第四章~ジュロー島の激闘2



 ラーズが高速艇の船外機に狙いを定め、まさに矢を放とうとした時、後頭部あたりの空気を裂いて何かが左斜め前に飛んで行きました。チリッと熱い感触がありました。

 そして次の瞬間、頭頂部にかすかな衝撃があって、左斜め前に矢の刺さった自分の帽子が落ち、頬に何かがバサッと落ちてくる感触がして、パラパラと黒いものが落ちてきました。それは自分の髪の毛でした。

 イエルカのサリエスやセージ、シャルマンは長い髪を後ろで束ねているのが普通です。

 でも、ラーズは幼少期のちょっと辛い体験がもとで自分の黒髪が人目に触れるのを嫌い、頭頂部に髷(まげ)を結(ゆ)って普通よりちょっと大きめの帽子の中にしまっていました。

 敵が放った矢の切っ先(鏃)で頭頂部の髷が切断されたために、長く青みがかった漆黒の髪が垂れ下がってきたのです。そして一筋の血が左の襟足をつたっていました。

 しかし、戦闘で気持ちが高ぶっているので黒髪が露わになったことも、ケガをしていることも気づいていません。

ラーズ:(しまった!もう1艘いたのか!?)

 振り返るとガレー船は、干潮で姿を現したジュロー島に完全に乗り上げた格好になっていて、島の後方に接岸した1艘の高速艇と、すでにガレー船に乗り込んで来そうな二人の兵士の姿がありました。

リク:あの背ビレみたいな岩が死角になってて見えなかったんだ!ヤツら来ち
   ゃうよ!(°°;))。。どうしよう!?。。・・((;°°)ねえ!どうしよう!

 老人:坊や、イエルカのシャルマンか?ここまで平和が続いたんじゃ無理も
    ないのぉ・・・、どれ、下がってなさい。

 老人はそう言うとリクの前に立って杖を片手に、必殺技を発動する直前の仮面ライダー・ブ○イドの様なポーズ(表現力が貧困でゴメンなさいね~、漫画だったらこういう説明いらないんですよね~)を取りました。そして老人の身体がまばゆいばかりの光に包まれたかと思うと、竜の形をした光の紋章が老人の胸の前に浮かび上がり、すぐさま流れる様に腕を伝って光の鞭(ムチ)となって敵兵を襲いました。

 敵兵の一人はとっさにガレー船の影に身を翻してのがれましたが、まともに喰らった一人は派手に吹っ飛び、昏倒しました。

ラーズ・リク:・・・(〇o〇;)!!

老人:ちっ!1人逃したか!鈍(なま)ったかの~・・・。

 その時、ガレー船の下から「きゃっ!」という短い女性の悲鳴が聞こえました。聞き覚えのある声に反応したラーズが船から飛び降りると、そこにはシジムの浜に向かったはずのキサラがいて、敵兵が後ろからキサラの首に腕をまわして、刀を突きつけていました。

敵兵:φαλεδομο!“μυσακ”φοσυτενκα!(貴様ら!
   武器を捨てろ!)ζψζψ!ιλανκοτοσψναψα!(じじ
   い!下手なマネすんじゃねーぞ!)

ラーズ:うるさいっ!何言ってんだか全然わかんねーよ!!

敵兵:θαψοσε=ψα!!κονοαμαγαδοναψνατ
   =εμοε=νκαι!!(早くしろ!この女がどうなっても
   いいのか?)

ラーズ:姉さんから手を離せ!

 ラーズは八相に弓を構え、敵兵の刀を握った手の甲に狙いを付けました。
 すると・・・。

敵兵:σονο“βαν”στψλε・・・ονδολε、μασακ
   α・・・。(その弓の構え方・・・お前、まさか・・・)

 敵兵が驚いた様な顔でつぶやき、刀の切っ先が下がりました。

その時・・・。

リク:キサラさん!伏せてっ!!

 とリクが叫び、敵兵目がけて突進して行きました。キサラはとっさにゆるんだ腕をかいくぐり、合気道の受け身の様な姿勢で斜め前に転がり、リクが握りしめたモリの切っ先は敵兵の首を刃と刃の隙間に収め、刃先は背後の背ビレ岩に突き刺さりました。

敵兵:αιψααααααθ!((ノ><)ノヒィィィィィッ!!)

