Room of hobby

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第3話


 その青い光は辺り一面真っ黒な雲に覆われ、草木は枯れ果てた所へと流れてきた。
 そこには、見たことのある真っ暗な建物。
 その窓に青い光が入り、そこに居た4人の人の形をした物を青白く光らせた。
「うふふ・・・やっぱりあの人、殺されちゃったんだぁ・・・」
 青い光に照らされ、ジョナの冷酷な表情が浮かび上がる。
「スキンクめ・・・あれ程油断をするなと言ったのに、何て様だ」
 腕を組んだ大男─ストレングスは、目を閉じて低く唸り声をあげた。
「うふふ・・・でもこの魂の情報を見たら、スキンクの相手をしたのは、私達《ナイトメア》を崩壊の危機まで追い込んだ柿崎 楓(かきざき かえで)の娘さんみたいよぉ・・・、それなら油断しなくても殺されてしまったのは分かる気がするわぁ・・・」
 ジョナは青い光に手を触れたと思ったら、青い光は消えてしまった。
 楓という言葉にストレングスと腰に刀を下げ、柱に寄りかかっている男はぴくりと反応した。
「何と・・・あの女の娘だったのか・・・。それならばこちらとしても、総勢力で襲撃しなければな」
 ストレングスは、また目を瞑り低い唸り声を上げた。
 ジョナはそんな様子のストレングスを見て、冷笑した。
「あらぁ・・・そこまで慎重にならなくても、もうあの女はこの世に存在しないのよぉ・・・? それに娘はまだ高校生、攻撃の仕方を見るとまだ霊力を操れてるわけじゃないみたいよぉ?」
「念には念を、というだろ」
「あらあら・・臆病なのねぇ、ストレングス・・・」
 ジョナはストレングスを小馬鹿にするように笑った。
 ストレングスはそんなジョナの様子を見ても、顔をしかめながら低く呻いていた。
「うふふ・・・まぁ、いいわぁ。それじゃあ私がその娘の相手をしてきてあげるわぁ、あなたはここで震えてなさい・・・うふふふ」
 そう言うとジョナの周りを黒い霧が包み、その場からジョナは消えてしまった。
 残されたストレングスは、直も目を瞑り、腕を組みながら静かに佇んでいた。

   ◇   ◇   ◇

 その日は、空が灰色に見える程雨が降っていた。
 そこを走り抜ける少年、そう刹那だ。
「こんなに雨降るなんて聞いてねーぞ! うあぁ、もう良純なんてしんじねぇ!!」
 刹那はそんな独り言を呟きながら、家まで猛ダッシュしていた。
 家に帰りつくと刹那は脱衣所まで行き、制服を脱ぎ捨てタオルで髪の毛を拭きながらリビングまで歩いてきた。
 相変わらず母が台所で料理をしていた。が、何時もと違ったのは、父がリビングのソファーで新聞紙を読んでいた所だ。
「あれ、母さん、桃花は?」
 刹那は髪の毛を拭きながら台所に立つ母親の近くへと行き、そこに置いてあった冷蔵庫の中から緑茶を取り出し、コップに注ぎながら言った。
「今日から桃花は塾よ~、桃花は刹那と違ってもっと頭のいい学校へと行ってもらうのよ♪」
 母親は笑いながら皿にご飯も盛り、鍋の中の物をそのご飯に掛け始めた・・。この色はまさか・・・!!
 嫌な予感がしたが、時既に遅し、紛れもなく今日もカレーなのだ。
「母さん・・・、カレーは嫌いだって言ってるのに・・・」
 刹那は拭いていたタオルをその場に落とし、がっくりと肩を落とし、着替えを取りに自室へと向かった。
 刹那が着替え終わり降りてくると食卓にはカレーとちぎりレタスやコーンの乗ったサラダと、福神漬け、そしてお茶が準備してあった。
「ほらほら、早く食べないと冷めちゃうわよ~! それでは、手を合わせて! いただきまーす♪」
 母は上機嫌で手を合わせて、いただきますの音頭を取り、カレーを食べ出した。
 父ものっそりと手を合わせ、いただきますと言ってカレーを食べ出した。
 刹那は嫌々カレーを食べ出した。

