2)レストランはレディのためにある



日本では少ないですが、海外のレストランで値段の入っていないメニューを渡されたことってありますか?男性の場合ほとんどないと思いますが、女性は経験された方もいらっしゃるでしょう。
「値段を気にせず、召し上がりたいものをどうぞ」という意味ですけれど、ことほどかように、女性は大事にされている、ということが当たり前です。
でも、日本ではちょっと違いますね。
今回は、ソムリエやお店の側から、お客様のこんなところを見ている、という裏話を私の先輩から教わったことなども交えて、お話してまいりましょう。あ、くれぐれもこれは一般論ですし、私のお店では一切お気になされないでけっこうです。

「レディファーストはどこから?見られて価値が輝く女性」
お店のドアをあけて入店、ここからお店との出会いが始まります。受付がドアをあけてお迎えする所もあるでしょうし、自分たちで開ける場合もあるわけで、場所場所で違うので一概には言えないですが、さりげなく女性をたてて、でも、お店とのご対面は男性が役割を引き受けるというのは案外と難しいものです。
この仕草で、おおよそ、お客様同士の関係というのはわかってしまいます。たかが入り口、でも、気をつけたいものです。初めてのお店で女性を背中から押すように入ってくるのは品の良いやり方ではないでしょう。
 次に客席へのご案内ですが、海外の場合は、周囲から見られるお席が上席の場合があります。日本ではどちらかというと、すみっこの席を好まれるかもしれません。このあたりは、女性を見せる(魅せる)レストランの考え方と日本の離れ(隠し隠れる)の風習の違いかもしれません。ご予約のときに、どのあたりのお席をご希望か具体的に言われた方がよいと思います。

「靴のかかと、と、ベルトの穴 上から下まで見られるわけ」
お店の人間に、思いっきりじろじろと眺められて不愉快だ。
最近は、こういう苦情というか、嘆きは聞かなくなりましたが、一昔前は、店員に眺められるのがイヤだという方も多くいらっしゃいました。
ドレスコードを気になさる、気になさらない、色々でしょうが、女性の場合は、今宵、レストランを五感ですべて満足なさろうとされますから、ある程度着飾った装いをなされるでしょうし、その場合、男性は、エスコート役としてそれに負けない身なりが求められます。ジーンズでいいのか、悪いのか、というようなことは、本来お店が決めることではなく、お相手の女性に敬意を払って、ふさわしい身だしなみ、というのは、男性の義務でもあります。
お店側が、じろじろとお客様を観察する、というのは、やはり、お二人の財布の中を覗こうというわけですけれど、それと同時に、どういう目的でのご来店か、というのを探るムキでもあります。出来上がっているカップルか、ここで決めてやろう、という半カップルか、ただのお友達同士か、これによって、予算がどの位かを推し量るのは、次のワインのお勧めの仕方に影響があるからです。
男性が本当にお金持ちなのか、どうか、を見きわめるのは、靴のかかとの減り具合と、ベルトの穴の痛み具合だ、と先輩に教わりました。他は気にかけても、実はここが一番気が付かない点だ、ということでした。お気をつけて(笑)

「ワインをおしゃれに選ぶ」
始めにお伺いするお飲み物は、食前酒、アペリティフにあたります。よくワインやだからビールでは軽蔑されるのでは、と、ひるまれる方もいらっしゃいますが、ビールも立派な食前酒のひとつ。別に問題ありません。でも、まあ、せっかく、ですから、というときは、グラススパークリングワインが無難なところか、と思います。
次にお料理、そして、ワインリストということになります。ワインリストなんて、見てもわからない、という場合には、ご注文されたお料理との相性を聞いて、いくつかをリストアップしてもらうといいでしょう。
その時に、さりげなく色々な会話を交わすことが出来れば、お店での時間の過ごし方がより楽しくなってきます。でも、慣れないと、何を言い出してくるのかわからん、から、早く追い返してしまいたい、という気持ちにもなってくるもの。
前回のお話のように、自分サイズのお店を持って、普段から、色々と情報交換を店の方とされていると、こういうときに役に立ちます。
私ならば、まず、お店のハウスワインを1杯いただきます。ハウスワインは、お店のメニューとおおよそマッチするはずですし、お店のワインの格というものが出てきます。ハウスワインの美味しい店は、たいてい、料理もサービスもいい店です。

