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間質性膀胱炎との闘い
診断と検査
1.一般的事項
尿意切迫感・頻尿や下腹部や会陰部の疼痛を伴い、感染や特異的な病理所見を伴わない膀胱の疾患。
(painful bladder disease complex)
診断基準(1987年:NIH:National Institute of Health)
2.疾患の頻度
(米国)患者数70万人、うち90%が女性。しかし男性患者も7万人。
10.6人:100,000人(全体)
18.1人:100,000人(女性)
(日本)
12.4人:100,000人(全体)
男女比 1:5.8(当科では全例女性で佐賀西部地区が多い)
3.合併症(同時に存在する病気として)
40%前後の症例でアレルギー疾患を基礎に有する。
SLE、シェーグレン症候群
鼻炎、蕁麻疹、気管支喘息
婦人科・消化器疾患(当科では1例虫垂切除、子宮頚部結紮術の既往)
外陰炎、片頭痛、扁桃炎
4.原因
はっきりとした原因は不明!
様々な因子がこれらの症状(症候群)と関わっているようです。
単一の疾患としてはとらえられない。
考えられる原因として
1).感染
間質性膀胱炎患者の膀胱壁から細菌の遺伝子を検出したとの報告もあるが、また逆に検出しえなかったとの報告もあり、ウィルス・細菌感染の関連については現在マニアが研究中。感染による膀胱壁損傷、自己免疫反応などが一因になっているかもしれない。
2).mast cell
mast cellが特徴的な指標であるとする報告は多い
膀胱潰瘍のない間質性膀胱炎の20%にmast cell(+)
膀胱潰瘍のある間質性膀胱炎の65%にmast cell(+)
上皮にmast cellが存在するのは通常の炎症反応の結果であり、より特徴的であることは筋層に存在することです。
電子顕微鏡で間質性膀胱炎に存在するmast cellは活性化され、脱顆粒化していることが確認されている。
*ストレスや寒冷やトラウマ等によりmast cellは誘導され、mast cellは血管作動物質や痛覚物質(例:ヒスタミン)と考えられる顆粒を放出する。またmast cell自身が膀胱粘膜を損傷したり、血管拡張を引き起こしたり、炎症細胞を動員するといった実験事実に基ずいている。
3).膀胱粘膜上皮の異常説
膀胱の膜透過性のbarrierと考えられているglycos-aminoglycan(GAG)が重要な役割を果たしている!
GAGは膀胱粘膜への細菌、結晶、蛋白質、イオン等の付着を妨げる防御機構であるが、間質性膀胱炎ではGAG層が変性欠損し、膀胱粘膜の透過性が増し、痛覚物質が粘膜下に浸潤する。
4).尿自身の異常説
間質性膀胱炎の人では、何らかの尿中物質が移行上皮への毒性を発揮している?
*実験的にも正常人の尿よりも、間質性膀胱炎の尿のほうが培養した移行上皮を障害した。
5).自己免疫疾患説
抗膀胱抗体の発見からリンパ球浸潤まで様々な研究が行われているが議論中。
6).その他
estrogenが間接的にmast cellのsecretionを促進する?
6.診断
1.診断基準
1987年National Institute of Healthによる基準あり。
2.症状
・頻尿:数十回/日
・疼痛は膀胱充満時に悪化し、排尿とともに軽減
・必ずしも血尿は伴わない
3.尿流動態検査
・不安定膀胱の除外
・膀胱充満時の疼痛の再現
・コンプライアンス(低容量と低コンプライアンス)
・尿意(しばしば100ml前後で尿意)
4.麻酔下膀胱鏡
・麻酔下に行なわないと低容量のため観察できない!
・Hunner潰瘍は全例に見られるわけでない
(真の潰瘍ではなくベルベット状の赤いパッチ。CISとの鑑別)
・glomerulation(水圧拡張後に著明になる)
間質性膀胱炎に特異的ではなくBTや膀胱注入後や透析患者でもみられる
・水圧拡張後に生検(膀胱破裂の危険)
・カリウムテスト
400mEq/lのカリウム溶液を注入して疼痛を観察する
症状は間質性膀胱炎と診断していいのに膀胱鏡の所見がそろわないとき:診断が難しい
7.治療
1.患者への説明(これが大事)
完全に治癒することは難しく、対症療法について説明する。
2.薬物療法
a.三環系抗うつ薬(抗コリン作用、神経伝達ブロック、sedation)
アミトリプチリン(トリプタノール):25mg 1×v.d.s.
