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182:MRとしての出発 北大薬学部を卒業して、瀬口恭二はR製薬へ入社した。スイスに本社のある外資系製薬会社で、世界で三番目の売上を誇る。ガンの領域に特定すると、世界でナンバーワンの製薬企業である。恭二は、ここの研究所へ入りたかった。しかし面接のときに「営業経験をしておくと、その後の研究に役に立つ。MRなら即採用できる」と説明されて、「はい」と答えている。MRとは医師の薬剤パートナー、という位置づけである。しかし実際には、他の業種の営業マンと変わらない。 半年間の、新人MR導入研修が終了した。恭二は長かったな、と思いながら配属発表を待っている。配属希望先は、札幌支店と書いた。佐藤営業部長が、紙片を広げた。発表は北の支店から、順番になされた。札幌支店には、恭二の名前がなかった。仙台支店にも東京支店にも、名前はない。読み上げは、関西の支店に移った。まだ呼ばれない。残るは福岡支店だけになった。「福岡支店、瀬口恭二」 頭のなかが、真っ白になる。研究所勤務のはずがMRになり、札幌支店配属の希望が福岡になってしまった。瀬口恭二、二十六歳。社会人としては、不幸な出発となった。配属発表が終り、パーティがはじまった。宮原正晴がやってきて、固く恭二の手を握った。彼は四年制の理科系大学を卒業しているので、二十三歳である。研修中、恭二とは同室だった。宮原は第一希望の、名古屋支店に配属された。「悪いな、ぼくだけが希望どおりで。でも福岡は、住みよいところだと聞いている」「担当先が福岡市内ならまだいいけど、どこへやられるのかわからない。沖縄だって、福岡支店の管轄なんだから」「沖縄なら、いつでも喜んで遊びに行くよ」 しゃべりながら、恭二の胸の中に暗雲が垂れこめる。正式な担当地区は、まだ発表になっていなかったのである。沖縄を含めた、九州の地図を思い描いてみる。北海道しか知らない恭二にとって、それは異国の地図に思えた。 希望に満ちた、社会への旅たちのはずだった。恭二は札幌で待っている、浅川留美を思う。そして六年間のルームシェアに、終わりがきたことに初めて気づく。
2019年10月31日
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118:新人営業担当者の同行――第9章:その他の効果的な同行 新人営業担当者の加入は、チームを強くするチャンスです。過去3年間、1度も年度目標を達成していないチームがありました。新しい営業リーダーが赴任しました。あっという間に、チームがよみがえりました。着任した営業リーダーは、チームメンバーに次のように告げたのです。「新人営業担当者を、みんなで育てよう。きみたちの手腕に期待している」 そんなことでチームが変わるのか、と思われる方がいるかもしれません。新人を育てるというのは、仕事の基本を学んでもらうことです。メンバーは忘れかけていた、営業活動の基本を学び直すことになります。 営業リーダーはチーム内から、何人かを新人の「育成同行」役として選出します。もちろん育成同行役は、優秀な人でなければなりません。新人育成の手順は、次の通りです。①社会人としての常識を身につけてもらう②ビジネスマナーを学んでもらう③事務処理などを理解してもらう④営業活動を体感してもらう⑤製品知識を学んでもらう⑥代理店などの機能を理解してもらう⑦やってみせ、やらせてみる⑧単独で活動できるか否かを見極める 新人同行のときも、1冊のノートを用意します。営業リーダーを含めて、3人が新人育成を担当したとしましょう。指導がぶれるとまずいので、何を指導したのかを書き留めておく必要があります。いわゆる、申し送り事項を記録するのです。 このノートは、新人営業担当者に書かせても構いません。その際のポイントは、次の通りです。・今日発見したこと・今日学んだこと・今日注意を受けたこと・明日の目標新人をチーム全員で育てる。実際にやってみた、営業リーダーのメッセージを紹介したいと思います。「確かにチーム内に、連帯感が生まれました」◎考えてみましょう新人の育成をチーム内で共有する。これは双方にとって、どんな効果があるのでしょうか。考えてみましょう。新人の育成は上司だけの仕事。それではせっかくのチャンスを、ムダにしているだけです。チーム全員で新人を育てる機運を、作り出したいものです。
2019年10月31日
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『深夜の散歩・ミステリの愉しみ』完全版でた■『深夜の散歩・ミステリの愉しみ』(ハヤカワ文庫)は、「ミステリー論」コーナーに収納しています。それが今度、創元推理文庫になって復刻されました。「文庫初収録の文章を含む 完全版」となっていました。本書は、福永武彦。中村真一郎・丸谷才一の共著で、ミステリー小説を語り尽くしています。ミステリー小説の愛読者にとって、楽しい一冊になっています。■現在kindle版で、今村昌弘『屍人荘の殺人』(創元推理文庫)を読んでいます。第2章までは退屈でしたが、第3章から俄然おもしろくなっています。評判どおりのすごい作品です。山本藤光2019.10.31
2019年10月31日
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180:五人の誓い勇太から電話があった。自宅でジンギスカンパーティをするからこないか、との招待だった。幸史郎、詩織、可穂も、くるとのことである。恭二は指定された時間に、電車で茅沼へ行った。一番乗りだった。席は屋外に作られていた。ミユは、ビール瓶を下げてやってきた。「いらっしゃい」と異なるイントネーションで頭を下げた。墨がはぜる音が鳴り、思い出したようにセミが鳴いた。「おあしすで味をしめちゃって、うちでもジンギスカンやろうって、うるさいんだ」 勇太は、うれしそうに説明した。やがて詩織が運転する車で、幸史郎と可穂が到着した。「恭二の家へ寄ったら、電車で行ったとのことだった。前もって伝えておけばよかった」 幸史郎の弁解を受けて、詩織は説明した。「迎えにきてくれって、急に電話をしてきたのよ。運転すると飲めなくなるって断ったら、コウちゃん、足をねんざしているって、だましたの」勇太はメンバーにミユを紹介し、改めてカンパイといった。鉄鍋ではなく、網焼きのジンギスカンは美味だった。イカ、ホッキ貝、カキも焼かれた。そのたびに炭火は、ジュージューとせわしない音をたてた。「いいな、大自然のなかでの、バーベキューは最高だね」 可穂は周囲を見渡し、大きな深呼吸をした。「この前、ウォーキング・ラリーに行ってきた。恭二とばったり会ったら、すごい美人と一緒だった」 勇太の話を皮切りに、一気に近況報告へと話題が変わった。「彼女は大学の同級生。釧路に住んでいるので、招待しただけ」 恭二はあわてて、そういいつくろった。「ウォーキング・ラリーは、年々規模が拡大しているわ。うちやセントラルさんだけではまかない切れなくなったので、来年からは宿泊コースは中止にするらしい」 詩織は、胸の動揺を隠していった。恭二が連れ歩いていた、美人が気になって仕方がなかったのである。「おれは大学を卒業したら、親父の会社を継がなければならないから、標茶の発展はうれしい。でもまだ、何かが足りない。ウォーキング・ラリーと雪中運動会だけでは、人を呼ぶメニューとしてはちっぽけ過ぎる」 幸史郎の話を受けて、勇太が続けた。「やがてはコウちゃんが、町長になればいい。そうなれば、標茶の発展は間違いない」 大きな笑い声が起きた。恭二は現在の延長線上に、標茶で生活をしている自分を置いてみる。居場所はなかった。詩織は恭二の彼女のことが、まだ気になっていた。
2019年10月30日
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117:代理店との同行――第9章:その他の効果的な同行 メーカーと代理店の営業が、連れ添って顧客を訪問します。これも「同行」のひとつの形態です。メーカーには高い製品知識があるし、代理店は顧客ニーズを掌握しています。私も代理店の営業担当者と、何度も同行した経験があります。 このときに大切なのは、訪問先に関する事前の情報交換です。2人が役割分担し、何としてでも攻略したい。この意思がなければ、あまり成果は期待できません。 製薬会社の営業担当者時代を、振り返ってみたいと思います。 代理店には、午前8時前に行くようにしていました。代理店の営業担当者よりも早く出勤し、1人ひとりにあいさつをしました。病院中心の活動だったため、開業医は代理店の協力が必要だったのです。他社の営業担当者がこないうちに、情報交換をする必要がありました。 重点開業医のほとんどは、優秀な代理店の営業担当者が担当していました。そんな関係で、長く話しこまなければならない人は決まっていました。必然的に、彼らの顧客への訪問頻度が高くなります。彼らとは、よく酒も飲みました。彼らの訪問ルートは熟知していたので、意図的にバッタリと顔を合わせる工夫もしました。 重点開業医とは、次の条件を満たしているところのことです。これは私の考えで大雑把ですので、もっと整理することをお勧めします。・患者さんが多い・自社品の大量処方が期待できる・代理店営業担当者との連携ができる・予想される新薬の採用の可能性が高い◎考えてみましょう あなたの「重点顧客」定義とは何ですか。顧客リストのなかから、重点顧客を選ぶことは大切です。「選択と集中」と書けば、理解していただけると思います。仕事に優先順位をつけるためにも、そしてメリハリをつけるためにも、この作業は軽視できません。メーカーと代理店との同行は、双方に新たな発見が生まれます。お互いの強みを知ることで、仕事に広がりをもたらします。
2019年10月30日
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津村記久子『枕元の本棚』がいい■10月も残り一日になりました。めっきり冷え込んできて、書斎の扇風機を伝記ストーブに取り替えました。昨日から書庫の大改装をしています。純文学や評論の類いを外して、孫たちに読ませたい本を並べています。半分以上の蔵書は、積んであるだけです。孫たちへの推薦図書は、背表紙が見えるようになりました。■津村記久子の書く書評が好きです。昨日『枕元の本棚』(実日文庫)を読んで、改めてそう思いました。ところで著者の小説について、まだ「山本藤光の文庫で読む500+α」に入れていないことに気づきました。今のところ『ポトスライムの舟』(講談社文庫)が一押しです。ただしもう少し待ちたいと思っています。津村記久子は、もっとずっしりとした作品が書けるはずです。山本藤光2019.10.30
