GOlaW(裏口)

2005/04/14
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 この世に力は溢れている。
 財力は無論、”権力”、”情報”、…そして”個人の資質”。

 信念の無い力は”暴力”だ。
 求められぬ力は”無力”だ。

 物語は主人公が”力”を伴わぬ信念を挫かれ、”信念の無い力”に己の非力を諭されるところから始まる。


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 前半、島男が高柳を見る眼は、戸惑いと同時にどこか切なさを感じさせました。
 それは、『自分が生きることのできなかった可能性』を見出していたからだったんですね。

 人間は生きるうちに、幾つもの選択を迫られ、幾つもの可能性を切り捨てて生きていきます。
 だからこそ、失われた可能性を懐古し、惜しみ、憧れることもあるんです。

 島男は母親から海岸でそのことを指摘されたとき、笑いで誤魔化しながら話題を変えます。
 そのときはまだ”懐古ですが、確かに”失われた可能性”と直面し、それと向き合ったんですね。

 …『株式会社ハイアイランド』、『天才プログラマー』という失われた可能性と。

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 『情けは人の為ならず』、ただ己のために。
 その言葉を島男は信念にしてきました。彼はそこに”人の情と神の助け”という力を見出し、確かな力と思い込んでいました。

 でも、本当は硝子のように脆い”日常”を支え、留めおく力など、欠片も無かったのです。

 彼は”力”を伴わぬ信念を挫かれ、6年前に切り捨てた”可能性”―あるいは”夢の残滓”―と再び直面します。
 彼は僅かに残った信念-人の情-を頼りに、もう一度”失われた6年間”を生き直そうとするんです。


 失った可能性、捨てた夢を取り戻すことは、決して誰にでもできることじゃありません。
 捨てることで得たものを、全て捨てて、なお痛みを乗り越えなきゃいけない。
 島男はそれを一話の段階(母と仕事を失い、他者から自分の型をはめ込もうとされる)から経験しています。

 でも止められないのは、歩き続けることで首をもたげ始めた”夢の残滓”のためだと、途中で主人公と視聴者は気づかされるんです。

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 高柳には財力があります。
 それは確かに力です(個人的には”情報”や”権力”の方が遥かに強いと思いますが)。
 でも高柳は”力”に飲まれ、”力”のために更なる”力”を求め続けています。

 制御されない”力”を持つ『フロンティア』は、ある意味で社会に対する爆弾なのかも知れませんね。

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 オフィスを、そしてパソコンを見る度に呼び起こされる”夢の残滓”。
 それは時に自分が抱いた”夢”の素晴らしさを、時に”これまで歩いてきた6年間”の残酷さを見せ付けます。

 それが彼を強く突き動かすのは、『新型ウイルス』を観たときです。


 呼び起こされる記憶と、在りし日の能力。
 分析し、触れることで、現実と自分の中のものがゆっくりと結びついていきます。
 理論を組み立て、脳内でシミュレートを行うと同時に。
 ”夢の残滓”が、確かな”夢”として生まれ変わろうとしているのを感じました。

 ”意志なき力”であったプログラマーとしての能力に、夢が結びついていく。


 人がその人生を変える瞬間に、私は魂が震えるのを感じました。


 全てを終えて、彼は”夢”が己の中に生まれ変わったのを知ったはずです。

 ”他にできることが無いから”突き進むのではなく、”それを成したいが為に”その場を目指すのだと。

 その変化に戸惑うからこそ、一旦はその場を立ち去ったのだと思います。
 でもこうなったら、彼は絶対に”オフィス”に戻ると思います。

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 彼の”夢”には、”個人の資質”という確かな”力”と結びついています。
 でも、信念はまだ伴っていません。
 彼にあるのは、挫かれた信念のみ。

 下手をすれば、彼の”夢”も『フロンティア』の抱えた欲望と同化するでしょう。

 ”夢”と”挫かれた信念”と、そして”信念なき力”とを島男の中で掛け合わし、”夢”を新たな信念として昇華した時。
 彼は”自分の資質”を本来のもの以上として振るうことができるのだと思います。

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 CG(コンピュータ・グラフィックス)の使い方が下手だ、というのは感じました。
 勿論、IT産業物でCGを使うのは非常に正しいと思います。
 ですが、金と時間を掛けるべきところの描写が下手で、要らないところに多用するのはまずい(汗)。