   ◇   ◇   ◇

 次の日、昨日とは打って変わって雲一つ無い晴天となった。
 刹那はまだ眠い目を擦りながら学校へと向かっていた。
「今日の授業なんだったっけー・・・」
「貴方には今日ある授業がなんであっても寝てるだけだから関係無いんじゃないのかしら?」
「!?」
 刹那は今まで一人だったはずなのに女性の高い声が聞こえて驚き、振り返った。
 絵梨だった。しかし、刹那は振り返ったものの、一言も言わずにまた前を向き、一人で歩き出した。
「ちょっと、刹那! 挨拶も無いなんて、礼儀がなってないんじゃないかしら」
 絵梨は慌てて刹那の後を追い横にくっついて歩き出した。
 しかし、刹那は絵梨が真横に来ているのにも関わらず何も言わずに只々歩いていた。
 絵梨はそんな刹那の態度が頭に来て刹那の行く手を遮り、仁王立ちした。
「ねぇ、何で無視するのよ。私何かした?」
「何でも無いよ・・・、ごめん今は一人で居たい気分なんだ」
 刹那は絵梨の横を横切りまた一人歩き出した。
 絵梨は、顔をむすっとさせ、刹那の後ろから数メートル離れたところを歩いていた。
 学校へ着くと刹那は自分の席に腰掛け、机にうつ伏せになり、寝る体勢を取った。
 その体制を取ったのはいいが、すぐに前の席の琥魅 ─ 組長が声をかけてきた。
「今日はどうしたんだ? いつも一緒の絵梨と離れて登校してたけど、もしや夫婦喧嘩でも起こしたのか・・・?」 
 組長がそう言って、笑っていたが、刹那は何も反応せずに机にうつ伏せになったままだった。
「ん、もう寝たのか・・・。今日は何時になく早いな」
 組長は頭を掻き、始業のチャイムがなったので前に向き直った。
 刹那はちらっと入ってきた担任を見て、またうつ伏せになった。
(俺、何してるんだろうな・・・)
 刹那はうつ伏せになったままの体制で目を開け、机をじっと見ていた。

   ◇   ◇   ◇

 その日の帰り道、刹那はいつもとは違う方向へ帰っていた。
 同じ道だとまた絵梨に会ってしまうからだ。何で俺はこんなに絵梨を遠ざけてるんだろう・・・。
 昨日の雨でできたであろう水溜りに真っ青な空と、白い雲が気持ち良さそうに流れていた。
 刹那が俯き加減に下を見ながら歩いていると
「ちょっとそこのお兄さん、何だか悲しそうだね~」
 刹那はその声がする方を見てみると、そこには胸元の肌蹴た紫色の着物を着て、髪の毛が橙色で、後ろで束ねた髪を上に上げている女性が白い布のかぶった机のようなものに腰掛け座っていた。
「あの、どなたですか・・・?」
 刹那は肌蹴た胸元を見そうになりながらも、下を向きながらその女性に声をかけた。
「いやぁ、単なるしがない占い師っすよー。」
 占い師とは思えない服装をしたその女性はそう言うと、よく占い師が振っている木の棒のような物を着物の裾から取り出し、振った。
「俺あんまり占いとか信じてないので・・・、失礼します」
 刹那は急いでその場から離れようとすると。その女性は笑いながら、足を片方折り曲げ、机の淵を踏みつけ、一言告げた。
「貴方、女の子の事で困ってるね?」
 刹那は、何事かと思って、おかしな物を見る目でその女性を再度見た。
「はい・・・?」
 刹那は面食らった様子で、間の抜けた声で返事をした。
「女の子の事っていうか・・・。その女の子が危ない目に合ってるのに自分には何もできない、俺は無力だー、とか思ってるんじゃないの?」
「な・・・、何でそんな事まで分かるんだ・・・?」
 刹那は驚いた様子で、その女性に見入っていた。
「女の勘? ってわけにはいかないかねー、なっはっは」
 その女性は大声で笑っていたが、刹那には何が何だか分からない様子で黙っていることしかできなかった。
「話を聞く気になったかな? なっはっは」
 女性はにやっと笑い、後ろから椅子を取り出し、刹那の前に置いた。
 刹那は、この怪しい占い師を警戒しながらも、差し出された椅子に座り込んだ、が、その時!
「ブー!!」
「な、何だ?」
「ぷ、あっはっはっは! ぶーぶークッションだよ、知らないの~?」
 女性は腹を抱えて笑っていた。その時着物の下から白いパンツが見えたのは言うまでもない。
「あの、馬鹿にするつもりなら、俺帰りますよ?」
 刹那はむすっとして、椅子から立ち上がろうとしていた。
「ぁー、待った待った! 緊張をほぐしてやろうと思ってね、いっつも私がしてる手段なんだよ、馬鹿にしてるわけじゃなかったんだけどねー・・・! いやー、ごめんごめん!」
 女性は額を平手で叩き、大笑いしていた。
(ほんとに何なんだ、この人・・・。ぁー、こんなことならいつもの道から帰ればよかった・・・)
 刹那が、黙って下を向いていると、その女性は刹那の方をじっと見て、喋り出した。
「貴方いっつも、こっちとは反対から帰ってるのか~、今日はまたどうしてこっちから帰ったりしたんだ~? 遠くないかー?」
「えっ・・・?」
 口に出してないのにその女性は刹那の思っている事を聞いているかのように普通に喋っているのだ。
「何で俺の思っている事が分かったんですか・・・?」
「ぁー、私ってさー、人の心とか読めるんだよね~、だからこういう仕事してるわけだけど」
 女性は笑顔で、そう言うと言葉を続けた。
「さっき貴方が思ってた、胸でかいなーとか、ぉ、白いパンツ履いてるとか思ってたのも分かるわけなんだよね~・・・、このすけべ」
 女性は口を尖がらせて、いやらしい物を見るような目で刹那を見た。
「な・・・」
 刹那は、顔を真っ赤にさせ、俯いた。
 そんな刹那の様子を見て、女性はにやっと笑い、刹那に近づいて、顎を手で持った。
「あらあらー、お姉さんその程度じゃ怒らないわよ~? もっと見てもいいのよ~?」
 女性はぐいっと、顔を持ち上げ、顔が当たりそうになるぐらいまで顔を近づけた。
「あの、ちょ、やめてください!!」
 刹那は顔から湯気が出そうなぐらいに顔を真っ赤にさせ、女性の手を振り解いて、後ろへと逃げた。
「うふふ、やっぱり若い子はいいわね~・・・お姉さん興奮してきちゃう」
 女性はにやっと笑い、机の上へとまた座り込んだ。
「それで、お悩みを詳しく聞かせてくれないかしら~?」
 刹那はまだ、顔を真っ赤にさせながら、椅子に座り込んで、話出した。
「えっと、俺の友達が、化け物退治をしてるんですよね・・・」
「化け物退治~?」
「ぁー、正しくは幽霊退治みたいです。本職の人が忙しいのでアルバイトとして雇ってもらってるそうです」
「幽霊退治・・・」
 女性は幽霊退治という言葉を聞いて真剣な表情で、顎に手を当て足を組んだ。
「それで、俺には幽霊が見えないから、あいつが殺されそうになってるのを黙ってみているしかなくって・・・」
 刹那はそういうと俯いた。
「うーん、幽霊が見えれば助けられると思ってるわけ?」
「それは・・・」
「じゃあ、放って置く事ね」
 女性は言い放った、その言葉を聞いて刹那はゆっくりと顔をあげた。
「放って置く・・・? 友達が危ない目にあってるっていうのに放って置けるわけ無いだろ!!」
 刹那は女性に向かって怒鳴りつけた。
「それなら、力をつけることだね~、今の貴方に幽霊が見えたとしても、足手まといになるだけなんじゃないかね?」
「足手まとい・・・」
(自分が助けると言っても、絵梨みたいに実力があるわけではない、実際にこの前だってそうじゃないか、足手まといになって、絵梨の邪魔をしてしまった。絵梨はそうは思っていないかもしれないけど、これは事実だ・・・)
 刹那が何も言わず、黙っているのを見て、女性は頭を掻き机から立ち上がった。
「まぁ、私は基本的に色んなとこ回ってるわけだけどさ。貴方がもし本当にその子の事助けたいって思ってるんなら、稽古つけてやってもいいんだよ?」
「え・・・?」
 刹那が驚いた様子で、女性を見ていると、女性はそのまま言葉を続けた。
「でもね、あなたが思っている以上にキツいわよ? それでも、強くなりたい?」
「あぁ・・・、絵梨を護れる力をつけれるなら、どんなキツい修行だって受けてやるぜ!」
「絵梨・・・?」
 女性は、絵梨という名前を聞いて、驚いた様子で、ガッツポーズをしている刹那へと、尋ねた。
「ねぇ・・・絵梨って、その子まさか、柿崎 絵理っていう名前だったりする・・・?」
「ん、そうだけど、占い師さん、知り合い?」
 刹那はガッツポーズを解いて、首を傾げながら女性に聞いた。
「知り合いも何も・・・、私の妹よ・・・」
「え、えーっ!!?」