2019年10月30日
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179:ジンギスカン恭二は留美を、「おあしす」に案内した。レストランは満席だった。バルコニーをのぞくと、一つだけ席が空いていた。二人はそこに座った。「恭二、さっきのたこが見える」 見上げるとたくさんのたこが、青空に浮いていた。肩を叩かれた。振り返ると猪熊勇太だった。「帰っていたのか、久しぶり」 勇太の隣りには、ほっそりとした女性が立っていた。「彼女はタイからの研修生。ミユちゃん」 女性はぺこりと頭を下げて、「こんにちは」といった。「席を探してるんなら、ここで一緒にやらないか」「サンキュウ。すごい賑わいだな」 勇太たちは、恭二たちのテーブルに腰を下ろした。「彼女は留美さん」 恭二の紹介を受けて、留美は笑顔で頭を下げた。「高校へ連れて行ったら、ミユちゃんは興奮してすごかった」 勇太はやさしい視線を、彼女に向けた。「びっくりした」 ミユは抑揚の違う言葉で、驚きを語った。「勇太、おれ軟式野球部に入った。肩はもう大丈夫みたいだ」「それはよかった。おまえが投げているところを、また見たいものだ」「勇太は中学時代、おれとバッテリーを組んでいたんだ」 恭二は、留美に説明をした。注文を取りにきたので、四人はビールとジンギスカンセットを注文した。「恭二はね、おれの親友。シンユウって、わかる?」「仲がいい、かな?」「ものすごく仲がいい、友だちのこと」 勇太はゆっくりと、発音して説明する。ジンギスカンが、運ばれてきた。四人は紙製のエプロンをつけ、ビールで乾杯した。鉄鍋が焼けてきた。恭二は立ち上がって、ラム肉を並べた。白煙が上がり、肉からジュッという音が出た。勇太は肉の上に、もやしやにんじんなどを乗せる。そして肉をつまんで、ミユの皿に入れた。「おいしい」 ミユは、うれしそうにいった。肉汁で唇が光っていた。二人は結婚するかもしれない。恭二はまぶしそうに、視線をミユから勇太に移した。勇太の目は線になって、ミユを見ていた。
2019年10月29日
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116:引継ぎ同行116:引継ぎ同行――第9章:その他の効果的な同行 担当交代にともなう引継ぎも、「同行」のひとつの形です。もちろん本書で解き明かしている「同行道」とは意味合いが違います。 引継ぎ同行は、前任者と後任者が一緒に行ってはいけません。「担当交代のごあいさつにうかがいました」 この一言で、顧客は前任者にフォーカスをあててしまいます。「どこへ行くの?」「きみにはお世話になった」などという展開になります。 引継ぎでは、後任者にフォーカスがあたらなければ意味はありません。ところが、一緒に引継ぎのあいさつに行くと、こうなってしまいます。 営業リーダーが、担当交代になるとしましょう。まず前任者が単独訪問して、顧客に担当交代になる旨を伝えます。次に新任リーダーがあいさつに出向きます。単独でもいいし、営業担当者との同行でも構いません。この方法なら、顧客のフォーカスは新任者にあてられるわけです。 あるいは前任の営業リーダーが、担当交代を事前に顧客に伝え、その後2人が同行します。この場合も、後任者に目線が向くことになります。つまり唐突に新旧の2人が、担当交代のあいさつに行かないこと。それが引継ぎの鉄則なのです。 営業担当者の引継ぎに備えて、詳細な顧客情報を書かせている企業があります。私の経験では、それはまったく役に立たない代物です。営業担当者は、自分の経験で顧客との距離を測ります。データベースに、頼ることは少ないのです。 本社がせっせと書かせているあの情報を、有効に活用している事例があれば聞かせてもらいたいと思います。残念ながら、「顧客管理リスト」が役に立ったという声は聞いたことがありません。後任者にフォーカスがあたる引継ぎ。ぜひ考えてもらいたいと思います。現状の引継ぎは、機能しているとはいえません。
2019年10月29日
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盛田隆二『蜜と唾』文庫購入■赤の他人。真っ赤な嘘。この「赤」って、どんな意味なのでしょうか。ネット検索してみました。なるほどという解説がありました。おそらく「語源由来辞典」の解説だと思います。出典が明記されていませんでした。――この語が「赤色」である理由は、「赤」は「明らか」と同源で「全く」「すっかり」などの意味があるためで、「赤の他人」などの「赤」も同様である。 ... 「大きい」「多い」といった意味を持ち、漢訳されて「摩訶不思議」の「摩訶」にもなっているサンスクリット語の「マハー(maha)」を語源とする説もある。■原田マハは、ここからの命名なのでしょうか。■盛田隆二は『夜の果てまで』(角川文庫)を推薦作にしています。書店で最新文庫『蜜と唾』(光文社文庫)を目にしたので買い求めました。以前はちょっとした交流のあった、著者の現在を知りたくなりました。盛田隆二については、「山本藤光の文庫で読む500+α」をご覧ください。山本藤光2019.10.29
2019年10月29日
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178:夏休み 夏休みに、恭二は帰省している。標茶町ウォーキング・ラリーに、留美を招待していた。恭二は駅で、留美を待っていた。標茶町ウォーキング・ラリーの受付では、十人ほどのセーラー服が待機している。 改札口へくる前から、留美は恭二に手を振ってみせた。「恭二、すごい人だね」 赤い小さなリュックを背負い、同色の帽子をかぶっていた。受付をすませ、願いごとの記念写真を撮った。出てきた写真を、留美は恭二に見せた。――小説が新人賞に入選しますように。 そう書かれたホワイトボードを持った留美は、照れくさそうな顔をしていた。駅を出ると、真夏の太陽が頭上にあった。二人は二番スタンプ所の、瀬口薬局に向かう。「二番は、おれの実家だ。親父がいるから、紹介するよ」 店内に入ると、すでに参加者で一杯だった。恭二は父のところへ留美を連れて行って、「友だちの浅川留美さん」と紹介した。父はあいさつもそこそこに、押し寄せてくる参加者の対応に追われていた。ここにも、セーラー服のボランティアがついていた。 二人は、はりまや橋へ行った。途中はパスをしていた。「これね。日本四大がっかり名所の第一号だね。笑っちゃうわ」 参加者の多くは、記念写真を撮っていた。恭二は留美をうながし、開運橋の欄干へと案内した。河川敷には、百人ほどの親子がいた。青空には無数のたこが、泳いでいる。大きな歓声が絶えることなく、響いていた。「いいわね、みんな楽しそう。こんなすごいイベントを、恭二たち高校生が議会に提案したんだよね。それもすごいことだわ」 その後恭二は、オランダ坂、守礼門、札幌時計台を案内した。そのたびに、スマホで留美の写真を撮った。「笑い過ぎて、お腹が痛い。恭二、これで日本一周したんだね」「留美、ここがおれの高校」 標茶高校の前で、二人は並んで自撮りをした。校舎の裏に回ると、おびただしい人がいた。「これが高校なの。まるで農場だね」 牛の乳絞りを見て、チーズ工場をのぞいた。二人で松の植樹をした。根元に「留美・恭二」と書いたプレートを埋めた。プレートには年号が印刷されていた。 植樹の奥では、昆虫採集をしている子どもたちの網が揺れていた。「広いね、全部高校の敷地なの?」「広さだけは、日本一だよ」「恭二、くたびれちゃった」 売店でソフトクリームを買い、なめながらどんそく号に乗った。「トラクターが引っ張っているんだ」 留美は、大はしゃぎだった。溶けたソフトクリームが、留美の胸元にこぼれた。恭二は首に巻いていたタオルで、それを拭いた。「エッチ」と留美は笑った。
2019年10月28日
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115:上司の関与が重要――第9章:その他の効果的な同行「プチ同行」には、もうひとつの大きな意味があります。チームの連携が強まり、知の交換が加速されます。営業担当者同士が相談し合い、活発な情報交換も生まれるようになるのです。チーム内で実施する「プチ同行」以外にも、全国規模で考えるのもひとつの方法です。チーム内という小さな枠を超えての体験は、営業担当者にとってとてつもなく大きな刺激になります。 ひんぱんに実施する必要はありませんが、新たな方法として理解しておいてもらいたいと思います。「プチ同行」は、営業担当者が希望していることなのですから。「プチ同行」はSSTプロジェクトが入らなかった支店で、実際に実施されていました。実際に「成果あり」の報告がたくさんあります。絶対にやってはならないのは、ボトム2割を「プチ同行」に組みこまないことです。したがって、部下全員に対して実施してはなりません。「プチ同行」で大切なのは、いかに上司が関与するかです。上司が無関心で実施されると、放り投げられたとの被害者意識が芽生えます。
2019年10月28日
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『「日本国紀」の天皇論』購入■百田尚樹・有本香『「日本国紀」の天皇論』(産経セレクト新書)を購入。まだ『日本国紀』を完読していませんが、とりあえず買っておきました。「虎ノ門ニュース」で百田が絶賛していた著作です。天皇について、深く静かに考える時間にしたいと思います。山本藤光2019.10.28
2019年10月28日
