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INVICIBLE NIGHT
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筋肉トレーニングを終える。
…あの事件から半年。俺は機関の執行者になるべく、訓練を重ねてきた。
…機関とは、吸血鬼討伐機関だ。この機関は表沙汰には決して出ない、裏の警察のようなものだ。
…まあ、警察とは違うところもある。
警察は起きた事件を解決するが、俺たち吸血鬼討伐機関は未然にそれを防ぐ。
それは吸血鬼だとわかっているからである。
…つまり、吸血鬼であればお構いなしに殺す、ということだ。
そして、それを行うのが執行者。人の身で吸血鬼を打倒し、殺す、それだけに特化した人間兵機。
あと、俺なんかは無理だが、もっと卓越した執行者は、魔術、というものを扱う。
一般でいう魔法である。詳しくはわからないが、それによって吸血鬼を討伐する。
ただ今は―――
「次は腹筋1000回です」
…この、鬼コーチの特訓がある。
「なあ、もう魔術を習ってもいいんじゃないか?体はもう十分鍛えたと思うんだが…」
「まだです。あなたはまだ吸血鬼を倒せない。まあ魔術を使えばCランクにはあがれるんですが」
「いいですか?我々執行者にはランクが付けられています」
「ああ、A.B,C,D,Eだろ。ああ、あとSか」
「そうです。魔術を使えるようになったらあなたのDランク―――魔術を行わず肉体だけで吸血鬼を討伐する―――からCランクにあがれるようになります」
そう、サヤ・ルートは告げる。彼女はBランクだ。俺よりも強い。…実に男として納得いかない。ただそれは事実なので仕方ない。
「…まあいいでしょう。魔術を少し教えましょう」
「お、やった!」
「まずは自身にかける魔術です。ワタシもこれしか使えません。例えば100メートルを走るのには10秒程度が限界です。しかし魔術をつかえばそれ以上の―――速さで走れます。ワタシならと…六秒といったところですか」
「そんなことも可能なのか…。魔術ってすごいんだな」
「ワタシも起源はわかりませんが、最高の力です」
と、電話が鳴った。
「キツキ、出動です」
「これでBランクか?!情報部ののやつらさぼってんじゃねぇか?」
柴が男と対峙する。もうすでに男に腕は無い。
「貴様…俺の腕を二本も…」
柴は隊員の一人だ。二本の刀を使う。
ランクはC…なのだがBランクの敵と戦っている。
だが状況は圧倒的だ。柴が男を追い詰める―――しかし
「その腕、もらうぞ!」
男の背中から四本の腕らしきものが飛び出てきた。
「ちっ!」
「柴、下がりなさい」
ばん、と音がして男が砂になった。
今のはサヤが扱う武器だ。
ベレッタM92Fをベースにアンダーマウントレイル、コンプ、さらに銃身を長くしたスペシャルな銃なのだそうだ。
そして今撃ったのは銀弾。対吸血鬼用武器だ。
「暁がいないからといって勝手な行動は許しません。減点2です」
「ちょ!少し力を見ようとしただけだよ!減点だけは勘弁!」
手を合わせてサヤに頼み込んでいる柴がいる。その横には同じ隊の岩がいる。
背中には大剣。まだ拝見したことはないが、かなりの大きさだ。
岩はランクAだ。
リーダーの暁という男はいない。
「では減点1です」
「ちぇっ」
「…なにか?」
「な、なんでもねぇってサヤ姉!ははは!」
「まあいいでしょう。それでは帰りましょう。私たちの寄る辺へ」
「どうでした?今回の戦いは?」
「んー…防ぎきるだけならできるだろうけど…勝てはしないな」
「見栄をはらないのですね、アナタは」
サヤが笑う。
言っとくと、サヤはとんでもない美人だ。だからその仕草はすこし気になる。
「いずれアナタも魔術を扱えるようになるでしょう。同時に剣技も習わなくてはならない。覚悟は…」
「できてるよ。半年で登り詰めてやる」
緊急要請が入った。
「シジョウ、調子はどうだ?」
