全90件 (90件中 1-50件目)
214:残された二人 長島可穂は、無事に男児を出産した。猪熊勇太は日本では結婚式をしなかったが、タイでは三百人を招いての、豪華な結婚式をあげた。もちろん相手は、ミユさんである。恭二と詩織は出産と結婚のお祝いを持って、それぞれの家庭を訪問した帰りである。詩織は車の運転をしながら、助手席の恭二に話しかけた。「みんなどんどん、幸せになってゆく。可穂も勇太も、うれしそうだったね」「コウちゃんも、彩乃さんの親友と熱愛中だ。考えてみれば、残されたのはおれと詩織だけになってしまった」 急に車が停まった。「新しいレストランができたんだ。ちょっとのぞいてみようよ」 目の前には、赤い三角屋根のしゃれた建物があった。「ずっときてみたいって思っていたんだけど、くるなら恭二と一緒に、とがまんしていたの」 二人は窓辺のテーブル席に座る。「まだ新築の匂いがする」 コーヒーを注文して、恭二は店内に目を向ける。天井からは、氷柱の形をしたライトが吊されていた。壁面には、さまざまなコーヒーカップが並べられている。室内は黄色で統一されていた。「詩織の色の、お店だね」「うん、入った瞬間にそう思った」 コーヒーが運ばれてきた。店内には低い音で、ジャズが流れている。新しい客が入ってきた。空気が揺れた。「恭二、明日の夜、時間取れる?」「大丈夫だけど」「その二が完成したの。だから明日、きて」 詩織の大きな瞳に、氷柱ライトの光が映っていた。「それは楽しみだ。喜んで、明日おじゃまするよ。ところで詩織、明後日は空いてる?」「うん、大丈夫」「朝から時間を取っておいてくれないかな」「どうするの?」「内緒」 詩織は笑った。「恭二ったら、じらしてばかりなんだから」
2019年11月30日
コメント(0)
148:同行を開始する――第13章:「同行道」まとめ 同行のゴールは、年頭の面談で合意しています。本日の同行は、ゴールに向かっての第1歩です。「今日1日、よろしくお願いします」との元気なあいさつから、はじまります。 簡単な今日の打ち合わせを行います。本日の訪問コースや目的・手段などのすり合わせは、欠かせません。本日の最重点活動については、成果を思い描かせ意気込みを話してもらいます。 営業カバンの確認。本日使用する資料を整理し、営業リーダーも自らのカバンに補足資料を用意します。爪は伸びていないか。靴は磨いてあるか。髪に寝癖はついていないか。これらのチェックが済んだら、いよいよ出発です。 車で顧客へ向かうのなら、車内をきちんと整理させます。ラジオは消します。シートベルトを締めます。本日の訪問コースを目の前におき、「元気でがんばろう」と気合を入れます。 訪問先について、前回までの状況を確認します。今回の目的を話してもらいます。最終ゴールを確かめます。「PPF話法」を用いることを、忘れないでください。 1軒目の訪問が終了しました。簡単な反省会をします。車を走らせてはいけません。営業担当者に、メモをとってもらわなければならないからです。ほめてあげることを、忘れてはなりません。叱責や小言は、慎みたいものです。 昼食時間には、仕事の話を持ち込まないでください。家族や趣味の話を、明るく楽しく聞き取ります。支払いはワリカンが原則です。特別なことがあった場合は、上司が支払うようにしましょう。 午後の時間は、営業リーダーが運転をするのもお勧めです。午前中に気がついたことを話してあげ、営業担当者が助手席でメモを取ります。こんな変化があってもよいと思います。 1日が終わります。次回同行までの課題を整理します。「ごくろうさん」「ありがとうございます」で締めくくります。※本稿を読んだ受講者は、一様に笑います。「同行」が作法になっていることに、気がついたからです。
2019年11月30日
コメント(0)
大岡信『折々のうた選』出た■本日で11月が終わり、残り1ヶ月となります。年賀状を書かねばならない、と重いものがのしかかってきました。まだ喪中ハガキが来ている最中ですので、クリスマスころまで作業は待ちます。■大岡信『折々のうた選』(岩波新書)が出ました。長谷川櫂の編集です。以前に読んで絶賛している『こども「折々のうた』(小学館)も同氏の編集なので、重なる部分が多いかもしれない、と思いながら買い求めました。両方を読み比べて、編集方針の違いを探ってみたいと思います。山本藤光2019.11.30
2019年11月30日
コメント(0)
213:高校の文化祭 標茶高校の文化祭に招かれ、恭二は懐かしい部室に足を運んだ。「瀬口です」といってなかに入ると、三人いた女子高生が一斉に立ち上がった。「お待ちしていました。瀬口先輩」 そのなかの一人が深々と頭を下げて、歓迎の言葉を発した。彼女が新聞部長らしい。そう思った恭二に、彼女は自己紹介した。「新聞部部長の、阿部かりんといいます。これから、文化祭のご案内をさせていただきます。その前に、これをご覧ください」 壁に並ぶ表彰状を指差し、「これは瀬口先輩が獲得したときの、全国高校新聞最優秀賞のものです。回収騒ぎになった新聞も、貼ってあります」 賞状と新聞を眺め、ついこの前のことのように思った。南川愛華がいて、詩織がいて、可穂がいた。「ずいぶんたくさんの賞状があるね」 恭二の言葉に阿部は、「先輩たちが築いてくださった、伝統のお陰です」といった。 文化祭会場を一通り見た恭二は、阿部にお礼をいって高校を後にした。校門を出たとき、クラクションが鳴った。運転席から手を振っているのは、幸史郎だった。「文化祭の帰りか? 送って行くよ。乗りな」 恭二は勧められるまま、助手席に座った。「コウちゃんと辺地校を、訪問した日がよみがえってきた」「そんな日もあったな」 車は札幌時計台を通過し、オランダ坂に差しかかった。突然、幸史郎がいった。「恭二、詩織ちゃんのこと、どう思っているんだ?」「今も好きだよ。大切な友だちだと思っている」「それだけか?」「それ以上、何だっていうんだ」「実はな、以前、おれ、詩織ちゃんに、プロポーズしたことがある。前に冗談めかしていったけど、あれは事実だ。あっさりと断られたよ。私にはずっと、思っている人がいるって。魔が差して変な結婚したけど、その人が許してくれるまで、待つんだってよ」「コウちゃん、変なこと知らせてくれるなよ。何だか切なくなってきた」「詩織ちゃんのところで、降ろしてやろう。ちょっとくらいお話ししてから、家へ戻ったって遅くはならない」 強引に、下車を命ぜられてしまった。恭二は、藤野温泉ホテルを見上げた。隣りには赤い鉄骨柱が、空に向かって伸びていた。 恭二はホテルには入らず、そのままきびすを返した。その二が完結するまでは、会わない方がよいと考えたのだ。
2019年11月29日
コメント(0)
147:本格同行をはじめる前――第13章:「同行道」まとめいよいよ、本格的な同行の開始です。準備は怠りないでしょうか。「同行道」を究めていただいたでしょうか。 営業リーダーの「同行」が、効果的になる手順を整理しておきたいと思います。①優秀な営業担当者と平均的な営業担当者の、スキルギャップを抽出しておかなければなりません。「インプット(知識・情報)」「ターゲティング」「アクセス」「ディテーリング」「アウトプット」という項目で考えると、わかりやすくなります。②「意識・行動アンケート」を作成します。「意識・行動アンケート」を半年に1回ほど繰り返し、その変化を検証します。意識・行動が変われば、業績はついてくるのですから。⑤ 「育成同行」「戦略同行」について、チームメンバーに説明します。そのうえで、自分が徹底的に2つを実践することを宣言します。⑥ 営業担当者には、「PDCAサイクル」を回す意義を説明します。そして、自分が回す「SECIプロセス」にも言及します。⑤「意識・行動アンケート」を実施します。2回目は、半年後くらいに行うといいでしょう。前回と今回の格差に注目してください。⑥チームメンバー分のノートを購入し、表紙に各自の名前を記入します。⑦個別面談を実施します。「育成同行」または「戦略同行」に関するメンバーの希望を聞き、最終決定を行います。同行対象にならなかった部下には、きちんと事情を説明し理解を求めなければなりません。⑧「育成同行」対象者とは、20回終日同行でのレベルアップすべきゴールを話し合います。このときに用いるのは、「スキルギャップ」の表です。⑨「戦略同行」顧客を持った部下と、「顧客別アクションプラン」を作成します。6つのキーワード(いつまでに、どこで、だれに、なにを、どんな方法で、どんな成果をあげるのか)を使って、ゴールの設定を行います。このときに重要なのは、月に何回くらい同行できるかを明示することです。営業担当者が単独で訪問するのは、月に何回くらいかも整理しておく必要があります。⑩「顧客別アクションプラン」は、チーム員が見られるように掲示します。この段取りは、絶対にはずさないでいただきたい。ひとつでもはずしてしまうと、せっかくの「同行」が生きたものにならなくなります。同行強化は、半年を1つの単位として実施したいものです。
2019年11月29日
コメント(0)
星新一『きまぐれエトセトラ』読むぞ■星新一のエッセイが文庫になりました。『きまぐれエトセトラ』(角川文庫)です。星新一については『ボッコちゃん』(新潮文庫)の書評を発信しています。『きまぐれエトセトラ』を読んで、新たな発見ができればいいなと思っています。山本藤光2019.11.29
2019年11月29日
コメント(0)
