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2008.07.18
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カテゴリ: takasaki
父親が、柚子の額に優しく触れてから部屋を出て行き、
僕と柚子が残された。
安定した音をたてるだけのモニターを眺めながら思う。

僕への愛情・・・。
もちろん、10年来の付き合い。
僕の初めて担当した患者。
医師と患者という関係よりも深いものがあったけれど。

莉花が現れたことで、
幼い柚子は、無意識のうちに、、、その気持ちが表面にでてくる前に、
作品にだけそれを残した、、ということ、なんだろうか。

僕は首を振る。

たとえそうだとしても。

僕たちは、、僕と柚子はこれで良かったんだと思う。

13歳の歳の差。
僕たちは、決して埋めることが出来なかっただろう。
柚子は、僕には、追いつけなかった。
僕は、追いつかせてあげられなかった。
根治する方法を見つけることができず。。

莉花がいてもいなくても、、
僕たちの間には、これ以上の関係はなかったと思う。

これで、よかったんだ。

そう、、思わなくては、、僕はこれから起こることに、柚子の死に、・・耐えられない。

柚子が小さく身動きする。
僕は心の準備をする。
目を覚ましたら、ちゃんといつもの僕でいなくては。

ゆっくり目を開く柚子。何かを思い出したように、手が下腹部に触れる。
誰かを、・・探して動かした目が、僕の目と合う。
僕は静かに告げる。
「元気な女の子だったよ。」
そして、心臓には異常がなかったことを告げると、柚子はほっとした様子だった。
何度も僕に礼を言う、柚子。
僕は何もできなかったのに。

柚子の赤ちゃんを連れてくる。
腕に抱く、柚子の、そのとても幸せそうな笑顔。
愛しそうに我が子を見つめる目には、微塵の後悔もない。
死を目前にしても。

ほんのわずかな母子の時間。

本当に、、これでよかったのか?

柚子にも、
自分自身にも、
問いかけたい言葉。

ただ、答えなどないことが分かっているから、
僕はその言葉を飲み込む。

我が子を腕に抱きながら、ポツリポツリと話す柚子。たわいもない会話を交わす。

そして、、、。

母乳をあげたいという柚子に、部屋から出るように言われる。
軽口を僕は、笑って受けながら、立ち去ろうとして、猛烈に後ろ髪を引かれた。
立ち去ったら、、もう。。。
心が大きな音でそれを知らせる。

でも。

「先生、もう振り返っちゃダメだよ。今まで、・・・ほんとに、ありがとう。先生のこと、大好きだったよ」

柚子は、静かに、そういった。
僕は、、目を閉じ、背中のままうなずいて、部屋を出た。

部屋を出ると、ドアのすぐ横の廊下の壁にもたれる。
もう、一歩も歩けない。
一体、、今更、僕に何ができるというんだ。
僕は、彼女の病を治すことができなかった。
ただ、ただ、このまま、、静かに死なせてあげることしかできない。

柚子は、かつて僕に断言したように、思い切り生きてきた。
命をすり減らしながら、それでも、自分らしく生き抜いてきた。
妊娠も、そして、出産も、、、あまりにも柚子らしい選択。

僕はいつも、そばで見守ることしかできなかった。

幼い短い恋の後、柚子は、19のときにまた、突然、恋に落ちた。彼もまた、柚子が恋するにふさわしい、誠実な男だった。2人はとても愛し合っていたけれど、彼の方には、家の事情があり、柚子には、体のことがあった。ただ、好き、愛しているということだけではどうしようもない、たくさんの現実。彼との恋の2年間で、柚子はどんどん大人になっていった。
あの頃は、僕の知っている、無邪気な子供だった柚子が、手の中から飛び立つような、さみしい気持ちがしたものだ。
僕に対しても、徐々に敬語を使うようになったりして。。

でも、さっきの声、言葉、、あれは、そう、、、まだ大人になる前の柚子の言葉だった。
出会った頃のような子供っぽい声で。
「先生のこと、大好きだったよ」

ユウコちゃん。。僕だって、もちろん君のこと。

僕は、心の底で思う。

部屋の中で、大きな音が鳴り始める。


そう、新しい命を腕に抱いて、幸せな表情のまま、柚子は逝ったんだ。


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最終更新日  2008.07.18 00:53:40
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