樹は、ボランティアの依頼者・磯崎文子に電話をしている。――高校生の松田優樹です。お風呂のかび落とし了解しました。あと三十分後におうかがいできます。確認ですが、かびキラーはありますか?――買ってあります。――中性洗剤もありますね?――はい、あります。――では、これからそちらへ向かいます。 優樹は長島礼奈に、電話を入れた。初仕事を体験させたかったからである。礼奈はすかさず、「行くわ」と答えた。
2018年01月31日
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妙に知180130:変換ミスよく変換ミスをやってしまいます。ずっとタッチタイピングの弊害だと思っていました。違いました。単なる緻密さの欠落。そのことに遅ればせながら、最近気がつきました。 これからご紹介するのは、何かで見たか聞いたかした「変換ミス」です。実際に私自身も「児童販売機」と、やってしまった苦い体験があります。 ・「怪盗アンデス」(回答案です)・「お客彷徨うトイレ」(お客様用トイレ)・「妄想するしか方法がなかった」(もうそうするしか方法がなかった)(以上は日経新聞06/12/26朝刊より) ここまでは、出典が明らかなものです。笑いながら、メモを取ってしまいました。以下は別の書物で見たものです。企業人時代に実際に「カードは現金です」とのゴルフの案内状を受け取ったことがあります。 ・「児童販売機」(自動販売機)・「カードは現金です」(カードは厳禁です)・「あなたの乱暴な朝鮮に、韓国したい」(あなたの乱暴な挑戦に、勧告したい)・「会社が父さんした」(会社が倒産した)・「母さん税が発生した」(加算税が発生した)・「穴馬券は兄さんだ」(穴馬券は二、三だ)・「先生攻撃あるのみ」(先制攻撃あるのみ)・「ここでは着物を脱ぐ」(ここで履物を脱ぐ)・「便座を飲んだ」(ベンザを飲んだ)・「金玉蹴るな」(キンタ負けるな) 最後の1つは、九十九という歌手の作詞だと聞いています。出典がわからぬままの引用、ごめんなさい。かん便してください。山本藤光2018.01.30(社会事象)
2018年01月30日
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知だらけ094:野中郁次郎先生から学んだこと(その4) 「暗黙知」という意味は、まったくわかりませんでした。私は暗黙知を「アンコロモチ」と聞き違えたほど混乱してしまいました。ナレッジマネジメントの「ナ」の字も知らないで実践していたことが、まさに野中郁次郎先生が提唱している学問の世界と一致していたのです。 その後、野中先生は雑誌「プレジデント」に、2度の特集記事を書いてくださいました。「暗黙知の共有化で24%の業績アップ・日本ロシュのSSTプロジェクトの威力」という見出しでした。この記事が雑誌に掲載されてから、取材や講演の依頼が殺到しました。 野中先生の記事のお陰で、SSTを取り巻く環境が激変しました。社外ノイズが社内に、誇らしい風を呼びこんだのです。 私のナレッジマネジメントの勉強がスタートしました。野中郁次郎先生の著書を読みまくり、先生のお弟子さんにあたる方々からも、大いに学ばせていただきました。なにも知らずにやっていた泥臭い活動が、にわかに品のよいものに変わったような気がしました。(明日へつづく)
2018年01月30日
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町おこし287:動き出した標通貨――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里15 標(しるべ)通貨は町長の両親である、宮瀬哲伸・昭子夫妻のところにも送られてきた。二人とも七十六歳になっている。宮瀬哲伸は、現町長の前職を務めていた。昭子は標通貨を手に取り、うれしそうに夫にいった。「お年寄りにとっては、最高のプレゼントだわね。コウちゃん町長は、温かい眼差しを老人にも向けはじめたんだね」「コウちゃんが標高の生徒会長だったときに、辺地小学校の訪問をしたよな。あいつの眼差しは、広角だったということだ」「あなた、これを何に使うの?」「使う必要のないときは、夫婦そろって健康だという証になる。お互いに支え合っているうちは、標通貨とは無縁だという励ましになるわけだ」 昭子は標通貨を神棚に置いて、両手を合わせた。 九月末になってから、「町民電話相談」の電話が鳴りはじめた。応対に出た早田友恵は、老人からの問い合わせに、ていねいな説明をした。――たとえば、お風呂の清掃をお願いしますよね。 相談電話は、一人暮らしの磯崎文子・八十二歳からだった。――はい、お掃除をしていただいたら、感謝の印として一枚の「標」を渡していただきます。――すごくていねいにやっていただいたら、二枚でも構わないのですか?――はい、構いません。ただし磯崎さまは年間に十二枚の「標」しか使えませんので、一枚だけお渡しになって、それに丁重な感謝の言葉を添えればいいかと思います。――全部なくなったら、どうすれば補充できるのですか?――補充はできません。お友だちから譲り受けるのは、構いません。――町は私たち年寄りに、温かい贈り物をくださいました。とても感謝しています。 友恵は電話口で、すすり上げる老女の声を聞いた。自分がやろうとしていることは、お年寄りにとってうれしい贈り物なのだ。友恵は満ち足りた気持ちで、受話器を置いた。
2018年01月30日
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妙に知180129:ブックカバーを考えた書店では必ず「カバーおかけしますか?」と尋ねられます。そのたびに「いりません」と答えています。読書には、専用のカバーを使っているからです。 スーパーでは、レジ袋が有料の時代です。ブックカバーも、有料にするべきでしょう。個人が半永久的に使える、革製のカバーを持っていれば済むことです。ブックカバーは、資源のムダだと思っています。ブックカバーは有料にします。そのうえで、有料ブックカバーには改善が必要です。まず書店名が入った側を裏にし、無地面を新たな装いで表とすること。無地面のデザインや色は、各店が統一すること。こうすれば読書家の書棚はきれいになります。さらに表には、ポストイットが入れられるポケットがついていること。これで読書が充実したものになります。山本藤光2018.01.29
2018年01月29日
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知だらけ093:野中郁次郎先生から学んだこと(その3) SSTプロジェクトのゴールは、「1年後に2桁アップの業績を上げる」でした。しかもプロジェクト終了後にも、「その効果を持続させる」が追加されていました。つまりSSTメンバーがいなくなっても、同行指導を受けたMRが単独で成果を上げられなければ、成功とはいえないわけです。 プロジェクトが1年を終えたとき、野中郁次郎先生が取材にいらっしゃいました。社長と私たち事務局が、対応にあたりました。それが私と野中郁次郎先生との、出会いです。 SSTメンバーの指導を受けたMRは、受けていないMRよりも24%も高い成果を上げていました。そのグラフを支店長会議で報告したのですが、「ウソだろう」の大合唱が起こったほどです。 1MRにつき延べ20日のフル同行。この威力はすさまじいものでした。SSTメンバーは自らのスキル、ノウハウを、惜しみなく提供しました。そして学術知識を磨く大切さと、仕事を楽しむコツを伝授しました。 SST導入以前に、「毎日の仕事は楽しくない」と答えていたMRは、192人中2名を除きすべてが「仕事が楽しい」と答えています。「毎日のRPDCサイクル」を回す活動は、確実にMRの仕事を次元の違う世界へと誘ったのです。 私は業績の向上とMRの変化を、汗だらけになって説明しました。説明が終わると野中郁次郎先生は社長に向かって、「SSTは世界に類のない暗黙知に特化したすばらしいプロジェクトです」とおっしゃいました。(明日へつづく)
2018年01月29日
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町おこし286:成人のボランティア――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里14 広報『標茶町だより』に、ボランティア活動の募集案内が掲載された。十月スタートに向けて、募集期間は三週間しかなかった。 ――成人のボランティア活動参加者募集――標茶高校生徒会では、十月より毎土曜日午前限定のお年寄り向け、ボランティア活動をスタートさせます。せっかくの高校生の熱意をカバーすべく、平日にボランティア活動ができる方を募ります。仕事は、車での送迎、庭の草むしり、襖(ふすま)の修理、電球の交換、除雪など多岐にわたることが予想されます。 参加希望者は同封の応募用紙に、自分が提供できる仕事と希望する曜日、日時を明記の上、標茶町役場福祉課宛送付してください。 参加者には仕事の謝礼として、一枚の標茶町限定通貨・標(しるべ)が提供されます。年末には標茶町役場より、感謝状とともに標通貨の所持枚数に応じた記念品を提供させていただきます。 標茶町の活性化のために、お力添えをお願いいたします。 標通貨は、すでに発送されていた。牛乳瓶の蓋のようなサイズで、それを二枚重ねした厚さだった。表面には標茶町票のなかに、感謝の文字がはめこまれている。青地に白抜きの文字である。裏面は二羽の丹頂鶴の舞が、印刷されている。紙製の標通貨は、きれいにフィルムコートがなされている。 成人のボランティア募集に応じたのは、二十八人だった。加納雪子は、五十人ほどを見こんでいた。少し残念に思ったが、話題になれば増えるだろうと楽観していた。六十五歳以上に、送付すべきとの意見もあった。しかし雪子は初動の混乱を避けるために、あえて七十歳以上の老人に送ることにしたのである。標通貨を十二枚受け取った老人は、一年間にこれだけを使うことができる。
2018年01月29日
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妙に知180128:体温測定シール今から20年ほど前、私は外資系製薬会社の学術企画部長でした。スイス本社から、画期的な新製品の見本が届きました。体温計の代替シールでした。熱の高さで、シールの色が変わるというものです。外国ではすでに実用されており、日本でも販売しろ、というのが本社の意向でした。入院患者に毎朝体温計を配り歩くナースや、乳幼児がターゲットになるはずです。熱中症対策として、個人の需要も見こまれました。。 ところが、発売を断念せざるを得ないことに直面しました。その製品は有効期限が、きわめて短かったのです。航空便での輸入は、コストが高くつきます。船便では時間がかかりすぎて、有効期限が迫ってしまうのです。 こんな製品は、もうどこかの企業が発売していると思います。調べてみると2015年に、オムロン・ヘルスケア株式会社から発売になっていました。売上のほどはわかりませんが、日本の企業に企画を持ちこめばよかったな、と後悔しています。山本藤光2018.01.28
