ジョナサンズ・ウェイク

ジョナサンズ・ウェイク

林望のイギリス観察辞典(林望)



リンボウ先生は、英国を観察しながら度々こうつぶやく。また先生は、こう思う。日本は何て不思議な国なんだろう。かつて夏目漱石が英国という国に滞在しながら、日本という国を客観視したように。

しかし本書は、英国の諸事情を知らんと欲する人のためには、ほとんど何の役にも立たないことを目的として、特にリンボウ先生の偏狭なる視点をもって選び抜かれたエッセイである。英国といえば・・・


・・・3年前。約1ヶ月の間、英国に滞在したことがある。3週間のホームステイと、10日間の放浪の旅だ。ふと初日のことを思い出した。

真夜中のケンブリッジ。冷たい雨に打たれながら、ぼくたちは見知らぬ土地に佇んでいた。とにかくホストファミリーの家へ行かねば。しかし予定の到着時刻より大幅に遅れたことによって、バスは通っていず、もちろん迎えの車もなく途方にくれていた。そこへ通りかかったタクシーをとめる。

タクシーには、友人2人が同乗している。目的地はみんな違う。それぞれのホームステイ先へ向かうのだ。現地の人との初めての接触。凍りつく車内。英語がわからない。家へ向かってくれ、と運転手に言いたいのだが・・・

GO HOME!!! 沈黙を破り、突然、友人が叫び始めた。

慌てた。それだと「帰れ!」になってしまう。落ち着け。よし、住所を運転手に見せて、「これを見て」と説明しよう。すると友人が運転手に向かって・・・

SHOW ME!!!(見せて?!)

目の前が真っ白になった。先は長い。タクシーは深夜の街を駆け抜けて行く。


林望のイギリス観察辞典


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