お茶かけごはん と ねこまんま

お茶かけごはん と ねこまんま

どんでんがえし




「ああ…。こんにちは。お世話になります。」

 バクバクする心臓を押さえて、努めて平静を装いながらも妙な挨拶をした。感情的になった方の負けには違いない。どう出るつもりか、まずは聞くことだ。

「お話は国民生活センターを通してしていただく事にしていますが。」

「ええ。お電話いただきました。ですが奥さん、こんな事で争うのはやめにしませんか?お互い、いいことはないと思いますよ。」

「いいも悪いも、私はクーリングオフをしたいだけです。」

「奥さんはクーリングオフをしたい。うちとしては、そうは行かない。平行線ですよね。」

「何度も言いますが、こちらの言い分に間違いはないはずです。」

「いや、いや、だから。話を聞いてください。うちは決して悪徳業者なんかじゃないんですよ。だからこういうことで争うことが、決して会社の為にはならないんです。」

「では争わずにクーリングオフしていただけるんですね?」

「いえ、いえ。それはできません。」

 何がいいたいのか。のらりくらりと話は続き、冷静さを保っているつもりでも頭の中がぐるぐると回りだす。

「奥さん、このままお互いが我を張って、裁判なんてことになったら面倒なだけですよ。そう思いませんか。」

「それは…そうですね。」

「では、お互い譲歩するということにしませんか。こちらとしては、立て替えていた分はお支払いいただかなくても結構ですので、それで解約成立という事で。」

「え?私は支払わなくてもいいんですか?」

「ええ。結構です。こちらも潔く諦めます。解約成立で手を打ちましょう。これで話を終わらせて、お互いすっきりしましょうよ。」

「そうですね…。」

「よかった。では、そういうことで。どうも、失礼します。」

「…はい。お世話になりました。」

 電話を切って一呼吸置き、気付いた。

「しまったっ!してやられたぁっ!」

 支払わなくてもいいという言葉で一瞬暗示に掛かってしまった。相手が言ったのは『解約』。『クーリングオフ』ではない。つまり、私の口座から引き落とされていた2か月分の代金は戻ってこない。
 なにより、クーリングオフを成立させなければ、相手が悪い事をしたと証明することができなくなってしまう。結局私のわがままで解約したといわれればそれまでだ。
 つまり、相手の思うツボにはまったのだ。

 悔しくて、腹立たしくて、私はうめきながらその場で頭を抱えてしゃがみこんだ。
 どうすればいい?どうすれば…。とにかく、国センに電話をして事情を話さなくては。
 受話器をとって、気が動転して震える指先でどうにか国センの番号を押した。電話先に出た担当者に顛末を話す。

「ええっ!どうして?!」

 今までいつも冷静だった担当者が、驚くほどの大声で言った。その声を聞いて、私のした事がいかに取り返しのつかないものか思い知ったのだ。


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