2018年01月28日
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知だらけ092:野中郁次郎先生から学んだこと(その2)SSTプロジェクト導入以前にも、日本ロシュでは同行専任部隊プロジェクトを実施していました。ところがこれは、まったく成果をあげないままに頓挫しています。 失敗の原因は明らかでした。メンバーの推薦を支店長に任せたために、優秀な人を送りこんでもらえなかったのです。したがってSSTの人選は、SST事務局が強引に実施しました。 選ばれたメンバーは2年間も、単身赴任者のような生活を余儀なくされるわけですから、まず家庭に育児や介護などの不安がある人は除外しました。つぎに独特の営業力で売り上げの高い人も除外しました。同行指導を受けるMRが、マネできないからです。そして「人間力」の高い人を優先しました。 SSTがスタートする以前に、2か月間本社で合宿させました。話法を磨き、同行の心得を指導し、文章の書き方まで鍛えました。メンバーは夜遅くまで、自発的に勉強を継続しました。2年間のSSTプロジェクトも壮烈ですが、2カ月の事前合宿も常識的には考えられないことだと思います。 スタートを大切にする以前に、そのための準備をおこたらないこと。そのためには膨大な時間が必要です。 日本ロシュという会社は、中外製薬との合併で消えてしまいました。しかしSSTメンバーは、毎年1回、それが先週だったのですが、リーダーだった故中島則雄の墓参をかねて集まっています。 メンバーの1人が、私にこういいました。――SSTに生命を吹きこんでくれたのは、野中郁次郎先生だった。 SST以前に、日本ロシュは大失敗をしたと書きました。新たなプロジェクトを立ち上げるとき、社長の繁田寛昭は野中郁次郎先生に相談しています。2人は米国バークレイ大学院の先輩後輩だったのです。(明日につづく)
2018年01月28日
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町おこし285:中学生の清掃活動――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里13 九月。三学期がはじまった。中学生の登校スタイルに、変化が起こった。誰もが、白い軍手をはめている。寒いせいではない。彼らの通学路の清掃活動が、スタートしたのである。火ばさみを持っている生徒もいた。恭二と詩織は駅前通りまで出て、中学生の列に「ありがとう。がんばってね」という声をかけた。みんな楽しそうに、ゴミ拾いをしている。標茶駅の方からカメラを抱えた、北村広報課長がやってきた。詩織は「おはようございます」と笑ってみせた。「何しろ歴史的な、瞬間ですからね。中学生が自発的に、清掃活動のボランティアをはじめた。大ニュースですよ」「すてきな写真を、広報に掲載してくださいね」 詩織は北村の背中に向かって、大きな声で告げた。隣りでは恭二は、やさしい眼差しを中学生に向けている。「歴史が動いたは大げさだけど、詩織、標茶町に貢献するという精神は、揺るぎないものになったようだな」 瀬口恭一・彩乃夫妻は、三人の子宝に恵まれている。長女の鈴蘭は大学三年、次女の智香は高校三年、そしてゴミ袋と火ばさみを持って出た長男の雄大は中学三年生である。「ちょっと照れちゃうよな。こんな格好で登校するのは」 雄大は白い歯を見せて、出かけて行った。見送って居間に戻った彩乃は、食器を片づけながら恭一に語りかけた。夫は五十歳になり、標茶町立病院の副院長を務めている。 「自分たちが、町のためにできることは何か。そんな話し合いのすえに、清掃活動が決まったんだって。それにね、小学生の勉強をみてあげる教室も、スタートさせたんだって。中学から奉仕のことを考えられるのって、すてきなことよね」「中三といえば、都会の学校では受験のことしか念頭にない。それが標茶だから、考えつくことなんだろうな」「いいわね、標茶は」「宮瀬町長の行政は、患者さんからも評判がいい」「兄貴は標茶を、活力のある町にしたい。それしか考えていないのよね」「彩乃は、すばらしいお兄さんに恵まれた」「ありがとう。とってもうれしいわ」
2018年01月28日
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妙に知180127:酒飲みの十段変化昨日は会社の新年会でした。6時就寝2時起床のパターンが崩壊。寝たのは午後11時。そして起床は午前6時。完璧な時差ぼけ状態です。思い出したフレーズがあります。日本語倶楽部編『語源・面白すぎる雑学知識』(青春出版文庫)のなかに、おもしろい記述がありました。おすそわけさせていただきます。――古代ギリシアのオイロップスという人によれば、酒による人間の変化を、健康的になる→快活になる→開放的になる→眠気がおきる→わめく→他人をからかう→自己主張が強くなる→けんかをする→怒る→狂乱と、十段階に分けている。(同書P226)「自己主張が強くなる」までは、なるほどと思って読みました。以降の展開は、別世界のものです。少し健全な酒飲みの展開に変えてみます。新年会の席でじっくりと観察しました。後段はこんな変化になっていました。自己主張が強くなる→他人の話を聞かなくなる→てんでばらばらの話しになる→あくびが増える→時計をのぞきだす→トイレへ行く人が増える山本藤光2018.01.27
2018年01月27日
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知だらけ091:野中郁次郎先生から学んだこと(その1) 日本ロシュが実施した「SSTプロジェクト」は、名人芸移植プロジェクトとして話題になりました。1MR(製薬営業マン)につき、延べ20回のフル(丸1日)同行を施せば、平均的なMRは確実に優秀MRの域にたどり着くという信念から導入されたものです。 全国からトップクラスの営業リーダーと優秀MRを24名選抜しました。彼らは2年間にわたり、1人につき16人のMRのレベルアップに挑みます。つまり全社的な規模でみると、2年間で384人のMRの底上げをすることになります。 SSTメンバーは3人が1チームとなり、3か月間1つの営業所にはいります。その間メンバーは2MRとひたすら同行します。1週目がAさんだったら、翌週はBさんとの同行となります。Aさんには課題を与え、1週間を経てそれが単独でできるようになっているかの確認をします。 当時の日本ロシュには700名のMRがいました。全体のほぼ半数のMRのレベルアップをすることになります。詳しいことは拙著(山本藤光)『営業ドキュメント「同行指導」の現場―わずか24人で「700人の営業平均値」を底上げ・ SSTプロジェクトの奇跡』(プレジデント社)をお読みください。小説仕立てですので、わかりやすいと思います。 私はSSTプロジェクト事務局長として、2年間奇跡の現場に立ちました。全国のトップ24名を引き抜いたのですから、現場の支店長たちから大ブーイングが起きました。「数字が落ちたらだれが責任をとるんだ?」と詰め寄った支店長もいました。そんな声に社長の繁田寛昭は、あっさりとこう答えました。――責任は私がとります。 タイトルの野中郁次郎先生は、この時点ではまだ登場しません。(つづきは明日)
2018年01月27日
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町おこし284:動き出したボランティア――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里12 中学生による小学生のための学習塾は、撤退することになった習字教室を転用することにした。授業料は取らないので、町の予算で教室を借りることにしたのである。生徒会長の本間純一は綿密な計画書を持って、恭二のところにやってきた。「平日は午後六時から八時まで。休日は九時から十一時までやります。科目は算数、国語とします。常に最低でも三人がいるように、ローテーションを組みます」「鍵っ子が、たくさんくるかもしれないね。遊び場にせずに、どのくらい彼らの指導ができるかが、ポイントになるね」「ぼくたちはわからない問題を一緒に解く、というスタンスで臨むことを決めました。わからない問題を抱えた小学生がやってきて、理解したら帰ってもらうつもりです」「それはいい考えだね。鍵っ子問題はおじさんたちが対応するから、本間くんたちはその決めごとで運営することだね」 本間は満足げにうなずき、「いつごろ、オープンになりますか?」と質問した。「広報で案内を出してからだから、十月スタートとしようか」「ありがとうございます。しっかりとやらせていただます」「ところで、清掃活動の方はどうなったの?」「三学期から開始します。すでに分別ゴミ収集所は完成しています。素早い対応を、ありがとうございます」本間はていねいに頭を下げて、役場を辞した。 加納雪子が課長を務める福祉課に、「町民電話相談」という新設部署が生まれた。どのくらいの電話があるかがわからないので、雪子は今春入所した早田友恵を担当に起用した。「今月の広報に、ボランティア募集の案内を掲載してもらいます。開始は十月一日からとなります。これが高校生の、お助け隊リストです。彼らは土曜日の午前だけの対応になります」 友恵はリストに目を通す。最初に大見出しが並んでいる。雪、庭、建物、掃除、家事、車、家財道具とあり、車の欄には「該当者なし」と書かれていた。高校生だから、当然だろう。 「大人の応募者は、この分類に組みこむわけですね。車の送迎なら、病院へ連れて行ってもらいたいとか、何かを買ってきてもらいたい、などの依頼が含まれるということですね」「そう、飲みこみが早いわね」「ありがとうございます。お年寄りがどんなことを頼んでくるのか、ちょっと心配です。でもがんばります」 七十歳以上のお年寄りに、標(しるべ)通貨を十二枚発送した。どのくらいの需要があるのか、雪子は不安だった。
2018年01月27日
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妙に知180126:重箱読み漢字が好き一昨日の朝日新聞朝刊に。直木賞を受賞した門井慶喜の文章が載っていました。「重箱読みが好き」という内容で、ことさら「寒」がつく漢字が好きだと書いています。そういわれてみれば、「寒」がつく重箱読み漢字には風情があります。寒鰤(かんぶり)、寒桜(かんざくら)……。 ちなみに「重箱読み漢字」とは。二個以上の熟語で、上部が音読み、下部が訓読みにするものです。重箱、献立、台所、寒稽古などが代表例です。重箱読みと反対に、訓読み+音読みの漢字は、「湯桶」(ゆとう)読み漢字といいます。湯桶、手本、献立、庭下駄などが代表例です。 本日は新年会で、新橋(シンばし)へ行きます。ただし固有名詞の場合読みが複雑なので、重箱読みの仲間に含めないのが一般的です。山本藤光2018.01.26