出発前に俺らのリーダー、暁に声をかけられた。
「わからない。でも緊急要請なんだろ?俺なんかみたいな見習いがいていいのか?」
「戦いを見て学ぶ。それが一番の訓練だ。さあ、いくぞ」
状況はこうだ。
吸血鬼一人に対し四人。
リーダーは…あいつか。
ひとりだけ魔力の多い男がいる。
四人とも体から血が出ている。
「ボリス、どうした、いつもの威勢は?」
暁がその男に声をかける。
「うるせぇ!」
「そろそろ交代してくれ。死人が出てはこちらの責任になる」
「ふざけるな!まだ俺はやれる!」
「なら加勢する。オレ以外は皆待機」
「は?俺にもやらせろよ」
「いいか柴、あいつはランクSだ。おまえじゃどうにもならない」
「ちっ」
そして暁が駆けた。
吸血鬼は刀を持っていた。
「おい吸血鬼、おまえ、中々に古いな」
「ほう、やっと手ごたえのあるやつが出てきたか」
「悪いが砂になってもらうぞ!」
「ほざけ小僧!」
暁が刀を出す。長い日本刀だ。
そして斬りあいが始まった。
状況は一方的だった。
暁が刀でおとこを押している。そして
「終わりだ!」
地面に刀を叩きおろした。
地面は亀裂を発し、男のところで弾けた。
「む」
男が飛ぶ。
「終わりだ」
刀に魔力がこめられる。そして
「斬波!」
剣戟が男へと一直線に向かった。
「なに?!」
男は驚きとともに砂になった。
はじめて暁の戦う姿を見て、身震いがした。
「あれが…Sランク…」
「あれがもうひとつの魔術、世界に働きかける魔術です。しかしあれだけの魔力をこめることは難しいです」
「ボリス、おまえ、修行サボってるそうじゃないか。このことは機関に連絡しとく」
「ま、待て!これは油断してただけだ!」
暁の眼が変わった。
「部下をも巻き込んでか?」
「う」
ボリスと呼ばれた男は尻餅をついた。
「へへへ、すげぇだろ?あの暁の斬波」
柴が声をかけてくるなんて珍しい。
「ああ。ありゃ人間業じゃない」
「俺もできるぜ、斬波」
「な!おまえもできるのか?!」
「まあ暁ほどじゃないがな。なんなら教えてやってもいいぜ?」
「ホントか?!」
「そのかわり極秘にな」
「では自身に魔力をかけてみてください。あの暁や柴のように」
暁や柴…暁は赤く、柴は紫色だった。俺のは――
「黄色か」
「あなた、色で魔力を把握できるんですか?!」
「いや、なんとなーくね」
「ではその色をコントロールしてみてください。そうですね、腕にかけてこのナイフを折ってみてください」
「そんな簡単に言われ…あれ?」
ナイフはぐにゅりと曲がった。
「…もう魔術を使えるとは…圧巻です」
「いいか、自身にかける魔術を刀にかけるんだ」
サヤの魔術講座のあと、柴との訓練が始まった。
魔力をこめるが、切っ先までいかない。
「んーまあ最初にしては上出来だ。あとは思いっきりぶん回す、やってみろ」
「わかった」
魔力をこめる。そして
ひゅん、と音がして小さな斬波が発生した。
「なんだ、できてるじゃねぇか。あとは練習あるのみだ。がんばれよー」
もう俺にやることはないと言わんばかりに柴は去っていった。
「サヤ、次の討伐がCランク以下だったら、俺にやらせてくれないか?」
「それは暁が決めることです。彼の部屋は一番奥です」
「ほう、その自信はなんだ?」
暁の部屋に向かい、サヤに言ったことを話したところ、こういわれた。
「わからないけど、俺にもだんだん魔術がつかえるようになってきた。だから戦わせてくれ」
あんな悲劇がおこらないように。
「…ふん。わかった。キミの自信を見させてもらうよ」
電話が鳴る。
『キツキ、出動要請よ。しかも敵はCランク。あなたの望みが叶うわ』
刀をもち、出動の準備をする。
「香宮…」
被害者なし、場所は人気のない公園。
「あの男か」
「キツキ、わかっていますね?無理だと思ったら退くこと」
「ああ、わかってる!」
刀を抜きながら男へと駈ける。
一撃目。
相手の硬化された腕にはじかれた。
二撃目。
横へのなぎ払いを飛んでよけられた。いまだ…!
「斬波!」
敵の硬質化した腕を斬った。が、威力はまだ弱く、致命傷には及ばない。
「はぁぁぁ!」
男を両断した。
「柴、あなたですね斬波を教えたのは?」
「そうだけどー」
「彼はまだDランクですよ?」
「でもつかえたんだからいいじゃん」
「サヤ、そう怒るな」
暁が間に割り込む。
「強くなることはいいことだ。ただ、時間も必要だ」
暁はゆっくりとこちらへと視線を向ける。
「今度からはオレがキミに魔術を教える」
「斬波はAランク級の魔術だ。柴は例外だが。あとキミもな」
暁の部屋で談話する。
さすがにSランクの部屋は広い。
「そこで、だ。もっと簡単な魔術を教える。斬波は刀に魔力をこめるだろう?それをさらにこめるんだ」
「更に…?」
「柴はまだできなかったが、キミの成長と天性の力はすごい」
暁はまっすぐと俺の瞳を見る。
「いずれ使うであろう魔術だ。名前は『鬼神』どんなものでも斬りとばせる」
「いずれって…いつだよ?」
「時が来る。その時までに鬼神を覚えておくんだ」
と、気になることを聞いてみた。
「俺さ、居合い抜刀術を習ってたんだけど、戦いに生かせないか?」
「居合いか…。ふむ、鬼神と合わせられるかもしれないな」
そう言うと暁は部屋の奥まで行ってしまった。
居合いは父親が習わせたくて習わされた。
無論俺は嫌がった。
実を言うと真剣を握ったのは機関がはじめてじゃない。
居合いで握ったのだ。
だから重さとかもわかってる。
「いやー悪いな、やっと見つかった」
暁が手にしてるのは、刀袋に入った刀だった。
「これは居合いに向いている。反りが深いだろ?これならキミの居合いも戦闘で役にたつかもしれん」
「二連斬波!」
「Perish(破滅せよ)」
「…………」
「斬波!」
「鬼神!」
今回は殲滅戦だ。町一個がつぶれたらしい。
「ボリスめ…なぜ応援を呼ばなかった…」
そうして戦いは終わった。
第15隊隊長、イワン・フリート、殉職。
残る隊員も全滅。
俺たちがきたときにはそうなっていた。
「親玉がどこかにいるはずだ。オレとサヤ、シジョウ、岩、柴で別れて探そう」
町には誰もいない。
夜だからではない。単に生きてる人間がいないのだ。
「ちっ…あのロシア野朗よくもやってくれたぜ」
町が、死んでいた。
そうして
「ほう、やっと機関のお出ましか」
「?!」
男が立っていた。
「いや全く…今回は実に見事だった。人はあそこまで弱くなれるのか?」
クククと男は笑う。
「てめぇが親玉か!斬り飛ばしてやる!」
柴が突進しようとする。が
「柴…下がっていろ」
岩が間に入った。
「邪魔すんな岩!こいつは念入りに殺す!」
「お前にもわかるだろ…やつの魔力量が」
「ちっ」
そうして、戦いが始まった。
戦いは、一瞬だった。
岩は崩れ落ち、その大剣も破壊されていた。
柴と俺に、恐怖の旋律が走った。しかし
「キツキ…暁たちを呼んで来い。ここは俺がしのぐ」
「…ん?今キツキと言ったか?まさか四条キツキか?」
「え」
わけがわからない。
「そうかキツキか!元気にしてたか?居合いの方は上達しているか?」
わけがわからない。
「誰だ、おまえ」
「まあ知らなくて当然だろうな。だが、父親の顔ぐらいは覚えてろ」
「キツキ…あいつ、お前の親父か?」
「知らねぇ。俺の親父はとっくに死んでる」
「ああシジョウは死んだのか。友人を亡くすというのは辛いな。ところでキツキ、なぜお前が機関の人間と一緒にいる」
赤い目がこちらを睨む。
「俺はな、お前らみたいなのを討伐するために機関に入ったんだ!お前が父親であるはずがない!」
「そのとおりだ」
と、暁が駆けつけてきた。
「紅月か…まだ機関に頭をたれてるのか」
「ああ、お前を始末するまではな」
「息子二人に見捨てられるとは…」
二人…?
