2003/08/30
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カテゴリ: 海外小説感想
 小さな箱の上には阪神電車が走っていて。演奏の合間にもゴトトトトンと音がする。最後が静かに終わる曲でも、ゴトトトトンと音がする。途中ボーカルが延々とプードルの話をする。猟の時水に落ちた獲物を捕りに行く犬だったそうだ。お腹の毛は水に浮くように無くなったとか。毛が無くなると水に浮くのか? 水辺の猟以外には役に立たないのか? ボーカルは次にナウマンゾウの話を始めようとしてギターに止められた。
 中休みの時、隣の女二人組が文庫本を取り出して何やら話してる。『リヴァイアサン』『偶然の音楽』オースター、ポール・オースター! それがどうした。『孤独の発明』『シティ・オブ・グラス』の方がいいよという言葉を飲み込みこちらも暇だから本を取り出す。気の利いた事でも書いてればいいが。「 父は桶と箒と雑巾とそれから小さな鏝(こて)を抱えて出掛けてく。鏝はうんこのためで、それですくっておがくずの上に放り出す。彼ほどの教育を受けた人間にとってこれは最大の屈辱だった。うんこはいくらとってもいつも増えるばかりで、しかもよそよりもうちの前にずっと多く、一面にあった。明らかに陰謀だった。
 メオンは父が犬の糞の仲でもがいているのを二階の窓から眺めて歯を見せてほくそ笑んでた。これで一日じゅう楽しむつもりで。近所の連中が集まってうんこの数をかぞえる。 とても全部はとりきれまいと連中は賭までしてた。
」オースターはこんなこと書かない。隣の別の女は楳図かずおの文庫を開き・・・これは別の場所。
 ブコウスキー-ヘンリー・ミラー-セリーヌと無事さかのぼれた。セリーヌは心配したほど読み辛くなく、ヘンリー・ミラーと違い長ったらしい抽象論が挟まることもなく楽しめた。


≪さあレオニーヌ!・・・・・・こらえるんじゃない!・・・・・・おれがついてるぞ・・・・・・掴まえててやるからな≫そのとき女房は急に頭を風の方向にふり向ける・・・・・・ごぼりと口を溢れたグラタンがまともにぼくの顔にぶっかかる・・・・・・えんどう豆やトマトが開けた口に飛び込む・・・・・・もうこっちはとうに吐くものもないのに!・・・・・・とろこがそいつがまたやって来た・・・・・・どうもその気配がした・・・・・・はらわたがえずいた。それ、頑張れ!・・・・・・それ、くるぞ!・・・・・・怒濤のようなやつが舌めがけて飛び出してくる・・・・・・ぼくは女房の方に向きを変える、口一杯に臓物を含んで・・・・・・手探りで近づく・・・・・・二人ともゆっくり這い寄る・・・・・・掴み合う・・・・・・這いつくばったまま、抱き合う・・・・・・そしてぶっかけ合う。パパと相手の亭主が二人を分けようとする・・・・・足を引っぱって・・・・・・彼らには何がなんだか分らない・・・・・・


 ・・・・・・ばかりなのでページ数の割にはすらすら読めるのだが、書き写すには面倒だ。
 罵声を喚き立て、オナニーをし、そこら中から怒りを買い、セックスをし、人に迷惑ばかりかけ、借金をし、周囲で人が死に・・・・・・そんなことばかりの話だ。実際のセリーヌの少年時代はこのようなものではない。にもかかわらずその悪罵の多さから真実にしか見えない。少なくとも、どのような少年時代であれ、心中は常に世の中への罵詈讒謗に溢れ返っていたと見える。それが作品に結実するとあまり不愉快にもならず読めるのは不思議だ。
「永久運動機関が確かなものだと証明するにはそれを見届けるものも永久の存在であらねばならない」言われてみればもっともだ。


 ──ちょっと! ちょっと! と彼女は反撃した・・・・・・よく聞こえなかったけど・・・・・・なんですって?・・・・・・彼女は相手の鼻先に詰め寄った・・・・・・今なんて言ったの?・・・・・・彼を殺したのは私だって?・・・・・・あんた酔っぱらってるの?・・・・・・ああ! この恥知らず!・・・・・・それともあんたたちはみんな気がふれてんじゃないの?・・・・・・なあんですって?・・・・・・私が殺したって?・・・・・・あの風来坊を?・・・・・・あのペテン師を? あのろくでなしを?・・・・・・ああ! こりゃあいい!・・・・・・・よく覚えとこうじゃないの!・・・・・・結構な話だねえ!・・・・・・私をさんざん不幸な目に遭わせたあのならず者が!・・・・・・それだけしかしなかったあいつが!・・・・・・私の方なんよ! 聞いてるの?・・・・・・この私の方だ! あいつに年じゅう殺されてたのは!・・・・・・吸血鬼だって? そりゃあいつの方さ!・・・・・・それも一回や二回のこっちゃない!・・・・・・百回でもない! 千回も、一万回も!・・・・・・あんたたちなんかまだ生まれてもいないうちからあいつは毎日私を殺してたんだ!・・・・・・ところがこの私はあいつのために身を粉にして働いて来たんだ!・・・・・・ええ!胃の腑も吐き出すようにして!・・・・・あいつがランジスへぶちこまれないように何周間も食べなかったことだってあるんだ!・・・・・・一生ずっとそうして来たんだ・・・・・・ぶたれ、だまされて!・・・・・・私の方ですよ!やられたのは。一生の間、あのろくでなしのために!・・・・・・あいつを救うために私はなんでもやって来たんだ!・・・・・・なんでも!・・・・・・


 読む前からの予想通り、パゾリーニの映画『乞食(アッカトゥーネ)』がずっと頭に浮かんでいた。「アッカトゥーネ!」という叫びがずっと耳に残っていた。


河出文庫 2002年





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Last updated  2004/10/29 01:43:08 AM
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