tomorrow

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七年目の恋(レクイエム)


 彼女は水辺が好きでこの間はデートで朝早く二人で電車に乗り金沢八景にある水族館に行った。冴は小さなバスケットの中にサンドウィッチを詰め白い帽子を被った。春の日差しは夏を予感させる日差しだった。僕は冴と品川から京急線に乗り換え初めて見る電車からの風景は僕達が住む街とは違い狭い山と谷を縫う様にして走った。所どころに桜のピンク色が山を飾っていて僕はその狭い平地が山を背負い海を望むこの大地がとても日本らしいと思った。「ねえ、雄介!金沢八景ってこの地名カッコイイよね?」冴はニコニコしながら笑った。「えっ?冴知らないの?東海道五十三次の作者が版画で描いたのがここの風景何だよ!」冴は何処?と言って海の方を眺めた。
  つづく。

七年目の恋(レクイエム)

子供の頃よく将来について考えた。「僕は勉強をして、きっと大学を卒業して会社勤めをして満員電車に揺られながら帰ると奥さんが帰りを待っていて、ただいま、と言い歴史を変える様な大層な事もせず、それなりに普通の何処でもある生活を送るのだろう」子供の頃は不思議だ。誰から教わる事もなく大人以上に真剣に人生について考えていた。でも大人になるとどうだろう?いつの間にか心は逆に子供の頃に帰っていく。「どうでもいいや、別に今が何とかなれば楽しければ」未来が短い大人になると今を生きるで精一杯になる「何とかなるさどうにかなるさ」といつの間にか全てが思い通りに行かない人生に期待をしなくなる。雄介は仕事を決め兼ねていたが冴との暮らしを夢見ていた。「社会人になって仕事も決めて今よりも貧乏でも無く冴と暮らしていける」ただそれだけだった。イヤそれ以上でも無くそれ以下でもなくただ漠然と将来を夢見ていた。

七年目の恋(レクイエム)

僕と冴は海でデートをする時は決まって品川のウィングのマクドナルドで待ち合わせをした。雄介は冴が来るまで決まってマックでポテトとコーヒーを頼み、外の横断歩道を眺めて冴を待った。青信号に変わると品川駅の方から津波の様に人が押し寄せてくる。その波の中に冴が小走りでこちら側に流れ着き僕を探しているのを見るのが好きだ。「ああ、僕を探してくれているんだ。世界の何処いても君は僕を必要として探してくれるのだろうか?」僕はそんな事を思いながら冴に手をふる。冴は僕に気付くと子犬の様に走ってやって来る。「雄介待った?」僕は首を横にふる。「早めに来たんだ。ポテトが食べたくてさ(笑)」僕等は手を繋ぎ津波が押し寄せる横断歩道を逆行して行く。改札をくぐり階段を駆け上がるとホームに何本かの線が引かれている。「今度来る電車に乗るのに何処に並べばいいのか、どうやって知る事が出来るの?」それは僕にとっても不思議な事だった。このラインは都営線からの乗り入れの場所と品川からの始発と扉が二つなのか三つなのかで並ぶ場所が違う!確かにそこまでは電光掲示板を見ればわかるのだが、ドアーが何枚なのか?までは表示が無い。なのに、並んでいる人はそれが当然知っているが如く列を形成して行くのだ。「とりあえず、新逗子まで行くのには何処に並べばいいんだろう?」僕はそんな疑問を感じながらも人が多く並んでいるラインの後ろに並んだ。「雄介、何でここの列だと思うの?」冴はガイドブックを片手に持ちながら僕に聞いて来た。「根拠なんて無いよ。ただ。何となくって言うのかなぁー、だって当然次に電車が来る所が必然的に並ぶ人が多いんじゃないかなぁー?」僕はそんな事を考えていた。赤とベージュの二色の京急線が駅のホームに入ってきた。広い線路の感覚を見つめていると風と供に春の香を運んで来るのだった。


七年目の恋(レクイエム)