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177:「のほほんのほんのほん」本格稼働 穴吹健一は、自室の壁面に書架を作った。床から天井にまで達する十二段の書棚は、コの字型に三つ並んでいる。中学生の双子の妹に手伝わせて、一昨日小林博行から預かった本を並べるのである。書棚には通し番号が振ってある。姉の茜(あかね)は、本の状態を入念に確認し、ネット書店「のほほんのほんのほん」への出品を担当している。妹の萌(もえ)は、「在庫管理ファイル」に、本の出品価格と棚番号を入力している。健一は「のほほんのほんのほん」の運営を、二人に任せたのである。「お兄ちゃん、棚が足りなくなるかもしれない。それにしても、すごい量を預かってきたね」 書棚に本を収めながら、萌は作業をのぞきにきた健一にいう。「農具置き場を書庫に改装しようと考えている。だから心配しないで、せっせと出品してくれ」「売れるといいね」 茜はパソコンから顔を上げて、本に提供価格を書いた紙片を挟みこみながらいった。萌はそれをノートパソコンに打ちこみ、書棚に本を並べる。書店のように、出版社別やあいうえお順には並べていない。どこにどの本があるか、わかればいいのである。「萌、一日一冊売れたとして、平均の提供価格が五百円だから、一万五千円くらいになるわ」「でも半分は小林さんに返さなければならないんだから、売上はその半分ということよ」「萌、出品点数を増やさなければ、ならないね」「この段ボールを全部整理し終えたとして、出品点数はざっと千冊というところだよね」 二人は同時に天を仰ぐ。そして申し合わせたように、声をそろえて笑い出した。「のほほんのほんのほん」の運営を任されたことがうれしく、ちょっと誇らしかった。「お姉ちゃん、私たちの力で、本をもっと集めなければならないね」 萌の一言は、茜を経営者のような表情に変えた。
2019年10月27日
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114:プチ同行――第9章:その他の効果的な同行「育成同行」や「戦略同行」以外の、同行について触れておきます。そのなかで「プチ同行」は、営業担当者にとって刺激的なもので効果があります。 70%の営業担当者は、優秀な同僚の仕事ぶりを見たいと思っています。それを可能にする方法があります。 平均的な営業担当者を1日、優秀な営業担当者のもとに送りこみます。2日目は平均的な営業担当者の担当地区を、優秀者が同行します。私はこれを「プチ同行」と呼んでいます。これも効果的で方法です。 2日間の相互乗り入れが終わったら、2人で話し合ってもらい、「マネしたいこと」「改善すべきこと」を抽出します。営業リーダーはそれを受け取り、部下とじっくりと話しこみます。そして、それを指導の中心に据えるわけです。 本来は営業リーダーが「育成同行」を開始する以前に、実行しておきたいことです。自分の目で、優秀な仲間の活動を見てもらうことで、効果的な「育成同行」になりやすいからです。 プチ同行を体験した営業担当者からは、「刺激になりました」「勉強になりました」との感想が返ってきます。評価者である営業リーダーと同行するよりも、気楽に何でも相談できる点が好評のようです。 プチ同行により、受け入れる優秀な営業担当者のモチベーションが上がります。平均的な営業担当者には、大きな刺激となります。
2019年10月27日
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童門冬二『渋沢栄一』を読むぞ■以前に、童門冬二『小説・吉田松陰・全1冊』(集英社文庫)を読んでいます。昨日著者の『渋沢栄一』(集英社文庫)を発見しました。新一万円札の肖像として、にわかに注目を集めている渋沢栄一。前著に感銘していたので、今回にも大いに期待しています。■渋沢栄一については、『論語と算盤』(角川ソフィア文庫)を「山本藤光の文庫で読む500+α」に掲載しています。先日、吉川利一『津田梅子』(中公文庫)を読んでいます。これで五千円と一万円の新肖像について、まとめることができそうです。津田梅子に関しては、大庭みな子『津田梅子』(朝日文庫)という著作もあります。山本藤光2019.10.27
2019年10月27日
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176:ベコのヨダレ 猪熊勇太と穴吹健一が中心となって、酪農学勉強会が誕生した。第三土曜日の六時が開催日と決まり、最初の集いに八名が参画した。 参加者の自己紹介と現状報告がすんだとき、磯分内の小林博行はユニークな話を披露した。小林は六十歳で、メンバーのなかでは最年長である。「ねじめ正一という作家がいる。彼の書いた『ヨダレ』(『ニヒャクロクが上がらない』思潮社所収)という詩は、牛のヨダレは少しくらいの風が吹いても切れない。辛抱の象徴として表現されているんだ」「それいいですね。この勉強会の名前にしましょう」 穴吹健一がすぐに反応した。勇太が続けた。「ベコのヨダレ。いいね。それにしても、小林さんは博学ですね」 小林は、エッセイストとしても活躍している。ときどき北海道新聞に名前が載っている。「ベコのヨダレ」の立上げを決めて、八人は居酒屋むらさきへと席を変えた。穴吹健一と小林博行は、本の話で盛り上がっている。「ネット古書店を開設しているんですが、本が集められなくて困っています」 穴吹の嘆きに、小林は熱燗を口に運んでからいった。「おれの本をネットでさばいてくれてもいいよ。本の繁殖で、置き場がなくて困っているんだ」「小林さんの本を売らせてください。売上は折半という条件でいいなら、ぜひやらせてください」「いつも捨てているんだから、売ってもらえるならありがたい」 猪熊勇太は、塘路で酪農をしている寺田徹と、にぎやかに話をしている。寺田は勇太と同学年である。第1部では中学時代に、藤野詩織にラブレターを渡したと紹介されている。「たとえばだな、おれのところと猪熊のところが隣接していたら、二つを合体させて株式会社にした方が効率的だ。いくら愛情をこめて牛の世話をしたところで、零細ではたかがしれている」「おれは廃業する近所の同業者から譲渡されて、規模を拡大したが、人手不足で体(てい)をなしていない。おまえが塘路を手放して、こっちで酪農をやってくれれば、鬼に金棒なんだけど」「うーん、検討の価値あり、だな。株式会社か、いい発想だよ」
2019年10月26日
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113:日常磨きの支援――第8章:同行への心構え 営業担当者に語りかけていただきたい。そのための質問を紹介しましょう。こんな問いかけが、場をなごませてくれます。・どうだい、仕事は順調かい?・最近、どんな本を読んだ?・お子さんは、何年生になったの?・この前の休日は、どう過ごした?・将来は何をやってみたい?・ご両親は元気なの?・いま話題になっている、あの社会現象をどう思う? 私は読み終えた文庫本を持参し、同行時に部下にプレゼントしていました。次回の同行時の話題にできるからであり、少しは日常を磨いてもらいたいからでした。仕事を教える以前に営業リーダーは、部下の「人間力」を磨いてあげなければならなりません。よいことは、心からほめてあげます。改めてもらいたいことはしっかりと説明し、納得してもらわなければなりません。営業リーダー自身が、日常を磨かなければなりません。そのうえで、部下の日常も磨いてあげる必要があります。優秀な営業担当者であるとともに、優れた人間になるよう支援してあげなければならないのです。「CP」受講者は一様に、最低でも月1冊の新書を読むようになりました。そして部下たちにも、読書の輪は広がっているとのことです。
2019年10月26日
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船井幸雄『13歳からのシンプルな生き方哲学』孫に■またしても千葉に、記録的な大雨が降りました。昨日はタイに帰国するために成田に向かった娘家族は、電車の運休を心配して早めに家を出ました。通常1時間で住むところを、3時間かかったようです。ニュースによると、千葉駅前は冠水。私の利用する駅も、天井から水がしたたり落ちていました。■船井幸雄『13歳からのシンプルな生き方哲学』(マガジンハウス文庫)は、中学生になる孫へのプレゼントにします。少し難しいかもしれませんが、薄い本なので強制的に読ませます。山本藤光2019.10.26
2019年10月26日
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175:酪農家のセミナー 標茶町役場主催の「酪農学セミナー」が開催された。五十人ほどの酪農家が集っていた。そのなかには、猪熊勇太や穴吹健一の姿もあった。講師は帯広畜産大学の門脇准教授だった。 門脇は世界一の酪農家といわれるフィル・ヘルフターの話から始めた。――酪農経営は姿勢が第一。投入する資材が同じでも、最終的な平均乳量が違うのはなぜでしょうか。それは姿勢の違いです。姿勢は牛にも伝染し、牛は皆さんの姿勢を受け継ぎます。皆さんが積極的な管理をすれば、牛も積極的な態度をとるようになる。積極的な管理をすれば餌の摂取量を上げることができ、搾乳量をあげることができる。(『世界一の乳量フィル ヘルフターの酪農経営』より) 勇太は最初のスライドから、いきなり衝撃を受けた。門脇は、酪農家の基本姿勢は、アティチュードにあると語った。アティチュードとは、精神的な姿勢や態度だと説明が加えられた。父の仕事を見様見まねで継承してきた勇太にとって、門脇の講義は新鮮だった、 講義が終わって、勇太は隣席の男から声をかけられた。「ただ牛を飼って、乳を絞っていればいいという世界じゃないんだね。おれ、虹別の穴吹健一」 健一は感激で上気した目で、話しかけてきた。「おれ、茅沼の猪熊勇太です。穴吹さんはおれの一年上ですね」「遺伝学、繁殖、生理、分娩、栄養、飼料学、牧草、経営学など、あんなに足早にしゃべられたら、まったく頭に入らない」「うん、きちんと学んでみたいですね」 勇太はそう答えて、酪農学の勉強会を立ち上げようかと考えた「穴吹さん、一緒に勉強会をやりませんか? 月に一回くらいのペースで、教本の勉強をしたくなってきました」「それ、いいね」 二人は一年違いで、標茶高校定時制を卒業している。
2019年10月25日
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112:場をなごませる――第8章:同行への心構え 部下の仕事ぶりのチェックが、同行の目的ではありません。仕事のレベルを上げ、楽しく仕事をしてもらうために同行を実施するのです。それゆえ、小言や叱責は慎みたいものです。小言や叱責で、部下は変わるはずがありません。「何をやっているのだ、おまえは」といわれて、営業担当者は目覚めるでしょうか。 仕事が嫌いだ、という営業担当者はあまりいません。しかし、やり方がわからずに、悩んでいる人は多いものです。私の会社の調査では、70%の営業担当者が悩んでいました。そんな部下のために、上司の同行は存在するのです。 また、さりげなく家庭や家族についても、質問することが大切です。日常が充実していると、仕事の方にも元気が伝播してきます。家庭に不安があると、仕事にも影響があらわれるものです。 私はこれを「対(つい)をつなぐ」と呼んでいます。最悪なのは、仕事バリバリ家でゴロゴロの人。この人は仕事と家庭がつながっていません。だからやがて、どちらかが破綻することになります。
