本だけ日記。

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2007.01.12
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■『文藝』2006年冬号(河出書房新社)所収、
綿矢りさの芥川賞受賞第1作となる小説で
『夢を与える』を読み終えた。

先に『インストール』を読んだが、それよりも前、
彼女が芥川賞を受賞したときにも『蹴りたい背中』を読み、
この小説を本屋で見つけたとき、すぐに購入した次第。

ということで、ぼくは彼女の小説は結構評価しているのだ。

■そもそも、両作品でみえた彼女のよさは、
若い女性の主人公がもつ新しい感性や感覚を
瑞々しく描けることだろう。
今回の『夢を与える』でもそれがみえたが、
ただし今回の作品は、うまくいっていない部分も
あったと思う。

■小説のはじまりは、31歳の女性・幹子が主人公。
6年も付き合った彼・トーマから別れを切り出され、
それを回避するためにとった作戦(?)が妊娠だった。

幹子とトーマのやり取りを描く綿矢りさの筆致は、
二人の年齢もあってか、どこか重い。
重いだけでなく、またぎこちなかった。

■このあとこの小説は大丈夫だろうかと思っていると、
この小説の主人公はこの二人ではなく、
二人の娘・夕子であることが明らかになる。

■まず夕子がチャイルドモデルにされるのだが、
その文章が相変わらず硬くて、気になる。
しかしやがて夕子が中学生、高校生となるつれて、
小説の筆致も生き生きとしてくるのが分かる。
これが綿矢りさのよさだよな、と素直に思う。

■この夕子が芸能人としてちやほやされつつ、
学生生活を送り、受験勉強をし、終わり近くでは、
初めて恋をする。
その彼・正晃のことが好きで好きでたまらなくなり、
やがて肉体関係をもつ。

■──で、なぜかそれを、
彼の友人にビデオで録らせるのである。
この辺りのなりゆきは説得力がいまひとつ(^_^;)。
彼のことが好きだからといって、
無神経に性行為の様子を友人に撮影させるかどうか。

とはいえ、その辺りの描写はなかなかかな。
がんばりましたね、という感じ(^-^)。
電車の中で読んでいて、ちょっと照れくさかった(^_^;)。

そして、ストーリー展開としては予想通りに、
その映像がネットに流されてしまい、
彼女の芸能人生命はほぼ絶たれる。


■さて、この小説のタイトル「夢を与える」は、
彼女が芸能人としてインタビューに答えるとき、
優等生的に「夢を与える」人になりたいと言う
ことばから来ている。

しかし、この小説は残念ながら「夢を与える」、
ということばをめぐる小説とは言いがたく、
全体に冗長で散漫な印象を受けてしまった。

■ところどころ、いいところはあるのだけど、
『蹴りたい背中』以降、何か違うことをしなければ、
という、どこか力んだようなところがあるのではないか。

例えば、多摩という、実にいいキャラクターの
男子学生が登場するのだが、
これは、『蹴りたい背中』を思い起こさせる。
彼との心の交流をもう少し描いてもよかったのでは。

■ともあれ、主人公の夕子がマスコミに振り回され、
週刊誌やネットでさんざん書かれ、
それにとことん傷つくさまというのは、きっと、
綿矢りさ本人の思いとつながっているのだろうな、と感じた。

世間から注目され続ける人の不幸と寂しさが、
この小説の主題のひとつになっているのだろう。





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最終更新日  2007.01.12 21:50:05
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