僕等は何回か新逗子の駅から細い海岸へ続く道を歩いて逗子の海岸に出掛けた。冴は幼い頃父方の両親が逗子の小坪に住んでいたらしく、母親が夫婦喧嘩で実家に帰ると冴は父方の逗子の両親に預けられたらしい。僕等は逗子に着くと逗子の駅前のラ・マーレド茶屋で取り合えずお茶をする「昔ね、お婆ちゃんに連れられてそこのそうそう、キングストアーで買い物をした帰りここに寄るのよ!お婆ちゃんが亡くなって、仲のいいお爺ちゃんは半年後に後を追う様にして亡くなって、そう今じゃあの家の跡地は銀行の保養所になっちゃったから、ここがお婆ちゃんと私の唯一の思い出の場所かなぁー」冴は茶屋の擦り硝子越しに遠くを目を細めて見つめていた。「海辺で又暮らしたい」冴は小さな声で呟いたのを僕は聞き逃さなかった。僕達は逗子の海岸へ細い路地を曲がりくねりながら海岸へと出た。国道134号線の下をくぐるとそこは海だった。海辺には渚ホテルの時計台が見えた。このホテルは歴史を感じる古いホテルで取り壊す事が最近決まったらしい。「どんどん変って行くなぁーこの辺も」冴は悲しそうに呟いた。「ねぇー、雄介知っている?」冴はニコニコしながら僕に話しかけてきた。「この渚ホテルの話!」僕は冴に聞き返した。「えっ?このホテル何かあるの?」僕の問いに冴は嬉しそうに、「私が大好きな女優の夏目雅子さんと伊集院さんが愛を育んだホテルなのよ」僕は知らなかった
白血病で亡くなった彼女が見たホテルからの海の風景と僕達が見ている風景が同じであると考えただけで切なくなった。「そうなんだ。綺麗な人だったよなぁー」
海を観ながら冴の話を聞きながら僕は思った。永遠に変らない物なんてこの世に無いのかもなぁー?そう思ったら何だか心のそこから切なくなった。
 僕等は何も言わずただ波の向こうの船を眺めていた。

                         つづく。

七年目の恋(レクイエム)

一生変わらない物を望むには、お互いにある程度の誓約を設けてそのなかで生きて行く事が望ましい。それがあればきっと神様の前で違う愛は永遠である。
 とても暑い夏だった。テレビのニュースではアナアンサーが挨拶がわりに「今日も全国的に記録的な猛暑です」と告げていた。僕は相変わらず会社のデスクに座り山のような書類と格闘していた。「吉田早く終らせろよ。今週の目標まだ行って無いからな、残業になるぞ」係長は僕に真剣な表情で言った。「ブーン ブーン」と机の上で携帯電話が踊った。僕は留守番電話のメッセージが流れるのを確認してから席を立った。「係長すいません、トイレに行きます」係長は僕を睨みつけながら「早く帰って来いよ」と言った。僕は部屋のドアを開け廊下に出てトイレの近くにある自動販売機のある所へ携帯電話のメッセージを聞きながら携帯電話からききながら移動した。メッセージの主が冴だとわかっていたからだ。冴は滅多に仕事をしている時に電話はかけてくる事が無いのだ。きっと何かあったに違いない。僕は悪い予感のまま留守番サービスセンターの無機質なアナウンスの女性の声を聞いていた。「一軒目のメッセージです。ピーッ、もしもし雄介、仕事中ごめんなさい大至急電話下さい。よろしくお願いします」冴の声は慌てていた。僕は携帯の冴の番号を探すとボタンを押した。何があったのだろうか?悪い予感のまま、携帯電話のスピーカーに耳を押し当てた。「もしもし、冴?留守番電話聞いたんだけど何かあったの?」僕は矢継ぎ早に言葉を並べた。「雄介忙しいのにゴメン。たった今父が息を引き取ったの」僕は冴の言ってる事がうまく飲み込めなかった。「お父さんが無くなったの?何で?」僕は必死で事態を頭で飲み込もうとしていた。「持病でなんだけど、今息を引き取ったの」僕は何が何だかわからないまま、冴に病院の場所を聞くと取り合えず冴のいる病院へと向かった。

                             つづく。

七年目の恋(レクイエム) 「連載小説を書いてみようv(6297)」 [ カテゴリ未分類 ]
僕は事の重大さを感じた。「私ね、雄介とお父さんて結構似ている所が好きなの。お父さんて私にあれもダメこれもダメって言った事が無いの。冴は好きな様に生きればいいっていつも言ってくれる。私は雄介にお父さんのそういう所を貴方に望んでいると思うわ」昔八景島に二人で行った時の事を思い出した。冴は間違えなくファザコンだと僕は思った。品川から京急に乗り金沢八景に向かった。冴のメールによると金沢八景の駅の近くの共済病院にいるとの事だった。僕は品川駅で駅員を捕まえ一番早く金沢八景へ着く乗り継ぎを聞いた。すぐにホームに快速特急に乗り込み冴にメールを送った。「今、品川を出たからもうすぐだよ。待ってて」僕は電車に乗り車両の角の席に座るとそのまま眠ってしまった。「上大岡で乗り換え無くちゃ」品川で駅員に聞いた言葉を呪文の様に繰り返しながらいつの間にか眠っていた。夢の中で僕は冴に何て言葉をかければいいのか僕は考えていた。冴の父親はいろいろな商売をしていた「吉田さん僕はね、インチキな商売ばかりやってきたよ。学校を卒業して同級生だった家のと結婚して人に頭下げて使って貰った事が無くてね」サラリーマンになり立ての僕に冴のお父さんは我が娘の相手が会社員だと言う事が少し納得がいかなかったみたいだ。「吉田君も家の冴もまだ若い。急いで事を決める事も無いだろう」そう言うと笑って僕のビールを勧めてくれた。あのお父さんが亡くなるなんて僕はまだ信じられなかった。

