凍えたココロ

凍えたココロ

The deep night...



冷凍庫にテキーラがある

今日はそれにするか・・・




ショットグラスに 少しトロリとした

凍りきっていない テキーラを注ぐ

ライムを果物ナイフで4分の1に切る

手で絞り ライムはグラスに放り込む




今日の喧騒を思い出しながら

男は一気に 一杯目をぐっと飲み込む

慣れたもので もうむせたりしない

むしろ 冷たく熱いテキーラが

喉を通る瞬間が 何とも 心地良い




俺は今まで何を見てきたのだろう・・・

好きな女には逃げられた

部下は使い物にならない

だから 自分でその分を補う為

夜も遅くまで仕事に励んでいたと言うのに

あいつは「寂しい」と言って

出て行った




大きな氷を一つ グラスに入れて

また とろりとしたテキーラを

グラスに注ぐ

今度はちびちびと 口に含みながら

さっきのライムを齧る

清々しい芳香が 口中に広がる




何処で道を踏み外したのか・・・

男は自問自答するが 無駄だと気付きやめた

飲み干しては 次々と注ぐ テキーラ

こんな日は 酔いも眠気も 訪れない




男は別に 女に不自由している訳ではない

呼び出せば 飛んでくる女など 何人もいる

しかしこの心の穴は 女では補えない




「あんなに愛していたのに」




俺らしくもないなと呟きながらも

その想いだけは 心の中で反芻している

明日は 仕事は休みだから どれだけ飲んでも構わない

男は ショットグラスを洗い、 今度は冷凍庫から

ジンを 取り出した

別のグラスに グレープフルーツジュースとジンを入れ

指で混ぜる 氷を放り込み 先ずは一気に飲み干す




「全然酔えねえ」と呟き

今度は とろりと凍ったジンに

残りのライムを搾り それを ショットグラスに入れる

やはり 冷たく灼けるような ジンは

一口飲むと 胃に沁み渡る

つまみにカシューナッツを 数粒 口に放り込む




何も考えたくない

何も考えたくない

俺は何処までも独り

独りで生きる俺

寂しいなんて 似合わない




自嘲の笑みを浮かべ

描きかけの 油絵の前に立ち

数色の色を混ぜた 専用の絵の具で

キャンバスに塗りたくる

あいつの好きだった アネモネの花が

キャンバスに 咲いている




この絵だけは完成させよう・・・

男は その白いアネモネの花を

必死に絵の具の色を混ぜて

キャンバスに 描いていく・・・




あいつと俺を結ぶ花

アネモネ アネモネ




「あいつらしい花だ」

そう男は呟き

また一口 ジンを口に含んだ


© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: