Gun's Free

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Apr 24, 2007
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カテゴリ: 日記小説



 八方塞がりだった。
 官邸では今回の一連の事態に対し、緊急対策本部が開設されていた。
 名称が、調理部案件対策室本部となってしまい少々情けなくはあるが、しかしながら対象とすべき、進行している事態はどこまでも深刻だった。
 中国政府は今回の事態に対し、知らぬ存ぜぬを押し通していた。
 それは事実そうではある様なのだが、身内の一部局の暴走を止めるべき、何らかの対処は取って然るべきであるにも関わらず、その兆候すら確認できず、むしろ、今回の事態を”壮挙”として歓迎している節すら見受けられる。だが、それはある意味当然とも言えた。中国からすれば既に敗北必至の第二次冷戦、米中の権力闘争の狭間で、在日米軍こそ撤収させたものの未だ北米連合の中核となって、中国を締め付けて来ている、仇敵、日本。その日本をここまで翻弄して見せたのだ。流石に表立った支援や公認こそ出来ないものの、好意的中立の立場を維持することで、事態をより紛糾させ中国優位の環境を築こうとしているらしかった。交渉は無駄だった。
 一方、遮るものとてなく飛行船は悠々と南下を続けていた。
 護衛の、アクティヴ・ステルス機能を持つフリースタイル2機はその光学迷彩を解き、突然空中に現れた機影に地上の観衆が驚きの声を上げている中それをあざ笑うかの様に2、3度バンクを打つと、機首を返し帰還コースに乗った。
 そう、飛行船は日本本土に上陸を果たしていた。
 無論、初動で迎撃を受け持った空自、航空総体司令部では激論が戦わせられた。
「今、撃墜すべきです!。例えどれだけの犠牲を払おうともです」
 先任士官は譲らなかった。
「その為の自衛隊です、醜の御盾です、ここで逡巡してどうするんです!!」
 その通りではあった。しかし。
「風向きはどうなんだ」
 司令官が確認した。
 あ、と先任士官は声を上げた。
 結果は絶望的だった。今の風向きで飛行船を撃墜すれば、風下に位置する1隻の外国船籍貨物船と1隻の梅雨明けの日本海に乗り出した観光客を満載した遊覧船、そして市街地の一部にも被害が及ぶ危険があった。
「BC兵器などブラフに決まって・・・」
 先任士官の声はか細く消え入った。
 ブラフ、恐らくは、いやたぶん。
 だが、事実であったとしたら。
「それでも・・・撃墜すべきです!!本土に上陸させてしまっては事態は今以上に悪化・・・」
 言葉は尻すぼみに空中に溶けた。そんなことは誰でも判っている。
 これ以上の損害を出し、撃墜に成功したとして。
 BC兵器が本当に搭載されていた場合、どうなるのか。
 そのときだった。管制官が飛行船の増速を伝えてきたのは。もう迎撃すら間に合わない。
 飛行船が領空侵犯に成功した時点で、始めから何もかもが手遅れだったのだ。

 日本本土への上陸を果たした飛行船は、頃やよしとしたか発信するメッセージを切り替えた。
 我々は、現在日本から中国へ向けられている、不当な圧力に抗議すべく決起した有志一同である。
 日本は卑劣な米帝の走狗となって、中国に対し不当な圧力を掛け続け、結果として不当な利益を貪っている。
 これは直ちに是正されねばならない。
 その誠意の証として、取り合えずミユキ・アンドウの身柄を中国に引渡すことを我々は要求する。

 支離滅裂な声明だったが、ここに遂に美由紀の名前が出て来たのだった。

 引き渡したくても美由紀の身柄は依然、日本政府の元にはなかった。無論あってもそういう交渉に応じるつもりは無かったが。安藤美由紀は未だその所在が全く不明だった。あるスタッフは既に国内に居ないのではと発言し、いや既に死亡している可能性もと別のスタッフが言う。かもしれないかもしれない。そうしたときだった、新しい情報が入って来たのは。警視庁から出向して来ているスタッフが声を上げた。
「荒川の検問が何者かの手で突破されました。乗用車一台が都内に侵入、車種は不明ですが大型のジープとの報告。現在可能な全、移動に追跡を命じています」
 安藤美由紀と”ジーマ”だ。ほぼ全員が同時に叫び声を発していた。首相は官房長官の顔を見た。彼も深く頷いていた。おそらく間違いはなさそうだった。





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Last updated  Apr 24, 2007 10:35:43 AM
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