つきあたりの陳列室

21世紀に銀のロマンティックはあるかい

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テーマ：スポーツあれこれ(11419)

カテゴリ： Sport

録画しておいたフィギュアスケート全日本選手権（フリースタイル）を見終えました．かなり長い感想文を書きます．

荒川静香 と 中野友加里 の演技には，バレエ的な様式美を感じました．中野の演技をフルで見たのは今回が初めてですが，彼女がリンクの中央に立ち，視線を遠くに置いてポーズを取ったとき，その表情はすでにダンサーのものでした．その一連の所作は，見ていてとても気持ち良かったです．演技自体もノーミスで，実に伸び伸びとして文句なしでしたが，おそらく荒川や村主に比べてポイント設定が低かったことと，彼女特有のジャンプ姿勢が減点対象とされたことが，得点が伸び悩んだ原因でしょうか．トリノ五輪出場は逃しました．

村主章枝（すぐりふみえ） は演技力に定評がありますが，私には，日本人スケーター特有の芸風というか，良くも悪くも本人の個性に依存した演技に見えます．しかし今回の彼女の演技には，有無を言わせぬ迫力がありました．五輪出場のためには今大会で優勝に近い成績が求められ，しかも怪我のせいで他の選手より練習時間がはるかに少なかったため，プレッシャーたるや凄まじかったでしょう．

曲は，私が去年よく聴いた， ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番 ．フィギュアにこれほど合う短調の曲も，ほかに無いかもしれません．ハイレベルかつノーミスの演技が終盤にさしかかり，曲の盛り上がるとともに観客のほとんどがスタンディングオベーションで彼女を後押ししました．演技終了直後，村主は表情を歪め，肩で息をし，体力の限界に達していました．首位の荒川がこの日集中力を欠いたため（こればっか），村主が逆転優勝，文句なしの五輪出場権獲得．トリノでは彼女が一番，安心して見られます．人生の全てを賭けた，すばらしい踊りっぷりを見せてくれるでしょう．

安藤美姫 も，演技については村主と同様「日本的」に見えました．しかし指導者を変えたせいか，今シーズンは少し雰囲気が変わったように見えます．成績の伸び悩みを批判されていますが，私には昨シーズンの淡白な演技よりも，それまでと傾向の違うプログラムに悪戦苦闘してる今シーズンの方が，見応えがある気がします．トリノで化けてほしいです．もうその準備はできていると思います．余計なこと気にせんでガツンと行ったれちゅーねん．

浅田真央 は，これからカラダもココロも劇的に変化していくはずですが，その過程で，自分の個性をどう確立していくのかが楽しみです．しかし，いかに出来が良いとはいえ，本当の葛藤というものをくぐりぬけていない，幼さゆえの完璧でしょう．今シーズンの成績だけを見て，浅田がスルツカヤや荒川を越えて世界一に登りつめたかのようにもてはやす意見など，浅はかというほかありません．でも，いかにも大物っぽいあの雰囲気を見てると，案外そんな葛藤をスルリとくぐりぬけてしまうような気もします．

恩田美恵 もまた典型的な「日本風」ながら「体育会系」でもあります．私は以前，会心の演技をしてガッツポーズを出す彼女を見てつい笑ってしまい，好感を持ちました．でもそれが一回限りのオイタではなく，何度もやっていると知ってがっかりしました．大相撲でガッツポーズを見たとき眉をひそめるのと同じ気持ちです．フィギュアはバレエじゃないけど，それに似て，様式美の追求という側面があると思うからです．

たとえば中野選手は，滑り終わったあと，かなりの時間を割いて，カーテンコールのような振りで，客席に向かって繰り返し挨拶をしました，荒川選手も，演技前後のそうした所作を丁寧にしています．会心の出来のときは観客への感謝を，そうでないときは悔しさと謝罪の気持ちがこめられているのでしょう．そういう姿を見ていると，ああ自分はフィギュアスケートを見ているんだという実感が湧いて，えも言えぬ豊かな気分になるのです．

恩田には恩田なりのこだわりがあり，彼女なりのリスクを背負って，これまでやってきたのでしょうから，今さら変えてほしいとも思いません．恩田のファンは，彼女のそうしたお転婆っぽさを愛しているのでしょうし．でももしガッツポーズをする選手が増えてきたら，勘弁してくれよって私は言いたいです．

ロシアの スルツカヤ などは，おそらく最高齢だと思いますが，ポーズを取った瞬間から，誰よりも若やいだ華やかな踊りを見せてくれます．あれこそ銀のロマンティック（by川原泉）っしょ．しかし私は今の時点では，荒川こそが世界一だと思ってます．蓋を開けてみないと分からない危うさも魅力のうち．でも調子は尻上がりです．きっと魅せてくれます．信じてます．

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