日々のあぶく?

日々のあぶく?

December 14, 2005
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深淵の透明度の高い雰囲気を出すのが上手い作家だなぁと思う。

石垣島へのダイビングツアー、大時化で荒れ狂う海の中遭難したのは、顔見知りに過ぎなかった6人のダイバー。
年長の三好保雄、磯崎義春、米村美月、吉川清美、大橋麻子、そして、僕・児島克之。
僕らは互いの身体を掴んで一つの輪になり難を逃れた。
そのときから6人は信頼で結ばれた掛け替えのない仲間となった。
そんな僕らとダイビングした夜、美月は青酸カリを飲んで自殺した。
その死の意味をもう一度見つめなおすために再び集まった5人の仲間は一枚の写真に不審を覚える。
美月が飲んだ青酸カリのビンの蓋はなぜ閉められていたのか?
(ビンの蓋が)閉められて尚且つ倒れていたのはなぜか?
彼女の自殺に協力者がいたのではないか?
絆が深いだけに見過ごせなくなった謎、
太宰治の 「走れメロス」 に出てくる、メロスの友で彼の代わりに人質となったセリヌンティウスのように友を信じている、
そんな彼らが「疑心」の荒海の中に投げ出された!

一つの謎が謎を呼び、メビウスの輪のように堂々巡りを繰り返す。
荒波の中6人が一つの絆で繋がった。
それぞれが舟であり、乗り手である。
誰が欠けても助からなかった状況の中、これを乗り越えれば生きていけると思った人間と、
極限の中で完成された絆を得、もう死んでもいいと思った人間がいた。
同じ状況下で別れた道、絆で結ばれながらいつかは呈する危険性をはらんでいた彼ら。
現実に僕と清美が結婚を決意したことでそれは訪れていたかもしれない。
しかし、その前に死んだ美月。
彼女の死はあの時にもう決まっていた。
でも、それならば何故、疑問が残る死に方をしたのか、お互いを信じながらも疑惑は深まる。
その距離感、それぞれの性格による反応の仕方も上手く描かれている。
終章に繋がるヒントは何度も(途中に)描写されているから納得がいく。
セリヌンティウス、メロス、ディオニス(王)と「走れメロス」の登場人物の章によって展開。
関係ないように見えた「走れメロス」が疑惑の根底に繋がっていたところは思わず唸らされた。
最後の展開も流れからすれば予想できたが、それだけに切なさもつのる。

石持氏の作品は悪意から殺意を覚えると言うものは少なく、
そのあとの意志を継いでいたり、
死んだ者も仲間を思っている中で選んだ死であったり、
優しさ、思いが詰まっているところが印象的である。

事件とは関わりないが、途中で出てきた宮脇アクリルは 水の迷宮 でも出てきた会社だった気がする。





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Last updated  December 14, 2005 11:39:10 PM


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