渋い声で呼ばれ、顔を上げる司馬懿。そこにいたのは―


 夏候惇元譲。通称『惇兄』。ナイスでダンディーな16歳である。

 そこにいたのが夏候惇だと知ると、司馬懿の表情がみるみるうちに明るくなった。

 『とんに―――!!!v』

 あまりの嬉しさに飛びつく。さすがの夏候惇も、突然抱きつかれてちょっとよろけた。

 『お、ぉぃ…… …って、お前、一人か?』

 『!!!』

 諸葛亮がいないことに気がつき、抱きつきながらも必死に辺りを見回す。

 『なぜそこの坂から転がってきたんだ?…何かあったのか?』

 『………~~~~ッ』

 急に司馬懿が今にも泣き出しそうな顔になるので、あわてふためく夏候惇。

 『わっ、す、すまんっ。な、泣くなよ?待て。落ち着け!』

 夏候惇、 お前が落ち着け。

 どうしたらいいのかわからず、とりあえず不器用に司馬懿の頭を撫でる。

 『まぁ…その、なんだ。はぐれたんだな…?』

 目にいっぱい涙を溜めて無言でコクコクとうなずく司馬懿を見て、夏候惇はそれを肯定と受け取った。

 『そうか…では俺が連れて行ってやろう。…いや、その前に』

 『?』

 『お前傷だらけではないか…転がったときにつけたのか?…手当てをせんといかんな…子供の傷はほっとくとひどくなる』

 それ以前にそのまま連れて行ったときの諸葛亮の反応が 恐ろしく怖い。

 『しかしまいったな…俺はこういうのは苦手でな。誰か得意そうなヤツは…』

 『そこで何をしていますの?夏候惇殿』

 甄姫登場。ナイスタイミング!!!

 『おぉ、甄姫か!!!』

 『何ですの? …あら、…司馬懿!?その傷はどういたしましたの!?』

 『それがだな…そこの坂から転がり落ちてきたんだ』

 『あらあら…すぐに手当てを。ちょっとお待ちくださいな。すぐ戻りますわ』

 そう言ってその場を離れると、本当にすぐ帰ってきた。小箱を抱えて。

 『応急処置ならばすぐできますわ。…夏候惇殿、 もちろん手伝ってくださりますわよね?

 『………あぁ。』

 甄姫の一瞬のものすごい気迫に、夏候惇敗北。

 『消毒なので、ちょっと沁みますが…我慢してくださいな』

 『うん! …痛っ!』

 『…ふぅ、これで良し、と… ああ夏候惇殿、その布を細く長く切ってくださる?』

 『わかった。』

 夏候惇が切ったその布を、甄姫は器用にくるくると司馬懿が怪我をした部分に巻く。

 『…はい、これで一応は大丈夫ですわ』

 『甄姫おねーさん、ありがとう!!!』

 司馬懿は無邪気な笑顔でお礼を言う。

 『…た、たたたたいしたことありませんわっ//// 帰ったら、ちゃんとお母様に診てもらうんですのよ?』

 『うん!』

 『ははは、良かったな、司馬懿』

 『それでは、私はこれにて』

 『ああ、突然ですまなかったな、俺からも礼を言う』

 『ふふ。それより、その子をちゃんと彼の元へ返してあげてくださいね?』

 『ああ。任せておけ。いくぞ、司馬懿。』

 そう言って歩き始めようとするが、司馬懿は足も怪我をしていたことを思い出す。

 『そうだな…よし…肩車してやろう。乗れ』

 『ホントっ!? わーいっvvv』

 『今日だけ特別に、だぞ?…孟徳には内緒な?』

 あいつは嫉妬深いからな、と夏候惇には珍しく悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 『わぁ、とんにーたかーい!vすごーい!vvv』

 惇兄は頭上できゃっきゃっとはしゃぐ司馬懿を落とさないようにするので精一杯だった。

 それゆえに木陰からこちらを見る曹操には気づかなかったわけで。

 『うぬぬ…元譲めッ!!!わしというものがありながら…!!!』





 『ほれ。ついたぞ。』

 『とんにー、ありがとう!!!』

 『気にするな。たいしたことではない…。それより、ちゃんと傷を診てもらうんだぞ』

 『うん!!!』

 司馬懿は ばいばーい、と夏候惇に手を振り家の中に入っていった。

 『さて…俺も帰らねば。孟徳のやつが心配する…』

『うちの子に手ェ出だすとは良い度胸ですね…?』

 『ひィっ!?』

 振り返ればそこにやつがいる、とはよくいったもので、振り返るとそこには諸葛亮の 鬼のような黒い笑顔

 『しょ、諸葛りょ…』

 『問答無用ッ!  信賞必罰!!!

 その後、夏候惇の叫び声が夕焼けの草原に響き渡ったことはいうまでもない。


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その後、ぼろぼろで黒こげになった夏候惇は、城に戻るなり甄姫に

『やっぱりそうなりましたのね…ご愁傷さまですわ』

と言われ、ちょっぴり涙が出たとか…。


しかも曹操に『元譲なんか嫌いじゃっ!!!』と大泣きされ、まる2日はへこんだとか。


その後。

 ↑夏候惇と曹操しか出てきません。苦手かつ嫌な方はご注意を。


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