2018年01月26日
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知だらけ090:起業に向けた備え・起業する(6)独立自営するということは、持っている人脈をフル活用することです。相談にのってくれる人。助言をしてくれる人。支援をしてくれる人……。つまり起業を目指すなら、人脈のストックは不可欠なものです。 つぎに大切なのは、自分のビジネスを露出させる技術です。HPやメルマガは、だれでも考えられます。手作りのパンフレットを持参し、営業活動をスタートさせました。アポをとり、1日に面談できる数は限られています。「業績格差は紛れもない人災です」のキャッチコピーを冠にして、小規模の講演も企画しました。ところが会場はガラガラ。行く手に暗雲が垂れこめてきました。 起業してから半年間は収入ゼロ。資本金は目に見えて枯渇してゆきました。連日アポとりと、売りこみを継続しました。アポ先については、企業人時代のたくわえがありました。いろいろな講演会に参加したとき集めた、同じ参加者の名刺の山です。私は講師の話以前に、同じニーズで参加している人と何人名刺交換ができるか、を重要に考えていました。 そんな人たちの名刺によって、アポとりは意外に簡単でした。そして外資系大手生保会社と、リーダー研修の年間契約が実現しました。自分が信じていることを熱く語れば、必ず共感者があらわれる。そう実感した瞬間でした。 起業するのは、容易なことではありません。もしもそんな夢をお持ちでしたら、熱く訴求すべき商品を磨き、人脈を広げ、あとはフットワークだけです。企業人時代にいかに備えておくか、成功するか否かは、そこにポイントがあるのです。 名刺を集めよ。集めた名刺を活用せよ、なのです。(この章はおわり)
2018年01月26日
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町おこし283:中学生の希望――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里11高校生との昼食会の一ヶ月後、恭二は標茶中学校生徒会長と顧問の宮下先生の訪問を受けた。「生徒会長の本間純一といいます。本日はご相談があってうかがわせていただきました」 幼さの残る顔で、本間はそうあいさつをした。宮下先生が続けた。「実は高校生のボランティア活動情報を得て、中学の生徒会でも、自分たちで町のために何かができないかと話し合いました。そのご相談にうかがった次第です」 恭二はうなずいて、先をうながした。 「ぼくたち、町の清掃活動をしようと決めました。通学中にゴミ袋を持って、ゴミ拾いをします。それでお願いがあるのですが、中学校に分別ゴミ置き場を作っていただきたいのです」「それは感心なことだね。用意させていただきます」 恭二は即答した。緊張していた本間の顔がほころんだ。そして「やった!」と叫んだ。恭二は本間の純真さに、感動を覚えていた。 「本間くんには、おじいちゃんやおばあちゃんがいるの?」「一緒に住んでいます」「おじいちゃんやおばあちゃんは、本間くんが何をしてあげたら喜んでくれるの?」「肩叩きをしながら、話し相手になってあげることかな」 少し考えてから、本間はそういった。「さっき高校生のボランティア活動に触れていたけど、お年寄りのために、中学生ができることってないだろうか?」 本間は考えこんでしまった。宮下先生が口をはさんだ。「いかがでしょうか、中学生が小学生の勉強の面倒をみる、というのは? 実はゴミ拾い以外に、小学生に勉強を教えたい、という希望が多かったんです。でも全員でやれることとしたために、ゴミ拾いに落ち着きました。もしどこかの教室を貸していただけるのなら、彼らは喜んでボランティア活動をしてくれます」 恭二はそれにも、大きくうなずいてみせた。 「すばらしいですね。教室は探してみますので、ぜひ小学生への勉強指導は、実現していただきたいですね」 本間は、うれしそうに笑っている。恭二は町のために貢献したい、という意識が広がっていることに感動をおぼえている。
2018年01月26日
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松村栄子『生誕』(朝日新聞社) 生まれる前のこと覚えてる?心の中はいつも、何か重大なものを渇望している。青年は、胎内の記憶をたぐり寄せ、かけがえのない分身を捜す旅に出る。(「BOOK」データベースより) ◎松村栄子の初期作品 松村栄子の初期作品が文庫化されるのを待っていました。しかしなかなか実現しないので、しびれを切らせて「文庫で読む500+α」の「α」として紹介することにしました。 松村栄子は、1961年生まれの作家です。デビュー作『僕はかぐや姫』(福武書店、初出1991年)で海燕文学新人賞、次作『至高聖所』(福武書店、初出1992年)で芥川賞と、足早に階段を駆け上がりました。 『僕はかぐや姫』の主人公・裕生(ひろみ)は、かぐや姫の話が好きな十七歳の女子高校生です。初潮を迎えるころから、自分のことを〈僕〉と呼ぶようになります。本書は成長を拒絶し、今のままでありたいとする主人公の、心の葛藤を描いた力作です。 ――産んでと頼んだわけじゃないのに生まれてきて、生きるって決めたわけじゃないのに、人間として生きることさえ選択していないのに、女性として生きるって決めつけられて何んの選択権もないなんて、とても理不尽な話だって昔思ったんじゃないかな。(本文より) この台詞が、松村作品の根底にあります。今あることの不思議。過去の延長線上にある今を断ち切れないもどかしさ。松村栄子はそんな日常の中のほころびを、ひょいとつまみ出して読者に突きつけます。 『至高聖所』の主人公・沙月は、鉱物が好きな女子大生です。親元を離れて、慣れない寮生活をはじめます。沙月には一つ違いの姉がいますが、この存在が主人公に陰を落とします。またルームメイトとの確執にも悩みます。 ◎胎内の記憶からはじまる 松村栄子の文章は整っていますし、主人公の性格も常にわかりやすいものです。『生誕』(朝日新聞社)は9冊目の単行本になります。松村作品はすべて読みましたが、そのスタイルは一貫しています。 『生誕』の主人公・桑名丞(すすむ)は、二十歳。趣味はテレビを観ることと、世界に起こっていることを目に焼きつけることです。 彼はコンピュータ専門学校を出ると、迷わず大好きなテレビがある電気店へ就職します。ところが商売そっちのけで、ぼんやりとテレビばかり観ているために、試用期間中にクビをいい渡されます。 丞の家族は、父と母と弟の四人。母親は後妻であり、弟とは異母兄弟になります。物語は生母の胎内の記憶から動きだします。丞は自分が双子であった胎内でのことを、鮮明に記憶しています。丞たちが胎内にいたときに、両親は離婚を決めました。そして二人は、それぞれの両親に引き取られます。 ――揉めに揉めていたおとなたちの諍いを調停したのはお腹の子供だった。ある日、胎児は双子だと医師が告げた。別れようとする夫婦は当然のようにこれを〈分けた〉。(本文より) 『生誕』は丞が分身を捜す、孤独な旅を丹念に描いています。松村栄子は意図的に、家族や友人を介して、孤独や絶望を表現してみせます。 『生誕』の主人公も、わかりやすい個性として描かれています。どことなく頼りない兄・丞としっかり者の弟・稔。記憶の中にある陰の部分の妹。松村栄子はテレビの画面が報じるニュースを多用しながら、現在から過去への旅を描きます。『生誕』は初期作品の、総集編のように思えます。 (山本藤光1999.06.21初稿、2018.01.24改稿)
2018年01月25日
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妙に知180125:「ほめる」と「けなす」ほめ上手だとよくいわれます。企業人時代にも、「お前はお世辞をいいすぎる」と仲間から何度も注意されました。ほめるとお世辞は、私のなかでは完全に別物なのですが。 私は意図的に、ほめているのではありません。ほめる材料を発見するのが、得意なだけなのです。そして、それが口をついて出てしまうタイプなのでしょう。 どこかの店で、食事をします。おいしかったら、お金を払うときに必ずいいます。「おいしかったよ、板さんにも伝えておいて」。これだけのことです。 そんな私が、ちょっと引っかかった文章に出合いました。有名な人のいわんとすることが、理解できないのです。私の読書力の低さのせいだろうと思います。 (以下引用)人は、心中に巣くう嫉妬心によって、賞めるよりもけなすほうを好むものである。それゆえに、新しいやり方や秩序を主張したり導入したりするのは、それをしようとする者にとって、未知の海や陸の探検と同じくらい危険をともなう「事業」になる。(塩野七生『マキアヴェッリ語録』新潮社) 後段は理解できるのですが、「人はけなすほうを好む」という部分が、どうもぴんときません。すんません、塩野さん。本当に「ほめる」よりも、「けなす」人の方が多いのでしょうか?山本藤光2018.01.25
2018年01月25日
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知だらけ089:早期退職制度に便乗して・起業する(5)SSTプロジェクトについては、ここでは触れないでおきます。私は日本ロシュ在籍中にそのすべてを本にしています。(『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす』プレジデント社)その後それを小説化した『同行指導の現場』(プレジデント社)も発表しています。 ある日、34年間勤めた会社が合併することになりました。その時点で、退職することにきめました。早期退職制度に便乗して、独立のための資金をゲットしたのです。企業人時代にずっと狙っていた独立自営の道が、思いがけず拓けた瞬間でした。 やるべきことは、決まっていました。窓際での1年間の蓄積とSSTでの2年間の経験。これらの体験を普遍化し、営業リーダーに特化した研修をビジネスにするのです。資本金1千万円。株式会社コラボプランを立ち上げました。先輩の植田南人さんに相談しました。いただいたアドバイスを受けて、社員は入れない、事務所は自宅を兼用する。質素な装いでの出発の道を選びました。 手作りのパンフレットを持ち、たった一人での営業活動をスタートさせました。このとき私にはひとつの信念がありました。最初の1年間は製薬会社以外での営業活動をする、ということです。34年間もどっぷりと浸かっていた、製薬以外の業種を勉強したかったのです。この遠回りが、今考えると正解だったようです。(明日へつづく)
