諦観（４）
これ迄の人生で何が一番価値があったのだろうと考える事がある。当然ながらそれは人によって様々だろうが、万国共通のものがあるとすれば、先ず命は別にして心根であったり家族だと言う人が多い筈だ。それを愛と言う人もいる。が、愛は金で買えると言う人もいる。「何でもあり」の今のご時勢では人生で価値があるのは金地金という人々が存外多いのかも知れない。ところが、人生で経済問題（金）を筆頭に挙げるなぞ空しい人生だと誰もが言う。が、現実は経済で戦争が起きたり、平和がもたらされたりするのは事実だ。馬鹿馬鹿しいが金で苦労するのは今も昔も同じ事なのだ。だから愛でさえも金がモノを言うのである。そのくせ金を毛嫌いする。あり過ぎて困るものでも無いのに、あればあったで振り回され人間不信に陥る。
妻のかつての友人で、数年前にご主人が急死して遺産がドッと入った人が居る。生命保険金だけでも２３億円もあって、残された母子四人の家族で分配したのだが、その頃から家族の心が人間不信になってしまった。奥さんはご主人が居なくなって心の張りが無くなって毎日の食事の用意もする気が起きず、娘とレストランや料理屋をハシゴして廻るようになってしまった。息子は父親の商売（歯医者）を受け継いでやっては居るが、腕の方が父親よりも落ちるという患者の陰口を知って優秀な歯医者を雇って経営する側に廻った。しかし、雇った彼らの評判が上がって来ると何時造反され歯科医院を乗っ取られるのではないかと疑心暗鬼になって常に警戒心が働き神経的に参ってしまっている。その表れか、高速道路でも無いのにスポーツカーを飛ばす有様だ。
娘には婚約者が居たが、相続した遺産目当てに思えて来て婚約破棄をしてしまった。この分だと行かず後家になってしまうだろうともっぱらの評判である。息子は何とか結婚をしたが、母親と同居している二人の妹が鬱陶しくて実家には寄り付かず、たまに里帰りをしても用件が済めばサッサと帰ってしまう。そういう金に恵まれた一家に欠けているものが何か、彼らには分からない様だ。生前の父親と言えば浮気ばかりし家には殆ど週に数日帰るだけだったから、息子も娘もロクに父親と話らしい話もせず、むしろ避けていたから母子家庭の様なものだった。だから今更、父親らしい事を思い出そうとしても何も浮かばないのだ。ガレージには各自の複数の車の他に父親の車も残っていて、古くなったとは言え高級外車だから手放したくも無いようだ。
毎日、違う車を転がしてバッテリーの上がるのを防いでいる有様で、他人が口を挟む事でもないのに車に振り回されているのが滑稽ながら羨ましいと観る人も居る。多分、アメリカのセレブも似た様な生活をしているのだろうが、実家の邸宅の建物内外の手入れや管理はハウス・クリーニングや植木屋任せでガーデニングなんかも自分では手も付けないから本当の楽しみは知らず何が楽しみなのかも分からない状態だ。唯、遺産が目減りするのが怖いのと人が信用できないから友達も離れてしまう。つまりは金に振り回されている生活だから、それで人生がバラ色なら結構な事だが、ボクに言わせればナンセンスな生き方だ。しかし、お節介する気なぞ毛頭無い。金持ちを羨ましがって居る風に想われるのが落ちだからだ。
そういう風な金持ちだったアメリカもドル防衛が上手く行かず、平気で世界を騙し続けようとするアメリカの上下両院議員達は、仮にデフォルトに陥っても自分達は資産を持っているからスイスの別荘にでも避難すれば良いと想っているのだろう。が、人口の９７％を占める一般国民は不況をどのように乗り切るかで頭が一杯の筈だ。我々の知るかつてのアメリカ国民は裕福で、家の前の芝生の手入れをしているイメージが強かったが、実は大半がそうでは無く、まして低所得層は昔から同じ貧しい環境であえいでいるのが現実なのだ。何せブッシュがメディケア法案を通した為に大幅な赤字を出し続ける事になり、オバマの代になって共和党の茶会派の妨害でデフォルト寸前まで行ってしまい、必死に成って格付けをトリプルＡのままにしておこうとあがいているのが現状である。
振り返れば４０年前のニクソン・ショックで金本位制が崩れ、今では保有する金地金の１０倍以上の紙幣を印刷し、表の経済では既に二進も三進も行かなくなっているアメリカなのに、裏の経済である金融商品の金がバックアップして辛うじてアメリカ経済を支えているのだ。言わば幽霊会社のような国家が世界覇権を維持できる筈がなく、ＢＲＩＣに取って替わる覇権の多極化時代が目前になっている。その一つの表れとして中国人が金を買い漁っているニュースが入って来る。中国人らしい行動だ。中国人口の一割が富裕層と言われ、その内の何人が買うのか知らないが、仮に１％の１６０万人が一人当たり金地金１ｋｇ買ったとすれば合計１６０万ｋｇ、つまり１，６００ｔもの金地金が中国の民間人に保有される事になり、現在の中国の保有金は６００ｔだから一挙に２，２００ｔとなりイタリ―の次の世界第６位になる勘定だ。（つづく）
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