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2010.12.09
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カテゴリ: box
エレベーターを降り、目の前にあるガラスのドアを開ける。屋上は広い庭園になっている。植えられた樹々の根元に、所々にライトが入れられ、闇ではないが、深夜に近い時間。もちろん、人気なんてない。俺は慎重に美莉の気配を探しながら、そこかしこにおかれたテーブルとチェアの間を歩いていく。

・・・・いた。

俺は足を止めた。

ほとんどの壁面にウッドフェンスが張り巡らされた中で、唯一、広く眺望が広がる場所。空には星、眼下には夜景(といっても、控えめな住宅地の夜景だが)が広がる。その光景を独り占めに、美莉は、ウッドベンチの上、ひざを抱えて丸くなって座っていた。少し首をかしげるようにして。顔はしっかりと夜景のほうを向いている。

・・・・でも。

少し憂いを帯びた横顔に、その目が、目の前の夜景など見ていないことに俺は気づいた。

・・・やっぱり、いいニュースに喜んでいる顔じゃないな。・・だとしたら。

俺は、美莉の心の中にある思いに、小さく唇を噛む。手にした美莉のカーデを握り締める。

・・・何度そんなこと考えても、美莉、俺は美莉を離さないぞ?もう2度と。

言い聞かせるように心で話しかけ、俺は、そっと美莉へと足を進めた。あと、数歩、というところで、美莉は俺の気配に気づき、それでも、こちらには気づかないふりをしたままで、何気なく、表情を整えた。相変わらず俺に隠せるつもりでいるなんて。憂い顔をしていたことも、憂い顔の原因も。だから俺だってまずは何も気づかないふりで、

「美莉」

小さく呼びかけると、美莉は、初めて気づいたような顔をして、こちらを向いた。

「ケースケ」

いつもどおり、ゆるく微笑んだゆるい呼びかけ。ただその一言だけで、いつもどおり、俺の中の疲れがゆっくりと解かれていく。だけど、美莉は、本当は。

「おかえり。もうそんな時間なんだ?ケースケが来るまでには戻ってようと思ってたのに」

俺に向かって微笑みながら、いつもどおり、いつもの美莉を演じる美莉。

「って、いつからいたんだよ」

俺は笑って、美莉の隣に腰掛け、手にしたカーデを広げながら肩にかけ、そのまま抱き寄せた。膝を抱えたままの美莉。予想通り反応は、、その体は、固い。頬に触れる美莉の髪の冷たさに、

「つめたっ。マジで、いつからいたんだ?」

もう一度繰り返した俺に、ただ、肩をすくめる美莉。俺は美莉をあっためるように、強く抱き寄せて、

「ったく、もうそんなカッコじゃ寒いって。それとも俺にこーやってあっためられたかったわけ?」

大げさに4,5回、肩を撫ぜさすってから抱きしめてやると、美莉は、ふっと笑って体からやっと力を抜いた。俺の肩にそっと頭を乗せて、

「・・・かもしんない」

小さくつぶやいてまた黙ってしまう。腕の中に脱力の美莉。いとおしい。その感触を、美莉が俺に体をゆだねる感触を、味わっていたくて、俺も、ただ黙って、目の前に広がるささやかな夜景に目をやった。しばらく二人そのままで。やがて、美莉が言う。

「・・・きれい。私、このくらい寂しい感じの夜景が好きだな」
「だな」

俺はその言葉に共感する。都会の街明かりのように煌びやかでなくていい。人々の暮らしが放つささやかな灯りに心が響く。美莉と、早くその中に新しい家庭の光をひとつを灯せるようになりたいから。

美莉の心が和らいでいることを知り、俺は、言う。

「・・・新谷先生から聞いたよ」

その一言だけで、美莉は、少し体を固くする。いいニュース、な、はずなのに。俺は、美莉を少し体からはずし、顔を覗き込むようにして、明るい声を出して言う。

「帰れる日が増えるんだって?」

はしゃいだ俺の声につられるように少し表情を緩めた美莉だけど、にっこりとは笑わないまま、俺の頬あたりを少しだけ見上げ、俺と目を合わせないまま、また、夜景のほうに目を移した。でも、その目にはもう、夜景なんて映っていないこと、俺にはわかる。でも、俺は続ける。いいニュースを暗いニュースにするつもりはない。だから、鈍感にもほどがあるくらい鈍感に続ける。そう、まるで、悠斗みたいに。

