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80年代 ハードコア伝説

80年代 日本 ハードコア伝説

80年代の日本のアングラ音楽シーン ―それは、パンクやハードコアと呼ばれる、明日をかえりみない社会的逸脱者どもや自暴自棄な精神病質者どもの、表現のバトル・グラウンドであった。
以下の5つのバンドは、そんな時代に花火のように騒音と汚物を撒き散らし消えていった、伝説のハードコア/パンク バンドである。
ぜひいちど、中古レコード屋やCD屋で彼らの作品を掘り出し、彼らの魂の叫びを聴いて欲しいものであーる。

【「吐き気がするほどロマンチックだぜ」-飛び交う豚の臓物と、全裸のボーカルのマスターベーション】
-ザ・スターリン・遠藤ミチロウ


「セックス・ピストルズ」が元祖パンクの代名詞的存在だとすれば、「ザ・スターリン」は“日本的”パンクの象徴及びまたは金字塔である。

スターリンは、ステージ上で全裸になりオナニーしながら歌う、家畜の生首や臓物や糞尿を客にブチまける、しまいには女性客にフェラ○オをさせるなどのムチャクチャなパフォーマンスによってその名を知られていることが多い。実際、彼らはワイセツ物チンレツ罪で逮捕されている。

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しかし、過激パフォーマンスだけに注目するのでなく、彼らのアルバム-1stの『Stop Jap』と、特に2ndの『虫』の音楽性と歌詞にもじっくりと耳を傾けて欲しい。前者ではメジャーデビューの1作目ということで、比較的キャッチーなメロディで、まるで社会派バンドかと誤解されそうな、常人にも理解できる歌詞が多い。
一方、『虫』はその音楽も歌詞もすっかり「あっち側」の世界に行ってしまっている。数少ないフレーズに情念のありったけを込めて叫ぶ曲の数々。--「死んだフリをしろ!」(Die In)、「オイラ知らねえよ!」(夢遊病)、「勝手にしろ!」(取り消し自由)、「もう手遅れだ!」(Nothing)、「つぎ込んだのに、何にもでない!」(365)…絶望の淵でひたすらもがき狂うような曲の数々。このLPの最後に収録されている表題曲「虫」の終盤の絶望の笑い声を聞いて欲しい。キミの背筋に走る悪寒はしばらく醒めないであろう。

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得てしてその過激さのみで語られがちなこのバンドのボーカルである遠藤ミチロウは、実は国立大学を卒業し教員免許を持っているという、この業界ではたぐいマレなインテリであったりする。世界のギリギリの淵まで追い込まれた秀才が、そのどうにもならない情念と観念を音楽という表現形式で噴出させたとき、ザ・スターリンのような狂宴がこの世に生まれるのだなあ。

オイラの私見だが、スターリンの前にも後にもこれほどまでに日本を象徴するハードコア・バンドはありえないだろう。…そうか、ということは、遠藤ミチロウは日本ハードコア界の天皇ヘイカなのだな。


【女にしか見えないオトコの破壊パフォーマンス】-ハナタラシ/ボアダムズ・山塚アイ

「ハナタラシ」というのは、80年台の中盤に、特殊な音楽の趣味のひとたちの間だけに知られた、インダストリアル(--という音楽ジャンル)になり切れずに単にノイズに合わせた破壊パフォーマンスを展開するだけのユニットであった。その中心人物が、山塚アイ(現在は「ヤマンタカEY∃」とか名乗っているらしい)である。名前のみならず、容貌も一見すると女のようだが、れっきとした男である。

世の中には、ときどき何らかの理由で野放しにされているキチガイがいるが、山塚アイはまさにそんなヤツだ。彼はいまや海外にも名を知られた「世界的なミュージシャン(笑)」だが、楽器も弾けないし、歌が歌えるわけでも何の芸があるわけでもない。たんに、ふつうの人がしないことをライブの最中に平気でしてしまうことで、ごく一部の人の注目を集めていた。その「ふつうの人がしないこと」というのは、例えば、

