魔法使いの弟子 2


私は、あんたの腕の中で、アルバムを大急ぎでめくるように、一生を思い出した
私があんたの家に来たのは、あんたがまだ中学のころだったねえ
あんたの姉さんが連れて帰った私を、お嬢は手のひらで包むようにして撫でてくれたねえ
そう、あのころは私はまだ赤ん坊で、あんたのことを「お母ちゃん」って呼んでたっけ?

でも、人間と違って、私は直ぐに大きくなって、イケイケの猫に育った
そのころは、あんたのことを「お姉ちゃん」って呼んでたよ

家族にただ今を言うよりも「ちぃたん、ちぃたん」って私の所に来てくれた

でも、あのころは私も若かった
誇り高い猫族のプライドがじゃまをして、「ふん、何が『ちぃたん』だい」ってソッポをむいたりして・・・ごめんよ

そのうち、私の方があんたの歳を追い越してしまって、いつの間にかあんたのことを心の中で「お嬢」って呼ぶようになっていた

それから、あんたにもいろんなことがあって・・・・でもあんたは私を離さなかった
今から思えば、あんたは本当に優しい人間だねえ
ありがとうよ、お嬢・・・・

あんたが、本気で人を好きになり、柴犬のこやまがやって来て、やがてかわいい息子が生まれ、息子の世話にこやまの世話、そしてこの私まで・・・
本当によく面倒をみてくれたねえ

ありがとう、ありがとうよ、お嬢・・・・

そう思っているうちに、私の身体はその役目を終えた・・・・
息苦しさも、熱っぽさもなくなった

そして、私だった猫を抱っこしたあんたを見下ろしていた
あんたは、私を優しく撫でて、泣きながら頬ずりしてくれていた

ああ、幸せな一生だったよ

そう思いながら、反対側を見ると、窓の所から空に向かって、そうだねえ、塀のような橋が架かっているのが見えたんだ
ああ、これが死んだときに通るっていう橋かい

私は、初めは慎重に、そしてだんだん大胆に急ぎ足でその橋を渡った

NEXT




© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: