ココ の ブログ

変わった形の建物(6)

変わった形の建物(6)

 余り見慣れない建物を「変わった形の建物」とするなら、世の中に最初に現れた建物は全部見慣れない建物だから「変わった形の建物」となる筈だ。大古、出雲大社の最初の神殿は96mを超す、今で言う処の超高層建築物だったそうだから人々は仰天した事だろう。柱は巨木三本を一組みにして束ねた列柱で、其処へ登る為の階段が実に長くて高いものだった。まるでピラミッドを建設する時の仮設スロープのようなもので、縄文時代の神殿とは違う模型を観ただけでも、それが雲をつくような高さだった事が想像できる。そういう巨大建築物は奈良の大仏殿もそうだが、信仰の対象であった。人間の想いは相当な想像力を生み、実行力を発揮させるものである。現代の技術力でも大変難しい施工を簡単な道具でやってのける知恵と力量があったのである。

太古の出雲大社模型
太古の出雲大社模型(縄文時代の最初のものは高さが96mもあったと推定される)。

 その事は決して古代人が未開人だったとは言えない証拠になる。例えば、6年に一度の諏訪の御柱祭というのがある。それを初めてニュース映像で観た時、何と荒くれ男達が無茶な事をするものだと想ったものだった。しかし、その後、何度かテレビ・ニュースで観る内に、慣れたせいもあって驚く事はなくなり、太古(縄文時代)から続く男達の儀式である事の意味が見えて来て、それは一種の技術の伝承である事も分かって来るのだった。あの出雲大社の列柱を建てた男達の技術力と勇気がそこから伝わって来て、単なる巨木運搬の肝試しゲームでは無く、神聖な儀式に酔う男達の血の騒ぎを感じるのである。縄文人はとてつもない事をやり遂げて来た人々だったのである。

諏訪の御柱祭
諏訪の御柱祭(男達はとりつかれたように巨木を運搬する)。

 それはボクが毎年、祇園祭に覚える血の騒ぎに似た先祖から受け継ぐ儀式に覚醒されながら、多くを語らずとも伝わってくる巨大な物を動かさざるを得ない男達の使命のような決意とも取れるものが感じられて来るのだ。それは日本だけでなく外国にもある儀式である。ピラミッドもそうだし、イースター島のモアイの巨大な石像もそうだ。何故、人間は自分の身体よりも馬鹿でかいものを動かさざるを得ないのかと考える前に、そういう事実がある現実から、矢張り運搬技術の伝承を形で残した人間の知恵を感じるのである。無言の行為にこそ大きな意味が込められていると想うのだ。やがて、その技術の伝承は伊勢神宮の式年遷宮に観るように20年毎に新しく神殿を建て替え続けるという儀式になって行く。

ピラミッド
男達は、石灰岩を切りだし、修羅に乗せて運び、ピラミッドの頂上まで運び上げた。

 技術は単なる記録だけでは伝えることは出来ない。実体験する事によって技術は伝わる。そして、それには期限や時期と言うものもある。何故なら人間の寿命に関連してくるからだ。高度な技術の習得は20年を要すると言われる。それを習得した後、式年遷宮で腕を発揮しながら後進に伝え、後進が習得した頃の20年後に亦、式年遷宮が来て再度腕を発揮することが出来るなら、着実に技術は伝わって行くだろうという深い読みである。わざわざ20年毎に建て替えなくても400年ぐらい平気で持たせる技術力があるのに敢えてそうする事を続けて来たという意味は、人間の寿命と能力とを考慮した上での人間の知恵なのである。ちなみに現代社会で言えば、造船技術が造船不況のせいで日本では廃れつつあるという。

モアイ像
イースター島のモアイ像(矢張り、男達は巨石を切り出し、巨像を彫って、海岸まで運んだ)。

 造船を始め、土木構造物も建築もそうだが、鉄と鉄を繋ぐ技術は昔はリベットだった。それに代わったのが溶接技術で、技術的には船舶関係が一番、橋梁関係が二番とされる。建築は三番、その他や製缶などは四番とランク分けされ、その技術レベルをランク別にしたものがS,H,M,R,Jである。施工する規模や鋼材の厚みで分けられ、SやHは建築で言えば超高層建築レベルだ。Mグレードは役所仕様の一般建築用で、世間一般にはRグレードが多い。Jグレードは小さな鉄工所レベルで、RグレードやMグレードの資格獲得を目指すとされる。以前の認定制度では工場の規模や設備が対象だった。が、今は技術者のレベルで分類している。本来、技術力は人を対象としたものだから当たり前の認定制度になったのである。

式年遷宮
式年遷宮(伊勢神宮の神殿は20年毎に建て替えられる)。

 それでも町の鍛冶屋にグレード資格が無くても腕の良い職人が居る事もある。それが高じて農器具職人や刀鍛冶になる人も居るぐらいである。そういう人々は鉄に対する想い入れが違うのだろう。四国にそういう人が居て、法隆寺や薬師寺の建築金物(楔のような和釘)を作った時の記録の本がある。彼に言わせると現代の鉄(くろがね)には不純物が混じっていて直ぐに錆び、耐用年数が短いという。イオウや他の元素の混じらない純粋の鉄を探し求めるのは現代では大変な事で、不純物を排除するのに苦労するという。それが得られると簡単には錆びる事もなく実に長持ちするそうだ。戦前の戦艦大和を作った頃の鉄には未だ良質な鉄があったというから、太平洋から引き揚げる事が出来れば貴重な材料になるそうだ。(つづく)

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