b.抗ヒスタミン剤
mast cellとの関連(アタラックスP:有効率30%?)
c.ステロイド
投与法は様々(当科でも1例は効果的であった)
d.Ca拮抗剤
膀胱収縮の抑制と細胞免疫の抑制?(有効率50%の報告あり)
e.pentosan polysulfate(PPS)
経口投与で尿中に排泄されGAGを補う(本邦使用不可)、膀胱注入もあり。
f.nalmefen(鎮静麻酔剤)その他鎮痛剤
3.膀胱注入療法
a.硝酸銀
最初は5000倍希釈の硝酸銀溶液を30~60mlを3、4分注入し、1日置きに注入を続け最終的には100倍希釈にする(70%の有効率)
b.次亜塩素酸(Clorpactin WCS-90)
0.2%~0.4%溶液を注入(70%有効)
尿管狭窄の合併報告あり
c.dimethyl sufoxide(DMSO)
パルプ工場で生成されるlignin(木質素)の誘導物。水や油にとけニンニク臭のする物質。
DMSOの薬理効果
・膜透過作用
・薬剤吸収促進
・抗アレルギー作用
・鎮痛作用
・コラーゲン分解
・筋弛緩
・mast cell histamine遊離?
1960年代に整形外科、皮膚科領域で使用されはじめ、1968年、Stewartが初めて膀胱注入を行なった。50%のDMSO溶液50mlを15分間注入し2~4週に1度注入したところ、70~90%の有効率を得、副作用はほとんど無かった。効果の持続期間が問題?、しかし簡便性と副作用の観点から治療の第一選択とされる。但し、注入後短期間症状の悪化をみることがあり、これはヒスタミンの遊離作用のためと考えられている。
d.ヘパリン
・抗凝血作用
・抗炎症作用
・線維芽細胞増生、血管新生、平滑筋細胞増生抑制
ヘパリン10万単位/10mlを連日注入し、50%の有効率。
(Perez-Marreo,Parsonsら)
e.pentosan polysulfate(PPS)
膀胱粘膜のGAGを補う(本邦使用不可)、経口投与あり。
f.BCG
1994年、Zeidmanらが患者をCISと誤診し、注入したことからはじまる。
BCGはtype1のhelper T cellの強力な刺激物質で、これはICに関与するtype2のhelper T cellをdown regulateする。またBCGはNOのstrong stimulatorであり、間質性膀胱炎の患者の尿中NOは不足していることがしられている。
g.その他
・capsicin・・・刺激が強すぎる
・lidocaine・・・効果が短時間
・Doxorubicin
・cromolyn sodium・・・mast cellの安定化。将来有望!
4.神経刺激療法
transcutaneous electric nerve stimulation(TENS)
intravaginal stimulation
鍼
・ TENS
主に疼痛に対する治療であるが頻尿にも効果的
1994年、Fall and Lindstrom
潰瘍のある間質性膀胱炎:33人・・・54%有効
潰瘍のない間質性膀胱炎:27人・・・26%有効
プラセボ効果があるのかもしれない
・鍼
1988年、Chang
26人中22人に有効であった????
5.外科的治療
・内視鏡による潰瘍部位の切除
1985年、Fall
30人中全員に疼痛の軽減、21人で頻尿の改善
(laserを使用するのは危険!)
・膀胱拡大術
有効性は様々な報告があるが、全体的には推奨されていない。
症状の改善があまりみられない。
間質性膀胱炎の患者の尿が腸管の炎症を引き起こしている可能性
残存した膀胱による症状
・膀胱全摘出術+尿路変向術
膀胱摘出にもかかわらず頑固な骨盤痛が残った症例がある
(悪いのは膀胱だけではない?)
6.水圧拡張術(hydrodistention)
麻酔下に行ない、診断と治療を兼ねる。
80~100mmH2Oまで拡張し、3~5分おく。
膀胱粘膜の機械的拡張のため2~3週間は症状悪化
有効率50~60%
まとめ
1,佐賀西部地区の中高年女性の排尿痛、尿道痛には間質性膀胱炎に注意する
2,上記主訴にて医療機関を初診し、間質性膀胱炎の診断がつき、治療が開始されるまでに
比較的時間を要した(患者の有症状期間が長かった)
3,ICは投薬治療(ポラキス、抗生剤、トフラニール等)に抵抗性であった
(ステロイドについては効果不明)
4,水圧拡張術は短期間の効果しか望めない
5,DMSOは有効であり、再発症例でも再度注入を行なえば効果がある
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