 『ネオクーロンB』(鷹見一幸著 角川スニーカー文庫)のP.376の台詞に「お前、本当に解析やっているんだろうな? お前の答えを聞いてるとゲームにしか聞こえんぞ」というものがあります。
 この『クラック(侵入)』『ウイルス』などのネット上の現象を描くのには、ゲーム的な映像描写が必須なんです。

 コンピュータを触らない人には、はっきり言ってラストの山場は「???」の連続です。それを置いていかず、緊迫した状況を伝えるには、台詞による説明よりも視覚による描写が求められます。
 現実と仮想現実が並行する様子を伝えるだけの力こそ、本来のCGの能力です。
 ですが、ラストはその力をまったく引き出せてません(涙)。

 CGでネットを描くのは、従来のドラマにおけるCG用法では足りないのかも知れませんね。
 今からでも遅くない、『ニトロプ○ス』(新鋭コンピュータゲーム会社)とか、その方面に強い人たちに協力要請だしてください(懇願)。

 …NHKのドキュメントばりのリアリティを、とはいいませんが、もう少しそれを意識した方が良いとおもいます。

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 島男の設定(昔の夢を、もう一度追いかける)というのは、これまでは脇役キャラに多い設定だったと思います(主人公に影響されて、夢を追いかけ始めるのが過去のパターン)。
 だからかもしれませんが、私のツボを完全に刺激しました(←脇役好き)。

 単なるサクセスストーリーではなく、『普遍的な切なさ』をも扱った物語というのも大好きなんです。

 できれば6年前の夢を捨てるきっかけを、作中でリアルに描き出して欲しいです。
 恋愛でも成功でもなく、”『普遍的な切なさ』をどこまでリアルに描けるか”、がこのドラマの明暗を示していると思います。

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 主演が自他共に認めるアナログ男のためか、かえってタッピング速度にためらいが無く、早打ちのリアリティがありました(怪我の功名)。
 うん、これなら実写版「トリニティ・ブ○ッド」の主役もやれる…スパコーンッ(←管理人、スリッパで叩かれる)。

 まあ、それはともかく、プログラマーという設定は胸が高鳴りますね。
 それも本来の意味で『ハッカー』という尊称の似合うキャラというのは、すんごく好きなんです。
 現実でもプログラマーの皆様を尊敬してますし。

(ちなみに、他者のコンピューターやサーバーに侵入することは、正しくは『クラック』といいます。
 世間で言われる、他人のコンピューターへの違法侵入者は『クラッカー』が正しい)。

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 『僕と彼女と彼女の生きる道』では、家族のために仕事を捨てる『小柳徹朗』を熱演した草なぎ君。
 今度の『鈴木島男』は、”かって家族のために捨てた夢を取り戻す”という、ある意味で対極にいるキャラクターです。

 私自身は『仕事と家族、両方を選んでこそ男の甲斐性!』という信念(←おひ。)なので、島男には頑張ってもらいたいですね。
 仕事に矜持を持つ男性が、一番かっこいいですよね。
 (『僕カノ』後半で主人公が仕事を捨てたことには、少し幻滅した)

 確かにヒロインがどこか天然入ってるところも、好感を持ちます。
 でも、仕事関係でこれだけ魅力的な要素が詰め込まれているので、むしろそちらを優先して描いて欲しいですね。

 これまでの価値観や信念が崩れゆく危うい部分。6年という月日が消える一瞬。
 主人公の心の揺れを、これからも”魅せてくれる”のを希望します。

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”夢の残滓”は本来の姿を取り戻し、”意志無き力”だったプログラマーの能力を呼び起こす。
 彼は”失われた6年間”を取り戻そうとする。

 ”夢”と”挫かれた信念”と、そして”信念なき力”。
 彼は意志と信念を”己の資質”に与え、歩き出せるのだろうか。


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4/19 追記。今回の演出に対して、鋭いツッコミがありました。
ドラマに見る「緊急対応」に対する一般的イメージ
 確かに、詳しい人から見たら、そうですよね(苦笑)。
 コンピュータには詳しくないのですが、ここはこれからもチェックさせて戴こうかと思います。





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Last updated  2005/04/19 01:23:56 PM
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