長生き（７）
人間の寿命は良好な環境で適度のストレスがあれば１１０歳は生きられると言う。良好な環境と言うのは食糧が潤沢に在り、気候も人間に適したものであるのは論を待たないが、適度のストレスと言うのは全くストレスの無い状態では人間は緊張感が無く怠惰になって長生きもしないと言う事から必要とされているのだ。例えば空気の良い田舎の犬と排気ガスで汚れた都会の空気で育っている犬との比較をした処、都会の犬の方が長生きをするというデータが在る。我々人間もストレスが適度にある方が長生きをするそうで、その例としては金持ちよりも貧乏人の方が長生きをしている事からも理解できる。余計な脂肪が付かない生活は金が無いから余計な間食をせず已む無く身体を動かさざるを得ないからで、結果的には貧乏暇なしと言われる程身体を動かすから身体には良い訳だ。
その点、金持ちはあくせく働かなくても喰えるから好きな時に美味いものを喰ってボケーッとしていられる。そのせいでコレステロールが溜まって病気に成り易く成る。金持ち病とか皇帝病と言われた痛風がそうだ。貧乏人は痛風なぞという病気には掛からなかった。尤も、最近ではそういう情報が行きわたった事と貧乏人でも食べ物に困らなくなって、逆に脂肪分の多いカロリーの高い食べ物を採るようになったから逆に痛風が貧乏人にも増えていると言う。要するに健康管理が充分に出来ない状態に在る人々が病気に掛かり易く、同じ状態であっても結果的に健康的な生活が出来ている人々が病気に掛かり難く成っているだけの事で、わざわざ高い金を払って美容と健康の為にスポーツ・ジムやエステ・サロンへ通う人々も居るのだ。スリムな身体にするには今や金の掛かる時代なのである。
しかし、修行僧に観るように老僧ともなれば贅沢もしていないのにつやつやした健康的な肌をしている。それは厳しい毎日の修業と規則正しい生活がそうさせるのだ。更には身体を害さない程度のギリギリの量の食べ物で健康管理が出来ているからである。中には京都の有名な寺院の住職が鬘を被って夜な夜な祇園へ通うという破天荒というか金持ちもビックリする様な贅沢三昧をしている僧も居るそうだが、それは論外としても早寝早起きと言う比較的健康な生活をしている僧は健康なものである。勿論、健康の為にそうしているのではなく、修業する事で内面から健康的な精神世界に入り、与えられた公案を解くのに大いに悩み考え抜き、悟りを開く為の努力をするだけの事である。悟ったからと言って健康的な身体に成るかどうか分らないが、長生きをしている事実がそれを物語っている。
高僧が後進の指導にあたっている事で社会をレベルアップしている事は間違い無く、悟ったかどうかよりも、ある一線を越えた修行僧の言動には非常に研ぎ澄まされた高貴なものがある。ところが一般人は俗世間にもまれながら生きているから高貴なぞとは言っていられないのが実情だ。この不況の世の中では人間らしい生活を維持するだけでも大変だから、金を稼ぐ為にあくせくしなければならず何も贅沢をする為にだけ働いている訳では無いのだ。言わば老後の安定した生活を夢見てそうしているのである。身勝手で無責任な国なぞ当てに成らないから大方の国民は心根では信用なぞせず自分や家族の為に黙々と働いているだけである。だから健康管理をしなくてはならないのは頭では分って居ても実生活では出来る限り不健康な事をしないとか、出来るだけ規則正しい生活をしようと心がける。
単純な様ではあるが、それが精一杯の健康管理に代える方法なのである。年に一回の健康診断なぞやらないよりましという程度のものだから、病気になる時は不健康な生活のリズムが続いたせいだと自覚し、反省もしながら慌てて手当てをする。その程度では余程頑強な身体でないと病気に成らない方がおかしく、気力で持たせているだけなのだ。が、考えてみれば起業家も同じ様な面があって、病気なぞしている間が無いという気迫がある。もし仮に途中で事業に失敗すれば挫折感が身体を本当の病気にしてしまう。そういう意味では程々の緊迫感のストレスは一種の健康法に成るだろうが、綱渡り的な面がある。勿論個人差があるから同じストレスでも耐えられる人も居れば耐えられない人も居るのは仕方が無い。飽くまでも自分の器量にあったストレスに立ち向かうしかないのだ。
ところが人は様々だから、そこまでして長生きなぞしたくないという人も居るだろう。シミやソバカスだらけの皺くちゃになって老醜を晒したくないと言うのもある。それは美学的には一理あるが人間的には間違った考え方だ。加齢と共に人間は賢く成り、人徳が増す筈だからである。見掛けよりも内面的な事で人は評価するのである。尤も、殆どの人は残念ながらそうは成らないで悪く成る方が多いから嫌味な老人に成って嫌事しか言わない爺婆なぞ嫌われて当然なのだ。が、人は本人の前ではそういう事は言わず綺麗事ばかり並べる。言われている方は心の底では「フンッ！心にも無い事を言う」と想いながらもニコニコして「有難う」と言っているだけなのかも知れない。人にどう想われようが気にしない老人なら良いが、大抵は弱気になって子供の様に成るものである。挙句が惚けてしまう事になってしまうなら詰らない。（つづく）
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