                           つづく。
七年目の恋(レクイエム) 「連載小説を書いてみようv(6297)」 [ カテゴリ未分類 ]
僕は事の重大さを感じた。「私ね、雄介とお父さんて結構似ている所が好きなの。お父さんて私にあれもダメこれもダメって言った事が無いの。冴は好きな様に生きればいいっていつも言ってくれる。私は雄介にお父さんのそういう所を貴方に望んでいると思うわ」昔八景島に二人で行った時の事を思い出した。冴は間違えなくファザコンだと僕は思った。品川から京急に乗り金沢八景に向かった。冴のメールによると金沢八景の駅の近くの共済病院にいるとの事だった。僕は品川駅で駅員を捕まえ一番早く金沢八景へ着く乗り継ぎを聞いた。すぐにホームに快速特急に乗り込み冴にメールを送った。「今、品川を出たからもうすぐだよ。待ってて」僕は電車に乗り車両の角の席に座るとそのまま眠ってしまった。「上大岡で乗り換え無くちゃ」品川で駅員に聞いた言葉を呪文の様に繰り返しながらいつの間にか眠っていた。夢の中で僕は冴に何て言葉をかければいいのか僕は考えていた。冴の父親はいろいろな商売をしていた「吉田さん僕はね、インチキな商売ばかりやってきたよ。学校を卒業して同級生だった家のと結婚して人に頭下げて使って貰った事が無くてね」サラリーマンになり立ての僕に冴のお父さんは我が娘の相手が会社員だと言う事が少し納得がいかなかったみたいだ。「吉田君も家の冴もまだ若い。急いで事を決める事も無いだろう」そう言うと笑って僕のビールを勧めてくれた。あのお父さんが亡くなるなんて僕はまだ信じられなかった。

                           つづく。
七年目の恋(レクイエム)

僕は事の重大さを感じた。「私ね、雄介とお父さんて結構似ている所が好きなの。お父さんて私にあれもダメこれもダメって言った事が無いの。冴は好きな様に生きればいいっていつも言ってくれる。私は雄介にお父さんのそういう所を貴方に望んでいると思うわ」昔八景島に二人で行った時の事を思い出した。冴は間違えなくファザコンだと僕は思った。品川から京急に乗り金沢八景に向かった。冴のメールによると金沢八景の駅の近くの共済病院にいるとの事だった。僕は品川駅で駅員を捕まえ一番早く金沢八景へ着く乗り継ぎを聞いた。すぐにホームに快速特急に乗り込み冴にメールを送った。「今、品川を出たからもうすぐだよ。待ってて」僕は電車に乗り車両の角の席に座るとそのまま眠ってしまった。「上大岡で乗り換え無くちゃ」品川で駅員に聞いた言葉を呪文の様に繰り返しながらいつの間にか眠っていた。夢の中で僕は冴に何て言葉をかければいいのか僕は考えていた。冴の父親はいろいろな商売をしていた「吉田さん僕はね、インチキな商売ばかりやってきたよ。学校を卒業して同級生だった家のと結婚して人に頭下げて使って貰った事が無くてね」サラリーマンになり立ての僕に冴のお父さんは我が娘の相手が会社員だと言う事が少し納得がいかなかったみたいだ。「吉田君も家の冴もまだ若い。急いで事を決める事も無いだろう」そう言うと笑って僕のビールを勧めてくれた。あのお父さんが亡くなるなんて僕はまだ信じられなかった。

                           つづく。
七年目の恋(レクイエム)

