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海外旅行紀行・戯言日記
美しい夏の行方
写真を入れた文学は古寺巡礼も含めて名著があるのですが、絵画、寺院、彫刻と言った分野で、なかなか文章では表現しにくいものを提示することが目的だったのでした。
作者の辻邦生氏は、あとがきで次のように述べています。「今度のイタリアの旅で僕は初めて素直にの中に自分を解き放つことが出来たような気がする。旅は魂を昂揚させる貴重な機会であり、詩を読んだり。音楽を聴いたりするのと同じ働きをする。特に今度の旅ではをその場の即興的印象として書き留めた。その上ふんだんに堀本氏の写真を入れて貰ったので、本と言う空間に、イタリアの夏がそっくり入っているような感じになったのは嬉しい。」
辻邦生(1926~1999)
東大仏文科卒。1957年、フランス・パリ大学に留学、ギリシャに旅行してパルテノン神殿に接したのを機会に強い創作衝動に駆られて作家生活に入った。
帰国後の1963年、長編小説「廻廊にて」で近代文学賞を受賞。死の影を帯びた滅びの感覚と永遠性の希求と言うことが、その後の辻文学独自のテーマとなった。
1968年「安土往還記」で芸術選奨新人賞を、1972年には「背教者ユリアヌス」で毎日芸術賞を受賞し、以後、歴史の転換期を生きる人物に新たな光を与え、人間存在の本質を鋭く探る独特の歴史小説を次々と発表した。
1995年「背教者ユリアヌス」などイタリアゆかりの小説を発表した功績で、イタリア政府から功労勲章を贈られた。同年、西行の生涯を描いた「西行花伝」で谷崎潤一郎賞を受賞。
書き出しから暫くすると、こんな文章に出会います。「何故イタリアにいると幸福になれるのだろう。スタンダールに惹かれた時期があったからだろうか。彼はイタリアに惚れ込んだ人で、領事をしながら「赤と黒」「パルムの僧院」を書き、墓碑銘に「ミラノの人」と彫らせた程である。「書くことが最大の快楽」と言っていたこの作家に言い知れぬ共感を覚えていた。僕も書くことが最大の快楽なのである。」
まるで、霧深い北部の人ゲーテ、カロッサがイタリア行きを望んだような息吹きを持って紀行文を連ねて行きます。中部イタリアとシシリー島で作者自身の「旅は幸福への奇跡的な治癒薬になりはしないか」との思いもあって・・
存命していれば、このジャンルにも数多い相当な足跡を残したであろうと考えると、残念でなりません。
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