   ◇   ◇   ◇

 空はすっかり真っ暗になっていた。
 刹那は制服のまま、絵梨の家へと向かっていた。
 そう、この怪しい女性 ─ 柿崎 綾乃(かきざき あやの) そう、絵梨の姉を自宅まで送ってあげるためだ。
 綾乃は将来は占い師になる! といって家を飛び出したのだが、占い師では食って行けないと分かり、家へと帰ってきたんだそうだ。
 そして、俺が絵梨の姉を何故、俺が送ってあげたのか。その答えは簡単だ。
 絵梨の姉は数年地元を離れていたせいで自宅までの道を忘れてしまっていたのだ。
 胸元の肌蹴た、一見見ると風俗嬢のような女性をそのままにしておくわけにも行かず、こうして連れてきてあげたのだ。
「うー・・・怒ってるよなー、絵理の奴・・・」
 綾乃は刹那の腕にがっしりしがみ付いて、手を離そうとしなかった。
「あの、当たってるんですが・・・」
 刹那はまた顔を真っ赤にさせ、たわわに実った大きなメロン二つから離れようと必死だった。
「そんなに怖いですか? 絵梨って」
「怖いってレベルじゃないの! うあー・・・帰りたくないー・・・」
 綾乃は一層刹那の腕にしがみ付き、刹那はそのまま絞め殺されてしまうんだろうか、と心配した程だ。
 傍から見ると、何と思われるんだろうか・・・。仕事帰りのお父さん方から、怪しからんといった様子で見られているのを尻目にかきの家の前までついた。
「ふぅ・・・つきましたよ。ほら、離して下さい。絵梨に見られると俺が殺されちゃいます」
 刹那は真面目な顔で、綾乃に言い放ち、綾乃がうるうるさせながら顔を見上げてくるのを見て、また顔を真っ赤にさせて、絵梨の家のチャイムを鳴らした。
「うあー・・・、刹那くーん・・・、お姉ちゃんを助けてくれー」
「知りません、ほら、絵梨がきますよ」
「うー、冷たいなー刹那君・・・、お姉さん泣いちゃうよ~?」
 そう言った直後、絵梨の家の玄関が開き、ゆったりとした薄茶色の服を着て、デニムの短いスカートを履いた絵梨が出てきた。
「あら、刹那こんな夜遅くにどうしたの? それと、そこにいる怪しい女性は?」 
 絵梨は、怪訝そうな顔で刹那の横で震えている女性を見た。
「ほら、綾乃さん、絵梨が呼んでますよ?」
「うあー! 名前を呼ぶなぁー!」
「綾乃・・・? まさか、あなた。勝手に家を飛び出していったお姉・・・?」
「あー・・・どうもー・・・お久しぶりっす~」
 綾乃は苦笑いしながら、手を軽く振った。
「あらあら、お帰りなさいませ、お姉さま。今日はまたどうしてこちらへ~?」
 絵梨はにやっと笑うと、スリッパを履き、門の所まで出てきた。
「いやー、仕事が上手くいかなくってー・・・なはは・・はは・・」
 綾乃は顔を青ざめながら、力なく笑った。
「それじゃあ、お姉さま家に帰ってくるのかしら~? それは嬉いことだわ・・・うふふ」
 刹那も怪しく笑う絵梨の様子と、綾乃の怯える姿を見て、微かに震えを感じた。
「また、お世話になりますー・・・、なはは・・・」
 綾乃は精一杯声を振り絞って、笑いながら答えた。大丈夫か・・・? 綾乃姉さん。
「あー・・・絵梨、もう遅いから俺急いで帰るな。また明日~」
 刹那は逃げるように、綾乃を置いて後ろ歩きで歩き出した。
「うー・・・刹那くーん・・・たーすけてー・・・」
 綾乃は目をうるうるさせながら、刹那の方へと這い出した。その様子がまた怖い・・・。
「ごめん、綾乃さん! また明日来ますから、今日は失礼します!」
 刹那は綾乃に背を向けて、駆け出した。
「薄情者ー!!」
 綾乃がそう言うと、絵梨は綾乃の肩をがっと掴んだ。
「さっ、お姉さま。募る話もあるでしょうし、まずはお夕飯を一緒に食べましょうか、うふふ」
「うぅ・・・、はい」
 綾乃は観念して、絵梨に引き摺られながら家の中へと入っていった。 