「紅月、黄月、お前らは私にとってかけがえのない存在だ、息子という」
なにをいってるんだこいつは…?
「キツキ、今は事情を話せる状況じゃない。全力であいつを倒すぞ!オレが突っ込む。他は援護だ!」
「こちらには刀殺しの剣があるが、勝てると思っているのか?」
「そのためにこの術を開発したのだ―――鬼神!」
無数の剣戟。
もはやそれは人では成しえぬことだ。
「なぜ折れぬ?!」
「今この刀の強度は最上級だ。しかも切れ味もな!」
さらに男を圧倒する。
「ぬ。悪いが今回は抜けさせてもらおう。だが覚えておけ紅月、お前は私が殺す」
男は去っていった。
暁は動かない。と、地面に倒れた。
「鬼神の使いすぎですね。半日は目を覚まさないでしょう」
「なあサヤ、あいつは何者だ?」
「蒼い月と呼ばれるものです。確認されてる吸血鬼の中でもトップクラス、SSランクです」
「SSランク…。でもなんで鬼神で剣を折れなかったんだ?」
「蒼い月が持つ刀は『刀殺しの剣』と呼ばれています。どんなものでも破壊する。しかも鬼神のように魔力を使いません。今生最強の武器です」
「そうか、暁は魔力きれで倒れたのか」
「ええ。鬼神は魔力を使います。あなたも気をつけてください」
暁が目を覚ました。
「で、あいつはホントに俺たちの父親なのか?」
「…ああ」
「つまり俺ら兄弟?」
「そういうことになるな。ある一族がいた。吸血鬼討伐機関に協力している一族だ。しかし一族の長が吸血鬼となって村を襲った。そうして、その一族は滅びた。だが、俺たちは生き残った、その一族の一員として」
「あいつを倒せるのか?」
「…その鍵はお前が握っている。無論オレも隠しダマがあるがな」
そうしてまた、ひとつの町が消えた。
第12隊全滅。
蒼い月の仕業だ。
今回は第7隊全員で蒼い月を探すことになった。
そうして、そいつは現れた。
「今の機関は終わってるな。吸血鬼一人殺せぬとは」
「どうかな。今日は死んでもらうぞ!」
暁の眼が赤くなる。
「ほう、ようやくその力を使う気になったか!」
「な」
暁の魔力が倍へとふくらむ。
「吸血鬼化です」
サヤがポツリと言う。
「昔暁は、あの男に噛まれました。しかし特異体質なのか、彼は人と吸血鬼、どちらにもなれるんです。ですからその力を行使することもできる、最強のSランカーです」
戦況は確かに暁が鬼神で押している。
そうして何合撃ったか、暁は崩れ落ちた。
魔力切れだ。
「ふん、やはりその程度か。どうだ?今から私と一緒に機関を潰さないか?」
「ふ…ざけるなぁ!」
斬波が跳ぶ。しかし刀殺しの剣で弾かれた。ここで、何かを思いついた。
「ここまでだ。自分の息子を殺すのは吝かだが―――」
「待て!」
刀を握る。
暁が何かを呟いている。
「キツキ…居合いだ」
魔力をこめる。
日本刀全体に流す。
色は黄色。
タンクは爆発を待つ。そして
「鬼神斬波―!」
刀を抜くとともに、黄金色の斬波が男へと一直線に向かった。
「なんだと?!」
次の瞬間には男は立っていなかった。
「その鞘は刀殺しの剣の鞘だ。魔力をこめることによって挿した刀の切れ味を上げる。まあ、今回はお前の大金星だ」
「二階級特進、Bランクね。あと柴もBランクに特進」
「おまけみたいに言うな!」
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