2018年01月25日
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町おこし282:お年寄り向けボランティア――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里10 加納雪子と瀬口恭二は、生徒会の役員と打ち合わせをしている。生徒会長の松田優樹から、高校の企画案が発表された。「お年寄りのためのボランティア活動は、参加希望者のみで実施することにしました。おそらく百人ほどの参加となると思います。実施は、土曜日の午前とさせていただきます。希望者には、お手伝いできることや得意なことを、あらかじめ提出してもらいます」副生徒会長・長島礼奈は、ノートを広げて続けた。「町にお願いしたいことは、お年寄りからの依頼を受け取る窓口の設置です。携帯番号はお知らせしますので、該当者に知らせてもらわなければなりません。それと、現金は受け取れませんので、感謝の気持ちを標(しるべ)通貨でお示しいただくことになります。それと男性からの依頼で、女子高生が一人で訪問するのは、避けたいと思います」 加納雪子は見えてきた概要を頭の中で整理して、質問を投げかけた。「この事業は、いったんやり始めたら、途中で放棄できません。歴代の生徒会に、きちんとバトンタッチできる保証はありますか?」「標高生は、町の活性化のために貢献する。この伝統は、しっかりと根づいております。だからお年寄り向けボランティア活動も、必ず継続されます」松田優樹は、きっぱりと断言した。「わかったわ。福祉課にお年寄りからの依頼を受ける専用回線を引くことにします。それに標通貨も、こちらで作ることにします。七十歳以上の方に、標を十二枚送ろうと考えています。あとは広報での告知と、標通貨の郵送をしなければならないので、半年ほど待っていただけるかしら」「ありがとうございます」 二人は同時に頭を下げた。
2018年01月25日
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妙に知180124:一番古い蔵書書棚には、一万を超える蔵書があります。そのなかに高校時代に購入した、郡司利男『国語笑字典』(カッパブックス)があります。奥付を見ると昭和三十八年二十四版となっています。本書は私の今を決めた、原点にあたる本です。自分でもこんな本を書いてみたい。痛烈にそう思った日のことを鮮明に覚えています。郡司利男は英文学者で、ピアス『悪魔の辞典』の翻訳者です。おそらく翻訳をしているうちに、自分でも作ってみたいと思ったのでしょう。『悪魔の辞典』は、筒井康隆にも筒井版の著作があります。 『国語笑字典』から、いくつか拾ってみます。――愛妻家:釣った魚に餌をやる男――あきらめ:気の弱い夫が、妻と外出して、美人とすれちがうとき、味わう崇高な気持ち そこで私も。雪:北国ではニュース性がないが、東京ではトップニュースになる冬の現象お粗末でした。山本藤光2018.01.24
2018年01月24日
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知だらけ088:営業活動は量よりも質・起業する(5)順調に走っていた私の肩を叩いたのは、新参の本部長でした。営業部の評価を「量」でおこなう。日報をマークシート方式に改める。突然上司として降臨してきたその人の施策のすべてに、反対しつづけました。 必然、肩叩きに遭遇することになります。サラリーマンですから、上司運が悪ければこういうことになります。窓際の席に追いやられ、仕事を奪われた私は、退職後にそなえて「営業リーダー道」に関する執筆をはじめました。同行道、会議道、面談道、日常道と書き進めながら、私のなきあとの営業組織を観察していました。 窓際での1年間。私は理想的なリーダー像とあってはならないリーダーのギャップを追及していました。そんなとき、支店長会議で革命的なできごとが起こりました。マークシートに改悪された日報で、訪問件数が低いとなじられた支店長が決起しました。 ――量ではない。大切なのは営業活動の質です。 たちまち賛同の嵐が巻き上がり、私を窓際に追いやった上司は炎上してしまいました。私が執筆中の文章のタイトルを「質を測るものさしあります」と決めたのは、この瞬間からでした。本書はすでにエルゼビア・ジャパンから出版されています。 その後、伝説の「SSTプロジェクト」事務局長として、名人芸移植プロジェクトを経験することになります。きちんとした同行指導により、1年間で24%も業績を引き上げたプロジェクトです。雑誌「プレジデント」をはじめ、数多くのメディアで取り上げられましたので、読んだ方がいるかもしれません。(明日につづく)
2018年01月24日
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町おこし281:ベカンベ祭り――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里09 恭二と詩織は、塘路のベカンベ祭りに行っている。塘路の再開発は、昨年ほぼ完結した。それを機会に、ベカンベ祭りも再開されたのである。「うわー、すっかり変わったわね。恭二、すごい人出だよ」 車を駐車場に入れながら、詩織は驚いたようにいった。日曜日とあって親子連れが目立ったが、外国人の姿もたくさんあった。「外国人のお目当ては、忍者屋敷だよ」 恭二は背中に重い荷物を背負った、外国人を見ながらいった。 塘路湖にはベカンベと呼ばれる、菱の実が生息している。これは食料としても美味であるが、乾燥させると忍者が追っ手の足を止める小道具となっていた。忍者屋敷はそんなイメージから、建設された。 「恭二、どんそく号だよ。乗ろう」 赤いトラクターが、幌屋根つきの車両に連結されている。二人はそれに乗りこむ。車内は、すし詰め状態だった。車両の中央には大型スクリーンがあり、塘路湖の水中の様子が、映し出されていた。 どんそく号は気づかないほど、ゆっくりと動き出した。肌にあたる風が、心地よかった。「こののんびり感が、何ともいえないわ」 詩織は髪を片手で押さえながら、大きな深呼吸をしている。 大きな観覧車が見える。頂上まで上がると、釧路湿原が一望できる。恭二は試運転の時に乗ったが、いつも大行列ができているとの報告を受けている。「恭二、観覧車に乗りたい」「今日は時間がないからダメ。この次の機会に回そう」 ベカンベ祭りが始まった。アイヌの衣装を着た男女が小舟を操り、湖の中央まで進んだ。岸辺ではアイヌ衣装の八人が踊っている。船上の二人は、長い棹を湖に差し入れた。そしてそれを引き上げると、水草がからみついてきた。二人は祈るようにそれを頭上に掲げ、小舟を岸へと戻し始める。 岸辺には、幾重もの人垣ができていた。風に乗って、ベカンベをゆでる甘い香りが運ばれてきた。 岸辺の八人は水草のついた棹を頭上に掲げ、再び舞を継続した。ずっと封印されていた、厳かな儀式が復活した。 短い時間だったが、ベカンベの収穫を祝うアイヌの祭りに、恭二は心が洗われるような気がした。二人は生のベカンベを、一袋購入した。
2018年01月24日
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妙に知180123:遊び心を持ちたい「遊び心」という言葉が好きです。遊び心の大切さを説くと、企業人時代は「不真面目」「不謹慎」と一蹴されました。「広辞苑」を調べても、「遊びたい気持ち」「遊び半分」としかでていません。これでは私のイメージとは大きく異なります。だから、あまり「遊び心」をいわなくなっていました。そんなときに、次の文章に出合いました。思わず、うむむ、これだ、と思いました。 ――人間がものを考えるときには、詩が付きまとう。ユーモア、アイロニー、軽み、あるいはさらに極端に言えば、滑稽感さえ付きまとう。そういう風情を見落としてしまったとき、人間の考え方は堅苦しく重苦しくなって、運動神経の楽しさを失い、ぎこちなくなるんですね。つまり遊び心がなくちゃいけない。でも、これは当たり前ですよね、人間にとっての最高の遊びは、ものを考えることなんですから。(丸谷才一『思考のレッスン』文春文庫P219) 引用した「アイロニー」も広辞苑とニュアンスとは違います。丸谷才一はアイロニーを、アナロジーに近い形で表現しているのです。「遊び心」は伝えにくいのですが、何となく大切に思っている言葉です。それにしても、丸谷才一は鋭い。 以前、児玉清が「コモレバWEB」(昭和を生きた大人のWEBマガジン)に「遊び心」という文章を書いていました。幼稚な大人たちが跋扈(ばっこ)する現在を憂い、三十年前には「遊び心」が存在していたと結んでいました。「遊び心」を協調性の潤滑油、と捉えていたようです。すばらしい見識だ、と感心した記憶があります。 この原稿を書き終えたあと、朝日新聞夕刊(一月二十二日)で、森永卓郎の「仕事は遊びだ」というコラムに出合いました。森永卓郎はピケティよりも四半世紀前に、「遊び心」で格差社会の出現に迫っていたのです。山本藤光2018.01.23
2018年01月23日
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知だらけ087:顧客ニーズに応える・起業する(4)多くの医師は猛烈に勉強をしていますし、読書家でもあります。私の特技「読書」を見た医師は「最近、おもしろい本はあったかい?」などと質問してくれるようになりました。しかしSFなど馴染みのないジャンルになると、ギブアップせざるをえませんでした。 そこで考えました。あらゆるジャンルの書評を集めて、本好きの医師に提供しよう。土日に図書館通いをはじめました。新聞や雑誌の書評欄から、これはと思う記事をかき集めたのです。 半月に1回、「日本ロシュの山本藤光が集めた書評」というコピー紙を発行しました。たくさんの医師から感謝の言葉が寄せられました。昼休みの医局でいつの間にか、医師と熱く本の話をしているようになりました。 読書家の医師は多い反面、読書家のMRはごく限られていました。そんなギャップに、私の二足目のわらじは、ばっちりとはまったわけです。 営業マンとして全国区入りしてからは、営業リーダー、営業所長、支店長と、私のキャリアは営業畑を駆け上がりました。そしてやがて、営業企画部長として営業本部の中核ポジションを与えられました。快適な走行でしたが、ここでいきなりブレーキをかけられてしまうことになります。(明日へつづく)
2018年01月23日
