Room of hobby

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星空



 これは、そんな寒い秋に出会った、僕と一人のおじさんとの話─

   ◇   ◇   ◇

 その日は、本当に寒かった・・・。

 公園で遊んでいる小さな子供達も、わずか数名しかいない。

 その子供達も、公園で遊ぶのに飽きたのか、それとも友達が帰るから帰っているのか。日が暮れて、真っ赤だった空が真っ暗になる頃には、誰一人として公園からはいなくなっていた。

 そんな真っ暗な中、僕はずっと一人でブランコに揺られていた。

 友達が居なかったわけじゃないんだ。ただ、人と話すのが苦手だっただけ。

 学校に行っても、僕はやっぱり一人で、静かに窓の外で遊ぶ同級生の楽しそうな笑顔を見下ろしていた。

 そんな僕の様子を見て、親や先生は僕を励ましてくれていた。何度も・・・何度も・・・。

 もういい加減にしてくれ! うんざりしてるんだよ!! 僕を哀れむような目で見るな!!

 そんな事を毎日思う内に、僕はついに家を出てしまった。

 ここはいい。親を悲しませる事も、先生に励まされる事も無い。このまま僕はずっとここに居るだろう・・・。

 そんな事を考えていると、遠くから静かに、公園の砂利を踏む音が聞こえた。

「ん? 君、こんな所で何をしているんだい?」

 その問いかけに僕は何も答えなかった、その声の主を見る気にもなれなかった。

「こんな所に居たら風邪引くぞ? パパとママがいるお家へ帰りな~」

 そういうと声の主は僕の横のブランコに座って静かにブランコを漕ぎ出した。

「こうしてると、思い出すな~、あの秋の事を・・・」

 何だこの人? 行き成り一人で喋り出して、何を考えてるんだ?

「僕も君みたいな歳の時に、何もかも嫌になってね。こうして毎晩家を抜け出してこのブランコに座って夜空を見上げてたんだ」

 夜空・・・。

「ほら、君も見てごらんよ、空いっぱいに星がキラキラ輝いているよ」

 僕は言われるままに、無言で・・・空を見上げた。

「どうだい、綺麗だろ? こんな夜空を見てると自分が嫌になってたのが馬鹿らしく思えるだろ?」

 僕は横に座っている声の主の方を見向きもせずに、ただ夜空いっぱいに広がる星空をずーっと・・・ずーっと見ていた。

「ふふ、これで君もまた明日から頑張れる。夜空には、そういう不思議な力があるんだ」

 そういうと、声の主は静かになった。

 それから何分たっただろう。僕は声が止んでもずーっと空を見ていた。

 さっきまで一人で黙々と喋っていた声の主は、今度はずーっと喋らない。

 どうしたんだろう? と思い、僕はさっきまで声がしていた隣のブランコを見た。

 しかし、そこには誰もいなかった。さっきまで確かに聞こえていた男の人の声は誰のだったんだろう・・・?

 僕は座っていたブランコから立つと、隣のブランコへと近づいて座る所を撫でてみた。

 だけど秋の寒さで冷たくなった感触しか無くって、ここに誰かが座っていたという暖かさは感じなかった。

 あの人は、どこに行ったんだろう・・・? そんな疑問を抱きながら僕はまた空を見上げ、静かにブランコを揺らし出した。


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