212:留美の話 浅川留美の『同棲ごっこ』はベストセラーとなり、芥川賞の候補にも上げられた。恭二が留美の帰国を知ったのは、タウン誌『くしろ』の宗像修平からの電話でだった。釧路市出身の芥川賞候補作家というインタビュー記事で、取材をしたとのことだった。そのときに宗像は、作品中の京太郎のモデルが瀬口恭二だということを知った。だから少し、話を聞きたい。宗像は電話口でそう告げた。恭二は留美と一緒の取材なら受ける、と答えた。 宗像はあっけないほど素早く、明後日に釧路の留美の自宅でインタビュー、という段取りをつけた。 留美との、再会の日がきた。恭二ははやる気持ちを抑えて、留美の自宅を訪れた。いきなり留美は、玄関に現れた。「恭二、久しぶり」 屈託なく笑って、留美は恭二に抱きついてきた。リビングにはすでに、宗像とカメラを抱えた男の姿があった。恭二は宗像の向かいに、留美と並んで座った。待ち構えていたように、フラッシュが光った。「さて『同棲ごっこ』のお二人がそろったので、インタビューをさせていただきます。最初に浅川先生に確認させていただきますが、あの小説の京太郎のモデルは瀬口恭二さんで間違いありませんね」「はい。でも京太郎は、私が創り上げた架空の人物です。私と恭二が一緒に住んでいたことは事実ですが、作中の京太郎は恭二とは違います」「では、瀬口さんイコール京太郎ではないわけですね?」「恭二は、臆病でも早漏でもありません。嘘のつけない、まじめな人です。主人公の『わたし』を強い女にしたために、脇役の京太郎はとことんダメな男にしなければならなかったわけです」「いやあ、あまりにも人物造形がみごとだったので、てっきりモデルが存在すると思っていました」「京太郎が恭二だったら、恭二はかわいそう」 久しぶりに聞く声だった。物語の進行は事実だけれど、小説のなかで「わたし」に寄り添う京太郎は架空の人物である。留美はそう断言した。恭二は心の澱(おり)が、消えてゆくのを感じた。そして留美に質問した。「小説を読んで、京太郎はおれだと思った。正直、侮辱されたと腹を立てていた。でも話を聞いて、納得した」「ごめんね、恭二」 忙しくノートにペンを走らせながら、宗像は質問を続ける。「瀬口さんとの出会いや、同居などは事実である。しかし小説のなかの京太郎は、瀬口さんとは別物で、想像上の人物である。これでいいですね」「はい、そのとおりです」「浅川先生の今日に、瀬口さんの存在はどう関与していますか?」「小説家になると決めたのは、二人で将来の夢を語り合ったときです。小説ではH大としていますが、浪人時代も北大に一緒に入ろうと励まし合っていました。恭二はまぎれもなく、今の私を育ててくれた恩人です」「釧路で執筆活動をなさるわけですが、いろいろ不便はありませんか?」「原稿はメールで送れますし、ほとんどのことは電話で用が足ります。不便は感じません」「瀬口さんにとって、浅川先生はどんな存在ですか?」 質問の矛先が、恭二に向いた。恭二は少し考えてからいった。「当時は、とても大切な人でした。しかし現在は思い出のなかにのみいる、大切だった人です」「恭二、何だか意味深な発言ね。いい人ができたんだね」 留美は屈託なく笑って、恭二の膝に手を置いた。置かれた左手の小指には、光る大きなリングがあった。
2019年11月28日
コメント(0)
――第12章:発展する同行 :◎考えてみましょう・同行を終えます。次への課題を与えます。このことの大切さを、考えてもらいたいと思います。・1人を伸ばすと、チーム全体が底上げされます。それゆえ、チーム内への影響力のある営業担当者と集中同行すべきなのです。均一同行するケースと、選択と集中の違いを考えてみましょう。◎同行ものがたり 営業リーダー時代に、毎朝唱えていた呪文があります。私はそれを、「モナリザ・チェック」と名づけていました。毎朝、オフィスに着くなり、自分自身に問いかけていました。「モナリザ」とは、こんな呪文です。モ:(部下に向けた視点)モチベーションは上がっているかナ:(チームに向けた視点)ナレッジは循環しているかリ:(自分自身に向けた視点)リーダーシップを発揮しているかザ:(仕事に向けた視点)定冠詞「ザ」がつくような仕事をしているか これを唱えると、いつも元気が出てきました。まだまだ自分は甘い。もっと自分自身を磨き、鍛え上げなければならない。そんな気持ちにさせられました。「モ」は同行時に、確認しなければならない、大切なことです。「営業リーダーは4つの視点を持ちなさい」。短いあいさつを求められても、私は必ず「モナリザ・チェック」を紹介します。部下を見つめ、自分自身を振り返る。チーム内には、それぞれの「知」が融合しているだろうか。営業リーダーは、こうした広い視野を持たなければなりません。
2019年11月28日
コメント(0)
中西進『万葉の秀歌』がいい■『反日種族主義』を読んだ韓国人の青年が、感想を動画配信していました。小中高と「日本人は朝鮮から米を奪った」と習ってきました。彼は冒頭にそう語り、「しかし、それは嘘でした」と続けます。日本と韓国は、米を正式な貿易で売買していた。ただしその利益を農民から奪ったのは、韓国人の地主だった。彼は本から学んだことを、そう語っています。そして「私が学んでいた歴史はみんな嘘だった」と結びました。今、翻訳本を読んでいます。韓国人にとって、目から大量のウロコが落ちることでしょう。■中西進は、『日本人の忘れもの』(全3巻、ウェッジ文庫)を推薦作(山本藤光の文庫で読む500+α)にしています。その著者の『万葉の秀歌』(ちくま文庫)が新しい帯をまとって、増刷されていました。帯には「『万葉集』は、令(うるわ)しく平和に生きる日本人の原点です」と書かれています。私が中西進と出逢ったのは、新幹線の座席に備えてあった一冊の雑誌でした。何気なく読んだコラムに感動して、それ以来ずっと追っかけています。本書は『万葉集』を理解するための貴重な一冊です。中西進との出逢いのいきさつについては、『日本人の忘れもの』の書評で触れています。山本藤光2019.11.28
2019年11月28日
コメント(0)
211:文芸誌新人賞新築祝いのあと、駅の売店で新聞を買った。第一面に、文芸誌の宣伝が掲載されていた。何気なく目を落とした恭二は、思わず飛び上がりそうになった。文学界新人賞のところに、浅川留美の名前を見つけたのである。恭二は驚いて、待合室を飛び出した。標茶行き電車の発車までは、あまり時間がない。大急ぎで書店まで駆ける。文芸誌は、標茶の書店には置かれていない。 目的の雑誌を買い、全速力で駅へと戻る。発車二分前。改札を抜け、階段を猛スピードで下り、ホームへの階段を駆け上がった。間に合った。肩で息をしながら、呼吸が整うのを待つ。もどかしい思いで、ページを開く。――『同棲ごっこ』浅川留美 タイトルと著者名の下に、笑顔の留美がいた。プロフィールでは、ニューヨーク在住となっている。「小説を書く」といっていた留美は、夢を実現させたのだとうれしい気持ちになった。ところが本文を読みはじめて、恭二は胸が押しつぶされるような気持ちになった。 主人公「わたし」と同棲しているのは、まさに恭二そのものだったのである。名前こそ京太郎にしてあるが、留美と暮らした日々がそのまま表現されていた。京太郎は、臆病で早漏で怠惰な男だった。主人公の「わたし」は、同棲相手の京太郎のそうした欠陥を、調教する使命に燃えている。 恭二は途中で、読むのを止めた。怒りのために雑誌を持つ手が震え、息苦しくなってしまったのである。活字から目を離し、窓外に視線を向ける。そこには欠陥だらけの、モデルの顔が映っていた。 気持ちを切り替えて、恭二はもう一度活字に目を落とす。図書館での出会い。予備校からH大学へ。二人のマンション探し。同居。粗末な調度品。みんな現実と同じだった。夜の営みもそう書かれてしまえば、そうなのかもしれないと思えてくる。京太郎は入社した会社を、すぐに退職してしまう。その報告を聞いた「わたし」は、自分の調教が失敗に終わったことを悟る。 これは小説というよりも、ねじ曲げられた暴露記事のようなものだ。読み終えて、恭二は雑誌を激しく叩きつける。
2019年11月27日
コメント(0)
145:みんなが見守っている――第12章:発展する同行 営業リーダーが、「集中同行」を宣言します。この時点で、チームには緊張感が走っています。眠れる獅子が眼を覚ました、という感じになるわけです。チームが変わります。メンバーには、希望に満ちた予感が広がります。 上司は「選択と集中」といった。自分は対象外だけど、チームのためには最善の方法だろう。そう納得してくれます。チームのベクトルが、営業リーダーの同行パワーに向けられる世界が具現化します。◎ショートストーリー 営業担当者が2人、午後7時のオフィスにいます。営業リーダーが「同行宣言」をしてから1ヶ月になろうとしています。2人は、半期の同行対象者にはなっていません。Aは営業リーダーより年上の平均的な営業担当者。Bは最も業績の悪い営業担当者です。2人の会話から、営業リーダーの「同行宣言」の意味を考えてみましょう。A「リーダーは、がんばっているな。いつもならオフィスにいるのに、最近は帰りが遅い」B「自分は同行してもらえないけれど、リーダーの『選択と集中』という意味は理解できます。残念ながら、いまの自分では、教える価値がないのでしょう」A「教えるのではない、育てるのだとリーダーはいっていた。おまえが育つには、時期尚早。そんなことで、おまえは外れたのだろう」B「でも、寂しいですね。何か見放された感じになります」A「力はないけれど、おれが見守ってやるよ。オフィス中心だったリーダーが、現場で汗を流すと宣言した。これは尊重してあげなければならない」B「やりますよ。リーダーが身体を張ってやりはじめたのですから、自分も1人でやりとげます」A「すごいチームに変身する予感がある。おまえのがんばりに期待するよ。おれもやる。今月は、150%までやってみせるぞ」営業リーダーが同行宣言をすると、オフィスは変わります。私は「CP」受講者から、劇的に変わったという報告を受けています。
2019年11月27日
コメント(0)
文藝春秋編集の文庫たち■文藝春秋編集本が好きです。以下の本は、書斎の「大切な本コーナー」にならんでいます。編集がすばらしく、内容も充実しています。紹介するのは、文庫化されているものだけです。・遠藤周作のすべて(文春文庫)・鬼平犯科帳お愉しみ読本(文春文庫)・想い出の作家たち(文春文庫)・教科書でおぼえた名詩(文春文庫PLUS)・傑作ミステリーベスト10・20世紀総集完全保存版(文春文庫+α)・かぐや姫の物語・ジブリの教科書19(文春文庫)・滑稽・糞尿譚(文春文庫、安岡章太郎編)・SUDDEN FICTION 超短篇小説70・2巻(文春文庫)・シティ・マラソンズ(文春文庫)・司馬遼太郎全仕事(文春文庫)・少年少女小説ベスト100(文春文庫ビジュアル版)・新聞記者司馬遼太郎(文春文庫、産経新聞社)・人生を変えた時代小説傑作選(山本一力・児玉清・縄田一男・編、文春文庫)・青春の一冊(文春文庫)・世界堂書店(文春文庫、米澤穂信・編)・世界は村上春樹をどう読むか(文春文庫編、国際交流基金・企画)・魂がふるえるとき・心に残る物語・日本文学秀作選(文春文庫、宮本輝編)・東西ミステリーベスト100・1986年版(文春文庫)・東西ミステリーベスト100・2013年版(文春文庫)・読書と私・書下ろしエッセイ集(文春文庫)・時の罠(文春文庫)・とっておきのいい話(文春文庫)・藤澤周平の世界(文春文庫)・藤沢周平のこころ(文春文庫)・松本清張の世界(文春文庫)・右か、左か・心に残る物語(沢木耕太郎・編、文春文庫)・向田邦子ふたたび(文春文庫ビジュアル版)・無名時代の私(文春文庫)・もっと厭な物語(文春文庫)・吉村昭が伝えたかったこと(文春文庫)・天才・菊池寛(文春学芸ライブラリー)タイトルをタイプするだけで疲れてしまいました。お世話になっております。山本藤光2019.11.27
