株/投資/ヘッジファンド/きまぐれぽんた

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人民元・人面魚 似てる?



さっそくだが、中国人民銀行は米ドルとの間で固定していた通貨「人民元」の為替レートを対ドルで2%切り上げると発表、21日の午後7時(日本時間午後8時)から実施した。同時に固定相場制を改め、本日からは上下0.3%の範囲内で変動することになる。変動に際しては、日本円など他の通貨の動向も参考にする方針で、事実上「通貨バスケット制」の導入へ。

マーケット関係者の多くが8月や10月の切り上げを予想しており、足元で人民元の切り上げが忘れ去られようとしていたときの実施だけに、意外感からドル・円では110円前半まで下げているのだが、人民元の2%切り上げでドル・円はちょうど2円下落、2%分の切り上げを取り敢えず織り込んだ形となっている。

尚、事前の市場参加者の予想は5~6%程度となっており、また米国は10%以上の切り上げを求めていただけに、今後更なる追加的な切り上げが年内にも予想される。追加的な切り上げの思惑が市場に残る形となっているだけに、為替市場では中長期的に円高圧力が優勢になる可能性も否定できない。

意表つく人民元の切り上げでドルが急落したことより、海外の投資家に為替差損が発生し米資産への投資意欲が後退するのではないかとの懸念が市場を覆った格好。NY株式市場は企業の好業績を背景に上値追いとなっていた後だけに、影響を見極めたいとの投資家が多く買いが手控えられると同時に、利益確定の売りが先行。人民元の切上げは、プラス・マイナスのダブルの影響が考えられるのだが、輸入コスト上昇が嫌気され小売株等が下落。また、米資産離れが懸念材料となり債券相場が急落(金利上昇)し、住宅建設関連などが売られた。他にもロンドンでのテロ再発も加わり、株安・債券安・ドル安のトリプル安となったのだが、現在のところ影響は軽微との見方であわててどうこうという動きは見られない。

個別では、人民元切り上げをきっかけに債券相場が急落(金利上昇)したことで、高配当利の公益株、低金利の恩恵が大きい自動車関連や住宅関連が売られた。また、およそ7割の商品、額で180億ドル分を輸入するウォルマートはコスト増が嫌気された格好で、同様の理由でナイキなども下落。一方、競争力が増すとの期待から鉄鋼のUSスチールなどに買いが入っていた。業績関連では、前日引け後に好決算を発表したイーベイが20%超急騰し、携帯電話用半導体のクアルコムも大幅上昇となっていた。コカ・コーラの業績好調を手がかりにしっかり。一方、決算内容が失望されたイーライリリーやメルクなどの医薬品株が安く、ノキアは増益ながら先行きに慎重な見通しを示したことで急落。セクターでは、金、鉄鋼、林業、鉄道などが堅調。一方、住宅建設、小売り、カジノ、写真用品、半導体などが軟調となっていた。

元高が進展することは、日本にとって、「生産拠点」としての中国の意味合いが薄れ、逆に「消費基地」としての中国の意義が増すことにつながるだろう。簡単に言えば、中国の安価な労働力を利用したビジネス・モデルは徐々に評価が下がり、中国の購買力をターゲットとしたビジネス・モデルは評価が上昇することが予想される。昨晩のNY市場で中国の安価な製品を輸入しているウオルマートやナイキの株価が下落していることは示唆的である。この点を踏まえ、今回の動きに伴い業績・株価面でメリットを受けそうな銘柄を洗い出してみた。第一に、有価証券報告書において中国向け売上が開示されている企業である。第二に、中国・香港に子会社を持つ企業の中で、過去2年間人民元先物レートが元高になる際に株価が上昇する傾向のある企業群である。損保・小売・商社の一角が浮上する。




人民元、管理フロート制を開始 
中国人民銀行は、2005年7月21日より、人民元の為替制度に、市場の需給を基礎とし、通過バスケットを参考に調整する、管理フロート制を導入することを決定した。今回の措置により、人民元の対米ドル・レートは当初2%上昇する。人民元の引き上げ幅については、景気への悪影響を避けるためかなり周到に影響を調査した模様であり、05年上半期の経済成長率が高かったことも、引き上げやすい環境を作ったと思われる。景気等への影響は当面は限定的と見られるが、今後変動幅は拡大する方向にある。中国は為替の柔軟性というメリットを得る一方で、金融機関の改革、企業の競争力向上といった改革が、これまで以上に急がれることになろう。

*バスケットペッグ制移行の意味
パスケットペッグ制への移行は、中国当局が、元相場を米ドルという単一通貨ではなく、ユーロや円を含めた複数通貨との間で安定化させていくことを意味する。理論的に計算される加重平均でみた「実効為替レート」の安定化に努めるということである。この場合、バスケットの比率の設定によって、個々の為替相場(元・ドル相場等)の「許容変動率」に差が出ることに注意したい。仮に、米ドルの比率を70%と仮定すると、元・ドル相場には30%程度の変動が許容されることになる。従って、バスケットペッグ制の採用は、中国元の対米ドル相場が、従来の完全固定相場制時に比べて、より大きく変動する可能性を示唆する。2%という小幅の切り上げでスタートしたが、1年後には、中国元が対米ドルで20%程度切り上がっている可能性もある。

