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恋愛セミナー63【宿木】
中の姫を気づかいながらも、匂宮は香を深く薫きしめて六条院に向かいます。
六の姫は思ったよりも美しく、大人びていていました。
大臣家の掌中の珠と大切にあがめられていても、尊大なところはなくしっとりとした風情です。
匂宮は機嫌よく二条院に戻り、すぐに後朝の文を届けました。
文を書いてすぐ、匂宮は中の姫のもとへ行きます。
泣きながら眠ったことを見せまいと、顔を赤くしながらもすぐに起き上がる中の姫。
改めて中の姫の可憐で優しい様子を愛でつつも、一方で六の姫に会える夜を待ち遠しく思う匂宮。
匂宮がいつものように将来を約束しても、どこまでも人に頼らなければならない身を振り返り、中の姫は涙があふれます。
つわりもひどく、何も食べないのを匂宮は案じていますが、中の姫はこのまま儚くなりたいとさえ思っています。
結婚三日目の夜、六条院では盛大な祝いの宴が催されました。
薫も出席し、六の姫のもとから上機嫌で皆の前に現われた匂宮に、何度も盃を干すようにうながします。
「堅苦しい夕霧の大臣の婿になるなんて。」と薫に言っていたのを思い出す匂宮。
薫は何も言わず、他の客人にも酒をついで周ります。
「婿になって皆の前で盃を受けるのは体裁の悪いものだ。それでも帝が女二宮との結婚をさらに
すすめてくださったら何としよう。大姫の面影のある方なら良いのだが。」
六条院から自宅に戻った薫は、眠ることができず、いつもそばに仕えている按察使の君(あぜちのきみ)の部屋で夜を明かします。
翌朝、急いで部屋に戻ろうとする薫に
「世に許されない私たちの仲。関川の流れのように冷たいあなたのお振る舞いに、浮名のたつのが辛く思われて。」と按察使の君。
「上辺は深くないように見える関川ように私の思いは絶えず燃えている。」
按察使の君は当てにならない薫の言葉にがっかりしています。
三条の屋敷にはこんな風に、薫の姿さえ見られるならと、身分のそれほど低くはない女性も多く集まって仕えているのでした。
匂宮は結婚して以来、六条院から出ることがなかなかできなくなりました。
かつて紫の上が住んでいた春の町に幼い頃と同じように寝起きしていますが、
そこから二条院へ行くことは、六の姫の手前もあってままなりません。
自分の身の情けなさに「いっそ宇治へ戻ってしまいたい。」と思い、
「父・八の宮の法事についてのお礼を直接お目にかかってお伝えしたい。」と薫に文を出す中の姫。
「直接お目にかかって」と書いてあるのが嬉しく、薫は早速、訪問の旨を伝えます。
薫は身にそなわった香りに加えて、さらに深く香を薫きしめ、中の姫を訪ねます。
近頃の匂宮の冷たさに比べれば薫の方が良く思えるからなのか、
中の姫はいつもの御簾越しではなく、もっと近い場所に几帳を置いて薫を通しました。
薫は御簾の中に入れたことをたいそう喜び、「もっとお近くでご相談したいことが。」と伝えます。
几帳に近づき、宇治へ伴なって欲しいと頼む中の姫。
「匂宮に黙ってというわけにはいきませんが、信頼はいただいておりますので。」と応えつつ、ほのかに恋心を伝える薫。
警戒して奥へ入ろうとする中の姫の袖を、薫はつかまえてしまうのでした。
恋愛セミナー63
1 匂宮と六の姫 意外にも
2 匂宮と中の姫 心乱れて
3 薫と中の姫 亡き人への思い
香を身に添わせて女性のもとを訪れる男性。
気がすすまないと言いながら、ときめきを押さえられない匂宮。
いつもなら身についた香りさえ邪魔に思いながら、親しげな文をもらい喜びいさんで香を薫き染める薫。
身にまとった香は男性のたしなみを示し女性を惑わせる、勝負服といったところでしょうか。
散々逃げ回っていた結婚ですが、逢ってみれば六の姫は匂宮好みの女性でした。
もともと世間の評判は高く、夕霧の娘たちの中でも一番の美人。
匂宮がなかなか承諾をしなかったおかげで、当時の結婚年齢としてはやや遅い二十歳すぎに
なってしまいましたが、それがかえって匂宮には成熟した大人の魅力にうつったようです。
よほど気に入っていなければ、広大とはいえわざわざ同じ六条院のもとの巣に住まいすることはないでしょう。
結婚のお披露目に出かけた薫が盃をすすめて周る姿は、まるで花嫁の父。
源氏に盃を無理に空けさせられ、眼光鋭く睨みつけられて死んでしまったのは柏木ですが、
中の姫を裏切った匂宮を不快に思いつつも、色にはださない薫。
かえって匂宮の新婚の熱気にあてられて、手近な女性に手を出シーンは、
作者・紫式部の男性を見る冷ややかな目を感じます。
薫の情熱はまだ続き、今度は当の中の姫に恋の炎が飛び火します。
冷たい夫に内緒で連れ出して欲しいと頼む妻など、いくら堅物の薫とはいえ、
飛んで火に入る夏の虫。
以前より格段に男女のことわりを知っている中の姫は、薫を受け入れるのでしょうか。
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