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町おこし280:質疑応答――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里08 マイクロバスでの視察を終え、弟子屈町役場のメンバーからの質問の時間になった。会議室には、宮瀬幸史郎町長も顔を出している。猪熊勇太が質問を求めた。最初に、山口助役が発言した。「ありがとうございました。たっぷりと刺激をいただきましたし、まだ興奮で、胸が高鳴っています。度肝を抜かれたのは、すべてのホテルの浴槽が渡り廊下で、つながっていることでした。これでは負ける、と実感させられました」「浴槽もそうですが、厨房もつながっております。定番料理は、すべて中央厨房でまかないます。それにより各ホテルは、オリジナルの特別料理に注力することができるわけです」 恭二の説明に、またどよめきが起きた。 「『おあしす』には、感動しました。老若男女が一つ屋根の下で触れ合う空間は、すばらしいと思いました。採算は取れているのでしょうか?」 内藤という名札をつけた男が、質問した。「採算は取れていません。あそこは町の福祉施設、との位置づけになっています」 「フォト・ラリーには高校生のボランティアが、毎回三十人以上も参加していると聞きました。高校との協力体制について、何かヒントになることがあったら、教えてください」「標茶高校には、町の活性化に貢献するという伝統があります。生徒会が中心となって、参加者の募集と心得の訓練を、やってくれています」「ボランティアに参加した高校生には、何か特典がありますか?」「ありません。彼らが、楽しかったよ、ありがとうという声を聞けるのが最大の特典かもしれません」 恭二はそう応えて、標(しるべ)通貨のことを話したくなった。しかしまだ計画段階であるので、黙っていることにした。 「株式会社酪農は、規模の大きさに驚かされました。そして同時に有機野菜工場も、経営しているんですね」 この質問には、元専門の勇太が答えた。「株式会社酪農の有機野菜工場は、小規模のものです。農業推進局の方では、大規模工場を現在も建設しています。温泉郷で使う野菜は、すべてこの工場から出荷されています。最近ではネットでの販売が、全体の売上の半分を占めています。内地からの需要に、まだ追いついていない現状にあります」「株式会社に移行してから、酪農家の収入はどのくらい増えているのですか?」「ほぼ倍増です。お金のことよりも彼らが口をそろえていうことは、お互いに切磋琢磨することにより、品質が極めてよいものになっているということです」 最後に山口助役があいさつに立った。「貴重な情報をすべてさらけ出していただき、心から感謝申し上げます。本日学んだことを取り入れて、追い抜かれた標茶に追いつけるように、努力させていただきます」
2018年01月23日
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妙に知180122:ブックオフと青木まりこ現象ブックオフでトイレを借りようとしたら、断られました。以前は客に開放していたのですが。ブックオフは「青木まりこ現象」を知らないのでしょうか。ずっと昔に「本の雑誌」の三角窓口に掲載されていた記事です。書店を訪れると、便意を催すという投稿でした。その投稿が話題になり、「青木まりこ現象」という言葉が生まれました。もっとも青木まりこの場合は、新刊書店でのみ起こる現象でしたが。 「本の雑誌」2013年8月号では、「発症から二十八年。青木まりこ現象を再検証する!」という特集が組まれました。その記事によると、77%の客が同じ症状を呈するというのです。 ブックオフは、そうした本好きに背を向けています。犯罪防止の策なのでしょうが、もう少し客に暖かくてもいいと思います。山本藤光2018.01.22
2018年01月22日
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知だらけ086壁の花がはがれる音・起業する(3)33歳のときに、念願かなって営業職への配置転換を果たしました。10年間ずっと希望してきた職種です。内勤職では実力を示しても、優劣評価は受けにくいと思っていました。購買課長のタイトルを投げ捨て、私は1営業マンとして再出発することになりました。 病院の医局で、医師に薬剤を訴求する。診療を終えた開業医で、新薬の効果を話しこむ。本来ならそうなるはずでしたが、医局にはライバル会社のMR(製薬会社の営業マン)がわんさといます。彼らに圧倒されて、私は壁のシミにならざるを得ませんでした。 このままではダメだと考え、夜討ち朝駆けを敢行することにしました。病院は不夜城です。当直の医師がいます。早朝や夜なら、ライバルメーカーはいません。そんなある日、医師からこんな相談を受けました。 ――MRのなかには特別な知識や技能をもった人がいるよね。たとえばパソコンのことを教えてもらいたいときや、学会先のおいしい店を教えてもらいたいときなど、だれに質問をしたらいいのかわかると便利なんだけど。 さっそく私は、病院に出入りする全MRにアンケート用紙を配布しました。会社名や出身地や特技を書いてもらったのです。大きな顔をしているライバル会社のMRも趣旨を理解し、快く応じてくれました。 この一件で古手のMRから認められ、たくさんの情報をいただくようになりました。33歳の新人MRはいつの間にか、医局の中心になったのです。そして私の特技が花開く時を迎えました。壁から背中がはがれ落ちる音を、私は他人ごとのように聞いていました。 難局を打開したいのなら、自ら行動すること。いつまでも悩み、考えこんでいると道は拓かれません。
2018年01月22日
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町おこし279:弟子屈からの視察団――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里07弟子屈町からは山口助役ほか、四人の観光課メンバーがやってきた。会議室での簡単な説明を終えて、一行をマイクロバスで案内することになった。瀬口恭二と猪熊勇太が、案内を担当している。 車は標茶駅で停まった。恭二は説明を開始する。「最初にご覧いただきたくのは、駅前商店街の賑わいです。ここは以前、シャッター商店街といわれていました。閉店した店を、すべて『知だらけの学習塾』として、個人経営の塾に改装しています。現在十二の教室があります」 「では、フォト・ラリーの、コース順にご案内します。最初に車中から、日本四大がっかり名所をご覧いただきます。左側の窓へ寄ってください」 勇太の案内で、一行は一斉に左の席へと移動する。はりまや橋の前を、車はゆっくりと通過する。感嘆の声が上がり、シャッター音が鳴り響いている。車はオランダ坂、守礼門を通り、札幌時計台で停められた。恭二は立ち上がり、説明をした。「フォト・ラリーでは、先ほどご覧いただいた四大がっかり名所で、物産展の割引券がゲットできます。ここが物産展会場になっております。北海道、四国、九州、沖縄の物産直売所です」 一行は車から降りて、直売所を一回りする。平日の午前とあって、閑散としている。「フォト・ラリーの期間は、一日千人を越えるお客さんがきます」 恭二の説明に、驚きの声が上がる。山口助役は、恭二にいった。「がっかり名所と物産展。何ともスマートな結びつけですね。名所はがっかりでも、これらの物産展はデパートでの人気が、高いところばかりです」 標茶高校前に待機していた、トラクターどんそく号をマイクロバスに結合した。「これから標茶町の観光の目玉である、多和平へと向かいます。ここからはどんそく号と名づけたトラクターが、バスを引っ張ります。こののんびり感が、参加者の人気を得ています」 多和平に到着した。バスから降りた一行は、またもや感嘆の声を発している。「クラーク像ですね。この土地に似合っていますよ」山口助役は恭二にそう告げて、展望台からの眺めに目を見張っている。「すばらしい」という声が聞こえた。「ここは閑散とした、単なる展望台でした。ここを観光の目玉として、開発をしました。その結果、現在では平日でも、千人近いお客さんが訪れます」
2018年01月22日
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妙に知180121:「介」って何?「かいほう」を変換していて、ふと気になったことがあります。変換漢字は「介抱」です。「介」って何なのだろう? 調べてみました。 ――「介」という漢字は、よろいをつけた人の形を文字にしたものです。この「よろい」という意味が転じて、「介」の字は堅い甲羅を持つ生き物(貝、エビ、カニなど)を指すようになりました。そこから広がって、「魚介類」は魚類および貝類、エビ、カニだけでなく、甲羅のないイカ、タコ、ウニ、ナマコなども含めた水産物全般(ワカメなどの海藻は除く)の「総称」として定着しました。(NHK放送文化研究所) 「魚貝類」と書いても、誤りではありません。しかしNHKは、魚介類に統一しています。そのほかにも、「厄介」「介護」「紹介」「仲介」などもあります。山本藤光2018.01.21
2018年01月21日
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知だらけ085:二足のわらじの威力・起業する(2) 会社では副業は禁止されていました。私は会社の許可を得て、永年PHPメルマガ「週刊ブックチェイス」(現在は廃刊)に書評の連載をしていました。毎週送られてくる文芸書のなかから、1冊を選んで書評を発信するのです。 二足のわらじ生活は、私の時間管理に革命を起こしてくれました。9時就寝3時起床のリズムが確立したのです。会社勤めで疲労困憊した体で、夕食後に何かをすることは無理でした。そこで出社までの3時間を、読書と執筆にあてることにしたのです。 二足のわらじは、企業人としての自覚も高めてくれました。週末にやるべきことがある同僚は、一様に輝いていることは知っていました。私は毎日をそのように、改善したわけです。 最近では、副業を奨励する会社さえ出現しています。二足のわらじをはいた人は、確実に本業(企業での役割)にも、特異な力を発揮することに気づいた結果だと思います。 つまり会社の仕事以外に、やるべき何かを見つけること。見つけたらそれを第三者に発信すること。そうしていれば、その発信物に興味を示してくれる「その道のプロ」が登場します。(明日へつづく)
2018年01月21日
