☆Loui’s             Kingdom☆

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担当医「S」先生のこと



NICUのページにこれまで書いてあるとおり、私はこの先生が苦手だった。

年はいくつくらいだろう、私よりは上のはず。40手前くらいではないか。
ここの病院の小児科医は7名おり、「部長」がいて、「副部長」が2名いて、その次に「医師」が4名。この4名の中に「S」先生がいて、そのなかでは一番上のようだ。いわば中堅どころ。

NICUでも見かけたら、パパはちゃんとあいさつするけど、私は先生が恐くて、嫌で、避けていた。Loui’の状況についての説明はほとんどパパに聞いてもらって、私は先生に背を向けていた。

仏頂面だし、言葉に暖かみが感じられなく、小児科医になったのは「親が病院をやっていて、その息子だから」もしくは単に「頭が良かったから」「ステイタスが高いから」であって、きっと真に人を助けたい気持ちでなったわけではないんだ、子を思う親の気持ちなんて絶対理解できない人だと思っていた。

入院中、私は産科の看護師に「あの先生、苦手だ」「嫌だ」「嫌な担当医にあたった」と何度もぼやいていた。看護師は「いい人なんだけどね~」といいながらも、言葉はそれで終わってしまうので、「やっぱり、あんまりいい人ではないんだ」と思っていた。

産科の担当医は総回診の際、私に「あの先生は言葉にちょっと配慮が足りないから、動揺もあるかもしれないけど、気にしなくていいよ。」と言った。きっと、初めてNICUで「S」先生からLoui’の状態の説明を受ける前に、私が取り乱したことを、どこかで聞いたのだろう。

先生に対する印象が少しずつ変わっていったのは、先生の左指にはめてある指輪を発見してからだ。

年も年だから結婚ぐらいはしているだろうなとは思っていたけど、「ちゃんと指輪はめてんだー」とちょっと感心。うちのパパも私もちゃんとはめてるけど、あんまり結婚指輪って男の人しないよね。女の人も。

それから、頭のエコーの検査をするため保育器の中のLoui’に語りかける様子。
「はい、Loui’ちゃぁん、ごめんなぁ、頭ズリズリするねぇ」

「ちゃぁん?」「ズリズリ??」
まさか「S」先生が、赤ちゃん用語を言うとは!(ハッキリ言って、顔に似合わない・・・)妙に笑えた。

私たちに話す言葉遣いとは違い、赤ちゃんに対しては、とても優しい口調。

退院後の1カ月健診。小児科医2名が担当していて「S」先生もそのうちの一人なので、1カ月健診は「S」先生でお願いすることになった。

Loui’は退院してから1カ月健診までの1週間のあいだに約700グラムも増えていて、健診時、「S]先生はビックリしていた。

「Loui’ちゃんは、ママのおっぱいをたくさん飲んでいるんだねぇ~
。いいことだね~」

まだまだ先生に対する私のイメージは良いとは言えなかったけど、先生は子どもが好きなんだなと思えるようになってきた。

Loui’の写真尽くしの年賀状を作成し、NICUのスタッフ一同と「S」先生に小児科付けで送付した。「おかげさまでこんなにすくすく育ってます」とコメントを書いた。

年が明けて、すぐ1月7日に4カ月健診。担当は「S」先生。
Loui’を連れて診察室へ入ると開口一番、
「かわいい年賀状をありがとうございました」と言った。「あの年賀状の写真と比べると、Loui’くんまた大きくなってるねー」と、ちゃんと年賀状を見てくれていたのだ。

このころから、Loui’の顔には湿疹がでていて、アトピーのことも聞いた。すると先生は、「私事だけど」と言って「湿疹も心配なことなんだけど、3番目の娘にも湿疹があったんだけど、治った。けど喘息を患っていてね。ずっと薬飲んでるんだ」と、打ち明けてくれた。

先生がプライベートなことを私たちに語ってくれたことと、先生に3人もお子さんがいること、しかも娘3人だということに、ビックリした。私は、前に先生は子を持つ親の気持ちなんてわからない、なんて思っていたけど、大間違いだった。先生は親であり、子どもを愛してる。私たちの気持ちも理解している。

4カ月健診を終えて、自宅へ戻ってポストを確認すると、なんと「S」先生からLoui’宛てに年賀状が届いていたのだ!!これには大変驚いた。

イラストのあるハガキに
「かわいい年賀状をありがとう。お父さん、お母さんの愛情をたっぷりもらって、元気に大きくなって下さい」
とメッセージが添えられていた。
忙しい勤務の中、Loui’に年賀状を書いてくれたのだ。

Loui’に届いた、生まれて初めての年賀状だった。

先生に対する嫌なイメージは完全に払拭された。


◇現在◇

総合病院なので、風邪くらいだと、近くの町医者へかかるけれどもその後も、健診や外来、ほとんど全て「S」先生にお世話になっている。

以前、結膜炎(はやり目)で救急へかかったとき、「S」先生が仕事を終て病院を出るときに、待合いで待っているLoui’を見つけ、Loui’のところまでやってきて、様子を伺いに来てくれた。

誤嚥で救急車で救急へ到着したときは、偶然「S」先生が当直をしていて、私たちが救急車から降りるなり「誰かと思ったらLoui’ちゃんだったのか」とすぐにわかってくれた。

「S」先生は、私たちのことをもよく知ってくれている。私が働いていて保育園へLoui’を行かせていることも知っている。既往歴もよくわかってくれている。一日何百人という外来を扱っているから、覚えてもらっているのはごく少数なのではないかと思う。NICU出身でも、記憶にのこらない赤ちゃんもいると思う。

「S」先生は私たちの信頼のおけるLoui’の主治医だ。







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