目に見える者は永遠だと誤解しがちだが、いずれ別れがやって来る。誰もが頭でわかっていても、その瞬間が来るまで別れの本当の意味は誰にもわからない。 今年一番暑くそして長い一日だった。僕は会社を早退し、品川で京急線に乗り三崎口行きの快速特急に乗り、上大岡で各駅停車に乗り換えた。金沢八景の駅に着くまでの間僕は冴の父親の顔を細かい所まで思い出そうとしていた。最後に逢ったのは、横浜のステーキ屋だった。僕は冴が学校を卒業したら一緒になりたいと彼に告げた。「そうかい。それは君が好きな様にしなさい!」彼は優しくそう僕に言った。冴の父親は無鉄砲な人で、洒落た親父さんだった。

七年目の恋

金沢八景に着き僕は冴の携帯に電話をした。「冴今金沢八景の駅に着いたから。ここからバスだよね。横須賀方面に向かうんだね??うんわかった。共済病院だね二階だね、わかった」僕はバスを拾わずタクシーに乗り行き先を告げた。さっきまでのいい天気は今にも嵐が来そうなぐらい雲が低く暗く空に立ちこめていた。「共済病院までお願いします」タクシーは走りだした。タクシーの中で僕はネクタイを外した。タクシーはあっと言う間に共済病院の玄関に車を着けた。エレベーターで二階に行くと集中治療室の長椅子に冴と妹と母親が座っていた。「雄介忙しいのにごめんなさい」僕は冴の母親に軽く頭を下げた。冴の母親は、「忙しいのに雄介さんすいませんねぇー」彼女の母は僕にそう言った。

                           つづく。
年目の恋い(レクイエム)

僕は子供の頃から、生きる事の中で感じた事がある。人の世の人間関係には全て意味があり因果関係で成り立っているのだと。 例えば、今日このサイトに訪れてくれた人達も少なからずとも、お互いのそれぞれの人生で少なからずとも、接点があるのかもしれないと思う時があるがそれがどの様な形でお互いの人生に影響する物なのか僕には計り知れない。 少なくとも商売の世界は売る側買う側がお互いに納得して終わればいい人生を送れるが、どちらかが得をし、どちらかが泣きを見ればいずれ、その恨みつらみは、又いつか戻って来る。神がいるか居ないかは僕には、わからないが少なくとも、帳尻が合う様にこの世は出来ている様に思っている。そんな事を感じ無いではいられない冴の父の死だった。 「吉田さん、遠い所すいませんね。お父さんに逢ってやって」僕は我に帰り、冴の母に言われるまま僕は冴の父が安置されて間もない集中治療室に入った。振り返り冴の顔を伺うと冴は涙すら見せず、笑顔さえ浮かべていた。僕にはその訳すらわからなかった。冴のお父さんは生前と変わらない顔色のまま、自慢のオーダーの青いストライプのワイシャツに床屋に行って間もない整った髪型の姿だった。まるで今日の日を
知っていた様な位おしゃれだった。ただいつもと違う事は冴の父が目を醒まさない事と、足首の付近に血液を抜いた跡がある事以外は。冴の父の顔を眺めながら、僕は去年冴の父親と食事をした光景を思い出した。「吉田さんあんた、独立しないのかね!人に使われ頭下げて偉いなぁ。私には到底出来ない事だよ」その時僕の頭の中に、冴の言葉が浮かんだ。「お父さんの好きな所はね雄介、私がやりたい事を何でもやらせてくれたの感謝しているの。だから私にとってお父さんは絶対なの」そんな冴の言葉を思い出したが僕は一人の男として冴のお父さんに言葉の弓を引いてしまった。「独立はいずれ考えますが、今はその時じゃ無いと思いますので」僕は言葉を濁した。誠実と言う名の冴のお父さんをキズつける言葉が僕の口から溢れた
。「そうだな。私の生き方と吉田さんの生き方は違うのだからね」寂しそうに冴の父は答えた。「こんな事になるなんて!僕は何て言う男なのだろうか」黙ったままの冴の父親に手を合わせた。言葉は本当に難しい。正直過ぎると人をキズつける。何て大人げ無いんだろうか!しかし、全ては後の祭りだった。
つづく。

七年目の恋(レクイエム)

