つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2009.11.14
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カテゴリ: Other topics
(2000年,プチフラワービッグコミックス,小学館)

倉多江美さんの漫画に初めて出会ったのは1980年代半ばのコミック・トム誌上です。フランス革命を,ほのぼの,ぼんやり,のらりくらりと描いた稀有な歴史漫画「静粛に!天才ただいま勉強中」でした。

70年代の一部の少女漫画家に特有な,あっさりとして大人びた絵柄,そしてドラマ性を煽ったりせず,淡々として落ち着いた作風が大好きでした。しかし,主人公が中央政界に入ってからの長い晩年の描写は,子供のころの私には退屈すぎて最後まで読みませんでした。

先日,古本屋で立て続けに倉多江美の本を買いました。彼女は寡作ですが,私は熱心なファンではなかったので,両方とも知らないタイトルでした。約二十年ぶりの,懐かしい再会です。



そのうちの一冊が,レディコミ系のコミックスレーベルから出ている「お父さんは急がない(1巻)」。これが滅茶苦茶おもしろくて,傑作と言ってもいいでしょう。続編も出ているようです。

「ヒカルの碁」を読んだ人なら腹が立ちそうなほどやる気のない,ロートル棋士のだらだらとした日々が描かれます。でも途中から,ちょっとずつ格好良くなっていきます。彼の家族が全員たまらなく魅力的で,最高に笑えます。娘もその弟も,じつにかわいらしい。



時間が止まったような,でもとりたてて強い主張をするでもない昔のままの作風です。革命ではなく,こういう日本の日常の笑いとペーソスを描いてくれて本当に私は嬉しい。

でもこの作者,なまなかではない哲学を持っている雰囲気があります。でなければ,こんなに作風が変わらないなんてありえないと,逆に思うのです。自分の感覚や感情を人に見せたい!という欲望が見えてこず,なにかこう,穏やかならぬものを隠し持っている気がするのです。

こう書いてみて,こうの史代さんの座右の銘,私はいつも真の栄光を隠し持つひとのことを書きたい,というアンドレ・ジッドの言葉を思い出しました。

いつか倉多さんのことをほんとうに書ける日が来ることを願って,キーを叩く指を措きたいと思います。

では皆様,おやすみなさい。明日も良い本と出会えますように。







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Last updated  2009.11.23 23:46:15
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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