2019年11月27日
コメント(0)
207:味がすべて 瀬口恭二は、満月家ホテルの契約にもこぎつけた。これはセントラル温泉ホテルに刺激されたもので、大きな苦労はいらなかった。既存の藤野温泉ホテルを含めた、四軒の形は整った。恭二はあと一軒の交渉を、急がなかった。追って先方から、申し出てくるだろうと思っていた。 駅前商店街からは、積極的に参加を申し入れてくる店が多発した。抽選での入店になるかもしれない、と危惧するほどだった。 宮瀬幸史郎は、越川多衣良とジョイント・ベンチャーの契約を交わした。三軒のホテル建設には、さらに大きな建設会社との提携が必要であった。幸史郎は今手がけている、瀬口恭一・彩乃夫妻の新築工事を見守る傍ら、釧路市のパワフル建設に何度も足を運んでいた。社長の郷原稔は、「でっかい仕事を請け負ったな」と驚きながら、「よっしゃ、ジョイントに乗ろう」といってくれている。そして次のような疑問を呈した。「建設の方だって作業員の確保が大変なのに、新たな三軒のホテルは厨房スタッフを集められるのか?」「その点はホテルの経営者任せなので、わかりかねます。しかし調理人を探すのは、そんなに大変なことなのですか?」「味が悪ければ、客は逃げる。ホテル業界は、コックの引き抜き合戦をしている。一流の料理人を雇ったところが、勝つとの常識があるくらいだ」
2019年11月26日
コメント(0)
144:指導力が向上する――第12章:発展する同行 計画的な同行を継続していると、営業リーダー自身の指導力が向上します。思いつきの同行では、絶対に起こらない現象です。それはSSTプロジェクトで、痛感させられました。メンバーは、目を見張るほど成長したのです。 なぜそうなるのでしょうか。一生懸命に「育てる」と、部下から「学ぶ」ことも多くなります。「CP」受講者の多くが、こんな感想を述べています。「部下から教えられることが多くて、驚いています」 逆説するなら、同行をしない営業リーダーは、レベルアップすることはあり得ません。何度も同行を重ねて、営業リーダーは部下から学んでいます。そうしながら、部下育成に磨きをかけているのです。 教えるというスタンスで同行していると、部下から学ぶ機会は少なくなります。育てるとは、試行錯誤の営み。双方の感受性が豊かになっているから、効果が生まれます。良質なやりとりで、これまで気づかなかった発見ができるわけです。 同行は、部下と目線を揃えることです。いつも自転車で通っている道を、歩いてみると新しい発見ができます。目線が下がっているから、見えなかったものが見えてくるわけです。同行を終えて、「ありがとう。今日は勉強させてもらったよ」と必ずいう営業リーダーの存在を知っています。 この言葉の崇高さを、学んでもらいたいと思います。同行は部下をレベルアップさせるとともに、営業リーダーが学ぶ「場」なのです。本稿のような感想を述べる「CP」受講者は、非常にたくさんいます。この感想を耳にすると、私は営業リーダーの同行ステージが上がったと判断しています。
2019年11月26日
コメント(0)
『反日種族主義』やっと入手■ずっと売り切れ状態でした。昨日やっと入手しました。発売2週間でなんと3刷になっていました。韓国の李栄薫ら著『反日種族主義』(文藝春秋)のことです。本書の内容はほとんど、ネット「李承晩テレビ」で観ています。韓国人の反日の正体を解き明かした、正義の刃ともいえる優れた論文です。激怒する韓国人も多いようですが、韓国でも10万部超の大ベストセラーになっています。韓国人にも日本人にも、必読の一冊です。山本藤光2019.11.26
2019年11月26日
コメント(0)
206:町民への説明会 標茶町公民館には、二百人ほどの町民が集っている。標茶温泉郷構想についての、町民説明会がはじまった。会場には、藤野敏光・詩織親子や万代徹の姿もあった。宮瀬町長のあいさつの後、斉藤観光課長が壇上でマイクを握った。そしていきなり本題に入った、「標茶町に、新たな温泉ホテルを四軒新設します。いずれも大小百室を備えた、団体から家族までが宿泊可能な規模の予定です。隣りの弟子屈町には、大小十八の温泉施設があります。しかしいずれも団体客は、収容できない規模のものです。阿寒町は二十二施設ですが、一日の収容客数は約六千六百人となります。標茶町の新たなホテルは、一軒あたり三百人は収容可能なものです。したがって四軒で千二百人は収容できます。これに既存の温泉ホテルをプラスすると、千五百人程度の温泉客の誘致が可能になるわけです」 会場からは、大きなどよめきが起こった。斉藤はここで、温泉郷創設の目的へと話を展開する。「みなさんご存じのとおり、標茶町の人口減少は著しく、移住者への町営住宅無料貸与などの対策では、歯止めが利かない状況にあります。現在夏場限定で開催している標茶町ウォーキング・ラリーと冬の雪中運動会は、それなりに効果を示しています。しかし冬場は観光客のない閑散とした町であることは、みなさんご存じのとおりです。幸い標茶町には、珍しい水質のモール温泉があります。標茶温泉郷はそこに着目し、一年を通して観光客を呼べる町への転身を、意図したものであります」 斉藤はここで、一呼吸おいた。会場を埋める町民の顔を眺めながら、斉藤は少し安堵して続ける。「たくさんの観光客がくると、必然土産物店がなければなりません。四軒の新設ホテルの向かいには二十軒ほとの新たな商店街を建設いたします」 平穏だった会場から、ブーイングが起きた。会場の前列に陣取っていた、駅前商店街のメンバーからであった。斉藤はあらかじめ用意していた、駅前商店街に向けたメッセージを語りはじめる。「駅前商店街のみなさんの商いは、これまでは町民に限定されたものでした。そこに新たな観光客が、加わるわけです。つまり、新たな顧客ができることになりますから、プラスアルファの収益が生まれます」 司会から「質問を受けます」と告げられた。駅前商店街の会長・佐々木隆介が質問に立った。「お客さんの大半は車できます。つまり新設の温泉郷へ直行する人が、ほとんどでしょう。私たちの駅前商店街は、おいてきぼりとなります。ここにどんなメリットが発生するのか、はなはだ疑問であります」 さらにびっくり食堂の経営者が、質問に立った。「私の食堂を含めて飲食店は、ホテルに客を取られることは歴然としています。駅前商店街の飲食店は、今でも目立っているシャッター店と同じことになってしまいます」 北村広報課長がマイクを持った。「ホテルの宿泊客は、あらかじめ朝と夕食は予約時に申しこみがあります。したがってホテルの宴会場は、これらのお客さんで満席になります。町民の入りこむ余地はありません。だから既存のお客さんが、奪われることは考えられません。それよりも観光客の昼食は、ホテル外でとられることになります。駅前商店街の飲食店のみなさんは、ここに新たな可能性を見出していただきたいと思います」 多少の反対意見はあったが、町民への説明会は無事に閉会された。会場にいた恭二は、一歩前進と胸のなかでつぶやいた。
2019年11月25日
コメント(0)
143:1人を伸ばすと――第12章:発展する同行 SSTプロジェクトは、3人が1組になってひとつのチームに派遣されます。1人のSSTメンバーは、2人しか同行しません。したがって、6人の営業担当者しか同行しなかったわけです。当然ながら、同行できない営業担当者がいました。 しかし彼らへの波及効果は、とてつもなく大きなものでした。レベルアップする仲間を見て、刺激されるわけです。 現在企業へ導入中の「CP」では、半年間で1、2名との集中同行を実施してもらっています。1人が伸びると、まわりが引っ張られるからです。チームメンバー全員と均一な同行をしていると、際立った成長が現れにくいものです。 育成同行する営業担当者には、「製品ファイル」を作ってもらったり、営業カバンの中身を整理させたりします。すると、周囲の営業担当者も同じことをはじめます。できるだけチームメンバーがオフィスにいるときをねらい、そうした基本的な作業をしてもらうわけです。 こんな逸話がありました。SSTプロジェクトのときの話です。 そのチームには、9人の営業担当者がいました。誰一人「製品ファイル」は作成していませんでした。こうしたツールは、強制的に作らせても活用されません。本人が納得しなければ、無用の長物になってしまいます。 SSTメンバーと営業担当者は、せっせと「製品ファイル」作りをしました。誰も関心を示しませんでした。そのうちに、営業担当者の業績が上向いてきます。全員が「製品ファイル」作りを開始しました。 営業リーダーが特定の誰かと、集中的に同行します。これだけでもメンバーの関心が高いのに、業績が上がってきたことを知ると、必ず良質のマネ現象が起きます。だから安心して、1人に集中してもらいたいと思います。「CP」導入会社でも、こうした事例はたくさんありました。チーム会議で集中同行の趣旨を説明し、1人に特化しただけで、チーム内の様相は一変しました。信じて「選択と集中」を実現してもらいたいと思います。1匹の猿が、イモを塩水で洗って食べます。それが群れに広がり、ある閾値(いきち)(たとえば100匹目)を超えると、他の群れにも伝播します。これが「100匹目の猿現象」といわれているものです。
2019年11月25日
コメント(0)
『中学生からの大学講義』シリーズがいい■2020年度版手帳を購入。今年も能率手帳です。2019年11月25日から記入できるので、本日からこちらに切り替えています。商談などの日程管理がなくなった私の手帳は、もっぱら「朝書き」スタイルです。本日の欄には、「〇ケストナー:飛ぶ教室」kindle、「〇コールズワース:林檎の樹」kindle、と書きました。これらの本を電子書籍で購入するぞ、とのメモ書きです。購入したら〇を●とします。何やら新しい意欲が湧いてきました。■すべて読み終わったら中学生の孫にプレゼントしたいのは、『中学生からの大学講義』(筑摩ブリマー新書)全5巻です。まだ第2巻の途中ですが、豪華な執筆者の講義に感心しまくっています。シリーズのタイトルを紹介しておきます。◎何のために「学ぶ」のか◎考える方法◎科学は未来をひらく◎揺らぐ世界◎生き抜く力を身につける執筆者について、興味のアル方は、ぜひ検索してみてください。山本藤光2019.11.25
