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スズムロ家の人々 8



キカ洋服

キカに新しいお仕事が増えた。
資格を取り、今1番ホットな現場、介護ビジネスへ繰り出した。

現在、お客様は2件。
うち1件のお客様がサイコーだ。

お名前はシゲチヨさん。
シゲチヨさんのリアルタイムは陸軍にいた頃である。

シゲチヨさんは、毎日小さい瓶のお醤油を買ってくる。
冷蔵庫の中は上段も野菜室も、お醤油がずらりと並ぶ。
見事に一列に並んだ様子は圧巻で
まるで展示品のよう。

お風呂を洗って、お風呂を沸かす。
支度が整うと
「シゲチヨさん、お風呂の支度が出来ましたよ。
 どうぞ、ごゆっくり入ってきてくださいね」と声を掛ける。

「はい。では行ってきます」と言い、
浴室に向かうシゲチヨさんだが、
数歩行くと必ずキカに振り返り
「どうそ、お先に」と至極丁寧に言ってくれる。
「いいえ、私は入りませんから
 シゲチヨさん、お入りください」
「そうですか。では行ってきます」
「はい、どうぞ。ごゆっくり入ってきてくださいね」
浴室に向かうシゲチヨさんだが、やはり
「どうぞ、お先に」
「いいえ、どうぞ入ってください」
「そうですか。では行ってきます」

これを100回くらい繰り返し
「もう、いいから入ってきなさいよ」と思いつつ
シゲチヨさんに、すっかりやられているキカである。

最初は老人は絶対無理だ・・・と本当に心底困惑していたのに
まったくシゲチヨさんのかわいさってナンなのだ?
あり得ない・・・
かわいい・・・

短い間に色々凝縮して起こり過ぎちゃったせいだ・・・と
自分が資格を取ってまで働こうと思い立ってからのことを
振り返りつつも
今の生活も、お仕事も、子育ても
悪くないじゃん。結構いいじゃん。
と、すっかりシゲチヨさんから洗脳されてしまい
新しいお仕事に緊張しながらも、はまっていくキカである。

そんなキカだが、時々電車に乗って冒険をしてみたりする。
知らない駅・下車を試みる。
本能のままに「ここ、降りたい」と思った駅で
ふら~っと降りて
知らない街を歩いてみる。

図書館で本を借りては片っ端から読みまくる。

新しいレジャー施設がオープンすれば、とりあえず行ってみる。
くたくたになりつつ、美味しいものがあれば買ってくる。

子供達が通う空手教室に行けば
無意識に自分が構えていたりする。


小さな楽しみで結構毎日埋まっている。






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