 首をモリの刃の隙間に絡め取られながらも、さすがは修練を積んだ兵士です。すぐさま腰の弩弓(ボウガン)に手を伸ばしました。
 ラーズはすかさず矢を放ち弩弓を弾き飛ばします。すると・・・。
 “コオォォォォォォ”という奇妙な呼吸とともに敵兵の目が赤く輝き全身の血管が浮き出たかと思うと、肌が徐々に青黒く変化し、筋肉がパンプアップして2周りほど身体が大きくなりました。ベルセルクの呪法のようです。
 敵兵は首を固定していたモリを難なく引き抜くと、岩にもたれかかるようにしていた身を起こしました。
 するとその時、

マジャホ:われぁ!あにしるだよー!!(てめえ!何をする気だ!!)

マトゥラ:しっしっ・・・死ね!

 マジャホとマトゥラがガレー船から持ち出した船のオールで、敵兵の股間を思い切り突(つつ)きました。

敵兵:ιψααα!!((▼ж▼メ)はううううんん!!)

バーサーカーもここだけは強化できなかったようです・・・(^^ゞ

 泡を吹いて気絶した敵兵はすぐさま簀巻(すま)きにされ、マジャホとマトゥラがその上に「で~ん!」と腰掛けています。

ラーズ:キサラ姉さん!大丈夫!?ケガはない?

キサラ:ええ!私は大丈夫です。それより首の後ろ側に血が・・・。

ラーズ:えっ!?

 キサラに言われて首の後ろを拭うとヌルッとした感触があって結構な出血量です。血を確認すると同時に後頭部がズキズキと疼(うず)き始めました。

ラーズ:あわわわ・・・血だ・・・、血ぃ~。(((;゜д゜)))ガクガクブルブル。

老人:これ、お前さんもシャルマンならちょっと血が出たぐらいで狼狽(うろ
   た)えるでない。どれ・・・。見せてみなさい。

 そう言うと、右手人差し指を立てて何かブツブツとつぶやきました。すると「ブーン」という振動音がして爪の先にペーパーナイフくらいの光のナイフが現れました。

 老人は光のナイフでラーズの後頭部を刈りはじめました。

ラーズ:あっ、あの~、あんまり短くなくていいです。

老人:傷を見るんじゃ。短い方がええじゃろ?ん~?見えてきたぞ・・・、思
   ったより深い様じゃの~。化膿せねばええがの~。

ラーズ:ええっ!!??化膿ですか???

老人:ウソじゃよ~!お前さん傷が広がりにくい体質の様じゃの。すぐ目立た
   なくなるわい。一応出血は止めておくが、シジムに行ったら酒で傷口を
   洗ってもう一度自分で治療するんじゃぞ。

 老人はそう言うと、傷口を2~3度光のナイフで撫でました。すると出血はぴたりと止まり、傷口も4針縫った跡の大きさにまで縮まりました。

老人:とりあえず傷口は塞がったが、派手に暴れるとまた開くかもしれんから
   な。無茶はいかんぞ。

ラーズ:ありがとうございました。それにしても貴方様は・・・、あ~~~~
    ~~っ!!そうだ!!あの変な乗り物の親子!!助けに行かなきゃ~
    ~~~!!

老人:あっ!おい、無茶はいかんと言うとろうが!これっ!!

 老人の制止も耳に入っていない様で、ラーズは背ビレ岩の向こうに駆けて行きました。
 行きがてら、老人の奇術で倒された兵士が息を吹き返し、起き上がろうともがいていたので「えいっ!」と思い切り踏みつけて、もう一度失神させました。

リク:どうもすんません。普段は穏やかで、落ち着いた感じなんですけど、ち
   ょっと気になることがあるともう、こういう感じで・・・。

 リクは両手で狭い視野を意味するジェスチャーをして見せました。

老人:あの子の師匠はテオじゃろ?

リク:そうですが・・・。ちょっと手を焼いているというか、教育方法で悩ん
   でおられる様です。

老人:ふふん・・・、(`ー´) 成る程ね・・・。さて、ワシらも行くか
   の?

 老人はそう言うとラーズの後を追いました。

リク:あっ!ちょっと・・・、僕も行きます!!(¨;)

 リクはモリを掴むとすぐさま老人の後を追いかけて行きました。

つづく



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