2019年11月25日
コメント(0)
205:郷土のために 恭二の日常は、にわかに忙しくなっていた。観光協会会長として、現在六カ所に分散している温泉ホテルと旅館を、一カ所に集約させなければならない。移設には、多額な資金が必要になる。どこも簡単には、首を縦に振ってはくれない。町の信用金庫支店長を説得して、資金融資の段取りはつけた。それでも藤野温泉ホテル・アネックス以外は、承諾してくれない。 恭二はあと一軒が賛同してくれれば、雪崩現象が起こると踏んでいた。恭二はウォーキング・ラリーの宿泊客を受け入れてくれた、セントラル温泉と満月家ホテルに集中することにした。標茶町温泉郷のオープンは、二年半後の九月一日と決められていた。したがって、恭二は今年の夏までには、ホテル移設の承諾を得なければならなかった。同時にホテルを取り巻くように形成される、土産物店の入居者も決めなければならない。居酒屋むらさきと佐川民芸店は、いち早く賛同してくれている。「温泉客をどう迎えるのか。その青写真が見えない。あまりにもリスクが大き過ぎる」 これがセントラル温泉の社長・万代徹の、懸念であった。恭二は北村広報課長とともに、何度も万代のもとに足を運んだ。事態が進展しないまま、時は空しく流れた。 恭二は最後の賭けのつもりで、先日北村から聞いた話を万代にぶつけた。「実は東京の大手ホテルチェーンが、名乗りを上げてきています。私としてはできるだけ、よそ者の参入は防ぎたいと思っています。生まれ育った故郷の再建は、地元の私たちが担わなければなりません。万代社長、どうかリスクを取ってください。もちろんお客さんのことは、私たちが全力をあげてやり抜く覚悟でいます」 恭二は深々と頭を下げた。空気が動いたような気がした。顔を上げた恭二に、万代は大きくうなずいてみせた。「乗ったよ。標茶町の再建の話に。生まれ育った郷土のために、尻ごみをしているわけにはいかない」 万代の手を取り、恭二は思わず宙を仰ぐ。「万代社長、ありがとうございます」
2019年11月24日
コメント(0)
142:次への課題を与える――第12章:発展する同行 同行は、やりっぱなしではいけません。本日の活動を検証し、明日への課題を与える必要があります。これを怠っては、営業担当者のレベルアップにつながりません。 同行を終えた時点で営業リーダーは、部下に次の同行までの課題を与えます。口頭で言うだけではなく、メモにして渡さなければなりません。口頭だけでは言った方も忘れてしまうし、言われた方も真剣に対応しません。1枚のメモが、上司との固い約束になるのです。 課題は、1度にたくさん与えないことが大切です。たくさんの課題を与えると、受け取った方は困惑してしまいます。また達成欲も、散漫になりがちです。 メモを書くときは、言葉を丸めてはなりません。たとえば「顧客ニーズを探る活動をレベルアップさせること」などと、書いてはいけません。こんなメモを受け取った営業担当者は、具体的なイメージを描けるはずがありません。「顧客のオフィスにある書籍や会話から、最大の関心事を探り出すこと。探り出したら、それを顧客に問いかけてみること」 このように書くと、営業担当者は具体的な活動を想起しやすくなります。「言葉を丸めない」ということは、営業リーダーが体得しなければならない大切なスキルなのです。 次への課題を授けるのは、検証し評価することにつながります。つまり、同行と同行に連続性が生まれるわけです。先に「指導の連続性」に触れましたが、極めて大切なことです。 当然のことながら1枚のメモは、営業担当者をほめる材料でもあります。営業リーダーは次回の同行時に、前回のメモを受け取り、達成度合いを確認しなければなりません。そして、ほめてあげるわけです。 私は同行時に、メモ用紙をはさむアクリルの板を多用しました。同行する営業担当者の「本日の訪問予定」をはさみ込みます。メモ書きのときの台にもします。ときにはウチワ代わりにもなったし、日よけとしても使いました。SSTプロジェクトでは、1人のメンバーが2人の営業担当者と同行しました。最初の1週間をAさんと同行したら、翌週はBさんと同行します。Aさんには、単独で活動する1週間の課題を与えています。これを繰り返すことで、同行効果が高まるのです。
2019年11月24日
コメント(0)
『日本文学史・年表』は「重宝している感謝コーナー」に■韓国が一転、GSOMIA継続を発表しました。これは韓国の意思ではなく、アメリカの強い姿勢を忖度したものです。これで情報交換がスムーズになるとは思えません。しかし日韓摩擦の融解に向けての、一歩となることは確実です。■私が書棚の「重宝している感謝コーナー」の特等席に置いてあるのは、『日本文学史・年表』(松原新一・秋山駿・磯田光一・共著、講談社)です。本書は赤線とポストイットだらけです。作家と代表作を短く適切に、紹介してあるのが本書の優れた点です。小口にも強いヤケがでてきており、活字も色あせています。再刊してくれないかと期待しているのですが。山本藤光2019.11.24
2019年11月24日
コメント(0)
204:それぞれのお祝い 居酒屋むらさきには、宮瀬幸史郎、宮瀬可穂、藤野詩織、猪熊勇太、そして瀬口恭二が顔をそろえている。招集をかけたのは勇太だった。「ゴールデンウイーク中なのに、全員が顔をそろえてくれてありがとうございます。本日は喜ばしい報告がたくさん聞けると思って、声をかけさせていただきました。では座っている順番で、最初はコウちゃんから」「このたび、宮瀬建設社長に就任しました。合わせて標茶町温泉郷推進委員にもなりました。温泉の町標茶を目指して、一生懸命頑張ります」「プー太郎だった瀬口恭二は、標茶町観光協会会長とおあしす館長、そして温泉郷推進委員の職をいただきました。標茶町発展のために、身を粉にしてがんばります」 続いて藤野詩織が立った。「再来年オープン予定の、藤野温泉ホテル・アネックスの支配人に任命されました。まずは、料理人や従業員のスカウトからはじめます。どなたかいい人がいたら、ぜひ推薦してください」 「赤ちゃんを授かりました。お腹が目立たないうちに結婚式をあげます。来週式場と相談しますので、決まったら案内させてもらいます。ぜひきてください」可穂は上気した顔で、そう報告した。また拍手が鳴り響いた。世話役の勇太が立った。「おれにも、めでたい話ができました。酪農の勉強にきてくれていた、例のミユを嫁さんにすることにしました。以上」 拍手をしながら、恭二は満たされた気持ちになった。それぞれの道を歩き、それぞれが幸せをつかまえている。いい仲間だなと思う。ミニ同窓会からわずか数ヶ月で、みんなの今は大きく様変わりしている。それがうれしかった。 恭二は、詩織の隣りに席を移した。「詩織、お帰りなさい。黙って東京へ行って、帰ってきても連絡もくれない。冷たいな、詩織は」「春に何かが起こる。それだけを楽しみにして、勉強してきたんだ。雪が溶けるのを、ずっと今か今かと待っていたのよ」「伝えたいことのその一はね……」「ちょっと待って。伝えたいことはいくつあるの?」「その三で完結する。今日はその一だけ、伝える」「何だか、ドキドキしてきちゃった」「詩織へ、その一。結婚したことも旦那のことも、一切合切を消し去ること。今後はなかったこととして、おれと詩織のなかには絶対に、カケラすら見せないこと。それがクリアしたら、知らせてもらいたい」 詩織はじっと、恭二の目を見ていた。瞳のなかには、私がいる。詩織はきっぱりと告げた。「恭二、絶対に実現させる」
2019年11月23日
コメント(0)
141:同行時のツール(2)――第11章:同行時の話法・ツール「○×メモ」 顔つなぎの訪問には、「うまく行った」「失敗だった」という結果がありません。つまり○と×がなく、△の訪問なのです。こうした営業担当者には、「○×メモ」を使っていただきたいと思います。 営業リーダーは同行時に、面談目的を必ず確認します。定期訪問とか顔つなぎを、許してはなりません。面談を終えます。営業リーダーは、○か×で成果を記入します。1日の育成同行を終えて、1勝でもしていれば成果ありです。 この習慣は、他のメンバーにも実行させたいものです。訪問目的が希薄な営業担当者は、意外に多いものでぜひ活用してください。 「今日は何勝何敗だった」が、定着したチームがあります。訪問目的が明確になり、成果が上がってきたとの報告もありました。「片想いスケール」 どうしても攻略しなければならない、顧客がいたとしましょう。営業担当者には、次のように問いかけてもらいたいと思います。それが「片想いスケール」です。特に製薬会社のMRは、同じ医局のなかで競合会社としのぎを削ります。 私は「初恋の教室」と称して、「片想いスケール」を次のように説明しています。上司「教室のなかに、好きな異性がいたとしよう。きみなら、どうする?」部下「相手のすべてを知りたくなります」上司「そうだよね。そのあとはどうする?」部下「ライバルとの差別化のために、自分を売り込みます」上司「そうだよね。それから?」部下「デートに誘います」 あなたの部下は、どのステージにいるのでしょうか。同行時に「片想いスケール」を使って、顧客攻略状況を確認したいものです。 ◎考えてみましょう・「PPF話法」は、営業担当者を気持ちよくさせます。その理由を考えてみましょう。・「身の丈コンピタンシー」は、営業担当者に考えさせ、ワンランク上の活動を可視化させます。通常のコンピタンシーモデルとの違いを、考えてみましょう。
2019年11月23日
コメント(0)
『サイラス・マーナー』再読■午前1時20分起床。書斎の室温は16度でした。昨日から降り続いていた雨は、まだ止むことをしりません。昨日の雨は、雪になるかと思ったほどです。エアコンの暖房を入れ、気合いで着替えました。■ただ今午前4時。ブログを発信する時間です。室温は26度。快適な環境になりました。■ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』を、光文社古典新訳文庫(小尾芙佐訳)で再読介しています。すでに、土井治訳(岩波文庫)の書評は発信しています。手元に岩波文庫を置いて、ときどき比較しながらの読書ですので、時間がかかります。山本藤光2019.11.23