2019年10月25日
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斎藤茂吉『赤光』でため息■タイから遊びに来ていた孫たち家族は、本日帰国します。今年は4月に一度来ているので、大量の荷物にはなりませんでした。妻のつくった梅干しなど、ほとんどが日持ちする日本産の食材です。賑やかだった一ヶ月は、あっという間に消えてしまいました。■必要があって斎藤茂吉『赤光』(岩波文庫)を開きました。膨大な歌のなかをさまよいながら、俳句や短歌の理解力の乏しさを今更ながら認識しました。読んでいても、すぐに情景が浮かばないのです。11月と12月は、俳句と短歌の入門書に挑戦したいと思っています。山本藤光2019.10.25
2019年10月25日
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174:クレオパトラの鼻 北大リーグが、開幕した。恭二たちのクレオパトラは、初戦でシーラカンスと対戦した。前期準優勝の、強豪である。恭二は、九番投手で出場した。クレオパトラは、後攻めだった。マウンドには恭二が立ち、捕手には柴田が抜擢された。主将の大迫は、四番で一塁手だった。スタンドはまばらだったが、そのなかには留美の姿があった。抜けるような青い空には、小さな雲が水玉模様に浮かんでいた。かすかに吹く風には、甘さが混ざっている。 恭二は、第一球を投じた。どよめきが起こった。ど真ん中の、ストライクだった。二球目は柴田のミットが、内角を要求した。直球を投じた。バッターは、もんどり打って倒れた。「ストライク」がコールされた。三球目は、外角へのカーブのサインだった。恭二は、そのとおりに投げた。空振り三振。クレオパトラは柴田のポテンヒットで、七回に一点を入れた。恭二の投球は、完璧だった。八回までヒットを、一本しか打たれていない。外野へは一度もボールが飛んでいない。 最終九回のマウンドは、これまでエースだった坂井に譲った。坂井は四球でランナーを出したが、ゼロ点で締めくくった。整列してあいさつを終え、メンバーはベンチに戻った。「歴史的な快挙だ」 大迫は恭二の肩を叩いて、叫んだ。「瀬口、完璧なピッチングだった」柴田はそう伝えて、クールダウンのためにミットを構えた。恭二はゆるいボールを返し、探しものが見つかったかもしれないと思った。祝勝会には、留美も同伴した。ほとんどのメンバーは、彼女を連れてきた。ビールジョッキが、運ばれてきた。大迫が立ち上がり、あいさつをした。「昨年は一勝しかできなかった弱小チームが、みごとに初戦を完封勝利しました。これは今期から加入した、瀬口くんの力投のお陰です。今日でクレオパトラの鼻は、少し高くなりました。それと万年ベンチウォーマーだった柴田が、みごとなポテンヒットを打ってくれました。それでは初勝利を祝って、乾杯したいと思います。カンパイ!」 豪快にジョッキが、打ち鳴らされた。どの顔も、喜びに満ちていた。「恭二、すごかったね。ほれ直しちゃった」 留美はジョッキを口に運び、泡のついた口を恭二に向けた。「楽しかった。おれがやりたかったのは、野球だったと実感したよ」「私ね、恭二のユニフォーム姿、好き。似合っているよ」「あのさ、今晩背中、流してくれる?」「うん」 留美は、少し照れながら答えた。
2019年10月24日
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111:相手に共感――第8章:同行への心構え◎ショートストーリー 営業担当者のステップアップの模様を、ほめ言葉で紹介してみたいと思います。「いいじゃないか、自信に満ちあふれた話し方になったよ」「がんばったかいがあったな。あそこを落としたのは、すごいよ」「成長したな、あれでいい」「さっきの話法、チームメンバーに紹介してくれないか」「ずいぶん工夫しているね。Aさん(顧客)も喜んでいたな」「きみがチームを引っ張ってくれているから……感謝しているよ」「結婚するのか、おめでとう。きみなら、いい家庭を作ることができる。おれが保証するよ」「そろそろマネジャーの勉強をしておけよ。この本はきみの未来へのプレゼントだよ」◎考えてみましょう ほめ言葉とは、相手を気持ちよくさせることです。「すごい」「がんばっている」「よくやった」など以外にも、ほめ言葉があることをショートストーリーから学んでほしいと思います。「育成同行が10回を超えると、完璧な手応えを感じます」多くの受講者がそう言います。 ほめるとは、相手に「共感」することです。観察力や傾聴力を磨かなければ、「それ、いいね」を発することはできません。■112:場をなごませる――第8章:同行への心構え 部下の仕事ぶりのチェックが、同行の目的ではありません。仕事のレベルを上げ、楽しく仕事をしてもらうために同行を実施するのです。それゆえ、小言や叱責は慎みたいものです。小言や叱責で、部下は変わるはずがありません。「何をやっているのだ、おまえは」といわれて、営業担当者は目覚めるでしょうか。 仕事が嫌いだ、という営業担当者はあまりいません。しかし、やり方がわからずに、悩んでいる人は多いものです。私の会社の調査では、70%の営業担当者が悩んでいました。そんな部下のために、上司の同行は存在するのです。 また、さりげなく家庭や家族についても、質問することが大切です。日常が充実していると、仕事の方にも元気が伝播してきます。家庭に不安があると、仕事にも影響があらわれるものです。 私はこれを「対(つい)をつなぐ」と呼んでいます。最悪なのは、仕事バリバリ家でゴロゴロの人。この人は仕事と家庭がつながっていません。だからやがて、どちらかが破綻することになります。
2019年10月24日
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『田辺聖子コレクション』(全8巻、ポプラ文庫)読書中■韓国の副首相が大統領の親書を持参して、本日安部総理と面談のようです。泥沼化している日韓関係に、どんな変化が起きるのでしょうか。謝らない韓国が、いかなる妥協をするのか、注目されます。約束ごとを日本人は保護します。韓国人は反故に(ほご)にします。ひよっとして、反故が保護に変わるのでしょうか。■田辺聖子『上機嫌な言葉366日』(文春文庫)を購入。以前に『苦味を少々・399のアフォリズム』(集英社文庫)を読んでいますので、同じものかと思いました。店頭で確認したところ、文庫初出だったので買い求めた次第です。田辺聖子は現在、『田辺聖子コレクション』(全8巻、ポプラ文庫)に挑戦中です。まだ第1巻の『百合と腹巻』を読んでいる最中です。本書には表題作以外に、「四人め」「母と恋人」「大阪無宿」「薔薇の雨」が収載されています。山本藤光2019.10.24
2019年10月24日
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173:天狗になってはいけない 恭二は、背番号21をもらった。スパイクは自前で調達した。朝練に参加するたびに、恭二の球速は上がった。肩は快調だった。そして、シート打撃練習のときがきた。守備位置に控え選手がつき、恭二はマウンドに立った。柴田が、マスクをかぶっている。レギュラー選手は、一番から打撃ボックスに立った。主将の大迫は、アンパイアーを務めている。 一番、城戸、右打ち。恭二は、第一球を投げた。「ストライク」 大迫の右手が、上がった。第二球は、スライダーのサインだった。恭二は放った。バットは空を切った。そして第三球は、内角への直球のサインである。恭二はミットを目がけて、内角へボールを投げこんだ。打者の腰が引けた。「ストライク」 大迫の右手が上がった。「瀬口、すごいボールだ。これでは、誰も打てない」 大迫は笑いながら、マスクを外していった。展開は、そのとおりになった。九人のバッターで、内野ゴロが二つだけ。あとは全員三振だった。 練習後、恭二は大迫に誘われて、喫茶店に行った。柴田も一緒だった。全員が、モーニングセットを注文した。「瀬口、今日は圧巻だった。肩の具合は、どうだ?」 大迫が聞いた。「大丈夫です。怖いのでまだ八割ほどの力しか入れていませんが、もう少したったら、本格的に投げてみます」「あれで八割か? 十分だよ」 柴田は水のおかわりを頼んでから、驚いた視線を恭二に向けた。「大エース誕生だな。来月は、シーラカンスとの試合がある。これまで、一回も勝ったことがない相手だ。瀬口、きみが先発だ」「ありがとうございます。ところで、クレオパトラというチーム名の由来は、何ですか?」 宮瀬彩乃の顔が、浮かんだ。彫りの深いエキゾチックな容貌から、中学時代の彼女はクレオパトラというあだ名だった。「クレオパトラは、もう少し鼻が高かったら、っていわれているだろう。つまり鼻が低い。俺たちのチームは、めちゃ弱い。だから鼻が高くはない。そんなところからの命名だよ」 柴田の説明に、大迫が続けた。「今期は来月開幕だけど、前期は七チームで最下位だった。一年間で十二試合やるんだけど、前期は一勝十一敗。でも瀬口が入ってくれたので、夢が膨らんできた」 頼りにされていることを実感した。久しぶりに味わう感触だった。同じことに夢中になれる仲間。そして大切なことは、そのなかで抜きんでることなんだ。恭二はぬるくなった水を飲み、熱くこみ上げてきた思いに水を差した。天狗になってはいけない。これは詩織から受け取った戒めである。
2019年10月23日
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110:レベルアップするとき――第8章:同行への心構え 1人の営業担当者がレベルアップするには、最低でも20回の「育成同行」が必要です。これは私が事務局長を務めた「SSTプロジェクト」の経験から、明らかになった数字です。240人との育成同行から割り出した数字なので、信憑性は高いと自負しています。 20回というのは、1人の営業担当者と月に2回「育成同行」をしたとして、10ヶ月かかる計算になります。できることなら、毎週1回などと、集中同行してもらいたいと思います。 その方が、営業担当者の力量の変化はよくわかります。だから、指導も的確になります。的確な指導を継続すると、必ず部下は成長します。 1人の営業担当者のレベルを上げるには、それなりの覚悟が必要です。彼らが1度身につけた「経験知」は、絶対に色あせることはありません。集合研修や外部セミナーと違い、計画的な育成同行は必ず営業担当者の身につくものです。 SSTプロジェクトで育成同行を受けた240名の営業担当者は、受けていない営業担当者よりも大幅に業績を伸ばしました。同行開始から1年後の業績は、23%も違ったのです。その後も格差は広がりました。 手塩にかけて育てる。営業リーダーには、そんな気持ちになってもらいたいと思います。わが子のように、部下の成長を楽しんでほしいものです。ハイハイから、伝い歩き。その後、ヨチヨチ歩き。赤ちゃんは、1年以上かけてここまで成長します。若い営業担当者も同じことです。1回や2回の同行で、ハイハイがヨチヨチになることはあり得ません。