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町おこし278:福祉課への依頼――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里06 加納雪子は瀬口恭二助役の話を、目を輝かせて聞いた。彼女は今春、福祉課の課長に抜てきされている。三十三歳の独身である。「すてきな企画ですわ。高校生の正式な提案が出るまでに、私どもも備えておきます」「標茶町の老齢者人口は、どのくらいなの?」「六十五歳以上の資料しかありませんが、ほぼ二千五百人で総人口の三十%ほどとなっています」「一人暮らしの方の資料はあるの?」「だいたいその十%ほどですから、百五十人といったところです」「その人たちからは、どんな依頼が多いの?」「冬場の方が、依頼はたくさんきます。屋根の雪下ろし、水道管の破裂、除雪が代表的なものです。夏場は修理の依頼が、大半を占めています。役所に電話をいただいても、対応できず困っていました。そのつど、適任者を紹介しているのですが、作業は格安の料金設定がなされています」「そうか、無償ではないんだね?」「有料にしているのは、安直な依頼を防止する意図もあります」 恭二はすらすらと、そらんじて答える雪子に驚いている。 恭二たちが話しこんでいるところへ、猪熊勇太が顔を出した。勇太は恭二の後任として、観光推進局長を務めている。「話中に悪いね」勇太はそう断ってから、近くにあったパイプ椅子を引き寄せた。「ちょうど、打ち合わせが済んだところです」「それはよかった。実は弟子屈町から、視察と研修の依頼がきています」「受けたらいいじゃないの。全部オープンにしなさい、という方針なんだから」「それはわかっています。しかし私には、まだ研修するだけの知識がありません。そこで前任者にお願いにきた次第です」 恭二はいわれた日程を手帳で確認して、勇太の依頼を受諾した。立ち上がった恭二は、雪子に「企画案は、急いだ方がいいよ」と告げた。
2018年01月21日
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妙に知180120:小1の国語教科書小学1年生の国語教科書について、触れた文章がありました。あなたは最初に接した国語教科書を、覚えているでしょうか。私は「さくら さいた」だったと記憶しています。違うかもしれませんが。丸谷才一『思考のレッスン』(文春文庫)に、おもしろい記載があります。本書は山本藤光の「文庫で読む500+α」では、「知・教養・古典」ジャンルの第2位として評価しています。本当に勉強になる本なので、ぜひ読んでいただきたいと思います。丸谷才一はジェームス・ジョイス『ユリシリーズ』の翻訳で有名ですが、古典を言語空間の中心にすえた稀有な作家です。さて本題ですが、引用してみます。「たとえば、小学校一年の国語の教科書で最初に出てくる文章にこんなものがあります」との前文がついて、教科書が紹介されている。――はるの はな/あおい あおい/はるの そら/うたえ うたえ/はるの うた(教育出版『国語一 上』)――みんな/あつまれ/もりの なか/あおい うみ/みつけた/なみの おと/きこえた/みんな/はしれ」(光村図書『国語一 上』) これら2つが採択率で1位と2位とのことです。丸谷才一の驚きの言葉を紹介しましょう。――言うべきことが何もない人たちが、言うべきことが何もなくて書いた文章がこれなんです。だから「チープな」日本語になるのは当たり前なんです。(丸谷才一『思考のレッスン』文春文庫P267より)なるほど、ひどい。こんな「チープな」文章で、小学一年生にどうなってもらいたいのだろう。これが教育のスタート場面だとすると、寒気がします。「いま」の小学一年生の国語教科書の、最初のページはどうなっているのでしょうか?山本藤光2018.01.20
2018年01月20日
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知だらけ084:遠い将来への夢・起業する(1) 本日から「起業」について書いてみることにしました。私は今から10数年前に、56歳で34年間の企業人生活にピリオドを打っています。きっかけは、突然の会社の合併でした。 私が勤めていたスイスのロシュ社が、中外製薬を傘下にいれました。そのあおりで、日本でも日本ロシュと中外製薬が合併し、存続会社名は中外製薬となったのです。その時点で、私は瞬時に退職を決めました。早期退職制度に便乗して、上乗せされた退職金を起業への運転資金にすることにしたのです。 日本ロシュへ入社したとき、私はすでにさらなる将来のことを考えていました。頭のなかには、いくつかの未来像がありました。――小説家になる。大学時代からずっと、小説を書きつづけていました。いくつかの小説は、雑誌(白門文学や中央評論など)に発表していました。文芸誌の新人賞にも応募し、いつも最終選考まで残っていました。しかし芽がでませんでした。 ――企業人として実力をつけて、会社の経営に携わる。こちらのコースは、常にワンランク上のポジションを意識していました。ところが入社して配属されたのが、総務部購買課だったことで出鼻からつまずいてしまいました。この職種では実力を評価されない。そんな思いがありましたので、自己申告のたびに営業職への転職を希望しました。 結局、前記の理由で、独立起業の道を歩むことになりました。やることはきまっていました。リーダー向け部下指導の研修です。株式会社コラボプランを立ち上げました。現在は若いメンバーが、会社を継承してくれています。私は資本参加していませんので、若い人のまったく新たな会社としてよみがえったのです。(明日へつづく)
2018年01月20日
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町おこし277:『標』通貨――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里05 高校生が帰ってから、幸史郎、恭二、北村の三人は食堂に残ったままだった。「すごいことを、やろうとしていますね」 北村はお茶を飲みながら、驚いた表情でいった。「これは高校生だけに、任せてはおけない。福祉課の加納雪子課長も巻きこんで、町としても全面的な支援をしなければならない」 幸史郎は恭二の顔を見て、早くも戦闘モードに突入している。「平日は彼らは勉強しています。だから平日のニーズに、応えることができません。当然、彼らのボランティア活動は、限定されたものになります。どうやら、町をあげての企画になりそうですね」 恭二は高校生の提案に、感激していた。できるだけ彼らのアイデアを尊重して、高校生からの波を全町に展開しなければならないと思った。「礼奈ちゃんのしゃべり方、可穂ちゃんとそっくりだったな」「顔はお父さんの長島先生に、似ていました」「可武威くんは、詩織ちゃんとそっくりだった。目が大きくて男前だ」「焦っちゃいました。まさか息子がくるとは、思いもしませんでした」「親子二代の新聞部長か。お手柔らかに頼むって、可武威くんにいっておいてくれ」「町長、町民を巻きこむとなると、一大事業になりますよ」 二人の会話に、北村は心配そうな顔で口を挟んだ。「『標』通貨も発行せにゃならん。町としても、たくさん『標』通貨を集めた人には、感謝状も渡す必要があるな。これが実現したら、停滞していた福祉事業に風穴が開く」「同感です。温泉、酪農、農業に加えて、四つ目の事業の旗が立ちそうですね」 恭二は応じた。そして急いで、課長に抜てきしたばかりの加納雪子の耳に、入れなければならないと考えている。
2018年01月20日
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辻村深月『島はぼくらと』(講談社文庫)17歳。卒業までは一緒にいよう。この島の別れの言葉は「行ってきます」。きっと「おかえり」が待っているから。瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。大人も子供も一生青春宣言! 辻村深月の新たな代表作。(内容紹介より)◎四人の高校生を軸に辻村深月は、『凍りくじら』(講談社文庫)を「500+α」で紹介していました。しかし『島はぼくらと』(講談社文庫)の方がはるかに優れています。推薦作の変更をすることにしました。本書はkindle版で読みました。とてもさわやかな読後感でした。本書は辻村深月が新たなステージに到達した記念碑的な作品、と声高にお伝えしたいと思います。そして著者自身も本書について、次のように語っています。――「これが辻村深月の小説です」と言って、誰にでも渡せるものがやっとできたなって思っています。「私はこういう小説を書いています」と人に言える、とっても大切な一冊です。(「IN POCKET」2016年7月号)『島はぼくらと』の舞台は、人口三千人弱の瀬戸内海の小さな島・冴島(さえじま)。主な登場人物である男女の高校生の四人は、フェリーで二十分かかる本土の学校へ通っています。母と祖母の女三代で暮らす、純粋な少女・朱里(あかり)。朱里は源樹に、淡い恋心を抱いています。美人で気が強く、怜悧な網元の一人娘・衣花(きぬか)。島でリゾートホテルを経営する父と暮らす、少し不良っぽい源樹(げんき)。熱心な演劇部員で、頭脳明晰な新(あらた)。この設定をみただけで、なんとなく展開が推測できそうです。ところが本書は、薄っぺらな恋愛小説にはなっていません。物語を支える脇役が多岐にわたり、いずれも個性的です。フェリーで下校中の彼らは、霧崎という男から声をかけられます。男は「幻の脚本を知らないか」と尋ねます。「幻の脚本」をめぐるてんまつについては、興ざめになるので触れません。四人は高校を卒業したら、冴島を離れる運命にあります。一方村長が移住を推進しており、島に根づく人々もいます。◎人と人を繋げる仕事 あとがきに書いてある、コミュニティデザイナーの西上ありさ氏の存在なくして、本書は生まれていません。二人は「IN POCKET」(2016年7月号)で対談しています。対談内容については、のちほど引用させていただきます。四人の高校生が物語の基軸ですが本書には、さまざまな話がこれでもかとばかりに出てきます。 朱里の母や祖母の時代の話。元の住民とIターン組の話。シングルマザーや村長の話。コミュニティデザイナーの話。これらの話は、巧みに物語に彩りを与えています。特に前記の西上ありさ氏がモデルの、コミュニティデザイナー・ヨシノは物語の大切なキーパスンです。彼女は国土交通省の離島振興支援課の紹介で冴島にやってきます。――彼女(ヨシノ)はIターンの新しい住人と、先住する島民との間を取り持つ、「人と人を繋げる仕事」をしています。(「IN POCKET」2016年7月号P14)コミュニティデザイナーは、単行本では地域活性デザイナーとなっていました。この変更は西上氏に対する、著者の暖かい心遣いなのでしょう。◎ラストでウルウル『島はぼくらと』には、小さな物語が幾層にも連なっています。少しだけ紹介させていただきます。島のためにと全力を尽くす村長は、時には島民と対立したり私欲をむき出しにします。シングルマザー蕗子の娘が喀血します。村長の思惑で村には医者はいません。そこへ蕗子と同じIターン組の本木が、駆けつけてきます。本木がなぜ冴島にやってきたのか、素性は何なのか、は読んでお楽しみとします。 島には男が成人になったら、「兄弟」の盃を交わす慣習があります。私は読み落としていましたが、北上次郎はそこに着目していました。朱里が保育園を卒園する冬の場面です。――島に生まれた朱里が、「私と『兄弟』になろう!」と源治に言うシーンがある。(『本の雑誌』2,013年8月号)北上次郎は、私が最も信頼している書評家です。彼の推薦する本には、はずれはありません。その北上は、素敵なシーンを教えてくれました。そして静かな感動的なラストシーンとなります。女子高生の会話に、涙腺がウルウルと震えました。著者自身がいうように、本書はまぎれもなく、辻村深月の代表作です。『凍りくじら』を「日本現代文学125+α」から外すのは忍びないのですが、1著者1作品を原則にしています。『島はぼくらと』を「125」に追加し、『凍りくじら』を「+α」に移す作業をしました。未読の方には、「これが辻村深月の大切な一冊だよ」と伝えたいと思います。山本藤光2018.01.19