2019年11月23日
コメント(0)
203:アネックスの建設 路肩の雪が溶け、標茶町に春がきた。瀬口恭二は宮瀬町長と、藤野温泉ホテルを訪問した。恭二は何度も、社長の藤野敏光とは交渉してきた。本日は、その決裁が下りる日だった。「宮瀬町長の標茶温泉郷プランは、願ってもないものです。信用金庫の支店長とも、相談しました。増築ではなく思い切って、別館を建設しようとの結論になりました。藤野温泉ホテル・アネックスとして、百室規模とさせていただきます」「それはありがたい。町として観光客誘致は、大々的にやらせていただきます。藤野社長に承諾していただいたので、これで温泉郷プランに弾みがつきます」 宮瀬は満面の笑みを浮かべて、頭を下げた。傍らの恭二も、自然に顔がほころんでいる。「アネックスの方は、娘の詩織を支配人にします。今後の交渉は、詩織とやっていただきます」 藤野は恭二に目をやり、何度もうなずいてみせた。今日も詩織の姿はなかった。宮瀬家からの帰り道、恭二は本物の春になったら、大切なことを告げるといった。しかしそれ以降、詩織とは会っていない。これまでに何度か訪問しているが、どうしたのかと心配になっていた。そんな恭二の胸中を察したように、藤野は恭二に向かっていった。「詩織は東京で、ホテル経営の教室に通っています。三ヶ月コースなので、来月には戻ってきます。だから交渉はそれからにしてください」 詩織は恭二に何も告げずに、東京へ行っている。恭二はそこに並々ならぬ、詩織の固い決意を見た。おれたちは温泉郷に向けて、走りはじめたのだ。恭二は満ち足りた気持ちで、宮瀬とともに藤野温泉ホテルを辞した。宮瀬が玄関に向かって、両手を広げた。「ここに五階建てくらいの、ホテルが並ぶんだよ、瀬口くん」「町長、青空に向かって伸びる、赤い鉄骨が見えるようです」 宮瀬町長は恭二に腕を差し伸べ、「頼むよ」といった。恭二は力強く、「はい」と返した。
2019年11月22日
コメント(0)
140:同行時のツール――第11章:同行時の話法・ツール 同行時に部下のレベルに合わせ、次のようなツールを用いてもらいたいものです。「情報タワー」 情報収集が苦手な営業担当者には、「情報の山」を使ってみてください。①未攻略の重点顧客を1人選ぶ。②紙を渡し、知っている限りの情報を書かせる。(下から上に向かって記入させる)③書き終えたら頂上に赤いラインを引く。(その上が新しい情報となる)④次のことを、営業担当者に伝える。「現在これだけの情報だから、顧客攻略が進んでいない。情報の数が増えれば、活動の幅も広がる。だから、既存情報の山に、新たな情報を積み上げよう」 同行時には営業リーダーも「情報の山」を持ち、部下の情報収集力を鍛えることができます。情報は何でもありです。顧客の応接室の写真が、新しくなった。こんなことでも、立派な情報です。これを商談のオープニングに使ってみましょう。営業担当者「この前まで樹氷の写真でしたが、満開の桜に変わっていますね」顧客「よく気づいたね。季節感が大切だからね」営業担当者「そうですよね。これからの季節は当社の○○の出番です。陳列スペースをもう少し増やしていただけませんか」「情報タワー」をコンクール形式で、実行している受講者がいます。全員が1人の未攻略顧客の名前を書き、オフィスの壁に張って高さを競い合っています。情報タワー」は、会議で用いるのも効果的です。情報を得た部下の活動は、明らかに変わってきます。営業リーダーは情報入手の大切さを、まずチーム内に浸透させなければなりません。(続きは明日)
2019年11月22日
コメント(0)
橋本治『父権制の崩壊あるいは指導者はもう来ない』がいい■毎朝「アホウ、アホウ」と啼くカラスがいます。カラスは縄張りから遠出はしないようです。それで思い出したのですが、■「烏/なぜ啼くの/烏は山に/可愛七つの/子があるからよ」(野口雨情・作詞、本居長世・作曲)の「七つ」とは、七羽のことなのか、七歳のことなのか、と議論したことがあります。圧倒的に「七羽」派が多かった記憶があります。私は「七歳」を主張したヘソ曲がりでした。■橋本治『父権制の崩壊あるいは指導者はもう来ない』(朝日新書)には、「追悼」の帯がつけられています。本書を読んでいて、百田尚樹『今こそ、韓国に謝ろう』(飛鳥新社文庫)と重なってしまいました。「男たちの論理で作られた世界よ、さようなら」と帯にあるとおり、みごとに男尊女卑の日本社会を切り取っています。山本藤光2019.11.22
2019年11月22日
コメント(0)
202:温泉郷推進室 標茶町役場の一室に、「標茶町温泉郷推進室」の看板が掲げられた。本日が第一回目の会議である。瀬口恭二と宮瀬幸史郎の顔もある。責任者の斉藤観光課長から、温泉郷構想の具体的な説明がなされた。「オープンは三年後の九月一日。それまでに、客室百超のホテルを四軒建設します。観光客向けの商店は、当面二十軒を予定しています。ここまでで何か質問はありますか」 恭二が手を上げた。「藤野温泉ホテルの客室数は五十ですが、増築するなりの対応が必要ですか?」「そこまでは検討していません。四軒並べることが現状での最大の課題です」「四軒のホテルをフル稼働させるための、具体策をおうかがいしたいんですが」 幸史郎は、北村広報課長の方に顔を向けて質問した。「団体客を集めるための方策を、現在検討中です。大手旅行会社への働きかけを含めて、修学旅行や同窓会なども誘致したいと考えています。あとは新聞などのメディアの活用と、テレビコマーシャルも念頭に入れています。そのほか駅などでのポスター掲示なども、視野に入れています」 恭二は、また手を上げた。「温泉を訪れる客のウエイトは、団体よりも個人が増えているという話を耳にしています。個人客に向けた有効なメッセージも必要だと思います」「個人客の誘致には、観光資源と料理を含めたホテルのもてなしが重要になります。見る、体験する、食べる、を満喫していただくしかけは大切でしょうね」 北村の話を引き取って、斉藤が続けた。「これは過去にない、標茶町の大事業です。町民の一人ひとりも、観光客誘致の大使になってもらわなければなりません。先日議会で承認されましたが、冬場対策の一環として、『おあしす』に温水プールを建設することになりました」 恭二は初めて聞く構想に、驚きを隠せない。手を上げて、質問する。「冬でも活用できる温水プールは大賛成ですが、規模とか併設施設とかはどうなっていますか?」「五十メートルで八レーンの競泳大会が可能なサイズです。二階には、スポーツジムとサウナとシャワー室を予定しています」 宮瀬町長は力強く、標茶町を引っ張っている。恭二の脳内に、標茶町の地図が広がる。まだ白地図だったが、「おあしす」と温泉郷の部分に、淡い色が浮き出てきた。恭二は力になりたい、と思った。ホテルと商店街の誘致は、恭二の役割になった。ここに固有名詞を書きこむのが、恭二に期待されている役割だった。
2019年11月21日
コメント(0)
139:呼称の進化論――第11章:同行時の話法・ツール 同行時に上司は確実に、部下と顧客のコンタクトレベルを掌握できます。相手に対する部下の物腰とかしゃべり方で、顧客との距離は推察できます。 私は次の方法で、客観的なコンタクトレベルを測ることを勧めています。顧客が部下を何と呼んでいるか。これでコンタクトレベルはわかります。私はそれを「呼称の進化論」と呼んでいます。 病院の医局の例で、考えてみてください。医局にはA、B、C社のMR(医薬情報担当者=営業職)がいます。ソファーに医師が座っていて、それを取り巻くようにMRが立っています。医師「きみ(A社のMR)、その新聞を取ってくれないか」医師「B社さん、その新聞を取ってくれないか」医師「山本さん(C社のMR)、その新聞を取ってくれないかい」◎考えてみましょう 3社のMRのなかで、医師と最もコンタクトレベルが高いのはどこの会社でしょうか。もうおわかりですよね。顧客は親しくなるにつれ、営業担当者の呼び方を変えます。 営業リーダーは部下が顧客から、何と呼ばれているかを観察していればいいわけです。この方が先入観なしに、判断することは可能です。営業担当者の「PDCAサイクル」で示すなら、呼称の進化は部下にも理解させるべきです。呼称の進化は、「C:新しい何かを発見する」と大切な要件となります。「課長、A先生がやっとぼくの名前を覚えてくれました」 部下が目を輝かして報告してくれます。当然「やったな」と応じます。それから「いよいよ、踏み込んだアプローチのときだな」などと、話し込むわけです。同行すると、顧客は「きみ」や「B社さん」を封印せざるを得ません。呼びかけた対象が2人いるのですから、必然的に部下の固有名詞を用いることになります。コンタクトレベルをあげるチャンスが、同行にはあるのです。
2019年11月21日
コメント(0)
『北村薫のうた合わせ百人一首』がいい■自分の口臭は、本人には感じ取れません。老臭はどうだろうと、腕に鼻をあててみました。無臭。この試みで同窓会のときに、友人が放った一言を思い出しました。30年振りに顔を合わせた初恋の人のことを、「老けていてがっかりした」といったのです。彼は自分の老化に、気づいていないのでしょう。■『北村薫のうた合わせ百人一首』(新潮文庫)は、毎日1ページずつ読み進めています。2つの短歌を組み合わせて、その世界を広げたり深く見詰めたりしています。北村薫らしい独特な世界が、2首の短歌に彩りを与えてくれます。短歌にはこんな謎解きができるのだ、と感心しました。山本藤光2019.11.21
2019年11月21日
コメント(0)