葬儀は質素な物だった!冴は泪さえ見せず気丈に振る舞っていた。こんな時男はたいして役に立たない。車を借りて冴の親戚の人の送迎をしたり、お坊さんを迎えに行ったり、葬儀会場をFAXしたりと僕はそんな事をしながら、時より葬儀場の花が増えて行くのを眺めていた。「本人はこんな時何処かで観ているのかな?僕もいつかはこんな日がやってくるんだろうな?」そんな事を少し想像してみた。そんな時誰に一番逢いたいと思うんだろう?葬儀場を後にの金沢の野鳥公園から夕日を眺めた。そんな事を考えていたら、涙がこぼれて来た。この世は冴の父には行き止まりでも、僕には真っ赤な夕焼けが明日を約束してくれている様だった。その晩テレビのニュースキャスターは今日は記録的な猛暑だったと告げた。
翌朝、僕は会社の営業部長に電話を入れた。親戚の不幸で有休を使わせてくれと電話で言った。「雄介!お前何親等の親戚なんだ!この糞忙しい時に!親の死に目にも逢えない仕事で、お前の仕事の代わりは出来んぞ!分かっているのか!」僕は受話器から耳を離した「すいません」それだけ言って電話を切った。何が出来る訳じゃ無いけど、僕は冴の父の側にいた。「雄介さん、好きな様にやったらいいよ」そんな風に言われている様だった。僕は冴の父の顔を見ていた。まるで、自分の運命を知っている様な潔い最後だった。短く刈込んだ髪に自慢のネーム入りのシャツに麻のジャケット姿が彼に初めて逢って日の事を思い出させた。「貴方は僕に何を期待していたのですか?僕は貴方に何も出来ないままで早すぎます」息子の居ない彼に好きだった酒を勧め、最後まで彼が手放せさなかったロングピースを僕が吸って最後のお別れをした。 つづく。

七年目の恋

人の一生何て儚いと思った。僕の中のこの世界はどこまで続いていて、僕無しの世界何て想像できなかった。きっと僕が見ているこの世界は僕だけの物で、僕がこの世から消滅したら消えて無くなるのだと思っていた。しかし、冴の父親の棺の側のパイプ椅子の上で朝を迎えた。この世から大切な人が去ってもこの世は終らず又何も無かった様に朝陽は空へ登ってきた。「あなたがこの世から居なくなってもこの世は終わらないのですね」僕は冴の父親に話しかけた。この世に残された者はその天命が尽きるまでどんなに悲しい時も全うする事が義務なんだと悟った。冴の父の遺影はお花見で僕が撮った写真を使った。どんなに悲しくても朝はやって来る。この世は何も変わらない。冴は僕に何も言わなかった。泣き顔も見せなければ取り乱しもしなかった。「世界で一番大切なのはお父さんなの!雄介がいくら頑張ってもパパを超える事は出来ないの。パパはどんな時も私のワガママ聞いてくれたわ」冴はいつもそう自慢していた。僕は冴の気持ちを想像してみた、長女の彼女は一人輪としていた。
つづく。

七年目の恋(レクイエム)

冴の父の告別式が終わり、冴から暫く連絡が途絶えた。僕も何て声を掛ければいいのかわからないまま、暫く時間を置いた。 僕は相変わらず忙しいオフィスの中にいた。「吉田ちょっと」僕は係長に呼ばれた。「お前、この回収率じゃ不味いだろう」僕はとっさに言い訳が見付からず黙ってうつ向いた。「黙っていたってどうにもならないんだよ!何とか言えよ」僕は係長を睨みつけた。「お前いっちょまえに俺に逆らうのか?」僕は又下を向いた。「世の中お前の思い通りに行く程甘く無いんだよ。とにかく休みに出て来て貰っても回収して貰うからな」僕は仕方無く席に戻った。席の前の壁には回収率の棒グラフが天井に向かってまるでニューヨークの摩天楼みたいに高さを競う様にして天井を指していた。この部屋では人の優劣なんて簡単だ。天井により近い奴が偉くてより棒グラフが地面に近い奴程ダメな奴なのだ。僕が会社を休んでいる間に棒グラフは高くなって僕のグラフだけが谷間になっていた。ワークシェアだとか、チームだとか優しい事を会社は表面上言っているが、本音は「金にならない奴は会社の悪だ。誰のお陰でお前は生活出来ているのだ」と棒グラフはそう言っているのだった。「働け働け死ぬまで働け。お前の替わりはいくらでもいるのだ。嫌なら辞めてもいいんだぜ」気が付けば、終電の時間だった。僕の頭の上の蛍光灯だけがついていた。暗闇の海に浮いた離れ小島の様に机の上の書類は蛍光灯の光でボンヤリと光りを回りの暗闇に光りを反射していた。
僕はうっすらとした意識の中で冴の事を思い出していた。「がんばらないといけないな」暗闇に僕はつぶやいてみるのだった。


                           つづく。



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