ロード OF ジョリー

ロード OF ジョリー

本当の恋



剣道がうまい彼。
仕事もバリバリこなす彼。
焼肉で、マメにお肉をひっくり返す無骨な手。
どちらかというと小柄なんだけど、がっちりした体格。
人を寄せ付けないような雰囲気の目元だが、笑うと優しく。

そんな彼を、彼女は慕っていた。

優しい言葉をかけられることはなかった。
いつもいじめられていた。
でもそれは、自他共に分かる、愛情の裏返し。
自分を慕ってくる後輩を、可愛がっているだけ。
何か分からないことがあれば、一期上の先輩でなく、彼に聞き
何も言うことがなくても、気がつけば彼の斜め後ろにいる。
それを、口では迷惑そうに言っても、
頭をガシガシとなで、はやくついてこい、そういわんばかりの態度。

彼女は幸せだった。
兄のような存在の彼と共にいられることが至福であった。
いつのまにか、下の名前で呼ばれていることに気づき、こそばゆいような気持ちになった。

彼には、結婚するんじゃないかというような女性がいた。
誕生日に花を贈ったりする。
キザだと笑って、怒られたこともあった。
そろそろ結婚かと周りの誰もが思っていた矢先、彼は相手と別れた。
捨てられた、といっていたけど、真実は分からなかった。

彼女は仕事を辞めた。
彼とは関係の無い理由ではあるが、彼との接点がなくなってしまった。

案の定、彼とのやりとりも何もなくなってしまった。
携帯メールアドレスも、聞いていなかった。

ところが、しばらくして、何かのきっかけで彼のアドレスを知ることとなった。
そのとき、彼女は私情でゴタゴタしていて、気落ちしていた。
兄のような彼。
仕事を辞めても、あの時確かに私を育ててくれた、大切な先輩。
そう思い、迷惑がられることを覚悟で、メールを送ってみた。

お久しぶりです♪・・・と

・・・返信アリ・・・

顔文字までつけてくれて、あのときの先輩と同じ調子だ。

彼女は心が温かくなった。
私情での不安が、少し解消されていた。
そうして、時々メールでやり取りをした。

数年が過ぎ、気がつけば、彼とのメールの行き来はなくなっていた。
今彼がどうしているのかさえ、知らない。

そういえば・・・
自分が彼を必要としているのは、自分が辛いときだけ。
あのときのように、ごつい手でなでてもらいたいときだけ。
都合のいいときにだけ相手を必要とする・・・他人に言わせれば、それは恋ではなく、無償の愛情に甘えていたいだけだと。
可愛がられることに溺れているだけだと。

でも、彼女は、これが本当の恋なんだと思っている。
何もなくても一緒にいた
楽しいときは一緒になって笑っていた
辛いときはなぐさめてもらった
ずっとその状態が続けばいいのに・・・
そんな相手に対して抱く思いは、恋だと思っている。

いままで色んな男性に心を奪われたり、お付き合いしたりしたけど
会うことがなくなって尚、自分の中で大きな存在感を示しているのは
彼だけ。
本当に好きだったのは彼だけだった。
「好き」という次元をはるか超えていたのかもしれない。
だから、後々になって気がついた。
彼女は、ふとした瞬間、鈍感すぎる自分に後悔の念を抱く。


先輩、あの時本当は、大好きって言いたかったんです。
内弁慶な自分がきらいです・・・


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: