海外旅行紀行・戯言日記

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グレン・グールド


50才の風貌はまるで70才の老人の様でしたが、彼の天才ぶりを天がもう充分と判断し人生を加速してしまったのでしょうか?
彼は死の前年にバッハの《ゴルトベルク変奏曲》をデジタルで再録音し、しかも映像版を残したのです。ほとんど再録音をしなかったスタジオの隠者が、デビュー盤の《ゴルトベルク》(1955年録音)に回帰し、それが「白鳥の歌」となったという事実に誰もが驚きました。主題のアリアで始まり、30の変奏を経て、ダ・カーポのアリアで終わるこの作品の構造にグールドの軌跡を重ね合わせ、その象徴的な関係に想いをめぐらしている様でした。
22歳で録音した衝撃のデビュー曲《ゴールドベルグ変奏曲》がクラシックの常識を破るベストセラーとなり、世界中の賞賛を浴びながら、32歳で唐突にすべてのコンサート活動から身を引いてしまいました。歌いながらと言うか“うなり声”を挙げながらピアノを弾き、指揮するように腕を振り上げ、自分の思い通りの演奏をすることで知られていましたが、社交界的な演奏会では思う様に演奏出来ないと判断したのだと言われています。
実生活でも変わった人の様で、夏でもコートとマフラーと手袋を離さず、人前から姿を消し、レコードだけを発表し、生涯独身で過ごしたのです。数えきれないエピソードは、奇人なのか?天才なのか?と人々を悩ませますが、確かなのは、その演奏には誰もが心奪われずにはいられなかったということの様です。
 《ゴルトベルク変奏曲》再録音は、米国では亡くなる前の1982年9月に、日本では追悼盤として1982年12月に発売されました。
国内盤は諸井誠氏が「27年前の初録音をはるかに凌駕する世紀の名演」と題する解説を寄せ、テンポ、リズム、装飾音等に着目しながら、新旧両録音の各変奏の解釈を仔細に比較検討しています。諸井氏は旧盤を「若い才気の飛翔」と、新盤を「賢者の深慮にもとづく確固たる造型と技巧の勝利」と評し、「あらゆる音に奏者の意識が働いている、演奏のマニエリズムの極致」と賞讃しています。
 その他、平均率ピアノ曲集、イギリス組曲、フランス組曲、イタリア協奏曲など独奏曲に優れた演奏を残しましたし、彼も楽しんで録音したと思われるキーボード協奏曲も、その演奏を凌駕するものが今になっても出ていないと思っています。
 数ヶ月前には、愛聴していたトッカータ全曲集のテープがすり切れてしまいましたので、インターネットでCDを買い求めた程、魅力的です。



バッハのパルティータ1番(BWV825)のメヌエットを聴いてみて下さい。何とメリハリの或る演奏でしょうか!



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