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2006.06.01
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カテゴリ: 洋画
ダ・ヴィンチ・コード(上)

 ダン・ブラウンの世界的ベストセラーの映画化。
 出演はトム・ハンクス、ジャン・レノ。


粗筋

フランスのパリにあるルーブル美術館で、館長が何者かに殺された。館長の死因は銃弾によるものだったが、館長は死ぬ直前に自らをダイイングメッセージにしていた。ダイイングメッセージには、館長がその日会う筈だったハーバード大学のロバート・ラングドン(トム・ハンクス)の名前が書き込まれていた。
 ラングドンは殺人現場であるルーブル美術館に呼び出され、ダイイングメッセージの意味を教えろ、とパリ警察の刑事(ジャン・レノ)に要求される。ダイイングメッセージは、ラングドンにとって意味不明だった。しかもラングドンは館長と面識が殆どなく、なぜダイイングメッセージに自分の名があるのか、分からないでいた。その時現れたのが警察所属の暗号解読専門家のソフィー。ソフィーは、殺された館長の孫だった。ソフィーは、ラングドンに言う。警察はあなたを容疑者と見なしている、ここから逃れたいならこちらの言う通りにしなさい、と。
 ラングドンはソフィーに言われるまま行動し、ルーブル美術館から脱出。その過程で、ラングドンとソフィーはダイイングメッセージを解読していた。
 二人は警察に追われながら、メッセージが示す場へと向かう。そこで手に入れたのは、キリスト教徒が2000年にもわたって捜し求めている「聖杯」の在り処を示す地図が入った箱だった。館長を殺害した者は、それを求めていたのだった。
 なぜなら、「聖杯」を手に入れると、キリスト教におけるある重大な秘密を知ることになり、現在のキリスト教を根底から崩すことができるからだ……。


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感想

この「キリスト教における重大な秘密」というのは既に多くのメディアで取り上げられているので、ここでばらしても問題はないと思う。
 つまり、「イエス・キリストには妻がいた。イエス・キリストは元々その妻を自分の後継者に指名していた。キリストの子孫は現在も生きている。『聖杯』とは、物ではなく、イエス・キリストの子孫なのだ……」。
 キリスト教信者からすればこの説はキリスト教を否定しかねない暴論。なぜなら、キリストは神の子であり、妻を娶ることはできないし、していない、とされるからだ。子孫が現在もいるとなったら、キリストは神ではなく人間ということになってしまう。また、原作者がその妻をマグダラのマリアとしているからも物議をかもしている。マグダラのマリアはキリストの死と復活を見届けた証人ではあるが、長年「悔悛した罪の女、娼婦」とされてきたからだ。
 こういった突飛な説を展開しているからか、原作は話題になり、映画化に至ったのである。

 さて、肝心の映画の出来は……。
 イマイチ。
 キリスト教信者からすれば「キリストには妻がいた。子も作っており、その子孫は現在も生きている」というのはショッキングな説かも知れないが、キリスト教信者でない者からすれば、「まあ、キリストに妻や子供がいても不思議じゃない」と冷静に捉えることができる。米国政府はUFOをエリア51に隠している、と同程度のトンデモ情報に過ぎない。
 そんな訳で、作中の連中が「これは近代史を完全に覆しかねない重大な秘密だ」と言っても「そうかね?」くらいしか思えない。少なくとも、殺人を犯してまで隠蔽するようなものではないだろうが、と感じてしまう。そんな訳で、切迫感が伝わらない。

 登場人物にこれといった魅力がないのも問題。
「近代史を根底から覆す可能性のある事件に巻き込まれてしまった!」
 ……という割には貧弱なのである。
 ラングドンは単なる学者。人間的な厚みを持たせる為に閉所恐怖症という特徴を持たせたようだが、それがキャラをより説得力がないものにしてしまっている。学者なのだから完全に無能な人物ではないのだろうが、肉体派ではないので、ひたすら周囲に突き動かされている受動的な駒のようで、主人公とは思えない。結局最後までこれといったことをしない。大学の考古学者でありながら、冒険者でもあるインディ・ジョーンズとは大違いである。

 ストーリー展開も、訳が分からない。
 ラングドンがルーブルに呼び出されたと思っていたら、ある女性が現れ、いつの間にか一緒に逃避行することに。暗号を次々と解いていき、フランスやイギリスの史跡を巡る。
 登場人物の会話を少しでも聞き逃すと、なぜ登場人物らがその場所に行ったのか、意味不明になってしまう。
 ラングドンを殺人犯だと信じて追う警察も、史跡巡りをするのだが、なぜそこまでしてラングドンを殺人犯に仕立て上げたかったのか、観ている者に伝わらない。いつの間にかラングドンの協力者になり、ラングドンではなく黒幕を逮捕した時は、拍子抜け。

 カーアクションなど、アクションシーンが一応盛り込まれているが、最近流行の細切れシーンの連続で、何が起こっているのか全然分からない。もう少し長回しにできないのかね。

 キリストの子孫で、現在の「聖杯」である人物は、実はソフィーだった、という展開も何となく予想できてしまい、最後で明らかにされても「ああ、やっぱりね」という感想しかなかった。

 本作品、そして原作は「ダ・ヴィンチ・コード」となっているが、映画ではダ・ヴィンチのことはほんの少ししか触れていない。結局ダ・ヴィンチは自作に特にメッセージなんて残していないのではないか。というか、メッセージを隠している、と後世の研究者らが勝手に解釈しているだけのようだ。

 本作は、「ベストセラー小説を無闇に映画化するとその化けの皮が剥がれる」の典型的な例。
 原作者にとって映画化は特にプラスにはならなかったと思う。むしろマイナス面が大きかったのでは?

 キリストは神でも何でもなく、人間だった、という説は、キリスト教が少ない日本ではショッキングでも何でもないのだが……。
 思えば、日本人も終戦まで天皇を神と崇めていた。それが終戦後の「人間天皇宣言」で天皇は人間に。現在からすれば「天皇を神と同視化するなんておかしい」となるが、当時の日本人はそうは思っていなかった筈。
 キリスト教信者に対し「キリストが人間なのは当たり前じゃん」というのはやはり失礼に当たるのだろう。


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Last updated  2006.06.01 18:29:40
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