2002/09/20
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 どこの誰だよ、と思いつつ。しかしかなり良かった。
 フセヴォロード・ミハーイロヴィチ・ガルシン(1855~88)。 詳しい解説は人任せ
 病院の五階から飛び降りて死ぬ夢を見た。うまく頭を下に向けたので助かる気遣いはない。目を瞑り落下しながら「痛みを感じる瞬間にまだ生きていたとしても、それは一瞬のものだ。それぐらいなら大したことはない」と思った。夢の中での死には馴れている。熊の爪で引き裂かれたり、銃や刀で殺されたり。飛び降りにしろそれらにしろ、その手の痛みは味わったことがないにもかかわらず、「死ぬ時の痛さ」を僅かに感じることもある。 自己の死に関しては死んだことがないのでやっぱりその瞬間まではどのような姿勢を作るかまだ考えていないが、人の死は嫌だ。数多くある嫌な死の中でも、戦場の前線で、ある程度死ぬことを前提として立てられた作戦で死んでいく人達の死を想うと、とてもつらい。「プライベート・ライアン」再観以来映画から遠ざかっているのもそのため。時代劇の合戦シーンでも、先頭で突っ込む足軽は、生きて帰る方が不思議なんだろう。その為敵側から吸収した兵士を使ったりしてるのかもしれないが。しかし士気の低い兵士に先頭は・・・とにかく、戦争はなければないに越したことはないが、そうもいかないのが人間、「あらかじめある程度死ぬことを前提とした作戦」で、その「ある程度」に入って死にたくないのが私。他の死ならばまあ嫌々ながら納得も出来よう。
 ガルシン自身も体験した戦争での、足を撃たれて、自分が殺した敵兵の傍で水だけで過ごした兵士の体験談を元に書かれた「四日間」を読みながらそんなことを思いつつ。
 チェーホフの「六号病室」にはあまり深く感じ入ることはなかった。併録されていた「退屈な話」を読んだ後の痛みはまだ尾を引いているけれど。その点ガルシンの「赤い花」は作者が実際狂っていた時の話を元にしているから、迫力がある。祖父のことを思いだした。
 病院の中庭へ祖父を連れ出すと、花壇の土を食べようとした。ゆらゆらとしか動いてない、動けないとばかり思っていたため、その俊敏さに驚き、止めるのが遅れ、口周辺に土がついた。掴んだ手は酷く細く、骨、と感じた。その時中庭のベンチに置いてあったCDラジカセからは音が飛び続けるどこかの民謡が流れていた。ふわふわした大きなボールの投げ合いが出来る老人達もいた。外の景色が見える隅の方まで祖父について歩いた。病院の駐車場や近くの林を指差して祖父は何か言った。何を言っているのか分からなかった。こちらから何を話しかけても小さく何度もウンウンと頷くばかりで、何も聞いていないようだった。何も聞こえていないようだった。その後祖父は倒れ、あのような形で見舞いに行くことはもうない。癲狂院と痴呆老人を集めた病院の違いはあるが、私の見た、一周するので終わることのない廊下を歩き続ける、矛盾な言い回しだが、虚無に満ちた目を持たざるをえなくなってしまった老人達の集団と似た風景の中にガルシンもいたかもしれない。あのような場所は、死に向かう為にあるものだ。
 でも一番好きなのは下手すれば無意味なほのぼのにしか見えないこともない「従卒と士官」。

ガルシン「ガルシン短篇集」中村融 訳(福武文庫 在庫切れ)





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Last updated  2002/09/20 01:35:20 AM
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