つきあたりの陳列室

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2005.09.22
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カテゴリ: Book
「アフリカの『小さな国』」 大林公子/集英社新書 0132D

わたしはこれまで,紀行文はちょっと敬遠してきました.書き手の思い込みが強いときなど,なんだか書いてあること全部が信用できなくなり,そこから先を安心して読めないような気分になることがあります.でも,コートジボワールの滞在記である本書をぺらぺらとめくってみたら,なんだか「いいな」と思ったので,珍しく読んでみることにしました.



著者の夫は,元外交官か何かで,夫婦でアフリカ数カ国に滞在してきたという.馴染みの無い国の話なのに,読んでいてあまりストレスを感じないように,工夫が凝らされてる.まず注釈がやたらと多い.説明を要する語は太字にしてあり,項の終わりで,まとめて説明される.

参考文献などもきちんと示されてる.それに,ジャーナリズムについての項などは,スポーツ紙が何誌,芸能誌が何誌ある,などというところまで書いてあって,この国の雰囲気が急に生々しく感じられた.

彼女の滞在中(1-2年?)に,結婚式1回,葬式3-4回,消防車出動が3回,独立以来初めてのクーデターが1回,起きたにもかかわらず,異様にあっけらかんとしていて,「さあ楽しもうか」という気概に満ちている.

雇ったお手伝いさんとは馬が合って,台所やバルコニーで,まいにち色んなことを話し込んだという.人種のこと,離婚,子供,家族,呪術,就職,料理,おしゃれ,テレビ,宗教.

ときどき,とても信じられない噂を聞いたりする.しつこく尋ねても,腑に落ちないところがある.でも「とにかく,ここの人はそう考えているんだ」と,適当なところで納得しておく.手がかりは後で見つかることも多い.他の人に同じ質問をすると,話の中味が少し違っていて,それで察しがつくこともある.文化人類学者の調査みたいでもあるけど,なんとなく,女性的でもあると思った.男性はもう少し,自分とか,自分の信頼する人間の説に固執すると思う.

主食がいろいろあるのが何だか羨ましかった.マニオク(キャッサバ),小麦,トウモロコシ,米..処理の仕方によって,さらにたくさんの種類に分かれる.ソースの種類はもっとたくさんあって,なんだかめくるめく世界.

同じようにみえる近隣諸国でも,それぞれの特殊な歴史や現状についていくつか知った.マリやブルキナ・ファソの人々は商売上手で,密かな反感を買っているらしいこと.クーデターの発端は国連軍としてチャドに送っていた兵士への給料の遅滞だったこと.隣国トーゴへ旅行に行ったら,かつての奴隷商人の子孫(ポルトガル人)と,奴隷の仲介業者の子孫(アフリカ人)が,それぞれ立派な屋敷を持って,いまだにそこに住んでいるらしいこと.



コートジボワールはサッカーのW杯の予選で結構いいところまでいってます.強豪カメルーンと同組ながら,勝ち点1差で2位.直接対決はすでに済んでおり,両国ともあと1試合を残すのみ.コートジボワールが出場したとしたら,初出場?

昔と今,あっちとこっちが,つながるようで楽しい読書でした.







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Last updated  2005.09.22 18:48:08
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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