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4 フランクフルトにて

 フランクフルトにて


 フランクフルト駅に着いたとき、時計は午後4時を回っていた。ねぐらを決めずに、行き当たりばったりで旅行しているぼくたちにとって、安いホテルを探すのは確かに大変な問題だが、ヨーロッパでは、一般的にホテルは安い。それにインフォメーションが駅にあるので、そこで予算に合わせて斡旋してくれる。

 だが、最も安いのはユースホステルだろう。そこにはいろんな国から来た旅行者が集まる。ホテルにはないよさがあるのだが、相部屋なので慣れないとゆっくりくつろぐことができない。ぼくたちが行った7,8月はヨーロッパの国々の学校が夏休みに入っており、特に週末になると満員になることが多かった。事実、2,3度断られたことがあった。

 フランクフルトにはユースが1ケ所だけしかない。収容人数は五百人と、大きかったが、一応電話で尋ねることにした。駅の地下にある電話ボックスに入って、使用法の示すとおり硬貨を2枚入れてダイヤルを回してみたが、何の反応もないので、受話器を戻すと数枚の硬貨が落ちてきた。硬貨の詰まりすぎだった。

 もう1度ダイヤルを回すと、今度は話し中らしい信号が聞こえてきた。相手が出るまでと思い、何度か試していると、中年の紳士が来て、"Can I help you?"と言って、いろいろ使い方を説明してくれた。そして、自らダイヤルを回して相手が話し中であることを伝えてくれた。
 結局、通話できなかったが、その紳士の優しさに希望を感じて、直接ユースに飛び込むことにした。そして、運良く泊まることができた。

 何となく使われている言葉に、その国の文化を感じることがある。「何か手伝いましょうか」という意味なら、”Shall I help you?"でもよいと思う。"Can I help you?"という言葉を直訳すると「私はあなたを助けることができますか」ということになる。それは、「あなたにおせっかいをすることは望まないが、もし私ができることがあれば、何なりと言ってください。」と言っているように聞こえる。

 真の個人主義とは、自分自身だけを大切にすることではない。一人一人を、すなわち全ての人を大切にすることである。そこには、「助けること」が結局は相手のためにならないことだってある。

 現代文明は、機械に人間が助けられることによって、人間性の喪失という悲劇を生んだ。ただ便利だから、楽だからということで、人間の通るべき大切な過程を排除してしまった。

 山を登るにしても、重い荷物を背負って山道を一歩一歩踏みしめて登るほうが、ロープウェイで一気に登るよりどんなに感動が大きいだろう。お金で買った贈り物よりも、愛情を込めた手作りのものの方がどんなに嬉しいだろう。、"Can I help you?"というのは「あなたの手によるプレゼント作りを手伝いましょうか」ということなのだ。

 真の親切とは、相手を生かすことにある。そこには本当の厳しさがなければならない。しかし、それが本当の優しさではないだろうか。



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