子供の成長を暖かく見守る父でありたい!

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フェスティバル・ゲート

フェスティバル・ゲート

 夜8時頃、大阪天王寺近くのフェスティバル・ゲートに家族3人で出かける。近くの写真屋さんで写真を撮った帰りだった。事前に4年前に買ったお出かけマップで情報収集をしていた息子は「???・ザ・コースター」(もうすでに名前も忘れてしまったが。)に乗るのが今日の最終目標だった。
 写真屋さんを出る時は、もう午後7時30分過ぎ。まだ営業をしているのか心配らしく、撮影中も落ち着かなかった息子は終わるとすぐ店員に問いかけていた。
「フェスティバル・ゲートってまだやっていますか?」
 店員の答えは息子を落胆させるのには十分なインパクトがあった。
「赤字続きでもう営業停止しているんじゃないかな。」
わずかな希望を胸に現地へと急ぎ足で向かう。
到着。一応ゲートは空いている。しかし誰一人としてエントランスを歩いているものはいない。どんな店があったか知らないが、シャッターが落ちている店舗が仲良く続いている。かろうじてファーストフード店らしき店が開いており客も何人かいる。
 前方にインフォメーション発見。 やる気のなさそうな案内ガールが二人。一部ののりものだけ営業しているとのこと。お目当てのコースターも運転していた。
 「やったー。」かわいく飛び跳ねる。よかった。こんな所まできて子供に落ち込まれると、疲れがどっと出る。
 料金は一人700円。妻が見守る中、息子とふたりっきりの専用コースターに乗る。本格的なコースターに乗るのが初めての息子は、かなりテンションがあがっている。乗り慣れた私もこの異常なシチュエーションでコースターに乗るのは初めてだ。いつもと違った恐怖心がじわりと心に広がっていく。
 ガタン、・・・ゴトン
 いかにも怪しい音を響かせながら、コースターは徐々に高度を上げていく。
 「ねえー大丈夫かな?」
 息子の声が震えている。本当は(なんで誰もいないんだよー。この静けさは何なんだ。本当に大丈夫か?もしかして事故でもあって誰も乗らなくなったのかよー。大丈夫なわけないだろ!)といいたい所だが、
 「何かあったときには、安全装置が何重にも働くから大丈夫だよ。ほら、あの飛行機(伊丹空港に降りる飛行機が見える)を見てごらん。飛行機が落ちる確率よりも、このコースターが事故する確率の方が低いんだよ。だから大丈夫・・・」
 私が言い終わらない内に、頂点に達したコースターは慣性の法則にしたがい、ぐんぐんスピードを上げていく。中途半端にライトアップされた通天閣が見えたかと思うと、一瞬で視界から消える。先日ハービス大阪に行ったときとは対照的なこの界隈の雰囲気に、一層肌寒さを感じてしまう。限られたスペースを猛スピードで駆け抜けていくコースター。まだ走り出さないときには、私のめがねが飛んでしまわないかと心配していた息子。さっきまで息子の声にならない雄叫びのような声がしていたが、風を裂く音でその音も聞こえなくなる。涙のおかげでせっかくの景色がぼやける。ゴーグルでもしてくればよかった。
 途中からコースターに乗っている気がしなかった。
 なんだか自分が生きてきた今までの人生が、コースターと一緒に一気に駆け抜ける不思議が感覚におそわれる。
 気がつけばコースターは停止していた。軽い虚無感におそわれる。そんな私の気持ちを、だれ一人察する事はなく、息子は妻にさも楽しそうに自分の興奮をぶつけている。
 帰りに串カツを食べる。
 「ソースをつけるのは一回だけでお願いします。」
 店員が決まり文句を愛想良く告げる。フェスティバル・ゲートで今日乗ったコースターに乗るのも、この一回で終わりか。揚げたての串カツの熱さが愛おしく思えた。


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