Midnight waltz Cafe 

1st Dance -第1幕-



                        不知火 楓  



        -1st Dance  深夜の舞踏会-









            -PROLOGUE-   午前零時





   午前零時、予告通りに「彼」は現れた。

   黒のシルクハットにスーツ、赤のネクタイ、さらに眼鏡を身につけ、銀色の月に照らされて、漆黒の闇のマントを翻しながら、予告状に記してあった品を嘲笑うかのように盗んでいく。

 その様子は華麗である。・・・が、「彼」は男か女かも分かっていない。

 ただ分かっているのは、予告状に記してある彼の名前だけであった。

     その「彼」の名前は・・・・・・



                  『怪盗チェリー』





            第1幕    怪盗と探偵



  「あ~~~~~! やばい。このままじゃ遅刻じゃねぇか。急がなきゃ。」

始業のチャイムとともに、大急ぎで階段を駆け上がっているこの青年は、天文坂高校2年6組のムードメイカーを自称する滝河 涼(たきがわ りょう)である。

実はこの超お騒がせ者が、学校どころか世間をも騒がせまくっている『怪盗チェリー』なのである。 といってもそのことを知っているのは彼ともうひとり・・・

「おそいなぁ、涼・・・。」

そのもうひとりの彼女は、涼の幼なじみである高瀬 雪絵(たかせ ゆきえ)という学校でも有名な美少女で、生徒会長をしている。生徒会長なのにお騒がせ者と仲がいいということで、いろいろなところで噂になっているとか、なっているとか。

ちなみに彼女も2年6組である。

さてこの天文坂高校、天文台がある(といっても小さいが)ことからそう呼ばれる山の上にあるので、自転車や徒歩の通学よりもバス通学の方が多いのである。

そしてこの学校は帰国子女の編入を大歓迎している学校であった。その編入試験に合格した生徒が、今日からその2年6組に加わることとなったのだ。

その生徒は、女子生徒で美女ではあるが、雪絵より大人っぽくて眼鏡をかけているせいかまさに知的美人という印象を感じさせる。

彼女の名前は、神尾 真理(かみお まり)という。

転入生が来たことを、始業5分後に登校した涼は1時限と2時限の間の休憩の際に聞かされたのだった。



「はじめまして、高瀬さん、少しいいかしら?」

その日の昼休憩に、2年6組の教室で雪絵は真理に話しかけられた。

「突然なんだけど、高瀬さんは生徒会長なんですって。」

「うん、あまりたいしたことは、できてないんだけどね。」

笑いながら、雪絵は答える。

「神尾さんも、生徒会に興味があるの?あるんだったら案内するよ。」

「ありがと、でも私にはそれ以上にあることに興味があるの。」

「何に興味があるの?」

「高瀬さん、生徒会長よね。私にこの辺りによく現れる怪盗のことを教えてくれない?」

「それってあまり生徒会関係ないんじゃないかな。・・・でも私、怪盗のことといっても、名前が怪盗チェリー。予告状を出して、そのとおりに盗んでいくってことぐらいしか知らないんだけど。 あのぅ、どうしてこんなこと聞くの?」

「私、探偵なの。父と一緒にいろんなところの事件を解決してきたわ。」 強気な真理。

「神尾さんのお父さんって、探偵さんなの?」

「いいえ、」首を振って、真理はこう続けた。「警察よ。」と・・・

「そうなんだ。じゃ、この学校に来たのって・・・」

「ええ、そうよ。その怪盗を捕まえにきたの。」

「すごいなぁ、頑張ってね。」 少したじろぎながらも応援する(ふりをする)雪絵。

「ありがと。」

そう言って真理は、自分の席へと戻っていった。



このやり取りから雪絵は「神尾さんって意外によく話す人なんだね。」とのんきに感想をつけて、放課後に涼に語っていた。

涼の反応は単純で

 「誰が来ようと関係ないさ。俺は俺の目的を果たせばいいんだからな。」

と答えるだけであった。

 「でも・・・いやな予感がするの。」 何か引っかかっているような表情をする雪絵。

 「大丈夫だって、捕まりはしないさ。」 それに対して笑っている涼。

 「う~ん、そうなんじゃなくて。」

乙女の直感は、未来を予知していたのか?雪絵は何か嫌な予感を感じていた。その予感が当たっているかどうかが、分かるのはもう少し先の話となるのだが。

 「よくわかんねぇが、で、次のターゲットは?」

 「明日の夜、南都美術館の『DESIRE』っていう絵なの。」

 「そっか、まかせとっけて。さぁて、怪盗チェリーの出番だな。」

そう、彼は怪盗チェリーなのである。



・・・そしてその日の夜に、謎の怪盗と高校生探偵が出会うこととなるのであった。


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