「連泊もいいってさ。嬉しいよな。やっぱ、1泊だけだと、のんびりできねーし」

美莉は返事をしないが、俺は続ける。

「なあ、美莉、いよいよ荷物戻さないとな。いつ運ぶ?俺、いつでも車出すぞ。そーだ、何も美莉は貴重な外出日にそんなことしなくていいから、実家の鍵預けてくれるなら、運んどくけど?」

身動きしない、小さい背中にそう言ってみるけれど、答えはない。

一度、1週間手を離してしまった間にすべて運び出した荷物を、美莉はまだ何も戻していなかった。俺が何度促しても。

2週間に一度、病院から、小さなバッグひとつで、「泊まり」にきていた美莉。差し出す合鍵を受け取ることもなく。ただ、

『まだ、いい』

そんな言葉で、先送ってきた美莉。だけど、嬉しいことに外泊が増え、そして、いずれ退院することを考えれば、俺はここでしっかりと、美莉を荷物ごと、連れ戻したかった。あの部屋は、美莉が「泊まり」に来る場所のままではだめだ。美莉が「帰る」場所、でなければ。

何も言わないままの美莉。美莉が何を考えているかは分かる。何も言わないからこそ分かる。いえないようなこと、考えてるんだ。また、そんなこと、考えてるんだ。

・・・・でも、俺は、離すつもりないし。

先回りしてもう一度、心でささやきながら、俺は、美莉の肩からずり落ちたカーデごと、覆いかぶさるように背中越しに美莉を抱きしめた。俺の左頬と美莉の右の頬をくっつけて、

「おーいっ、聞いてんのか?」

冗談ぽく言ってみたけど、美莉は、もう笑顔なんて1ミリもない声で言う。

「ケースケ・・・」

弱弱しく響く小さな声に、俺は、もう一度そっと頬ずりしてから、返事する。

「・・・ん?」

美莉が、少し目を閉じる気配。俺もゆっくりと目を閉じた。自分が切り出そうとしているその言葉に、美莉の胸が痛んでいるのがわかるから。美莉は、小さく息をついてから、

「荷物は、・・・運ばなくていいの」

小さく、はっきりと、でも少し、投げやりに言う美莉。俺は目を閉じたまま、美莉の髪を撫ぜ、頬をくっつけたまま聞く。答えが分かってても聞く。

「・・・なんで?」
「・・・・」

また黙り込む美莉。俺は言う。

「だって、もう、『まだいい』ってことないだろ?1泊ならバッグ1コでいいけどさ~、これから、何泊もなってって、退院できるようになったら、荷物なしでどーやって暮らすつもりだよ?早いトコ運んじゃったほうがいいって、いつ運んだって手間はおんなじなんだから」
「・・・違うの、ケースケ、、私・・・まだ、いい、んじゃなくて、・・・もう、いいの。」

俺は、美莉のいっぱいいっぱいの声に、やっととぼけ続けてた俺をしまいこむ。黙って、美莉の言葉の続きを待つ。

・・・言ってみろよ、美莉。ちゃんと心にあること全部、言っちゃえよ、美莉。何もためらわなくていい。俺が全部、何もかも受け止めてやるから。

いたわるように心の中でつぶやくと、美莉は、そっと俺から頬を離して、ゆっくりと俺を見た。覗き込まれ、覗き込む美莉の瞳に、根深い絶望を見出して、俺は胸が締め付けられる。大切な美莉にまたこんな目をさせている自分が情けなくて。でも、俺はあきらめない。何度でも、その絶望の中に希望の光を差し込ませていくつもりなんだ。

静かに暗く揺れる瞳のまま、美莉は、ポツリと言った。

「・・・私、あの部屋には戻らない」

今日のゆる日記は、 こちら です。ぽっバカップルにご注意ください大笑い

「box」目次 1~ 101~ 201~ (10/19更新
ふぉろみー?
lovesick+ も、がんばって更新中。ウィンク10/18





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最終更新日  2010.12.09 16:12:36
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