   ◇   ◇   ◇

 次の日、刹那は絵梨と一緒に帰ることにした。
 何かが吹っ切れたのか、それとも綾乃に修行してもらって絵梨が護れるようになるのが嬉しいのか、今日は何時もどおりなハイテンションに戻っていた。
「珍しいわね、あなたが私を誘って帰るなんて」
「ん、そうかー? ってか、いっつも一緒に帰ってなかったっけ」
 刹那はにやにや笑いながら鞄を肩に掛けてくるくる回っていた。
「刹那・・・、変な物でも食べた?」
「え、食ってないよ~?」
 尚も刹那は回るのを止めない。絵梨はそんな刹那の様子を見て、この近くにどこかいい病院は無いものかと考えていた。
「あー、それで結局あの後綾乃さんとは仲良くやってる~?」
 絵梨はぴたっと止まり、その場に静止した。
「ん、あれ・・・どうした~、絵梨・・・?」
 刹那は昨日の事を思い出し、回るのを止め、立ち止まった絵梨をじっと見ていた。
「何でもないわ、それよりあなた。やけに姉さんと仲がいいみたいじゃないの」
 絵梨は何事も無かったかのように、また歩き出した。 
「仲がいいっていうか・・・、こっちは迷惑してるだけなんだけどなー」
 刹那は、手を頭の上で交差させ、前を向いて歩き出した。
「ふーん、それならいいのだけど。姉さん、私の口から言うのもなんだけど男好きでねー・・・、騙されてるんじゃないかと心配で心配で」
「へぇ~、男好き・・・、分かる気がするな、それは・・・」
 刹那は昨日綾乃に迫られた事、そして腕を絡ませられた事は言わない事にした。
 ちょっと嬉しかっただなんて口が裂けても言えない・・・、絵梨に殺される・・・。
「あら、何かされたのかしら? 例えば、顔を近づけられたとか、腕を組まれたとか」
 刹那はドキっとした。
(何で分かるんだ・・・、いや、でも分かるはずがない・・・)
「姉さん男の客によくやってたのよねー、そういうこと・・・、ん、刹那大丈夫・・・?」
「え・・・、あぁ、だ、大丈夫だよ、うん。」
「顔青ざめて、視点がぼけーっとしてたから、どうしたのかと思っちゃった」
 絵梨は、鞄を両手で持ち、前で交差させて歩き出した。
 その内絵梨と分かれる何時もの曲がり角までつき、絵梨は刹那の方を向いて止まった。
「それじゃあ、刹那。また明日ね、ばいばい」
 絵梨は笑顔で手を振り、曲がり角を曲がった。
 刹那も同時に手を振り、真っ直ぐ歩き出した。
「せーつなくーん・・・」
 聞きなれた声がして、驚いて振り返った。
「綾乃さん・・・、もう何ですか突然。びっくりしちゃったじゃないですか」
 電柱の影から綾乃が出てきた、昨日と同じ服装をしていた。
「刹那君酷いよー・・・お姉さん、あの後死ぬかと思ったんだよー・・・」
 綾乃は疲れ切った様子で、その場に白い布をかけた机を取り出した。
「あの後何があったんですか・・・?」
「うぅー・・・聞かないでー・・・」
 綾乃は白い布をかけた机をもう一つ出し、そこに寝転がった。
 寝転がった途端、胸が見えそうなくらい垂れ、着物からちらりと見せる真っ白な肌は、また刹那の顔を真っ赤に染めた。
「ちょっと、綾乃さん! そういう恥ずかしい格好で寝ないでください! まだ真昼間ですよ!」
「えー・・・だって、疲れたんだもん・・・」
 そう言って綾乃は寝返りを打ち、刹那は寝転がる綾乃に背を向け、歩き出した。
「あー、ちょっと! 待ってよー刹那君!」
 綾乃は慌てて刹那の後を追った。そして、綾乃が寝転がっていた机はいつの間にか消えてしまっていた。

