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恋愛セミナー40【若菜下】
源氏は柏木の文を何度も読み返し煩悶しています。
「なぜこうもはっきりとわかるように書くのだろう。私の時はもっと曖昧に誰とわからないようにしたものなのに。」
「女三宮のことをこれからも世話をしなくてはならないのか。紫の上をおいて。」
「帝に仕える妃が浮気沙汰を起こしたよりたちが悪い。正妻という並びなき立場でいながら。」
「柏木風情にこの私が負けるとは。」
そして、亡き父・桐壺院が実は藤壷とのことを知っていたのではないかと思い至るのでした。
小侍従は柏木にことの次第を書き送りました。
柏木は驚き、身の置きどころもない気持ちです。
今まで可愛がってもらった源氏がどう思っているかが気になり、外出もでできなくなる柏木。
女三宮についても姿を見られるような軽率さがあることを強いて思い、恋の熱を冷まそうとしますが、
やはり慕う気持ちを変えることはできません。
表向きの源氏は相変わらず女三宮を重んじて、安産のための祈祷もさせています。
六条院で顔を合わせると、嫌おうとしてもかえって恋しさがつのる源氏。
女三宮のおっとりした性格が今回の間違いを引き起こしたと考えると、明石の女御のことが心配になったり、
玉鬘が髭黒の大将で同じような目に合った時は上手に切り抜け、世間にも認めさせる形にしたことを
思い出したりするのでした。
源氏は朧月夜ともまだ関係を続けていましたが、女三宮のことでこうした隠れた恋が嫌になり、
彼女の流されやすい性格に対しても侮る気持ちが生まれてしまいました。
そうこうするうちに源氏には何も言わずに出家をしてしまう朧月夜。
急に惜しくなり慌てて文を届ける源氏。
「須磨にさすらったのは誰のためでしょうか。どうぞ日々のおつとめには残された私のことを一番に祈ってください。」
「何故あなたが残されたのでしょうね。おつとめは一切衆生(いっさいしゅじょう 仏が救う生きとし生けるもの)のため。
その中にあなたが入っていないということはありませんわ。」
朧月夜の最後の文を、紫の上に見せ、その冷淡さを嘆く源氏。
朝顔の君も出家しているので、紫の上は羨ましく思います。
朱雀院の五十歳の祝いは紫の上の病気のため、延期されたままです。
女三宮が懐妊しても源氏が六条院に戻らないことを聞いた朱雀院。
「何か不都合があったのでは?」と思い、「夫婦仲が悪くなっても耐えるように。」と女三宮に文を届けます。
「どう返事を書くつもりですか。」と言う源氏に顔を上げることができない女三宮。
「他の誰かに流されてしまうあなたの耳には年老いた私の言葉など入らないでしょうけれど、
朱雀院があなたを託したからこそ、私も出家を思い留まっているのですよ。」
はっきりとしたことは言わないながら、女三宮を責める源氏。
「老人の説教など私も聞いてはいなかったのに。こんなことを言う老いぼれの私をますます嫌われたことでしょうね。」
女三宮は手が震えて、朱雀院に返事を書くこともできません。
朱雀院の祝いは十二月と決まり、六条院では試楽(しがく 宴の予行練習)の準備にかかりきりです。
紫の上も戻り、明石の女御や玉鬘もやってました。
こういった華やかな催しの時には、柏木は必ず招待されているのですが、病気を理由に出かけようとしません。
父・大臣も勧める上に、源氏から再三の誘いがあったので重い腰をようやくあげる柏木。
「やはりあなたに音楽の指導をいただきたくて。」と迎える源氏。
源氏の言葉には親しみが現われていても、柏木は胸がつまるような思いです。
宴が始まって酒肴がゆきわたり、年を取った客は皆、孫や子たちの可愛らしい姿に感動して涙を流しています。
「老いると涙が止まらないものでね、柏木が私を見て笑っているけれど、若さだって一時のもの。
老いは誰にでもやってくるのですよ。」と柏木に真っ直ぐ目を当てて言う源氏。
柏木は気分が悪くなって、帰宅するなり寝込んでしまいます。
重病となった柏木は妻・落葉の宮と離れ、父母の屋敷で養生することになりました。
今まで省みなかった妻にもこれきり会えないと思うと辛く、別れを惜しむ柏木。
大臣の屋敷では、長男である柏木の看病に必死になりますが一向に良くなる気配がないのが不思議です。
源氏も見舞いの文を届け、特に夕霧は仲がよい友人の病が心配でなりません。
帝の信頼も高い柏木が重病の中でも、朱雀院の五十歳の祝いを取りやめるわけにはいきません。
源氏は病の柏木への女三宮の憂いを思いつつ、催しを進めるのでした。
恋愛セミナー40
1 源氏と女三宮 可愛さあまって
2 源氏と朧月夜 奔放な女性も世を捨てて
3 柏木と女三宮 事が露見しても
4 柏木と落葉の宮 失って知る大切さ
朧月夜も朝顔の君も、出家を果しました。
奔放さでは源氏と並び立っていた朧月夜は意外にさばさばとしていて、
まだ一番に思って欲しいと言ってよこす源氏を突き放しています。
女三宮に対して源氏は回りくどく責め続けます。
自分で言うとおり老醜がにじみ出ていますね。
ふと源氏が気づいたのは故・桐壺院が藤壺との密通を知っていて、知らぬふりをしていたのではないかということ。
それならば自分が二人のことを責めることはできない、と頭では思っている源氏ですが、どうしても許すことができません。
源氏はまず、恋文を発見したのが自分だという衝撃、そして恋文そのものの書き方に苛立ちを覚えています。
自分ほどの男を裏切るなら、もっと程度の高い男を選べ、という怒り。
そして、紫の上をおいて正妻据えたにも関らず裏切られたことへも。
源氏は「あまたいる帝の妃が人にはわからないように他の男にほだされてしまうのはよくあること」と認めています。
藤壺と密通したことへの擁護でもありますが、恋の諸訳を知って踏み込む道ならかまわないとする源氏。
柏木と女三宮の関係は、あまりにも無防備で幼く、源氏からみれば落第の恋。
さらに常に一番である自分が、妻の中で一番にしてやった女三宮が裏切ったのが許せない。
その相手が、自分とは比較にならない柏木であったのがもっと許せない。
いったい自分のどこが柏木に劣るというのか。
源氏の出した結論は、若さ、でした。
そして二人を責め続けることで、ますます若さから遠ざかり、老いを露見させてゆく。
全てを許し、黙って逝った桐壺院とは雲泥の差です。
出家しないことも相変わらず妻のせいにする源氏に、さらに手痛いしっぺ返しが待っています。
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