2019年10月23日
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連城三紀彦『小さな異邦人』再読■「即位礼正殿の儀」は、古い絵巻物を観ているような気持ちになりました。厳粛な気持ちになり感動しました。夜に開かれた天皇陛下の即位を祝う「饗宴の儀」には、英国のチャールズ皇太子をはじめ外国賓客ら約250人が出席しました。世界平和の担い手が集結している様は、圧巻でした。参列者たちには、天皇陛下が触れた「世界の平和」を牽引してもらいたいと思いました。■連城三紀彦を紹介したいと、『小さな異邦人』(文春文庫)を再読しています。私の再読は関連資料を積み上げ、メモを取りながらですので、1ヶ月ほどかかります。しかも10冊ほどを併読しています。■参考資料音は、次の著作です。――2015本格ミステリ・ベスト10国内第31位(原書房)――2015年版このミステリーがすごい!国内編4位(宝島社)――佐々木敦:ニッポンの文学(講談社現代新書)――鳩よ:小説家への道・作家自身が語る方法(マガジンハウス)――本の雑誌編集部・編:この作家この10冊(本の雑誌)山本藤光2019.10.23
2019年10月23日
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172:軟式野球部の朝練 本格的な授業がはじまってからは、留美との接点はたちまち希薄になった。顔を合わせるのは、平日の朝と休日くらいだった。朝食は一緒だったが、平日の夕食は別々に外食をしていた。 土曜日の朝、恭二は軟式野球部クレオパトラの、朝練に行ってみた。留美は、まだ起きてこなかったので、食卓にメモを残してきた。 グラウンドでは二十人ほどが、キャッチボールをしていた。恭二が近づくと、立て看板の男が手を上げて迎えた。「きてくれて、ありがとう。私は柴田竜輔といいます。マネージャ兼ブルペンキャッチャーです」 そうあいさつしてから、男はキャプテンを呼んだ。「主将の大迫薫です」 日焼けした、がっちりとした男だった。「瀬口恭二です。中学までは、ピッチャーをやっていました。肩を壊して、それ以降は投げたことありません」「ちょっと、やってみようか?」 白いボールと、自分のグラブを差し出した。渡されたボールは、とても軽く感じた。恭二はコートを脱ぎ、右利のグラブを右手にはめた。「悪い悪い。サウスポーだったのか。近藤、ちょっとおまえのグラブを、貸してくれないか」 左利のグラブが届いた。恭二はそれをはめて、待っている柴田竜輔のグラブに投げこんだ。肩に違和感はなかった。少しずつ、相手との間隔を伸ばしてゆく。まだ大丈夫だ。恭二は慎重に、ボールのスピードを上げる。異常なし。主将の大迫薫が寄ってきた。「ピッチングしてみるか?」「はい」と、恭二はいった。柴田がしゃがんだので、恭二は大きく振りかぶって、ミットを目がけて白球を投げこんだ。球は大きく外れたが、みごとにミットに収まった。久しぶりの感覚だった。続けて、何球かを投げた。「いいね。フォームがきれいだ」 額から、汗が噴き出す。恭二は本格的に、投げてみたくなった。大きく振りがぶって、渾身の直球を投げこんだ。ミットから、乾いた音が響いた。「ストライク」捕手の後ろから見ていた、大迫が大きな声を上げた。恭二は、カーブを投げる合図をする。柴田は、ミットを叩いた。ひねった球を送り出す。ボールは鋭く曲がって、ミットに収まった。「ストライク。すごいカーブだ」 大迫は、驚いたようにいった。恭二の方も、驚いていた。投げられた。昔のように投げられた。そのことが、うれしかった。柴田が近寄ってきて、恭二の肩を叩いた。「すごいカーブだった。少し練習すれば、間違いなく立派な戦力になる。合格だよ、瀬口くん」 「戦力どころか、うちのエースになれる」 主将の大迫は何度もうなずいて、断言してみせた。休憩時間に大迫は、恭二をメンバーに紹介した。すると輪のなかの、一人がいった。「瀬口って、標茶中学のエースだった、瀬口か?」「はい」「おれ、白樺中学のときに、きみと戦った。うちは、完封負けをした。あのときの瀬口なんだ」 メンバーから、どよめきが起こった。男は法学部二年の、平村智己だと自己紹介した。「瀬口くんはね、北海道中学校野球大会のベストエイトのピッチャーだったんだ」 平村はうれしそうに、言葉をついだ。空は青かった。雲間から太陽が顔をのぞかせた。恭二の額に貼りついた汗が、虹色に光った。
2019年10月22日
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109:コロンボ作戦――第8章:同行への心構え 大きなイベントのお願いは、同行時に営業リーダーが主体となって行います。このことが習慣化されれば、現状よりも顧客向けの企画が動き出します。◎ショートストーリー 製薬会社の上司同行で、ひんぱんに見かける光景です。MR(医薬情報担当者)と営業リーダーが、開業医の診療室に入ります。椅子は1つしかありません。医師「(上司に向かって)どうぞお座りください」営業リーダー「(椅子に腰かける。MRは後ろに立つ)先生、いつもA(製品名)をお使いいただきありがとうございます」◎考えてみましょう ショートストーリーには、非常識な場面が2箇所あります。この設問には、多くの受講者が首を傾げます。「いつもやっていることと同じじゃないか」との声すら飛び交います。 主役は営業担当者です。椅子が1つしかないときは、部下に譲るべきです。上司はさりげなく、斜め後方に立っているのが理想的な姿です。 上司が製品名をあげて、顧客にお礼を述べるのも考えものです。「いつもB(営業担当者)がお世話になっております」と、頭を下げなければなりません。本稿で紹介している通りイベントの依頼については、「うまくいった」との報告はたくさんあります。「信じられないくらい、簡単に説明会が取れました」との声が代表しています。ぜひ実行してもらいたいと思います。部下が顧客に宣伝しています。上司はただ黙って立っているのは、不自然ではないか。そんな疑問もあるようです。そんなときは最後に、「ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」などと語りかけるのです。受講者の1人がこれを「コロンボ作戦」と名づけて、楽しんでいました。
2019年10月22日
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加藤周一の小説『ある晴れた日に』を読み始める■本日は、天皇陛下の「即位礼正殿の儀」があります。各国から続々と要人が来日しています。ラグビーのワールドカップ以来、外国からのお客さまで日本中が賑わいをみせています。日本人にとって、誇らしい一日になりそうです。■加藤周一の著作に小説があることは知りませんでした。難解な著作のどれかを熟読して紹介したいと、書棚を探していて見つけました。存在すら忘れていました。『ある晴れた日に』(岩波現代文庫)は、冒頭を読んだだけで引き込まれました。『羊の歌・わが回想』(岩波新書)は少し難解なので、本書を熟読してみます。山本藤光2019.10.22
2019年10月22日
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171:北大の入学式 四月一日。二人はそろって、北大入学式に参加した。留美は入学式の後、北大文芸部というサークルに加入を決めた。中庭には、部員募集の立て看板が林立していた。恭二はそれれを横目に見ながら、決めかねていた。「恭二、サークル活動はするべきよ。勉強だけでは、片輪になってしまう」「うん、おれもそう思う。でも留美みたいに、やりたいことが見つかっていない」「私はこれから、文芸部の部室に行ってくる。さっき地図をもらったから、大丈夫だと思う」 恭二は留美と別れ、立て看板を見ながら家路を急いだ。そのとき「軟式野球部クレオパトラ」という文字が、目に飛びこんできた。足を止めて看板を見ていると、ユニフォーム姿の男が近寄ってきた。「軟式野球に、関心がありますか?」「中学まで硬式やっていたんですが、肩を壊してそれ以来ボールは握っていないんです」「一度遊びにきてみてください。北大には、六つの軟式野球サークルがあります。それに小樽商科大の一チームを加えて、北大リーグというのをやっています。うちは週二回の、朝練だけです。夕方はすべて自由ですから、あまり負担はないと思います」 男は恭二の手に、紙片を押しつけてきた。見ると練習の日時や試合予定が書かれていた。「どの日でも、構いません。今度の土曜日あたりは、いかがですか? ちょこっと顔を出してくれるだけで、いいですよ」 恭二は求められるまま、カードに名前と学部と連絡先を記入した。 翌日の朝、恭二は留美に「軟式野球部に入るかもしれない」と伝えた。留美は驚いたような顔になり、「恭二、野球ができるの?」と質問した。恭二は中学時代の、硬式野球の話をした。そしていった。「昔みたいに、投げられるかどうかわからない。でも今度の土曜日に、顔を出してみようと思っている」「投げられればいいね。恭二が試合に出られるようになったら、私、応援に行く」 恭二は探しものが、見つかったような心境になっている。しかし見つけたものの、それが本当に探していたものかどうかは、あやふやな状態だった。
2019年10月21日
