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2010.02.28

『虐殺器官』伊藤計劃著　読みました。

(8)

テーマ：今日どんな本をよみましたか?(91828)

カテゴリ：とにかく印象が鮮烈☆

読み終えた後は（言葉遣いが悪いけど）「すげー！」と思わず唸ってしまいました。

【内容情報】（「BOOK」データベースより）
９・１１以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか？大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは？ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

柊はＳＦというジャンルが不得手で、独自に構築される世界観や設定に
なかなか馴染むことが出来ず苦心するのが常です。
共感できる部分とか、自分との共通点をなかなか見いだせなかったりして
物語についていけない…（笑）
この物語はしかもアメリカ人が主人公の軍事小説で、本当のところ
自分に読み通す事が出来るか不安だったりもしました。

だけど、第一部冒頭の数ページ。
惹きこまれました…！
全編通して描写がとても映像的で自分もその場面を傍観している気になります。

柊にはマニアックなことや難しいことはわからないけれど
『虐殺器官』とはよくぞ名付けたタイトル…！と思いました。
とくに第四部からエピローグまでの展開は圧巻で一息に読んでしまいました。

想像すれば残酷な場面の連続だったりするのだけれど、
自分を「ぼく」と称する主人公が抱え持っている精神的な不安定さが
目の前に繰り広げられている非情な世界ととてもアンバランスな、
不思議な感覚をしていて、そこに魅了されてしまいます。

主人公は「罪」を自覚し、「罰」して欲しがっているけれども。
この辺はもう少し、もう一歩踏み込んで葛藤して欲しかったかなあという気もします。
帯に「現代における罪と罰」なんて書かれてしまうとどうしたって
ドストエフスキーのラスコーリニコフと重ねてみてしまうので。
罰というものは罪を自覚し、それに呵責を覚えられる人間にしか与えられないものという気がしてます。
人によって何を罪と思うか違うと思うので…「罰して欲しい」と願えることはむしろ幸せで
罪を罪として認識することが出来ず苦しむ描写というのがもっと欲しかったかなあなんて思います。

不満なところもあるにはあって、小松左京賞に落選したときの選評には柊も
同感したりもするんですが、それを補って余りある魅力がこの作品にはあります。
よくぞ出版してくれたという気がします。

著者が既に亡くなられているというのが悔しく思います。
デビュー作でこれだけ圧倒させられるのだから…。

先日書店で著者の未完の作品『屍者の帝国』（プロローグ部分）をちらと
立ち読みしたのですが、これがまた面白そうな設定でー。
吸血鬼、フランケンシュタイン、ヴァン・ヘルシングといったゴシック調を
彷彿とさせる単語が散りばめられつつ、そこからどんな世界観が展開するのか
期待させるところで終ってしまっていて思わず地団駄踏みたくなっちゃいました。

著者が遺してくれた長編作品には『ハーモニー』『メタルギアソリッド』（3/25発売)があり
そちらも読んでみたくなりました。

ＳＦ嫌いを治そうかしら…なんていうふうにも思いました（笑）

宮部みゆきさんに「私には、３回生まれ変わってもこんなにすごいものは書けない。」と
言わしめるなんてすごい作家だと思います。

　柊の読書メーターは→ こちら

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最終更新日 2010.02.28 21:11:58
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