2018年01月19日
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妙に知180119「もうろく帖」を読んでみたい池内紀『すごいトシヨリBOOK』(毎日新聞社)は、先日「500+α」で紹介させていただきました。古い雑誌を整理していて、池内紀よりもずっと先に、鶴見俊輔が同じことをやっていたのを知りました。以下『本の雑誌』2015年2月号(津野海太郎「百歳までの読書術」)からの引用です。 ――1992年のある日、鶴見さんはふと思い立って「もうろく帖」というメモをつけはじめた。 ――七十に近くなって、私は,自分のもうろくに気がついた。これは、深まるばかりで、抜け出るときはない。せめて自分の今のもうろく度を自分で知りおぼえをつけたいと思った。(「もうろく帖」の抜粋) こうして鶴見俊輔は、12冊の「もうろく帖」を書いたのです。これを黒川創たちが瀟洒な小型本にまとめたようです。ところが検索にひっかかってきません。残念ですが、読むことができません。 ところで「もうろく」ですが、漢字で書けますか? 「耄碌」と書きます。老の下に毛とあります。毛は「細い、衰えた」の意味のようです。「碌」は「ろくすっぽ」の碌。物事を満足に成し遂げないことを表す言葉のようです。(nonnnoko789さんのページを参照しました)山本藤光2018.01.19
2018年01月19日
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知だらけ083:起業するとは 起業を考えませんか。塾長のいう起業するとは、株式会社を設立するということではありません。小さな塾やお店を開設してみませんか、というくらいのものです。塾長は56歳のときに、会社の合併により34年間勤めた会社を辞めています。 そしてすぐに、株式会社コラボプランを設立しました。営業リーダーに特化したコンサルティング会社でした。これは企業人時代に、本を出版したり講演をしたりと、備えがあったからできたことです。一般的には、独立起業は難しいものです。 しかし老齢期に入った人が、習字教室を開設したり、プラモデル店を開設したりしています。できるだけリスクの少ない起業は、誰にでもできます。 一番用意なのは、ネットでの販売です。〇〇教室もちらしを作成して、近所に配れば生徒は集ります。明日からは独力で創立した、株式会社のてんまつを紹介したいと思います。
2018年01月19日
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町おこし276:高校生のボランティア活動――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里04礼奈は続ける。「まだ案の段階ですが、土曜日午前中限定のボランティア活動を考えています。高校生には、自分の特技リストを提供してもらいます。そのリストを七十歳以上のお年寄りに配布します。お年寄りはそのリストを見て、該当者に支援を依頼することができます。そしてお年寄りには、『標(しるべ)』通貨を配布します」「地方通貨を発行しようというのかい?」 恭二は驚いて、言葉をはさんだ。「通貨というほど、大げさなものではありません。仕事が終わったら、お年寄りは感謝の気持ちとして、『標』を生徒に渡します。学年末に集った『標』枚数は、社会貢献の証としての誇りになります。三年生は受験で忙しいと思いますので、一、二年生が中心で実施しようと考えています」「それは、すばらしい企画だね」 幸史郎は興奮を抑えきれない口調で、感嘆の声をもらした。「お年寄りからの依頼の電話やボランティアの出動依頼は、誰がすることになるんだい?」 恭二は、一歩踏み込んで質問した。「そこでご相談なんですが、町の方で窓口を設けていただきたいのです」 優樹はすがるような眼差しを、町長に向けた。「きみたちの純真な気持ちは、しっかりと受け止めさせていただく」
2018年01月19日
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妙に知180118:乳母車は消えた? ある講演の場で私が「付箋紙」といったら、若い女性に笑われました。そして「今はポストイットというんです」と教えてくれました。でもそれは、あるメーカーの商品名のはずです。付箋紙は死語ではないと思うのですが。 昨日は「使うと恥ずかしい死語」の第1位「アベック」について書きました。今朝は第2位に迫ってみたいと思います。第2位は「乳母車」でした。今ではほとんどの人が「ベビーカー」または「バギー」といっています。 それにしても消えてしまった「乳母車」は、不思議な単語です。乳母が赤ん坊を乗せて押していたところから、命名されてのでしょうか。乳母が登場する小説は、たくさん読んでいます。でも乳母車が登場する場面は、読んだ記憶がありません。 ネットで検索してみました。何と11作もヒットしました。そのなかの一つを紹介させていただきます。 ――ジャンパーに、半ズボンという軽装です。乳母車を押していますね。これは、私の小さい女の子を乳母車に乗せて、ちかくの井の頭、自然文化園の孔雀を見せに連れて行くところです。幸福そうな風景ですね。いつまで続く事か。つぎのペエジには、どんな写真が貼ら・・・(太宰治「小さいアルバム」青空文庫)山本藤光2018.01.18
2018年01月18日
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知だらけ082:毎日が潤う 発信すると、受け手からのリアクションがきます。コメントだったり、「いいね」のボタン入力だったり、アクセス数で反応を確認することもできます。発信する人にとってこうした反応は、大きな励ましになります。 受け手は敏感に反応します。いい加減にやると、すぐに引いてしまいます。それゆえに一度やり始めたら、毎日が真剣勝負の場となります。 趣味のはんちゅうで集め、それを眺めているだけでは得られない反応が返ってきます。毎日に潤いをもたらすためにも、どうか「小さな研究」を発信してみてください。 ホームページも、簡単に作れるようになりました。何度も書いていますが、知のステップアップは、発信するで完結するのです。
2018年01月18日
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町おこし275:町長と生徒会長――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里03 六月。標茶高校の生徒会選挙で、松田優樹(まさき)が生徒会長に、長島礼奈が副生徒会長に選ばれた。二人とも二年生である。松田優樹は日本一広い敷地の高校に憧れてやってきた、道外からの留学生。長島礼奈は、長島太郎・可穂夫妻の双子姉妹の姉の方である。 宮瀬幸史郎が町長に就任してから、新任の生徒会役員との昼食会は恒例行事になっている。多くの町民から生の声を聞くのは、幸史郎の基本姿勢である。なかでも高校生の意見は、尊重している。幸史郎は生徒会長のときに、町議会で標茶町活性化のための、提案をさせてもらっている。 緊張した面持ちの優樹と礼奈は、役場の特別食堂に通された。取材のために、新聞部長の瀬口可武威が同道している。三人が席に着くと、すぐに扉が開いた。宮瀬幸史郎町長、瀬口恭二助役、北村広報課長が顔を出した。いち早く、恭二は息子の存在に気づいた。「お待たせしてしまったかな。生徒会長と副会長、ご就任おめでとうございます。町長の宮瀬です。今後ともよろしく」 自己紹介が済んでから、「息子が取材にくるとは、想定外だった」と恭二は笑った。寿司が運ばれてきた。北村は硬くなっている生徒に、「食べながらやりましょう」と告げた。「松田くんは千葉県出身だといっていたけど、なぜわざわざ標茶高校を選んだの?」 恭二の質問に。優樹は箸を止めて答えた。「中学時代は、ボーイスカウトをやっていました。そこの団長さんに、おもしろい高校があると教えられました」「きてみて、どうだったの?」「自然が豊かで、ボランティア活動が盛んで、あまり進学にあくせくしていない点が魅力です。高校生活をのんびりと、楽しんでいます」「今度の生徒会の公約は、何なの?」 幸史郎は、礼奈の方に視線を向けて質問した。普段はおじさんと呼ばれており、まともな質問を投げかけるのは、ちょっと気恥ずかしかった。「さらなる、ボランティア活動の拡大です」「それは興味深い」 幸史郎の身体が、前のめりになる。
2018年01月18日
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妙に知180117:アベックはいずこに古い雑誌の整理をしていて、ふと立ち止まった記事があります。穂村弘のコラムのなかに、――大学の言語学の先生に、「アベック」が「カップルになったりするのはどうしてですか?」と質問してみた(「本の雑誌」2013年2月号)という下りがありました。先生は「わからない」と答えたそうです。 なるほど恋人同士を指す言葉として、「アベック」は、完全に「カップル」に置き換えられていると思います。では「アベック」は死語になってしまったのでしょうか? ネット検索したら、次のようなコメントがありました。以下はそのまとめです。 アベックは「使うと恥ずかしい死語」の第1位としているサイトがありました。しかしこの和製フランス語は、ある場所でだけ健在なのです。 野球中継で「アベックホームラン」などという表現は生きています。時代が変わっても、カップルホームランとはいいません。 「アベック」は野球場でのみ、生きつづけているのです。山本藤光2018.01.17
2018年01月17日