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108:イベントのお願い――第8章:同行への心構え キャンペーンや説明会開催などは、同行時に営業リーダーが申し入れます。営業担当者がお願いするよりも、はるかに承諾してもらえる確率が高いのです。上司がきて頭を下げたのだから、熱心な営業担当者の顔を立てて、快諾してあげよう。顧客はそういった心境になります。 実際に私の話を聞いた営業リーダーたちは、それを実行してみました。驚くような確率で、説明会開催などが承諾されています。営業リーダーの声を紹介します。「医局説明会が、ばんばん取れました。営業担当者はいつも断られていたようですが、上司が依頼すると効果はてきめんですね」(製薬会社)「営業担当者は製品を売る人。イベントは会社が主催するものなので、上司が話しに行くべきだと痛感しました」(食品会社) クロージングが苦手な、営業担当者がいたとしましょう。同行時にじれったくなった上司が、横から口をはさみます。この場面を、顧客はどう見るでしょうか。――上司が盛んに、宣伝をはじめた。この会社は未熟な営業担当者を、当方の担当者にしているようだ。 つまり、1人前ではない担当者であることを、上司が自ら証明している結果になっています。原則的に、営業リーダーが顧客に向かってお願いするのは、製品以外と心得てもらいたいと思います。 営業リーダーの基本は、クロージングがきちんとできる営業担当者を育てることです。見るに見かねて、営業担当者を差し置いてはいけません。
2019年10月21日
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瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』を読む前に■昨夜はラグビー日本の試合を観ていたので、起床は午前5時半なりました。そんな関係で「妙に知の日記」の発信が大幅に遅れてしまいました。日本は南アフリカに破れて、惜しくもベスト8どまりとなりました。日本ではメジャーではなかった競技に、国民が釘づけになりました。ラガーマンの勇気ある活躍と紳士的な所作に、心を奪われた人がたくさんいました。お疲れさまと選手をたたえたいと思います。■瀬尾まいこは、ぜひ取り上げたい作家です。先月から代表作を読み始めています。『あと少し、もう少し』(新潮文庫)は、スポーツ小説というジャンルか、青春小説ジャンルの境界線上にある作品でした。ありがちな展開でしたが、すごく面白く読むことができました。『そして、バトンは渡された』を読む前に、同根の作品をと読んだ次第です。山本藤光2019.10.21
2019年10月21日
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170:お互いのルール 翌日、二人は桑園駅付近の、中古品販売店を見て回った。恭二はここに住んでいたので、土地勘はあった。予備校生相手の店が多かった。机や椅子の品ぞろえは、豊富だった。恭二と留美はそれぞれ、机、椅子、電気スタンドを買った。留美はスチール製の六段の書棚とノートパソコンも、買い加えた。配達は明後日だといわれた。 続いて二人は布団屋へ行って、留美用の布団一式を買い求めた。「これでよし。恭二、私のお部屋には、絶対に入ってきちゃダメだからね。ルールはお互いに尊重すること」 歩きながら、留美は愉快そうに念押しした。 注文してあった荷物が、運びこまれてきた。留美は不在だったので、恭二が業者に采配した。二つの机は、窓辺においてもらった。留美の布団は、押し入れに入れた。何もなかった二つの部屋は、やっと呼吸を開始したかのようだった。 自分の机に座り、電気スタンドをつけてみる。カバンから「知だらけの学習塾」ノートを取り出し、開いてみる。食卓のテーブルのときよりも、すらすらペンが運びそうな気になる。昨日のページを読む。――三月二十九日。もうすぐ北大の入学式である。この日のために、一年間を全力で過ごした。一年間持続できる集中力があったことに、自分自身が一番驚いている。昨日公園でキャッチボールをしていた子どもの、ボールが転がってきた。「投げて」といわれたので、投げ返してあげた。そして驚いた。左肩の違和感は、なくなっていたのである。ノートを閉じて恭二は、人間の運命はわからないものだと思う。中学時代に肩を壊さなかったら? 高校時代に新聞部に入らなかったら?詩織との仲が終わっていなかったら? おれは今とは別の道を歩いていたことになる。そして、流されるままの人生は、つまらないと考える。目の前の時間を、自らの意思で切り開く。体内から熱い血潮がわきだしてきた。恭二は唇をかみ、大きな伸びをした。
2019年10月20日
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107:部下に響く3つのこと――第8章:同行への心構え◎ショートストーリー このやりとりは、営業担当者が望む3つの要素を、盛り込んだものです。あなたは、この会話から何を感じ取るでしょうか。部下「これから行くところは、ちょっと苦手です」上司「どんなところがイヤなの?」(質問しています)部下「いつも忙しいといって、話をよく聞いてくれないのです」上司「でもきみは、歯を食いしばって訪問を続けている。なかなかやるじゃないか」(ほめている)部下「ありがとうございます。何としてでも攻略してみせる。気合だけは健在です」上司「そうか、苦労しているね。訪問時間を少し変えてみないか」(方向性を示している)部下「訪問時間は、何度も変えています。でも状況は変わりません」上司「昼休みにデザートを持ってゆくとか、何か工夫が必要だね」(アイデアを提供している)部下「それいいですね。昼休みならリラックスしていますし、効果的かもしれません」 「この会話を手帳に張って、同行時にはいつも眺めています」と、語ってくれた受講者がいました。「簡単なことのようですが、これがなかなかできません」と、笑って結びました。ほめるって難しいものです。よく話を聞くのは、簡単なことではありません。「CP」では、こうした展開のロールプレイをひんぱんに実施します。さりげない言葉が口をついて出るようになるまで、繰り返し練習しなければなりません。
2019年10月20日
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小川洋子『みんなの図書室』お勧め■完全に秋の装いになってきました。半袖を長袖にかえ、夏物パジャマを冬物にしました。北海道では早くも紅葉がみられるようです。昨日は鍋料理となりました。まだカキの流通がなく、少し寂しい食卓でした。■小川洋子『みんなの図書室』(全二巻、PHP文芸文庫)は、ときどき取り出して読む本です。取り上げている作品が、私の好みに合致しています。読書のナビとして、最高の評価をしています。新刊書店にはないので、古書店で探してください。山本藤光2019.10.20
2019年10月20日
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169:買い物ゲーム 翌日二人は、北大の周辺マンションを見て回った。三件目に、手ごろな物件が見つかった。風呂とトイレが別になっており、二つの部屋はともに北に面していた。しかしリビングは南向きで、日当たりがよかった。「部屋は寝るだけだから、暗くても構わない。恭二、リビングが明るくて、気持ちがいいよ」 マンションは、恭二の名義で賃貸契約をした。本日から入居しても、構わないといわれた。二人は恭二のアパートに戻り、荷物の整理をした。明朝、引っ越すことに決めた。 大型のタクシーは、定刻に恭二のアパート前に停まった。二人は四つの段ボールを運びこんだ。冬だというのに、額から汗が噴き出した。部屋の鍵を開け段ボールを運び入れて、二人は床に座りこんでしまった。「留美の段ボール重過ぎる。腕が抜けるかと思ったよ。何が入っているの?」「全部、本。予備校の教材は捨てたので、小説ばっかり」「ここがおれたちの、新しいお城か」 恭二はがらんとした部屋を見回し、感慨深げにいった。「では恭二、買い物リストを作成するよ。扉を開ける場面から、実演してみよう」 二人はいったん外に出る。「下の郵便ボックスとここに、名前を入れなければならない。二人の名字だけを並べよう」 扉の上のカードケースを指差して、恭二は最初の備品を確認する。留美は、すかさずメモを取る。ドアを開けて、中へと入る。「玄関マット、スリッパ二つ」「お客さん用がいるよ」「じゃあ四つ」「食卓、椅子四個つき、電気、エアコン、テレビ、掃除機、ゴミ箱」 恭二は窓へと目を転じる。「カーテン」キッチンへと回る。「冷蔵庫、鍋、フライパン、炊飯器、トースター、電子レンジ、コーヒーメーカー、コーヒーカップ、包丁、茶碗、箸、まな板、コップ、スプーン」 今度は奥の部屋へと移動する。「ベッドに布団と枕。それにシーツと毛布。お客さん用もいる?」「恭二、そんなに買う予算がない」「でも夢だから、続けよう」今度は洗面所をのぞく。「タオル、バスタオル、足ふきマット、洗面器、石けん、シャンプー、ヘアドライヤー、櫛、ヘアリキッド、歯ブラシと歯磨き粉、それにトイレットペーパー」「恭二、洗濯機、忘れてる」 楽しい買い物ゲームだった。恭二はふっと息を吐き出し、「優先順位をつけるべきだね」といった。留美も手元のメモをのぞきこんで、大きなため息をついている。リビングの外は、小さなベランダになっている。恭二は素足で出て、「ものほしざお」と告げる。「ハンガーもいるわね」と留美はメモを取りながらいう。食卓テーブルとイス四脚、布団一組、枕二個。カーテン、リビングの電気、鍋とフライパン、トースター、炊飯器、食器と箸とコップ。最初に搬入したのは、それだけだった。二人の仕送りから家賃を払い、食事をして、学費を払うと、我慢せざるをえなかった。調度品にあふれた生活は、夢物語に終わった。「アルバイトをしなければ、やってゆけないね」 留美は食卓の椅子に腰かけて、宙を見上げる。「私、机と椅子とスタンドと本棚は必要だな」「留美の方が仕送りは多いんだから、買いなよ。おれはここで勉強する」 食卓のテーブルを叩いて、恭二はいった。「二人の共有財産は、この箱に入れることにしよう。そして欲しいものメモも、入れておくの」「明日、中古品を売っている店へ行ってみない? 机や椅子、電気やスタンドなら、格安で買えると思う」 二人は一緒に風呂に入り、真新しい布団に潜りこんだ。ふわふわの布団は、二人を温かく迎えてくれた。いよいよ新しい生活がはじまる。恭二はしっかりと、留美を引き寄せた。「恭二、やっぱり布団はもう一組必要だね。このままじゃあ、同棲と同じになっちゃう」
2019年10月19日
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106:営業担当者の希望――第8章:同行への心構え 先に「元気の出る同行」について、3項目を紹介しています。新任営業リーダー研修で現役バリバリだった12人に、詳細について聞いてみました。◎よく話を聞いてくれる「自分だけ、一方的に喋りまくるのは最悪ですね。私たちには、聞いてもらいたいことがたくさんありました」「よく話を聞くって、たくさんの質問をすることだと思います。質問の少ない上司は、聞き上手とはいえません」「上司を見ていると、傾聴するって難しいことだなと思います。でもそれをしなければ、営業担当者のモチベーションは上がりません」「顧客攻略状況しか、聞かない上司がいました。家族のこととか、将来の夢についても、聞いてもらいたかった」 ◎活動をほめてくれる「ほめてもらうのは、うれしいことです。課長にほめてもらうと、翌日から1段高いハードルに挑戦している自分がいました」「ほめられると、やるぞと気合が入ります」「活動を具体的にほめてくれると、これでいいんだと自信につながります」◎方向性を明確に示してくれる「私たちはいつもこれでいいのか、と迷いながら仕事をしています。そんなときに課長がきて、方向転換してくれる。マンネリ化とも違うのですが、気がつかないでやっていることは多いですよね」「方向性を示してくれるとは、仕事の進め方を教えてくれることです」「上司の的確なアドバイスで、仕事の進め方が変わったケースは、何度もありました」
2019年10月19日
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江藤淳『考えるよろこび』がいい■書棚を大改装しています。孫たちに読んでもらいたい本を、背表紙を向けてならべることにしました。私の書棚は原則、小口を向けて積んであるだけです。したがって本のタイトルは見えません。書棚に番号があるので、どこにどの本があるかは在庫管理リストでわかります。その方がたくさんの本を収納できるからです。それを一冊ずつ確認して、これはと思う本を書店のように並べます。しんどい作業ですが、楽しんでいます。「これ借りて行くよ」という声を想像しながら。■江藤淳『考えるよろこび』(講談社文芸文庫)は、「知だらけ」の宝庫でした。『成熟と喪失』(講談社文芸文庫)の書評を発信していますが、本書もお薦めしたい一冊です。山本藤光2019.10.19
2019年10月19日
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168:ルームシェア瀬口恭二と浅川留美は、札幌行きの電車に乗りこんだ。これまで住んでいたアパートを引き払い、新しい住まいを探さなければならない。電車が釧路駅を離れるのを待ち構えていたように、留美はいった。「私、彼氏と別れてきたの」 幼なじみで、高校卒業まで交際していた。彼は釧路教育大の二年生だったが、留美が浪人中に新しい彼女ができた。だから別れるといっても、たいした意味はない。でもケジメって大切でしょう。そんな話を留美は、少し照れくさそうに語った。恭二も詩織のことを、包み隠さず留美に語った。「これで二人の過去とは、決別だね。ここからは、恭二と二人で歩く。異存ないわよね」 異存などなかった。みそぎを終えた二人は、晴れやかな表情で見つめ合った。留美の唇が伸びてきた。恭二はしっかりと、それを受け入れた。 電車は左の車窓に太平洋をとらえて、希望に満ちた明日へと走り続ける。「私ね、高校時代に、小説を書いたことがあるの。それを『文学界』という文芸誌に応募したら、最終選考まで残ったの。結局、入選はしなかったんだけど。うんと文学を学んで、また小説を書きたい」留美は、自分の夢を熱く語った。恭二は何かを伝えたい、と思った。しかし伝えるべき何かが、まだないことを思い知らされた。暗い調剤室にたたずむ、自分の姿が目に浮かんだ。「おれ、今のところ何にもない。これから何をすべきか探すことにする」「応援するわ、恭二。でも笑い話作家には、なれると思う」 札幌へ着いてすぐに、留美のアパートに向かった。大家立ち合いでの検査をすませ、敷金などの精算をしてもらった。留美は必要なものを段ボール二個に納め、残りをすべて大家さんに処分してもらうように依頼をした。机も布団も茶碗も、すべて置いて行くことにしたのである。浪人生ばかりが入る、アパートである。大家さんは、歓迎してくれた。今度は、恭二のアパートへ向かった。留美の二個の段ボールは、恭二の部屋へ移された。三月分の家賃は前払いしているので、まだ居住可能である。二人は北大近くの、物件を探すことにしていた。「この前はここで、正月を迎えたんだったね」「留美は、ホームレスみたいだった」 二人で笑った。「恭二、別々に住まいを借りるのはもったいないから、ルームシェアにしようか?」 小さな台所で、インスタントコーヒーを入れながら、留美は背中を向けたままいった。「おれも考えていた。二間あるマンションを借りて、部屋は不干渉領域にする。いいね、留美さえよければ、おれは大歓迎だ」「料理は交代制だよ。それと同棲とは違うんだから、夜這いはダメ」「夜這いなんかしない。その気になったら、ちゃんと伝えるさ」 その夜、二人は一つのベッドに潜りこんだ。「私、汗臭くない?」「いい匂いだ」「お風呂のついているところが、絶対条件だね」「それとエアコンは、絶対だな。これでは寒くて、留美を裸にすることができない」 恭二は留美の腰に手を回し、細身の身体を引き寄せた。「電気消して」と留美はいった。
2019年10月18日
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105:SECIプロセス――第8章:同行への心構え どうしたら「知」は磨かれ、良質なものになるのでしょうか。それを説明する概念に、「SECI(セキ)プロセス」というものがあります。難解なので詳しい説明は省略しますが、興味があれば拙著『なぜ部下は伸びないのか』(かんき出版)をお読みいただきたいと思います。「SECI」とは、知を高めるための基本プロセスのことです。 それを営業リーダーの仕事にあてはめると、次のようになります。SECIは、迅速かつ的確に循環させなければなりません。S・やってみせ、やらせてみる(共同化・スキルやノウハウの移転を行う)E・部下の成功例を、チームメンバーに伝える(表出化・スキルやノウハウなどを可視化させる)C・1つの成功例をみんなで、よりよいものに磨き上げる(結合化・知恵を出し合い、文字や言語をより良いものにする)I・磨き上げた成功例を、顧客で活用させる(内面化・磨き上げられた文字や言語を、自らのスキルやノウハウに変える) 営業リーダーは、「SECIプロセス」を意識して仕事をしなければなりません。ちなみに、成功例を集めたデータベースは、E(表出化)に該当します。多くの企業は、「ベストプラクティス」や「コンピタンシーモデル」などのデータベースを持っています。ところが営業現場では、あまり活用されていません。 つまり、せっかくE(表出化)をしていても、I(内面化)にはつながっていないのが現状なのです。「SECIプロセス」が回っていないことになります。SECIは、次の英語の頭文字を連ねたものです。S:Socialization、 E:Externalization、C:Combination、 I:Internalization 前記のSSTプロジェクトは、スキルやノウハウの移植をねらったものでした。したがって、S(共同化)に該当します。掲示板に「ベストプラクティス」が張られていたとしましょう。営業担当者がそれを見て、顧客で実行してみます。これは、I(内面化)に該当します。 強いチームは、「SECI」と「PDCA」が連動しています。強いチームか否かは、会議に参加すれば判断できます。2つの連動を、観察すればいいのですから。 SECIプロセス」は、ナレッジマネジメントの世界の重鎮・野中郁次郎氏と紺野登氏が提唱した理論です。これを営業の世界に持ち込んだのは、山本藤光がはじめてでした。ナレッジマネジメントについては、野中郁次郎・紺野登『知識経営のすすめ』(ちくま新書)の一読を強くお勧めします。「S」は、営業リーダーが同行時に行います。「E」と「C」は、会議時に行います。「I」は、営業担当者が単独で実践する概念です。
2019年10月18日
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ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』新訳出た■台風15号で我が家には、カーポートの屋根や街路樹の枝などおびただしいものが飛んできました。昨日、建築業者がやっと屋根の点検にきてくれました。千葉県の被害があまりにも大きく、これまで手がまわらなかったと弁解していました。幸い屋根は無傷とのことでした。ほっとしました。■ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』は、光文社古典新訳文庫(二木めぐみ訳)と岩波文庫(西村孝次訳)を持っています。今度岩波文庫から、新訳(富士川義之訳)が出ました。本書を読んで、名場面の訳を他の訳文と比較してみたいと思います。訳文の違いを調べるのは、大好きな作業です。山本藤光2019.10.18
2019年10月18日
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167:知だらけの学習塾 北大の入学式に備え、恭二は明日札幌へ発つ。さっき浅川留美から、電話があった。札幌行き電車の指定席が、取れたとのことである。明日釧路駅で、待ち合わせることにしている。 恭二は父の晩酌につき合い、焼酎の水割りを飲んでいる。母は店番である。「今年から、ウォーキング・ラリーは、六月開催に早めるようだ」「町のイベントとして、それだけというのは寂しいな。一年間を通して、観光客のあふれる町にしたいよね」「隣りの弟子屈や川湯はあんなに賑わっているのに、この町は死んでいる」「標茶にはモール温泉があるのに、もったいない話だよね」「地域おこしで、あんなムダなものをこさえて、ここの行政はずれている」「ウォーキング・ラリーは、そのムダなものを活かすために考えたものだよ。つまり負の後追い」「駅前商店街は、次々とシャッターを下ろしている。うちの店も、客の数は減っている」「おれと兄貴が卒業するまでは、頼むよ。国立といっても、医学部と薬学部はお金がかかるんだから」「心配するな。おまえは、一生懸命勉強していればいい」 恭二は空になった父のグラスに、氷と焼酎を注ぐ。そして「おやすみなさい」といって、立ち上がる。部屋へ入って、生まれたての「知だらけの学習塾」ノートを開く。恭二は自分の思いを、頭のなかでまとめた。そしておもむろに書きはじめた。――三月二十六日。本日から、ライフワーク探しの旅に出る。勉強と両立させて、一生涯楽しみながら続けられる、何か。しかもそれは、やがて標茶町の発展に貢献できること。現状では、おぼろげな影さえ認められない。
2019年10月17日