201:町長からの委託 宮瀬哲伸町長から呼ばれて、瀬口恭二と宮瀬幸史郎は町長室に入った。「二人には、標茶町温泉郷の推進室に入ってもらいます。臨時雇用ですが、二人にはその中心メンバーになってもらいたい。瀬口くんには、私の後任として標茶町観光協会会長および『おあしす』の館長をお願いしてある。幸史郎には、宮瀬建設の社長を継いでもらうと頼んだ。ただし今回の温泉郷の建設事業は、越川多衣良(たいら)社長の越川工務店とジョイントビジネスとして実施してもらいたい。町民から後ろ指を差されないように、これだけはしっかりと厳守すること、いいかな」「ありがとうございます。喜んで引き受けさせていただきます」 恭二はいった。気合いのこもった声だった。「ありがとうございます。多衣良社長とは力を合わせて、温泉郷建設にあたります」 幸史郎も、きっぱりといった。「標茶町には二人の力が必要だ。観光課の斉藤課長と広報の北村課長が、温泉郷推進委員会の責任者だから、二人とは綿密な連絡を取り合うようにしてもらいたい」 町長室を出た二人は、「おあしす」の喫茶コーナーで向かい合っている。「明日から、恭二がここの館長だ。夏場はすごい賑わいだけど、冬になるとスカスカになってしまう。まずはその対策が必要だな」「ここも大切だけど、何としてでも四軒のホテル誘致が難題だ。セントラル温泉や満月家ホテルなどと、早急に交渉しなければならない」「おれの方も、多衣良社長とは選挙で争っている。前町長の越川さんの長男の応援で、あっちもずいぶん汚い手を使っていた。殴り合いにはならなかったが、まずは血みどろの町長選挙の後始末が必要だ」 二人は思い思いに、胸のうちを語り合った。二人の肩には、ずっしりと責任という重しが乗った。
2019年11月20日
コメント(0)
138:宣伝回数の倍増――第11章:同行時の話法・ツール◎考えてみましょう 通常、営業担当者は、前記のような宣伝をしています。営業担当者はBの商談を決めて、Aの底上げを図りたかったのです。ところが、長い商談になると、後半で顧客がいらだつケースは多いものです。 この流れでは、2品目宣伝は絶対にできません。2品目宣伝が、確実にできる話法を紹介しましょう。営業「いつも当社のA(既存納入品)をお世話になっています。お客さんの評判はいかがですか?」顧客「まあ、ボチボチというところかな」営業「ありがとうございます。今後とも入力をよろしくお願いします。ところで本日は、かねてからお話させていただいている、B(新規納入攻略品)について……」 おわかりでしょうか。このケースでは、既存品のお礼を最初に行っています。その後、本題に入っているのです。これなら、2品目宣伝は確実に実施できます。物理的に1日10人としか面談できない、営業担当者がいたとしましょう。この人のコール数(宣伝品目数)を倍にするのが、2品目宣伝となります。同行時に営業リーダーは、この話法を指導しなければなりません。イベントや製品説明会に参加してくれた顧客についても、しっかりと面談数に含めてください。営業担当者にとって、マスアプローチは大切な仕事ですから。
2019年11月20日
コメント(0)
瀬戸内寂聴『寂聴九十七歳の遺言』読むぞ■安部総理主催の「桜を観る会」は、税金を遣った選挙対策であることが露呈しました。長期政権のゆるみなのでしょう。こんなことに税金を遣う卑しさが許せません。世の中には困っている人がたくさんいます。政府は姿勢を正さなければなりません。■瀬戸内寂聴『寂聴九十七歳の遺言』(朝日新書)購入。「死についても楽しく考えたほうがいいわね」というコピーに心を奪われました。当然、待機本棚に入れます。ただし、本書は割り込みで、すぐに読むことになるでしょう。山本藤光2019.11.20
2019年11月20日
コメント(0)
200:温泉郷への第一歩 宮瀬哲伸は議会の就任あいさつで、標茶町温泉郷の構想を語った。「標茶町は人の数よりも、牛の数の方が多い町になってしまいました。そしてこの町は、冬期の半年間は死んでしまいます。農業も林業も建築も、冬場は仕事を失っています。そんな標茶町を、何としてでも活性化させたい。そんな一心で、町長選挙に立候補させていただきました。 標茶町を一大温泉郷にする。私の公約は、冬場も活気を取り戻す標茶町の建設であり、観光客が押し寄せてくる標茶町の創造であります。幸い標茶には、良質なモール温泉があります。これを活用して温泉ホテルを建設し、観光客の誘致を図ります。冬場に職を失っていた人の雇用を回復し、標茶町民への収益還元も実現させます。 町議のみなさんにも、標茶町温泉郷実現に尽力していただきたいと思います。ゴールは三年後の九月一日。この日に標茶町は生まれ変わります」 町長の演説が終わった。議場は大きな拍手で包まれた。傍聴席にいた恭二は、宮瀬哲伸のとてつもないパワーを実感していた。「空気まで死んでいる」といっていた、亡き南川理佐の言葉がよみがえる。宮瀬町長は、大型で強力な扇風機を持ちこんだ。それで死んだ空気を、一掃しようとしている。恭二の胸のなかに、新しい空気が送りこまれてきた。「いい演説だったな。恭二、長い間選挙の応援をしてきたけど、やっと報われたな」 隣りの幸史郎は、耳元でささやいた。宮瀬町長に続いて、斉藤観光課長が演台に立った。「宮瀬町長からお話のあった標茶町温泉郷構想の具体例を示します。現在藤野温泉ホテルのある地区を、温泉郷といたします。そこには客室数百くらいの規模の、温泉ホテルを四軒建設します。藤野温泉ホテルの現在の客室数は五十ですので、倍の規模のホテル建設となります。そして藤野温泉ホテル前の空き地に、観光客のためのお店を作ります。釧路からの電車の本数が少ないので、送迎用のバスを二台用意します。このバスは単なる送迎だけではなく、町民の足としても活用してもらえるように、現在ルートを検討中です」 恭二の脳裏にはくっきりと、新しい標茶町の絵が浮かんだ。大きな転換に、何としてでも寄与したい。萎んでいた胸に、新たな活力がみなぎってきた。恭二はそう感じた。
2019年11月19日
コメント(0)
137:2品目宣伝を確実に――第11章:同行時の話法・ツール ルートセールスの場合、訪問軒数と宣伝品目数が多い方が売上は上がります。ただし、大前提に活動の「質」があることを忘れてはなりません。活動の「量」だけを、追っかけている会社は多いものです。それはそれで、間違ってはいないのですけれど。 せっかく量の検証をするなら、そこに質を加味していただきたいと思います。それが本書の趣旨でもあります。質の検証ができるのは、営業リーダーしか存在しません。しかも検証するのは、現場で実証以外にはあり得ません。 2品目宣伝を、容易にできる話法があります。次のショートストーリーで、考えていただきたいと思います。◎ショートストーリー 顧客は、製品Aを採用してくれています。営業担当者は、さらに製品Bを納入したいと活動しています。これから示す営業担当者には、2品目宣伝をする余裕がありません。営業(パンフレットを指し示しながら)「おはようございます。本日は、何とかBをご採用いただけないかと、おじゃまさせていただきました」顧客「同じような他社製品を採用しているので、これ以上製品は増やせない」営業「市場では、私どものBが圧倒的に売れているのですが……」顧客「きみのところは、利益率が少ないので採用できない。それとも、大幅に値引きができるようになったの?」営業「それはできませんが、量がさばけるように、ポスターやキャラクターを大量に用意させていただきます」顧客「ダメだね。通路が狭くなっちゃうし、そんなもので売れるとは思えない」営業「そこを何とか」顧客(いらだちをみせはじめる)営業「何とか前向きにご検討いただきたく、お願いいたします」(退席)
2019年11月19日
コメント(0)
ウェブスター『あしながおじさん』読むぞ■家には2つのホワイトボードがあります。一つは大きなサイズのもので、小説などの構想を練るときに用います。もう一つはA4サイズほどのもので、こちらは机上においてあります。メモ用紙の代わりです。こちらはひんぱんに活用しています。重宝しています。■新潮文庫の「名作新訳コレクション」シリーズは、味わい深い選択をしてくれています。本日は書棚から、ウェブスター『あしながおじさん』(岩本正憲訳)『続あしながおじさん』(畔柳和代訳)を引っ張り出しました。本書は幼いころから知っていました。しかし、まともに読んだことはありません。最近、児童文学が恋しくなっています。山本藤光2019.11.19
2019年11月19日
コメント(0)
199:雪が溶けたら 当選後の宮瀬家には、あいさつの客が絶えることがなかった。恭二と詩織は幸史郎に招かれて、リビングでお祝いをしていた。客がくるたびに、宮瀬哲伸は席を立った。「大変なことになったね。これじゃ先が思いやられる……私はね、絶対に落選すると思っていたから、安心していたんだけど」 宮瀬の妻・昭子は、玄関に向かう夫の後ろ姿を見ながら、小声でいった。「これでは、部屋のなかが暖まらない。玄関が開くたびに、冷たい風が入ってくるんだから」 可穂の隣りには、婚約者の長島がいた。長島は可穂の話を受けて、ぶるぶる震える格好をしてみせた。「宮瀬さんが町長になったんだから、標茶は大変身する。詩織のところを中核にして、一大温泉郷を建設するのは、普通の人ではできない発想だよ」 恭二の言葉を受けて、詩織はすぐに続けた。「私も同感。うちのお父さんは、宮瀬町長が決まった日に、一人で祝杯を上げてひっくり返っちゃった」「恭二の仕事も決まったし、めでたい春になったな」 幸史郎は手酌で冷酒を注ぎ、うれしそうな視線を恭二に向けた。「感謝している。責任は重いけど、頑張るよ」 宮瀬が玄関から戻ってきた。「たまらないね。こんなにあいさつ客が多いのは、初めての経験だ」「仕方がないわよ、町長さんになったんだから」 昭子の言葉と重なるように、またチャイムが鳴った。ため息をついて、宮瀬は玄関へ向かう。そして大きな声で告げる。「昭子、彩乃と恭一さんだ」 リビングに姿を現した彩乃のお腹は、バレーボールからビア樽に変わっていた。「お父さん、町長就任おめでとうございます」 恭一はそうあいさつしてから、恭二を認めて「何だ、恭二もきていたのか」といった。「恭二くんはね、今年から標茶町観光協会会長兼『おあしす』の館長だよ」 宮瀬の説明に、恭一の顔がほころんだ。「それはよかった。恭二、おめでとう」 恭二は詩織と一緒に、宮瀬家を辞した。「詩織、家まで送って行くよ」「久し振りだね。恭二と並んで歩くのは」 残雪に足を取られかけて、詩織は恭二の腕にしがみついた。そしてそのまま、腕を組んで歩いた。外は冷え冷えとしていたが、詩織の体温は寒気を跳ね返していた。「詩織。おれの人生を、宮瀬さんの構想に賭けてみる。やっとやりたいことが、見つかったって感じだ」「よかった。恭二の決意表明は、私がしっかりと聞いたからね」「詩織、おれたち、やり直せるかもしれない。本物の春になってもこの気持ちが変わっていなかったら、おれ、きっと大切なことを詩織に告げそうな予感がする」「恭二、雪が溶けたら何になるか知ってる?」「水だろう」「ブー。春になるのよ」 笑った拍子に、二人はしっかりと手をつないでいた。
