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発達障害児が伸び伸びと育つために~保健師の目で見た子育て~
自己保身の心を捨てると協力者が現れる。
その日は、町内会の「もちつき大会」があり、TAKUYAは意気揚々と出かけていったかと思うと、「6年生3人にいじめられた」とけがをして、大泣きしながら帰ってきたのです。後頭部にコブが2つもでき、目は膝蹴りされたと言います。「僕は泥棒じゃないのに、泥棒だと言われてコンクリートの床に頭を殴りつけられた」と言いますが、またしても状況が分かりません。
私はE先生に電話をして「犯人を捜して欲しいとか、謝って欲しいという事を言っているんじゃないんです。状況を知りたいんです。何か分かったら教えてください」と頼みました。
翌日呼び出しがあり、学校へ行きました。E先生は最初に「お母さんにとってはショックな話だと思いますよ」と前置きし、
TAKUYAが6年生の子の妹さんのポンピングで勝手に遊んでいたら、「泥棒」と言われ、「僕は泥棒じゃない」と言って向かってきた。それで取っ組み合いの喧嘩になり、いくらやってもTAKUYAが負けないから3人がかりでやった。TAKUYAも相手の顔を引っかいたり噛んだりした」・・・とのことで
「ほらね、○○君の顔、ひどいでしょう、こんなにひっかかれて」と言って見せました。「そういうことなんです、TAKUYA君が悪かったんですよ」と言うのです。
私は、とうとう切れてしまいました。
「先生、私はどっちが悪いとかではなくて、状況が知りたい、と話したはずです。うちの息子が悪いわけないと思ってはいないんです。いつもお話しているように、ADHDで衝動性を押さえられないところがあるから、どうしたらいいのかいつも試行錯誤しているんです。だからこそ先生にも相談しているんじゃないですか。何でもADHDのせいじゃない。二年生の子ならみんなそうです、ただの悪い子ですと言われると、診断されていることは無意味です。大人がこの子のことをわかって、介入してくれないと難しいから頼んでいるんです。この子は悪くないとは思っていません。ADHDのことを言い訳にしているんじゃないのです。状況を教えてもらわないと考えることもできないし、ただ「悪い子だ」と決め付けられるだけでは何の効果もありません。こういうタイプの子は、「悪い子だ」とレッテルを貼られて、自己卑下的になってそこから二次障害を引き起こしやすいから、そうならないようにと、心配して学校にも相談しているんじゃないですか!」
興奮して大声を出してしまい、声が震えているのが自分でも分かりました。
先生は、「私は今までADHDの子を受け持ったことはないですから、ADHDと言われてもわからないですし、特別な対応が必要なら専門家に頼まないといけないと言うことではないですか」と。
その場は一応、取り繕って穏やかに別れたものの、帰宅後、またもや私は混乱状態に襲われました。
興奮した自分のことを恥ずかしく思っていました。「親がこうだから子供もあんななんだ」・・・と思われているのではないか、という妄想も渦巻きます。自尊感情がボロボロになっているところに、こんなことがあると、なんでも自分が悪いような気がして、自分を責めてしまうのです。
翌日、とうとう鬱状態に陥り、泣けて泣けて何もできなくなっていました。そこでTAKUYAの主治医に無理をお願いして、会っていただく事にしました。
私は主治医に救われました。
2つの事件と学校の対応を話すと、主治医はこう言ったのです。
「学校はバカだ」「バカな教師だ!」
ハッとしました。
そうだ!バカな教師だ、私が悪くてこうなったんじゃないんだ!
TAKUYA自身が苦しんでいるんだ。そうだった。原点に帰ることができました。
胸がスカーーーーッとしました。
私はいったい何を今まで我慢していたんだろうか?なぜあんなにも気を使い、弱腰で、「自分がかわいそう状態」になっていたのだろうか?
そして、主治医から「小3になったらいい先生に当たったらいいな、ではなくて、いい先生をつけてもらえるように要求していくのよ!」と背中を押されたのです。
主治医は本気で怒ってくれました。私以上に怒ってくれました。
私が押さえつけていた怒りを主治医が代弁してくれたからこそ、私は解放され、勇気が湧いてきたのです。力が湧いてきたのです。
支援者の方々に伝えたい。
こうすべき・ああすべきと言うアドバイスよりも大切なことがある・・・相手の感情を解き放ってあげること。
混乱して、自分の感情さえ見失いかけ、鬱に陥っている相手の気持ちを代弁してあげること・・・。
力の湧いてきた私は思いました。
そうだ!
文部科学省からは、「発達障害を抱えた子が、約6.3%もいる、だからちゃんと普通学級で対応しなければいけない」と通達が出ているではないか。
要求しなきゃ、何も変わらない。
待っていても何も変わったりしないんだ。
子どもを「人質」にとられた様な気持ちになって、自分を「弱者だ」と思うこと自体が間違っていた。自分の力で道を開くことができないと思い込んでいたからだ。
私は、急に腹が据わりました。「アスペルガー症候群だとはっきりと校長に話そう。そして何が起ころうとも受けて立つんだ、捨て身になるんだ。子供の成長に必要なものは要求しよう。それが子供を本当に愛するということだ。TAKUYAが成長できる環境を作ろう、TAKUYAのような子が勉強しやすい環境は他の子にとってもよりよい環境のはずなのだ」
私は初めて、後からくる発達障害の子どもたちのことを考え、その子たちが暮らしやすいように、今私が出来ることをやろう、という気になりました。そう考えるだけの余裕が出てきたのです。
人質・・・・確かに、親の行動が、子どもに跳ね返ることがあるとしたら、それは切ないし、避けたい。
でも、TAKUYAに対しても、「息子よ、何かあったらお母さんと一緒に耐えよう!がんばろう!お母さんがついているから大丈夫」と、力強く背中を押すような気持ちになりました。
そんな気持ちで、立ち上がり、驚くほど力がみなぎって、クリニックを後にしました。
そして、私は道を開くぞ、学校にどこまでも理解を得るのだ、と肝っ玉が据わった途端に、
不思議なことですが、学校側から支援者が現れたのです。
まるで、私自身の準備が整うのを待っていたようでした。
世の中というのはこういうものなのですね。自己保身に陥って、怖がっていたときは支援者は現れませんでした。自分は弱い人間だと思っていました。
ところが、捨て身になって戦おう、我が子のためだけでなく、発達障害児みんなのために立ち上がろうと志を持った途端、支援が入りました。神様はよく見ています。いえ、それが心の法則かもしれません、親が決意を固めるのを待って支援者を送り込む・・・そういう仕組みになっているのです。
Akiko
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