   ◇   ◇   ◇

 そのまま歩くこと、数分。綾乃に連れられて子供達の遊ぶ公園へと入っていった。
「こんなところに連れてきて何をするつもりですか?」
「何をって・・・お姉さんの口から言わせるの~・・・?」
 そう言って綾乃は頬を赤く染めた。
 その顔を見て、刹那まで顔を真っ赤に染め、綾乃に背を向けた。
「ふ、ふざけないでください!」
「はいはい、分かった分かった・・・、もー、からかっただけなのにー」
 綾乃は詰まらなそうに口を尖らせて、頬を膨らませた。
 しかし、急に真面目な顔になって言った。 
「今から修行をするよ、ここで」
「え・・・ここで・・・?」
 刹那が辺りを見回すと、犬を連れて散歩をしているおじさんや、子供を砂場で遊ばせている母親の姿や、アスレチックで遊ぶ子供がいた。
「ここで・・・どんな修行をするんですか?」
 綾乃は刹那の口に人差し指を当て、言った。
「いいからいいから! それじゃあ行くよ」
 綾乃は着物の袖から赤色のお札を3枚取り出し、宙にその3枚の札を浮かせた。
「札が・・・浮いてる・・・?」
 刹那が見とれていると、綾乃が目を閉じ、札に左手をかざした。
 すると、札はくるくると綾乃の周りを回りだし、地面に赤い紋様が現れた。
「す、すごい・・・」
 赤い紋様の周りから上空に赤い光が上がり、丸い球状になった。
「ふぅ・・・、結界を張ったわ。これでこの中は周りの空間と別の世界にあることになったわ、この中では霊力が数倍に跳ね上がり、通常の人間の中にある、使われて無い部分、第6感を最大限まで引き出せるから、あなたでも霊力が使えるってわけ、それに時間も遅くできて、この中での1時間は外の時間の1分になるってわけ。まぁ・・・そう何度も使えるってわけでも無いんだけどね」
 綾乃はまた白い机を出し、その上に座り込み緑色の1枚の札を取り出した。
「それじゃあ、まずは基本的な身体能力を見せてもらうわ、今から出す式神を倒してみてね」
「な、え、式神?」
 刹那が回りの赤い障壁に見とれていると、綾乃は札を宙に浮かせ指を鳴らした。
 すると、浮いていた札は形を変え、小さな人を作り出した。
「何だ・・・? この小さいの」
「小さいとは失礼だなー」
「な、喋った!?」
 その小さな小人は、緑の服を着込み、手には弓を持っていた。
「その子を捕まえてみて、それじゃあ、スタート!」
 綾乃は手を叩き、叩いたと同時に緑の小人は後ろへと下がり弓を構えた。
「な、え、こいつを捕まえればいいのか・・・?」
 刹那は突然始まったので、面食らっていた。
 すかさず緑の小人は弓を一矢放ってきた。
 刹那はその矢が擦れた、その擦れたところからは、赤い血が出ていた。
「えっ、血・・・? ちょ、綾乃さん!」
「実践訓練よ、その程度で死ぬ様だったら到底絵梨を護る事なんてできわにわよ?」
 綾乃は机の上に座り込み、また別の式神に扇子を扇がせていた。
「へへんっ、こんなのろまに俺っちが捕まるかよ!」
 緑の小人は刹那を中心に円を描くように回りながら弓矢を放ってきた。
 刹那はその度に擦れ、制服はどんどん切り刻まれていった。
「くっ・・・こんなところで死んでたまるか!!」
 刹那は地面を這い回っている小人を追いかけ出した。
 しかし、追っても追っても小人には追いつかず、ただひたすら弓を射られ続けた。
 数時間が経ち刹那は、疲れ果てその場に倒れこんでしまった。
「はぁ・・・はぁ・・、こんなところで・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 大分出血もして、刹那は身体的に危ない状態へとなっていた。
 そんな様子を見ても、綾乃は冷酷な目で見下しながら言った。
「そこまで怪我して、それでもまだやるつもり? 絵梨を助けるどころか、死んじゃうわよ? 刹那君」
「まだ・・・まだやれる!」
 刹那は血まみれになりながらもその場に立ち上がり、緑の小人を見据えた。
「ちょ、姉さん・・・あいつ怖いんだけど・・・」
 小人は綾乃の方を向き、そう言った。が、その隙を刹那は見逃さなかった。
「今だ!!」
 刹那は息絶え絶えになりながら、小人へ飛び掛った。
「うわっ!!」
 小人は慌てて宙に浮かび上がった、しかし、刹那はその場に倒れ込んでしまった。
 その場に倒れこんだ刹那は中々起き上がらない。
 綾乃が倒れている刹那に歩み寄って、顔を覗き込んだ。
「気絶してるわね・・・」
 綾乃は頭を掻き、青色の札を3枚取り出した。
 そして、その3枚を宙に浮かせ、今度は青い紋様を浮かび上がらせた。
 障壁も全て青色に染まり、綾乃は机の上に座り、倒れる刹那を優しい目で見ていた。

第4話へ



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