2019年11月18日
コメント(0)
136:掲示板に――第11章:同行時の話法・ツール◎ショートストーリー(掲示板に張られたベスプラの前に、2人の営業担当者が立っている。2人とも、ペットボトルのお茶を持っている)A「『お客さんに、○○(競合品名)を使っているのはなぜですか』と直接質問するって書いてあるけど……」B「そんな質問をしたら、叱られるに決まっているだろう」A「でもここには、何度も試みているけど、1度も怒鳴られたことはない、と書いてある」B「漫然と使っているお客さんは多いよな」A「ということは、当社の○○をなぜ使っていただけないのですか、という質問も考えられるよ」B「ちょっと過激だけど、1度試してみる価値はありそうだ。よし、このベスプラに1票入れてあげよう」「CP」終了後も、ベスプラは継続されています。たった1枚の紙片が、ベスプラを生き生きとさせるのです。成功例の聞き取りは、全員に満遍なくやる必要はありません。営業リーダーなら、部下の成功例を掌握しているはずです。同行時に「いいいな」と思ったことを、さりげなく聞き取ります。それで十分です。営業リーダーには自分のチームの成功例を、全国に発信する義務があります。
2019年11月18日
コメント(0)
『未来力養成教室』がいい■インターフォンが鳴った。二人の警官だった。「お住まいになっているのは、お二人ですよね」と問われて、「はい」と答えた。「台風の被害はありませんでしたか」と尋ねられた。半年前にも同じ警官がきている。大いに評価できる仕事だと感心している。警官の戸別訪問は、地域社会に安心をもたらしてくれる。■日本SF作家クラブ編『未来力養成教室』(岩浪ジュニア新書)は、新井素子らの創作秘話をまとめたものです。中学生の孫に読んでもらいたいと、とりあえず下読みしてみました。夢があって、非常に楽しく読むことができました。SFの世界は私には描けません。ただし孫には読んでもらいたいと思いました。山本藤光2019.11.18
2019年11月18日
コメント(0)
198:町長選挙 四月を目前にして越川町長の死去に伴う、標茶町長選挙が行われた。立候補したのは、前町長の長男・越川誠一と宮瀬哲伸の二人だった。父の弔い選挙の越川の方が、下馬評では圧倒的に有利だった。越川誠一は、越川ミート販売の社長であり、標茶町商工会議所の理事長である。 宮瀬には標茶町を阿寒や川湯や弟子屈のような、温泉郷にしようという夢があった。幸い標茶町に湧く湯は、植物性のモール温泉である。宮瀬は近隣の温泉と、十分に差別化ができると読んでいた。藤野温泉ホテルを中核として、その周辺に温泉ホテルを並べる。ところが宮瀬の主張は、突拍子もない夢物語と、首をかしげる人が多かった。宮瀬の選挙事務所には幸史郎が陣取り、恭二も事務所の手伝いをした。劣勢は明らかだった。酪農の町から、温泉の町への大変身。これは壮大なプランだった。街頭や電話での調査の結果、標茶町での支持者が少ないことが判明した。磯分内や虹別などでは、宮瀬はそれなりに善戦していた。恭二は幸史郎と相談して、中心部の票の掘り起こしに全力を注入した。選挙戦が後半に入ったとき、宮瀬に神風が吹いた。北海道新聞の地方版に、「おあしす」が取り上げられたのである。――未来空間「おあしす」に学ぶ――子どもと老人が笑顔で交流する場の奇跡 新聞にはこんな見出しが躍り、老人と子どもが額を寄せ合い、笑っている写真が掲載された。宮瀬は、訴えを切り替えた。標茶町ウォーキング・ラリーと雪中運動会、町民に開放した「おあしす」の実績を、前面に押し出したのである。多くの人は、宮瀬の実績を認めている。温泉の町構想は有権者にとって、現実味を帯びたものに変わった。流れはこっちにきた。票読みをしながら、恭二はそう確信した。 そして宮瀬哲伸は下馬評を覆して、標茶町長に就任した。宮瀬は当選祝いの席で、幸史郎に宮瀬建設社長のポストを譲った。そして恭二には、標茶町観光協会会長と「おあしす」の館長就任を委託した。
2019年11月17日
コメント(0)
135:A四用紙のベスプラ――第11章:同行時の話法・ツール ベスプラとは、「ベストプラクティス」の略です。いわゆる、営業担当者の成功例のことです。企業の多くは、「ベスプラ」をデータベースとして蓄積しています。ところが、あまり活用されていません。量が多過ぎて、使い勝手が悪いからです。 私が提唱しているのは、データベースとは別に、紙でのベスプラを発行することです。A四用紙には、7、8例の成功例が入れられます。 ベスプラは発行のたびに、掲示板に張り出します。営業担当者は缶コーヒーを飲みながら、ベスプラを読むようになります。 掲示板の脇には、投票用紙が設置されています。営業担当者は「使えるな」と思ったベスプラに、1票を投じます。その番号が集計されて、データベースのベスプラに「賛同ポイント」が入ります。 現場で実践して成功したら、それもデータベース室に報告されます。今度は「成功ポイント」が追加されます。 最も「賛同ポイント」「成功ポイント」が高いベスプラには、MVP賞が与えられます。 実際にこの方法を導入した企業の評価は、極めて高いものです。ベスプラは確実に読まれるようになり、MVPを受賞することが営業担当者のステータスになっているほどです。 営業リーダーの重要な仕事に、「知の循環」があります。壁に張り出された「ベスプラ」を常時持ち歩き、営業担当者に実践させるのです。私は何枚ものベスプラを持って、同行していました。 顧客の状況を聞き取り、それにふさわしいベスプラを読み聞かせます。「使ってみましょうか」という具合になります。 ベスプラは、営業担当者に書かせてはいけません。他の人がマネできるような内容でなければ、せっかくのベスプラは活用されません。営業担当者に書かせると、「こんなのは当たり前だから」との思い込みが入り、肝心な部分が抜け落ちてしまいます。 ベスプラを良質なものにしたいのなら、営業リーダーがインタビューをしてまとめるべきです。ベスプラ作成は、同行時における営業リーダーの大切な仕事なのです。
2019年11月17日
コメント(0)
ジョージ・エリオット『ミドルマーチ2』購入■昨日は大学のサークルのOB会。東京八重洲へ行きました。見慣れた建物はすべて消滅していました。八重洲ブックセンターは残っていました。しかし、そこにいたる全ての建物は消えていたのです。東京駅八重洲周辺は、すさまじい変貌をとげようとしています。■ジョージ・エリオット『ミドルマーチ2』(光文社古典新訳文庫、廣野由美子訳)購入。第1巻が出てから3ヶ月ほど経ていました。全⒋巻なので、完結までは時間がかかりそうです。『ミドルマーチ』はすでに『講談社世界文学全集30.31』(工藤好美・淀川郁子訳)で読んでいます。私が最も感銘を受けた海外文学です。新訳は全巻が揃ってから読むことにします。山本藤光2019.11.17
2019年11月17日
コメント(0)
197:宮瀬家のマジック 六時きっかりに、浴衣姿の詩織と可穂がやってきた。恭二たちの部屋には、すでに食膳が並べられている。「可穂はここ。詩織はそっちで、恭二の隣り」 幸史郎は、席の指図をしながら笑っている。全員が座ったのを確認して、可穂は首を傾げる。「私の隣りが空いている。人数を間違えて注文したんじゃないの?」 可穂の疑問に答えず、幸史郎は一方的に開会を宣言した。「では一番親しかった、高校時代の仲間とのミニ同窓会をスタートさせます。その前に、ゲストをお呼びしています。どうぞ、お入りください」 上がり口の襖に向かって、幸史郎が声をかけた。襖が開いた。長島太郎先生だった。標高新聞が全国一になったときの顧問であり、E組の担任だった。照れたような顔をして、長島は可穂の隣りに座った。「では兄貴から、妹可穂について発表させていただきます。このたび可穂は、長島先生とめでたく婚約しました」 大きな瞳をさらに大きくして、詩織はいった。「可穂おめでとう。びっくりしちゃった。そして長島先生、おめでとうございます」グラスが持ち上げられ、「おめでとう」と乾杯した。可穂と長島は上気した顔で、「ありがとう」と声をそろえた。「知らなかった。長島先生が可穂の旦那さんになる。これはビッグニュースだ」 勇太は驚いた表情を、二人に向けた。可穂も長島も、幸せそうだった。「可穂、馴れ初めを語りなさい」 詩織の要求に、可穂はまた赤くなりながら語りはじめた。高校三年のときの標茶町ウォーキング・ラリーに、長島は東京から遊びにきていた、姪っ子を連れてきた。可穂は、オランダ阪の担当だったので、そこで出会った。夕食を誘われ、長島と大学生の姪っ子と一緒に食事をした。それがおつき合いの、きっかけだった。「標茶町ウォーキング・ラリーは、きみたちが生み出したものだ。姪っ子は、すごく喜んでくれた。その誕生秘話というのかな、そんな話を可穂にしてもらいたかったんだ」 長島は可穂のグラスに、ビールを注いだ。「日本三大がっかり名所が、縁結びになった。あれも、捨てたもんじゃないな」 勇太の言葉に、みんな笑った。高校時代には、こうしてよく笑い合った。恭二は場を盛り上げなければならない、と自らを鼓舞する。そしていった。「宮瀬家って、マジシャンみたいだ。宮瀬哲伸さんは可穂から、母の昭子さんを奪った。そして当時の菅谷兄妹を、養子に迎えた。長男の幸史郎は専務として宮瀬建設を支え、長女の彩乃さんはうちの兄貴と結婚した。そして長島先生まで、宮瀬家との縁組みをしてしまった。つまりおれと長島先生は、親戚になるということだ」「恭二、複雑な人間関係を、整理してくれてありがとう。そうだよね、みんな親戚になっちゃったんだ。宮瀬家のマジック、か」 詩織は恭二のグラスにビールを注ぎながら、感慨深げだった。恭二は心のなかで、つぶやいていた。ひょっとしたらきみも、宮瀬家と縁戚になるかもしれない。
2019年11月16日
コメント(0)