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104:実践PDCA――第8章:同行への心構え◎ショートストーリー 営業オフィスや現場で、こんな会話が飛び交っていたら、どんな感じでしょうか。考えてみましょう。P:(朝のオフィス。準備を整えた営業担当者が、現場に向かおうとしています)上司「今日の(思い描きの)目玉は何だい?」部下「K社から新規口座をもらうことです」上司「楽しみにしているよ」部下「任せてください」D:(重点顧客へと向かう車中で、同行している上司が切り出します)上司「A社にはずいぶん熱心に通っているのだろう?」部下「はい、B部長がなかなか首をタテに振ってくれません」上司「そうか、苦労しているな。今日は失敗してもいいから、なぜF社の製品を使っているのか、ダイレクトに質問してみよう」部下「そんな質問をしたら、逆鱗(げきりん)に触れますよ」上司「いいって、そんなときはぼくが責任を持つから、やってごらん。いつまでも決着がつかないと、きみも疲れてしまうだろう」C:(開業医を同行中の営業リーダーとMR。待合室で、名前を呼ばれるのを待っています)上司「(待合室を眺めて)何か新しいものを発見したかい?」部下「スリッパが新調されています。これなら患者さんも気持ちがいいと思います」上司「よし、それをドアオープナーとしよう」部下「先生、スリッパが新しくなりましたね。どんなタイミングで新調するのですか、と切り出してみます」上司「いいね、開院記念日ごとに取り替えているかもしれない。そんなことに気づくMRは少ないと思うから、きっと話が弾むだろう」A:(帰社した営業担当者に向かって、「今日の成果は?」と上司が問いかけました。部下が「すいません」と頭に手をやっています)上司「いいさ、そんな日もあるよね。でも明日のための発見は、あったのだろう?」部下「帰りがけに受付嬢に聞いてみました。S部長のところに、朝訪問しているメーカーがいました。私も訪問時間を、朝に変えてチャレンジしてみます」上司「いいね、大発見じゃないか。夕方は先方も疲れているし、朝の方がいいかもね」 このようなやりとりだけで、営業担当者の1日にインパクトが生まれます。営業リーダーは同行時に限らず、部下の「PDCAサイクル」に関与してもらいたいと思います。新しい「PDCAサイクル」の提案については、大半の受講者が「導入したい」と答えています。そして実効があったとの感想も、数多く寄せられています。1日の成果を思い描き、新しい発見と失敗を明日につなげる。この指導は難しいことではありません。「PDCAサイクル」を営業担当者が自然に回せるようになるまで、営業リーダーは本稿の例のように、問いかけを続ける必要があります。
2019年10月17日
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大岡昇平『成城だより』購入■台風19号の被害は、日増しに増えています。地震の備えは徐々によくなっていますが、水害対策はまだまだのようです。国には国民の命を守る責任があります。早急にダムや防波堤を、見直してもらいたいと思います。■大岡昇平『成城だより』(中公文庫)の一,二巻を購入。全三巻ですので、来月には完結します。本書はずっと読んでみたかった著作です。同年代になってからの大岡昇平が、何に好奇心を示したのかを知る鍵となる一冊です。山本藤光2019.10.17
2019年10月17日
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166:穴吹家の前進 午後六時。穴吹家の夕食時間である。穴吹健一と老いた両親と双子の妹が、食卓を囲んでいる。 穴吹家の食卓は、以前よりも少しだけ豊かになっている。標茶高校を卒業してから、健一は飼育する牛の数を増やし、牛舎の隣りで養鶏業もはじめた。事業の拡大は、順調に進んでいる。健一の弟・健二は、釧路の水産加工所で働いている。健二からは、毎月仕送りがある。「お兄ちゃん、白米が入ったご飯はおいしいね」 茜は母におかわりを催促しながら、にっこりと笑ってみせた。妹の萌は卵焼きに箸を伸ばして、「毎日お誕生日なら、白いご飯が食べられるのにね」とおどけていった。麦飯だった穴吹家のご飯は、白米と麦が半々になっていた。双子の姉妹・茜と萌は、標茶中学校に通っている。二人は始発のバスで標茶へ向かい、鶏卵の配達をしている。「うちの卵、黄身が大きくて、温泉客にも評判なんだって」 姉の茜は、自慢げに話した。「藤野温泉ホテルだけじゃなく、ほかにも売ったらいいのに」 妹の萌は、真剣な視線を健一に向けた。「おれもそうしたいんだけど、牛の世話でめいっぱいなんだ」「私たちが鶏の世話を手伝う。だから鶏を増やそうよ」「おまえたちに、きちんと世話ができるのかい?」 母はいぶかしげに質問した。「手伝う。新しい服だってほしいし、毎日白いご飯も食べたい」 茜は、きっぱりと宣言した。「母さん、二人にやらせてみよう。自分たちで稼いだお金は、おまえたちの好きなことに使えばいい」「本当、うれしい。萌と責任を持って、鶏の世話をします」 父は黙って、酒を飲んでいる。ときどき、ビチャという音がする。二人の妹たちを見ながら健一は、二人を高校へ進学させてやりたい、と熱い思いを固めている。 健一が開設したネット書店「のほほんのほんのほん」は、わずかに十冊しか出品できないでいる。もちろん注文はない。
2019年10月16日
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103:迅速かつ的確に――第8章:同行への心構え 私が考える営業担当者の「1日のPDCAサイクル」は、少しニュアンスが違います。1日にもっと夢があります。営業リーダーには、「PDCAサイクル」を次の要領で指導してもらいたいと思います。P・1日の成果を思い描かせるD・失敗を恐れずに実行させるC・新しい何かを発見させるA・新しい発見と失敗を明日の糧にさせる 同行をスタートさせるときに、営業担当者に問いかけます。「今日の成果の目玉は何だい?」(P) 同行時にそっと背中を押してあげます。「失敗したって構わないから、トライしてごらん」(D) 同行を終えたときに、営業担当者に問いかけます。「今日は何か新しい発見があったかい?」(C) オフィスに戻ってから、営業担当者を指導します。「今日1日の活動を通じて、明日から活用できることを考えてごらん」(A) PDCAサイクルを迅速かつ的確に回せるようになったら、営業担当者は飛躍的に業績を伸ばします。大切なことは、営業担当者に「新たな発見」や「失敗」を感じ取らせることなのです。1日の成果を、思い描かせることなのです。 今日の失敗が明日の糧になります。今日の成功が明日のバネになります。1日を思い描けば、今日と明日はつながります。この習慣は同行時に限らず、日常的に営業担当者に実施させたいものです。営業リーダーにとって大切なことは、営業担当者が「PDCAサイクル」を的確に回せるように指導することです。
2019年10月16日
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澤田瞳子『秋萩の散る』購入■昨日は友人の葬儀に参列。今年になってこれで二人目になります。公益財団法人北海道学生後援会の理事長だった塚越孝平さんは、いつも学生目線で夢を語ってくれました。主な事業は「北海寮」という東京の大学に通う学生向け施設の運営です。少子化の影響もあり、経営は苦しいといっていました。享年71歳。彼の人生に拍手。そして合掌。■澤田瞳子『秋萩の散る』(徳間時代小説文庫)を購入。著者の時代小説は、青山文平とともに、若々しくて好きです。すでに5冊ほど読んでいますが、まだ推薦したい一冊に出逢っていません。「左遷された道鏡に囁かれた邪(よこしま)な誘い」というコピーに魅せられました。山本藤光2019.10.16
2019年10月16日
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165:ライフワーク標茶霊園の高台に立った翌日から、恭二は薬学の勉強以外に夢中になれる、何かを模索しはじめている。大学生になって、おれは何をなすべきなのだろう。そこまで考えて恭二は、幸史郎にも詩織にも勇太にも、それがないことに気がついた。いやそれどころか、うちの両親だって同じことではないか。人生って勉強や仕事以外の何かが、潤っているか否かが、分岐点のように思えた。 近所の書店で、「ライフワーク」という本を買ってくる。ライフワークとは、生涯楽しみながら続けられるもの。しかも、社会貢献できるものでなければならない。思いついたときに書き留めている「笑話(しょうわ)の時代」は、ライフワークといえるだろうか。笑いを提供するのだから、わずかながら当確かもしれない。でも、と恭二は考える。そして「おあしす」三階の、各種教室を思い浮かべる。自分が楽しみながら継続した何かは、やがて子どもたちに指導できるものであるべきだろう。ふと留美の言葉が浮かんできた。勉強しながら小説を書く。そんな世界を、おれも持たなければならない。恭二は読んでいたライフワークの本を閉じ、時間はたっぷりとできたんだと思い直した。焦ることはない。突然、恭二は日記を書こうと思った。決めたこと、思いついたこと、悩んだことなどを赤裸々につづる。日記は新たなスタートに、最もふさわしいものかもしれない。恭二は青山文具店まで足を運び、一番厚いノートを一冊買ってきた。いろいろ迷った末、恭二はタイトルを「知だらけの学習塾」と書いた。何だか血生臭いタイトルではあったが、恭二は結構ネーミングに満足していた。
2019年10月15日
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102:PDCAサイクルを回す――第8章:同行への心構え 1日の成果を思い描いてから、営業活動をスタートさせます。すると何となく過ごしている1日とは、まったく異なる1日が生まれます。1日を終えると、思い描いたことの検証ができます。それが「PDCAサイクル」を回す本当の意味です。 優秀な営業担当者の「1日のPDCAサイクル」は、一様に自然体で回っています。若いころ上司に教わった「PDCAサイクル」は、調査・計画・実践・検証のことでした。最近使われている「ナレッジワーカー」の定義も、昔のPDCAサイクルを踏襲しています。「ナレッジワーカー」とは、自ら計画を立案し、それを実践して、自ら評価できる人のことです。つまり、自律している人のことなのです。
2019年10月15日
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