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知だらけ081:発信するとは 発信するとは、大げさな行為ではありません。友人に向かって、読んだ本のおもしろさを語るのも発信する行為です。ただし正式にいえば、発信する定義にかろうじて引っかかっている程度です。 発信するとは、明確な意図を持って、それを待っている人に伝える行為です。現代では電話やメールがその代表格です。フェイスブックはおともだちに限定されて、運用されています。武者修行としては少し緩和された場ですが、肩慣らしのつもりで発信するのは構いません。 本のおもしろさを語る行為でも、そこにミステリー小説クラブなどの集いがあり、そこで語るのなら「発信する」行為となります。発信するためには、それなりの場が必要です。 最初に一番簡単な場の設定から説明します。ブログの作成です。これはいろいろなサイトで、簡単に立ち上げることが可能です。 あなたの「小さな研究」をブログ発信することをお勧めします。発信するとは壁に向かって、ボールを投げているような行為です。自らの小さな研究を究めたいのなら、第三者の目にさらすことが大切です。さらすとあなたの知のレベルは、格段に引き上げられます。
2018年01月17日
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町おこし274:朝の散歩――『町おこしの賦』第9部:おあしすの里02 朝食を終えて、恭二と詩織は朝の散歩に出る。四月の朝は、まだ肌寒い。子どもに手がかからなくなってから、散歩は詩織も一緒にすることになった。二人は吹雪でも雨でも、欠かすことなく一時間の散歩を継続している。 藤野温泉ホテル・アネックスの前を通り、釧路川沿いに十分ほど歩く。「標茶町温泉郷」の看板を右折する。はりまや橋を眺めながら、オランダ坂を上る。そこは高校時代の二人が、通学時に合流していた場所である。「美影ちゃんも高校生か。早いもんだな」「その分、私たちは年をとっているってことよ」 二人はそこで折り返す。「私と恭二の、オランダ坂だよね。可武威に、彼女がいるのかな?」「いるに決まっているだろう。高校二年生だぞ。いない方がおかしい」「そうよね。私たちの高二は、どんなんだったっけ?」「一心同体、かな」 オランダ坂を、上ってくる人がいた。「コウちゃんだ」 詩織が叫んだ。宮瀬幸史郎も二人を認めた。「どうしたんだい? お家がわからなくなったのかい?」 恭二はおどけて、幸史郎に問いかける。彼は五十三歳になっている。標茶町長として、現在四期目を務めている。恭二は、役場では敬語を用いている。しかし普段は、昔のままの話し方でとおしている。「散歩だよ。最近、体力の衰えに気がついた」 幸史郎は灰色のジャージを指差し、照れたように笑った。「毎日、歩いているの?」 詩織の質問に、幸史郎は首を横に振った。「思いついたときだけ。でも、何もしないよりもマシだろう」 幸史郎と別れて、二人は歩き出す。「コウちゃん、ちょっとやせたかな?」 詩織は両手を高く振りながら、恭二に視線を向ける。それは恭二も、気になっていたことだった。標茶町は幸史郎の強力なリーダーシップで、再生の道を歩いている。恭二は振り返って幸史郎の姿を探したが、すでに見あたらなかった。
2018年01月17日
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目取真俊『水滴』(文春文庫)ある日、右足が腫れて水が噴き出した。夜ごとにそれを飲みにくる男達の正体は?──沖縄の過去と現在が交錯してゆく芥川賞受賞作(内容紹介より) ◎足の指から水滴 芥川賞の発表があるまで、著者の名前は知りませんでした。目取真俊(めどるま・しゅん)は筆名で、本名は島袋正といいます。1960年生まれの沖縄の作家です。『水滴』(文春文庫)は九州芸術祭文学賞の受賞作で、「文学界」に転載されたものです。 『水滴』は3つの短編から構成されています。。表題作の「水滴」が、最も印象的でした。ある日、徳正(とくしょう)という老人の足の親指がはれあがり、そこから水滴が出るようになります。水は途切れることなく出続けます。原因はわかりません。 「老女たちの強い勧めで、評判の高いユタも頼んでみ」ましたし、診療所の医師にも診てもらいました。医師は大学病院での精密検査を勧めますが、妻のウシは「ならんど」と拒みます。 やがて夜になると、その水滴を飲むために、毎夜、凄惨な姿の兵士の亡霊が現われるようになります。兵士たちは、徳正の五十年前の戦争仲間でした。徳正には同郷の戦友・石嶺にまつわる、忌まわしい過去がありました。 ――夕方、水を汲みに出た徳正達を艦砲の至近弾が襲った。一緒にいた三名の女子学生達は即死状態だった。石嶺も破片で腹を裂かれ、どうにか動けるのは徳正だけだった。(本文より) 「夜になって壕の中が騒がしくなった。伝令から移動命令が伝えられ、動ける者は持てるだけの荷物を持って、南部に移動することを命じられ」たのです。徳正は水を求める石嶺たちを残して、壕から脱出しました。 ◎ひとつの叫び この作品には、現在と過去が織りなす人間模様が鮮やかに描かれています。ルビまじりの方言による会話が、現実を色濃くしています。 また沖縄という空間が、過去を切なく重々しいものにしています。舞台が沖縄以外だったなら、読み物としては色褪せたものになっていたと思います。清水良典は著作のなかで、私と同様の感想を書いていました。 ――沖縄ならではの素材にかなり助けられているとはいえ、力量の高い、しかも企みに富んだ小説が出現したといえるだろう。(清水良典『最後の文芸時評』四谷ラウンドP278) 収載作「風音」は、特攻隊と頭蓋骨と火葬場の小道具に、現代的なワイドショーの取材が重なります。「オキナワン・ブック・レヴュー」は、沖縄にまつわる架空の本の書評という体裁になっています。清水義範の二番煎じの感が、しないこともありません。沖縄について、著者はこう書いています。 ――数百年にわたって抑圧されつづけてきた沖縄の人々の胸の奥に刻まれていた何かが共鳴し、ひとつの叫びを生んだのだ。 その「叫び」を著者は(真の自由と平和を求めるもの)と付記しています。3作品ともに沖縄という舞台に限定されていますが、いずれも私が観念的に知っている沖縄そのものでした。 目取真俊は、沖縄の過去と現在を描こうとしています。できるならもう少し違う切り口で、沖縄を表現してほしいと思いました。人間の体の一部が変形したり、人間そのものが何かに変身してしまう小説はたくさんあります。 安部公房やカフカはもちろん、フィリップ・ロスの『乳房になった男』、H.F.セイントの『透明人間の告白』、「松浦理英子の『親指Pの修行時代』や姫野カオルコの『受難』などがそうです。 ただ目取真俊の作品は暗く、重いのが特徴です。読後感は、爽やかではありません。著者は風化した小道具と沖縄を、ずっと引きずり続けるのでしょうか。第117回芥川賞は、藤沢周か阿部和重が受賞すると推測していました。しかし目取真俊という骨太の新人に出会えて、また楽しみが増えました。目取真の沖縄を離れた作品を、読んでみたいと思います。 (山本藤光1997.10.05初稿。2018.01.16改稿)・※初校はPHP研究所「ブック・チェイス」に掲載しました。
2018年01月16日
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魔方陣の解き方・妙に知1801163×3のマス目に1から9までの数字を入れて、縦横斜めの合計数が同じになるようにしなさい。これが魔方陣です。誰もがご存知だと思います。3×3が9×9になっても、法則さえ知っていれば、簡単に解くことができるのが「魔方陣」です。 3×3でその法則を示します。とりあえず、9つのマス目を上から、上段・中段・下段と呼びます。横方向は、左・中・右と呼びます。上段中に1と記入します。では法則の紹介です。 (1)数字は常に右上のマス目に進みます。――2を右上のマス目(上段右の上)に記入しようとするとマス目はありません。マス目がないときは、その列の一番端のマス目に数字を入れます。2は下段右に入ります。――3もマス目がありませんので、その列の端に記入します。中段左となります。(2)すでに数字が記入されているマス目にぶつかったら、そこにある数字の下のマス目に入れます。――4を入れようとしたら、そこには1がありますので、中段中に4を入れます。――5は右上に空白がありますので、上段右にすんなり入れられます。(3)右上角は、斜め端に数字を記入します。――6は右上角になりますので、下段左へと記入します。――7は右上に数字(4)がありますので、その直下に入れます。――8は右上の空白に。――9は端その列の端ですから、上段左となります。 これで完成です。この法則さえ理解できたら、奇数のマス目なら簡単に解くことができます。 ※書評の養老孟司『バカの壁』(新潮新書)に、追加情報(ベストセラーになった分析)を入れました。興味がある方はご覧ください。山本藤光2018.01.16
2018年01月16日
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知だらけ080:マイルストーンを設置する あまりにも遠いゴールを、ひたすら目指すのは疲れます。マラソンでもそうですが、必ずゴールの手前にいくつものマイルストーンを設置しなければなりません。10年後に完成を目指すライフワークなら、1年刻みにマイルストーンをおきます。 単なる通過点なのですが、そこに到達すると達成感が生まれます。達成感は、貴重なエネルギー資源となります。新たな気持ちで継続させてくれる、いわゆる背中を押すエキスがあるのです。 それゆえ、生涯にわたって極める何かがあっても、1年、四半期、1ヶ月、1週間、毎日などにそれをおき換えることが大切になります。これをやらなければ、日常にゆとりが生まれません。充実した日常の創出は、こうした計画の巧みさからしか生まれません。 目標を設定し、それをクリアしたら、味わえるのが達成感です。会社は営業マンに、年間販売目標を与えます。もちろん営業マンはそれを達成した場合に、年に1度の達成感が味わえます。営業リーダー時代、塾長はこれを月間目標に改めました。達成感をより多く体験してもらうためです。そして最終的に、部下には毎朝「その日の成果を思い描かせる」に到るわけです。 達成感には、その人を次なるステージに引き上げてくれる力があります。やったという満足感が、経験知となるからです。 塾生には、年や月単位の目標は不要です。塾には「ブルーレット作戦」(知だらけ020参照)を提唱しました。1週間単位での目標設定です。そのうえで、毎日の設計も怠らないようにと説明しました。 今週中にこの本を読破する。月曜日にそうしたゴールを設定し、日曜日に時間をやりくりして何とか読み終える。ただ漫然と行う読書との違いは、「達成感」として現れます。たかが読書と考えるなかれ。大切なことは、繰り返し実感する「達成感」なのです。 達成感は、自然に自分を一段上のレベルに引き上げてくれます。ゴールを設定する意味は、ここにあるのです。
2018年01月16日
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