134:黄金連鎖――第11章:同行時の話法・ツール 同行するにあたり、営業リーダーは「営業活動のバリューチェーン(価値連鎖)」を理解していなければなりません。営業活動を大きく分けると、次のようになります。①知識(製品知識、情報など)②ターゲティング(重点顧客の選定)③アクセス(面談効率)④ディテーリング(話法、ツールの活用、クロージングなど) 4つがつながっていれば、その営業担当者は優秀なはずです。しかし、多くの営業担当者は、どこかの部分が弱いはずです。 営業リーダーは4つのどこの部分が、つながっていないのかを冷静に判断します。そして、つながっていない部分を、集中的に強化しなければなりません。 そのときに使うのが「身の丈コンピタンシー」なのです。◎ショートストーリー あなたが営業リーダーであるなら、このショートストーリーに答えていただきたいと思います。筆者「あなたの同行は、部下のレベルアップにつながっているだろうか。この観点から、5点満点で何点くらいだと思いますか?」あなた「……」筆者「それでは、あなたの考えるもうワンランク上の同行って何だろう?」あなた「……」筆者「それはいい、ぜひ実現してもらいたい」あなた「……」「身の丈コンピタンシー」は、1度にたくさんの質問をしてはなりません。お互いに質問項目を忘れてしまいますし、目指すものが散漫になります。1つの活動がレベルアップしたらほめてあげ、次の課題に取り組むようにしたいものです。「CP」では営業リーダーと部下が面談し、3つだけレベルアップすべき活動項目を、決めてもらっています。1つがクリアされたら、新たなレベルアップ目標を定めるのです。営業担当者にとって等身大の「身の丈コンピタンシー」を、データベースにしはじめた企業があります。こちらの方はすぐに実践可能なので、営業担当者にとってもとりつきやすいとのことでした。
2019年11月16日
コメント(0)
『東京百年物語』がいい■クリーニング屋から戻った妻が、「夕方にはできあがるって書いてあったけど、夕方って何時のことだろう?」と質問してきました。何とアバウトなお店でしょうか。16時くらいのことかなと思いました。調べてみると、気象庁の見識だけが時間を記載していました。15時から18時までのようです。ただし他の辞書は、「日が暮れ始めて夜になるまでの間」(大辞林)のような表記しかありません。■『東京百年物語』(全3巻、岩波文庫)は、東京にまつわる作品のアンソロジーです。「大切な蔵書コーナー」においてあります。目次を見ながら、時々作品に触れます。昨日は、田村俊子『東京の公園』(第2巻所収)を読んで心を揺さぶられました。著者を読むのは初めてでした。アンソロジー本の楽しさは、未知の著者に触れられることです。山本藤光2019.11.16
2019年11月16日
コメント(0)
196:ミニ同窓会 宮瀬幸史郎から、電話があった。――同窓会、行くだろう。 出席するつもりはなかったので、完全に失念していた。標茶高校の同窓会は、農閑期の三月に毎年開催されている。恭二は一度も出席したことがなかった。返事を渋っている恭二に、幸史郎は告げた。――同窓会の前日に、おれたちだけでミニ同窓会をすることに決めた。勇太も詩織も可穂も出席だ。当然、恭二もメンバーに入れてある。同窓会は欠席でも構わないが、こっちには必ず参加してくれ。 恭二の家まで、幸史郎の車が迎えにきた。宮瀬可穂が乗っていた。詩織は、勇太の車でくるという。約束時間よりも早めに、川湯温泉ホテルに到着した。すでに詩織と勇太は、ロビーで談笑していた。「やあ、田舎落ちの恭二、しばらくだな」 勇太は詩織の隣りを指差し、恭二が座るなりいった。恭二は電車のなかの、クロスワード老婦人を思い出した。「都落ちならわかるけど、田舎には落ちるべきところがないの」 恭二も笑いながら、いい返した。そのやり取りで、あっという間に、過去と現在がつながった。「恭二、明日の本番は、欠席なんだって?」 詩織が問いかけてきた。「みんなには、会いたくない。でも今日のメンバーは別だ。元気をもらいにきたよ」 受付を済ませた幸史郎は、女性陣に鍵を渡しながらいった。「食事は六時。部屋へ運んでもらうことにした。それまでは温泉に入るなり、のんびりと過ごしてもらいたい。おれたちは、ビールを買ってから部屋へ行く」 詩織と可穂が姿を消したのを確認してから、幸史郎は「サプライズを用意してある」と笑ってみせた。恭二には、想像ができない。 ビールを飲みながら、お互いの近況を語り合った。勇太はタイから酪農研修にきている、ミユさんの話をしきりとした。「初めて雪を見て、みんな大はしゃぎだよ。タイ人は礼儀正しいし、まじめだ」幸史郎は冬場に働けなくなる、土建業の変革について熱く語った。「冬期間、たとえばオオバとかカイワレを栽培するなど、建築業も新たな事業を手がけるべきだ」 しかし恭二には、語るべきことが何もなかった。
2019年11月15日
コメント(0)
133:身の丈コンピタンシー――第11章:同行時の話法・ツール 企業のコンピタンシーモデルは、あまり活用されていません。活用されない理由は2つあります。データ量が多過ぎて、読むのが困難である点。レベルが高過ぎる行動モデルであるため、平均的な営業担当者には真似ができない点です。 私たちが勧めているのは、「身の丈コンピタンシー」。営業担当者自身に、ワンランク上の活動を考えてもらうのだから「身の丈」の冠がつきます。同行現場で、こんなふうに進めるわけです。上司「ところで、きみのクロージング力は、5点満点で何点くらいだと思う?」部下「平均ぐらいですから、3点ですかね」上司「では、きみが考えるもうワンランク上のクロージングって、どんなものだ?」部下「……」上司「時間をあげるから、じっくりと考えてごらん」部下「顧客に買ってくださいと言えることです」上司「それはいい。きみの4点はそれにしよう」 4点は何でもよかったのです。営業担当者自身がそれを考え、可視化させることが大切なのです。自分がひねり出した、ワンランク上の活動です。彼ら自身が責任を持って、クリアするように努力するようになります。 同行時に気になった活動があったら、営業担当者に「身の丈コンピタンシー」を投げかけます。またほめてあげる材料が、増えたわけです。
2019年11月15日
コメント(0)
『百年文庫』は何処に■2010年の「読書人」という新聞に、ポプラ社から『百年文庫50巻同時刊行』という見出しがありました。必要があって『11巻・穴』を書棚から出したら、切り抜きがはさまっていました。切り抜きには、辻井喬「穴と人間」という文章があります。線引き部分を読んでいいなと思いました。転記します。■人間には三種類あって、穴に居続けることを好む人、穴から出ようと苦労する人、穴に入っていることに気づかない幸福な人に分類できるのはないかと私は思っている。この文章から、安部公房『砂の女』を思い出しました。■ちなみに「百年文庫」は書店でほとんど見かけなくなりました。不発だったようです。私は6冊持っています。この文庫の行く末については、あとで検証してみたいと思います。山本藤光2019.11.15
2019年11月15日
コメント(0)
195:航空便の封書二月中旬、浅川留美から、思いがけない航空便の封書が届いた。ニューヨークからの発信だった。――恭二へ。今、ニューヨーク支社で働いています。支社といっても単なる店舗で、私はそこの店員というわけです。突然、居なくなってしまって、心配かけたと思います。ごめんなさい。 恭二が長崎へ赴任している間、私は寂しさのあまり、職場の部長の強引な誘いに応じてしまいました。その関係が何度か続き、目撃されたこともあって、社内で大問題になってしまいました。 人事部長に呼ばれた私は、その関係を認めました。そして翌日、突然アメリカ支社への転勤を命ぜられたのです。いわゆる追放、島流しというわけです。辞めさせようとの、意図が見え見えでした。 恭二、本当にごめんなさい。あなたを裏切ってしまいました。先日会社に電話をして、あなたの退職を知りました。どこに住んでいるのか、わかりませんので、とりあえず実家宛に送ることにしました。 ときどき恭二と過ごした、六年間を思い出しています。その延長線上に、会社勤めの恭二がいて、キッチンには私がいるの。私は食卓で、せっせと小説を書いている。そんな未来を私は、軽薄な行為で吹き飛ばしてしまいました。 もうお会いすることは、ないと思います。楽しいたくさんの思い出を、ありがとうございます。どうか幸せになってください。アメリカは、結構住みやすいところです。楽しく店員をしていますので、ご安心ください。恭二、さようなら。浅川留美。 留美の手紙を封筒に戻し、強い女だなと思った。身の処し方が、毅然としているとも思った。そして恭二は、留美と詩織が似ていることに、初めて気づいた。頭のなかで、留美の丸くて右肩上がりの文字が躍っている。恭二はもう一度、便せんを引き出す。最後に書かれいる、「さようなら」の文字を眺める。これは二人で過ごした、あの日に対する決別なのか。おれに対する決別なのか。恭二は測りかねてしまう。恭二は便せんを封筒に戻し、もう会うことはないだろう留美を封印する。
2019年11月14日
コメント(0)
132:前回・今回・次回――第11章:同行時の話法・ツール過去・現在・未来の質問を、発展させたのが、次のやりとりとなります。こちらは、前回・今回・次回を質問します。上司「今度の顧客は、前回訪問時にはどんな具合だったの?」(前回を質問している)部下「パンフレットを渡したのですが、読んでももらえませんでした」上司「それは残念だったな」(共感している)上司「それで今回はどんな成果をねらっているの?」(今回を質問している)部下「今日はパンフに、ラインマーカーで線を引きました。そこだけは、読んでもらいます」上司「それはいい。今度はうまくいくさ」(賞賛している)上司「パンフに目を通してもらっ手考えて送って言われたかど、どうなると思う?」(次回を質問している)部下「○○を買ってもらいます。来月には、この店のトップ商品にしたいと思います」上司「それはすごい。私も協力するから、実現しよう」(ゴールを共有している)「PPF」は、1分間で完結する話法です。営業担当者は質問に答えるたびに、「共感・賞賛・支援」されるので、心地よく顧客訪問ができる展開になっています。「PPF」を会議で、活用している企業があります。重点顧客の発表を、「前回、今回、次回」の形でまとめるのです。そうすると、活動の進捗状況がよくわかります。活動が未来軸に動いていたら、順調に攻略していることになるわけです。「PPF」を顧客攻略履歴として、データベースにしている企業もあります。営業担当者の活動が理解できるので、引継ぎのときに重宝するようです。
2019年11月14日
コメント(0)
全90件 (90件中 1-50件目)