・猫を殺す。(会場の床も壁も血だらけ)
・自分の足を電動丸ノコで切る。(この結果、まともに歩けなくなったそうだ)
・ガラス板やガラス瓶を会場に放りまくる。 (会場はもちろんガラスの破片だらけ)
・ショベルカーに乗ってライブハウスの壁を突き破ってステージに登場。(弁償に莫大な金が掛かったらしい)
・火炎瓶を投げて、会場を炎上させようとする。(会場スタッフが捨て身で阻止したらしい)
・爆弾を身につけてステージに登場する。(おかげでライブは中止になったらしい)
・「死んでも責任を問いません」という旨の誓約書に入場の際に署名させる。

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--といったことである。
もちろん、ライブでこんなことばかりやっていたために、どこのライブハウスもハナタラシに会場を提供してくれなくなったそうだが、まあ、当然のことだ。

その後、ハナタラシとしての活動ができなくなった山塚アイは、ドラマーの「海坊主吉川」とかギターの山本アツノリらと「ボアダムズ」というバンドを始めた。
こちらはいちおう「バンド」として音楽らしきものを演奏をしているが、ボーカルの山塚アイはたんに「ヒィー」とか「ケェー」とか「ギィー」とか音楽に合わせてケモノのように叫びながら、壁に頭をぶつけたり、もんどり打って床に転がったり、宙に飛び上がって頭から落ちて気絶したりしているだけだ。

試聴リンクはこちら

オイラは80年代中盤に、山塚アイがどんなキチガイをやらかすか楽しみで、まいどボアダムズのライブをあちこちに見に行っていた。ハナタラシのキチガイじみたパフォーマンスのことを聞いていたので、「そのうち巻き込まれて死ぬかな…」とか思ったりもしたが、たった一度だけ、山塚が客席に飛び込んできた時に真下にいたために、お気に入りの白いシャツが彼の血と汗で汚れてしまったのを除けば、アブナい目には遭ったことはない。

ただ、「ホンマモンのキチガイ」がやりたい放題をしているのを見るのには不思議な爽快感があるものだ。山塚が何の才能もないのに「野放し」にされているのは、きっとを彼のバカにカタルシスを求めている連中の根強い支持があったのだろうなあ。


【ハリガネのように細いネーちゃんの絶叫と放尿、分裂病オヤジのデタラメのノイズギター】-非常階段

日本のノイズバンドの老舗、非常階段。
アルケミーレコードの社長さんでもある中核メンバーのJOJO氏は、過去四半世紀近くに渡っていまだに飽きずにノイズを振りまき続けているそうな。

オイラは80年代なかばに一度だけ非常階段のライブを見ている。
ビニールシートを張ったステージに男女2人が登場した。黒っぽい洋服に身を包んだ、物干し竿みたいに病的に細いネーちゃんと、アコースティックギターを手にしたずんぐりしたうだつの上がらなそうなオッサン(JOJO氏)。

ネーちゃんは床にじかに置かれたシンセサイザーのスイッチを入れ、オッサンはギターアンプのスイッチを入れる。シンセから悪夢のようなゴアンゴアンしたノイズが流れ始めたかと思うと、オッサンは椅子に腰掛け、テキトウにギターをかき鳴らし始めた。コードも何もない。ただ弦を掻きむしっているだけだ。

すると、いきなりネーちゃんが金切り声で絶叫し始めた。「ギャーーッ!」まるで目の前で肉親が無残に殺されたのを見たかのような、いかにも狂気を感じさせる切羽詰った絶叫。やがて、彼女は絶叫しながら観客の方に向かってきた。ビビった少年少女たちがステージから離れようと逃げ惑う。

(この間4-5分、中略)

彼女の後ろでは、感極まったオッサンが、椅子から立ち上がって手を激しく動かしてギターをかき鳴らしているが、もはや弦のほとんどが切れている。

さらにネーちゃんはステージの後方に引っ込み、しゃがみ込んで床の上のシンセの音調を変えボリュームを上げた後、パンツを下げて放尿を始めた。そうか、このステージ上のシートは、このためだったのか(笑)。

オッサンは掻き鳴らせる弦がなくなったので、ギターを振り回して椅子だの床だのにぶつけ始めた。飛び散る破片と、アンプから飛び出る破壊の激しいノイズ。

スゲぇー。こりゃちょっとした戦争の沙汰だ。

ネーちゃんとオッサンは、5-6分もすると、ギターも粉々になり小便も出なくなったので、スッキリした笑顔で観客に手を振り(!)、依然として猛烈なノイズが渦巻き続けるステージを去っていくのだった。


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