*世界的なインフレ圧力増大へ
中国元の大幅な上昇が生じれば、世界的にインフレ圧力が増大するであろう。廉価な中国製品の市場シェア拡大が世界的な財デフレの根源の1つであったからである。繊維製品、衣料品、家具、AV機器など、消費財の価格が世界的に上昇する可能性が高い。

*世界的な金利上昇の可能性
財インフレ圧力は、米国で最も顕著なものとなる可能性が高い。欧州や日本では、ユーロや円が対米ドルで増価することにより、輸入インフレ圧力が緩和されるとみられるからである。こうした米国におけるインフレ圧力の増大は、FRBによる金融引締めを長期化させる要因となると考えられる。これまでは、CPIの落ち着きや製造業雇用の弱さ等を背景に利上げ幅が抑制されてきたが、元切り上げによって輸入インフレ圧力が強まれば、そうした重石がとれる。FRBは、国内の不動産バブル退治に、より集中できる筋合いとなる。バスケットペッグ移行による中国の米国債運用額の減少も予想されるため、米国の債券市場が将来的に大きく崩れるリスクが出てきた。中国の為替制度変更は、世界的な流動性相場の終焉を意味するかもしれない。


日本の株式市場に対するこうした人民元切り上げによるインプリケーションとして、以下の4点を挙げる。

1、「ハード・ランディング」シナリオの回避:日本の株式市場にとっては中国経済のハード・ランディング・シナリオが外部リスク要因の大きな一つと考えられてきた。しかし、今回の決定で中国政府は国内の潜在的なインフレ圧力をコントロールする手段を得たということであり、より中国経済の安定成長が図れるという点において、日本経済の回復にもプラスだと考えられる。

2、自国経済への楽観的な見通し:中国政府が人民元の切り上げを行ったと
いうことは、自国の経済および銀行システムが切り上げのショックを吸収できるという、中国国内の内需に関する自信の表れと受け取れる。中国の内需が堅調であれば、ひいては日本および他のアジア諸国をリフレに導くと考えられる。

3、円高:人民元の切り上げを受け、当然ながら円相場は発表前の112円台/ドルから110円台/ドルまで急伸している。しかし、他のアジア通貨も同様に上昇しており、日本の輸出競争力という観点でみて、マイナス面は結果として
最小限にとどまろう。

4、中国関連銘柄には好影響:人民元の切り上げにより日本の景気敏感セクターに対するプラスの影響がさらに強まると考えられる。加えて、機械(建設機械など)、素材(鉄鋼、化学)、運輸(海運)などの中国の内需に恩恵を受けるセクターにとっては、この一連の動きが目先の株価をサポートする触媒となりうる。一方で、中国から商品を多く輸入する企業(小売など)にとってはマイナスの影響も考えられる。しかし、株式市場にとってのプラスの影響とマイナスの影響を比べた場合、当社は圧倒的にプラスの影響が大きいとみている。


中国人民元制度の改革とドル円相場への影響 
7月21日、中国人民銀行はこれまで事実上1米ドル=8.277元に固定されていた対ドル相場を約2.1%切り上げると同時に人民元の連動対象をユーロや円なども含めた複数通貨のバスケットへと移行する旨公表した。今後断続的な人民元上昇期待が実現する可能性が強まっており、短期的には日本円の連れ高観測が誘発される可能性は否定できない。しかし、中期的に見ると人民元上昇期待と円高期待の共存関係の連鎖はどこかで断裂し、人民元の切り上げは、先進国通貨に対するドル相場の安定化要因に変貌する可能性があると考えられる。

人民元切り上げ:日本株への影響 
長期的な元高の流れの出発点に短期的には円高・ドル安の影響及び、人民元の切り上げによる中国経済の鈍化とその日本企業への影響が話題になろう。ただ、いずれの点も影響は短期的かつ限定的とみる。重要なのは、今回の動きが対円を含めて中長期的な元高の流れの出発点となるだろうということである。日本にとって「生産拠点」としての中国の意味が薄れ、「消費基地」としての中国の意義が増すことになる。


パンアジア市場での流動性相場を加速させよう
ついにその日がやってきた。中国人民元の通貨制度の変更は、既に「いつ」、「どの程度の切り上げ幅で」、「どのやり方で」行うかの問題となっており、バスケット制移行は特にサプライズではない。注目は対米ドルでの切り上げ幅が当初の段階で2%となったことである。当面の実体経済への影響は軽微であるが、この切り上げ幅が不均衡是正には不十分であり、将来的に切り上げ圧力が高まると株式市場が期待することは必至であろう。中国の為替制度の変更が、アジア通貨の全面高と、パンアジア株式市場の流動性相場の様相を強めることになるだろう。


*しかし、見極めが必要

しかし、まずは、中国当局が、実際にどの程度、対米ドルでの元相場の変動を許容するのか、見極めなくてはならない。従来どおり、米ドルとの完全固定相場制的な運用を継続するのか、あるいは、早期のうちに、実質的な大幅切り上げを打ち出すのか。後者の確率は、当面は低そうであるが、中国の貿易黒字がさらに拡大するようであれば、年内にも、切り上げ姿勢を鮮明化する可能性があり、注意したい。


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