番組構成師 [ izumatsu ] の部屋

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1000万=“極めて安い”制作費!?


今朝、ふと目にした記事に、寝ぼけ眼の目玉が開く。

朝日新聞のTV面、「サブch」なる記事。
見出しは「地道に300回の『金字塔』」。
フジテレビが関東地区で放送している番組「ザ・ノンフィクション」が
放送300回という節目を迎えたという内容。
視聴率もとれず、したがってスポンサーも付きにくいドキュメンタリー番組が
長い間続いていることは嬉しいことだし、どんどんずっと続けていって欲しい。

眠っていたぼくの目玉を開かせたのは、その記事の中に、
「制作費は一本当たり約一千万円と極めて安い」
という表現を見つけたから。

一千万円が“極めて”安い??????

信じられん。

この記事を書いた記者は、何と比較してこう表現したのだ?
キー局の人気ドラマや、NHKの大河ドラマ&NHKスペシャルなどと
比較して言っているのだろう。
でないと、こんな安易な言葉になるわけがない。


ぼくはローカル局でテレビの仕事をするようになって丸14年たつ。
これまで200本前後の30分や1時間のドキュメンタリー番組に携わってきた。
その中で、一千万という単位の制作費が使えた番組は
片手で数えられるくらいしかない。

数百万円、それも片手の指で足りる程度の予算でも何本あることか。
その他大半の番組は、100万前後の予算で作られてきた。

少ない予算。限られたスタッフ。
それでも、ほそぼそとながらドキュメンタリー系の番組を作り続けているのは、
ディレクターをはじめとする現場スタッフの努力のたまものだ。

そして、「楽しいだけのテレビでは、まずいんじゃないか?」という
現場の疑問が、報われないことの多いその努力を支えている。

そんな現場の思いを知っているからこそ、
「制作費は一本当たり約一千万円と極めて安い」
という安易な表現にアタマにきた。

目玉と脳みそが東京を向いている人間が言いそうなことだ。


数年前、東京でフリーとして仕事をしているプロデューサーと
話す機会があった。
当時、ぼくは30分のドキュメンタリー番組に携わることがちょくちょくあった。

--その製作費、どのくらいだと思います?

そう、ぼくはたずねた。
そのプロデューサーはアタマをひねったあげく、
思い切って値切るかのように、

--1千万くらいだろ?

このときも、アタマにきた。
そのドキュメンタリー番組も、80万、90万の制作費で作られていた。

このプロデューサーも、朝日の記者氏も、感覚がマヒしているとしか思えない。
考え方が、ふた桁、違うのだ。


朝日の「サブch」なる記事では、
「ザ・ノンフィクション」という番組をこう讃えている。

--取材対象と人間関係をきっちりつくるまでは、
--何ヶ月かかってもカメラを回さない。

当たり前である。
そんなこと、制作する者にとって、基本であり、常識である。
そんなに珍しいことのように取り上げて言われるほど、
めちゃめちゃな取材は、現場はやっていない。
出たとこ勝負、突撃取材とは違うのだ。


--取材は短いもので数ヶ月、長いものは一年かかる。

どんなドキュメンタリーでも数ヶ月はかかる。これまた当たり前。
今、ぼくが携わっている番組は、取材を始めてから2年以上経っている。
その集大成が、ようやく今月末、1時間番組にまとまる。

こつこつと取材を続け、ひとつの番組を作りあげる。
ローカルでは、そんなこと、フツウなのだ。
声を大にして視聴者に告げるようなことでもない。


ローカルだからこそ、コツコツできるとも言える。
「ザ・ノンフィクション」という番組は、キー局の番組。
キー局でドキュメンタリー系の番組を作り続けることは大変なことには違いない。
この記事を書いた記者も、それを知るからこそコラムにとりあげたのだろうから。
しかし、それにしては、表現が軽い。


ぼくが住む九州地方では、10年以上続いているドキュメンタリー系番組が
数本ある。中には30年をこす番組もある。
どの番組も、予算不足できゅうきゅうとしている。
「もうやめよう」という、営業的な声も、もれ聞こえる。

しかし、それでもやめない。
スポンサーもついていないのに作り続けるのは、
“作る場”はいったん消えると、二度と戻ってこないから。
現場の人間がそれを痛いほど知っているからなのだ。

グルメも旅もいい。ぼくもよく見るし、楽しい。
賑やかしい情報番組を情報源のひとつとして活用している視聴者も多い。

しかし、そうした番組だけを作るようになってしまっては、
テレビ局として存在する意味が半減する。

多くの部数ははけなくても、出版されるべき書物があるように、
視聴率があがらなくても、視聴者に提示すべき出来事、事実、真実がある。
それがあるかぎり、ドキュメンタリー系の番組は
作り続けられなければダメなのだ。


そうは思えど、現実は厳しい。
売上の上がらない番組を自社で作ることをやめる局は増えている。
制作プロダクションに下請けさせるのだ。
ぼくがアタマに来た朝日の記事でも、「ザ・ノンフィクション」には
40社の制作プロダクションがかかわっていると記されている。

局の人間が関わるのは、プロデューサーとして名前だけ。
あとはすべて外注というのが、もうフツウだ。
お金を出して、外部の人間に制作力を身に付けさせているようなものだと
常々思うのだけど、もうこの流れは止まらないのだろう。


きのう、メールで某局から仕事のオファーがきた。
この番組、制作費は片手の指(それも、より少ない本数)で足りる数百万円。
だが、それでもローカルでは通常の数倍だ。

一千万円の制作費を“極めて”安いとする記者氏は、
この制作費をどのように評してくれるだろうか?


(2004.05.22)




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