「ソムリエとの会話、それがレストランの原点である」
実は、私がソムリエになりたい、と強烈に思った出来事があります。
料理の仕事の関係で入社10年目くらいのとき、初めてヨーロッパを三週間ほど回りました。最後の晩餐は、パリで、アテンドしてくださった商社マンの方4名で、ちょっといいビストロに行きましょう、ということになりました。
私たちは、席につくなり、(当時私はワインのことなど全くの素人)幹事の方が料理もワインも決めてくださり、乾杯をしましたら、ふと、お隣のお席のご老人のご夫婦に気が付きました。あ、余談ですが、乾杯の時は、グラスをちょっと上げて会釈をする感じです。海外では、グラスをカチン、と、触れ合わせないようにしましょう。
この老夫婦は、私たちよりも前に席に着いているのに、ずっとウェイターのような方を相手に話込まれているのです。
「何をあんなに話しているのですか?」と尋ねたところ
「ああ、あのご夫婦は、今自分たちが選んだ料理にどんなワインが合うか、それをソムリエとお話しているんですよ。それが楽しみでいらしているのですね」
ものすごくショックなことでした。ウェイターって、ワインや料理のオーダーを取って、お運びするだけの仕事、と思っていましたから。
その後、「レストラン」というのは、「レスト(休憩)」するところであり、健康な方がお過ごしになる癒しの空間だということを知りました。
病気の方は病院に行く、健康な方はレストランに行く、という感じでしょうか。
これまでは、厨房という聖域に隠れて、皿の上のことだけに集中していた料理人の立場からは全く知らない世界、接客のすばらしさ、というものを知りたい、と思って、帰国しても、旅の報告書そっちのけでソムリエになるための方策を探したものです。
思えば、私の未来の方向を決める出会いだったのかもしれません。

「見られても楽しもう ホストテースティング作法」
さて、ワインのオーダーの後、ホストテースティング、という作法が待っています。これも、慣れないと衆人環視のもと、いきなりスポットライトを浴びたような一瞬になるのですから、イヤなものだな、と思う方もいらっしゃるでしょう。
これは、昔、お客様をもてなすときのホストの毒見のなごり、でもありますから、省略しても問題ないのですが、どうせなら、楽しんでしまいたいもの。そんな難しくはないですから。
始めにグラスをちょっと斜めにして色合いを見て、次に香りを嗅いで、グラスを回してまた香りを嗅ぐ。口に入れて味わってみる、これだけのことです。
それぞれが理由があるのですが、ま、それは長くなるので、でも、グラスを揺すって香りを楽しむというのは是非やっていただきたいワインを美味しく頂くコツでもあります。
グラスは中空で回しにくければ、テーブルに置いたまま左回しにグラスを回せば簡単です。
時折、聞かれるのは、気に入ったワインじゃない場合は断れるのか、ということですが、答えはNO。傷んでいるかどうか、と、温度が適温かのチェックです。
みんなが黙って見つめているのはどうか、と思って、ワインのコメントをする方もいらっしゃいますが、それよりも、このワインがどんなワインか、ということをソムリエから皆様に説明してください、と促す方が、出たがりや、しゃべりたがりやが本質のソムリエは喜ぶと思います。

「ワインは調味料」
ワインとお料理の相性など、色々とうんちくもありますように、ワインというのはがぶがぶと飲むものではなくて、本来は、お料理を仕上げる調味料の役割をしています。
でも、日本人の遺伝子にあるような「酒と肴」の和文化とは違うわけで、それほど気になさらないでもいいかもしれません。
日本では西洋料理のフルコースといっても、メインの後、さらにチーズとか色々ある洋食とは違い、たいていがコーヒー程度で終わることでしょうから、どうしても、メインのお料理のときに、ワインを思いっきり飲まれるという方が多いでしょう。
本来は、この後、さらにバーなどで場所を移して、食後のお酒に進む、というパターンまでいければいいですけれど、とても予算的にもお腹的にも難しいお話、かも、しれませんね。
いずれ取り上げますが、私が幹事でレストランを利用するときは、予算を残しておいてハウスワインが美味しければそれで通し、食後にデザートワインをいただきます。これはとっても品の良いワインですし、女性もほとんどの方はお好きですから、知っておいてほしいワインです。

「残ったワインがテーブルに置かれたとき」
レストランでは、ワインのサービスはサイドテーブルなどに置かれて、量が減ってきましたらソムリエが注ぎ足します。レストランによっては、赤ワインなどは、空っぽになる直前くらいで、テーブルに置いていかれる事があります。
これは、澱があって、もうこれ以上は飲めません、という合図でもあるので、ああ、まだ残っているのにもったいないな、と、自分で注ぎたさないようにいたしましょう。もしどうしても飲みたければ、また、ソムリエを手招きして、注いでもらってください。
こういう場合、残ったワインの味を後でウラでソムリエに勉強をしてもらいたいから、わざと残すのだ、という説があるのですが、私はいまだ、この説には納得いかない点があります。
だって、お客様のお財布のワインですから、そこまでしていただかなくてもけっこうです、と思うわけです。もしも、そういう風にお感じになられていたら、ワインが空かないうちにソムリエの方にも、どうぞ一杯と勧めたらよろしいかな、と思うのですが、このあたりは、諸説があって、なんとも言えないところです。


今日の締めくくりは、フランスの粋なことわざです。
「グラス一杯のシャンパンは、ベットを30センチ近づける」




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