2004/05/11
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カテゴリ: 海外小説感想
 殺し屋が次の殺しの対象となる人物のことが急に気にかかり、これまでそんなことは一切なかったのに、まるでそのことが悪い流れを引き寄せたように恋人には去られ仕事にヘマをしとんとんと急流を下るように人生転がり落ちていくような、セプルベダにしては普通の話。きっとこちらの方が、ヨーロッパでベストセラーを連発している作家としての彼の本筋なのだろう。メキシコが絡んでいるのでどうしても、殺し屋の武器はギターケースから飛び出すマシンガンを想像してしまうがそんなことはなく。武器を手に入れにくい国でも、警備員を騙して気絶させて銃を奪えばいいという手口の鮮やかさは見事。


 仕事の前はできるだけ寝ることにしている。ぐっすり眠るには、夢の中にいやおうなく引きずりこまれるのを避けたほうがいい。私と同業のアイルランド人に夢を見ないようにするこつを教えてもらったことがある。精神を集中して緑色の巨大な布を思い浮かべるのだ。目を閉じるときまでに見たあらゆるものを、その布がしだいに覆い尽くしていく・・・・・・。アイルランド人はそれを<殺しの屋のヨガ>と呼んでいた。これまではたいがいうまくいっていたのだが、今度ばかりは飛行機の中であの子はいまいましくも緑の布を突き破り、まるで湖からあがったばかりのように、みずみずしく、扇情的に迫ってくるのだった。

『センチメンタルな殺し屋』より


 なかなか眠りにつけない夜、この<殺し屋のヨガ>を試してみたが、小説と同じようにあっさり布は破られた。
『ヤカレー』は、カルロス・フェンテスがミステリーを書いたような、土着的サスペンス。どちらかといえばこちらの方が面白いが、それも平凡の枠は越えていない。核となる登場人物の作りが『ラブ・ストーリーを読む老人』より弱いせいか。


 コントレラスは寒さを憎んでいた。自分に向けられた敵意のように感じられた。最悪の出来事は寒い日に訪れる、とひそかに思っていたのだ。実例は探すまでもなく、ごく身近なところにもあった。別れた妻は、よりにもよって冬の日に不貞をはたらいたのだ。夏の日に、たとえばトレモリーノス休暇のときに男と遊んだのなら、まあ夏のちょっとしたできごころということで、さほど重大なことにはならなかったはずだ。だが彼女は一月に浮気した。その理由を問いただしたとき、それが胸にぐさっと突き刺さるものであれ、自分の納得のいくものにちがいないと予想したのだが、返ってきたのは、彼の意表をつく返事だった──「だって寒かったんですもの」

『ヤカレー』より


 そうしてるうちに外国人に飽きてきた。五月場所が始まった。まだしばらく横綱に土がつくのを見られそうにない。


1999年 現代企画室





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Last updated  2004/05/11 10:40:19 PM
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