閑古鳥の巣箱

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小市民伯爵

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2004.06.21

伯爵堂のセールスマン　第一話

ピンポーン

「はい」

「こんにちは。伯爵堂です。今日はまた新しい商品をご紹介に参りました」

「また、お前か。さようなら」

「まぁ、そういわず、見るだけ見てください。
　今回はいい商品が揃っています」

「本当にいい商品なんだろうな」

「もちろんですとも。まずはこちら」

「ただの将棋盤と駒じゃないか」

「いえいえ。これは巷で販売されているものとは格が違います。
　なにしろ歩兵より王の方が枚数多いですから」

「仲間割れしちゃってるじゃないか！だめだよ、そりゃあ」

「本来歩兵のあるところが全て王なんですよ」

「知らないよ！」

「しかも本来王がいるところには歩兵がいるんですよ」

「なんでだよっ！なんで歩兵が偉そうにしてるんだよ。
　何様なんだよ、その歩兵は！」

「さぁ・・・なんでですか」

「聞き返さないでくれよ。そんな将棋はだめだ。他の商品にしてくれ」

「こちらの洗剤なんかどうでしょうか」

「脈絡がないものもってきたな」

「従来のものよりはるかに優れています。
　なんと当社比で油汚れ５０％アップ」

「アップしちゃうの！？」

「おっと。間違えた。油落とし５０％アップでした。ついつい本当のことを
　言ってしまいました」

「あ、本当のことなんだ」

「こちらのダイエット茶なんかどうでしょう」

「本当に脈絡がないな。それ、痩せるんだろうな」

「この写真をご覧ください。これが３日目」

「あぁ、少し痩せたね」

「そしてこれが一週間目」

「痩せたというかやつれてるね。大丈夫か、これ」

「そしてこれが２週間目」

「目が虚ろだな。顔色が青いぞ」

「１年後」

「白骨化しちゃってるじゃないか！だめだよ。
　ものすごく不安になってきたよ」

「でも痩せるってことはわかっていただけましたね」

「それはそうだが」

「このお茶を飲むだけで痩せるんですからね。
　他には何もしなくていいのです」

「あれ、ちょっと待て。お茶を飲むだけで、
　他のものを一切口にしなければ痩せてあたりまえじゃないか」

「お客さん、鋭い。わはははは」

「わははじゃないよ。まったくひどい販売員だな」

「こちらはいかがですか。水陸両用みみかき」

「いやあ、水中で耳を掻きたいとは思わないな」

「そうですか。変わっていますね」

「君の発想の方が変わってるよ」

「ではこちらは。水陸両用ドライヤー」

「いやだからさ。水中でドライヤーをする人の意味がわからないから」

「困ったお客だ」

「君がね」

「ところで、お客さん料理をしますか」

「料理か、うん。まぁ週末はよく料理をするね」

「たまねぎを切ると涙がでちゃうでしょう」

「それはね」

「だって女の子ですものね」

「男だけどね」

「そういう人にこれ、たまねぎプロテクター」

「うん。発想はいいけど、ちょっと大げさだね。
　これじゃ宇宙服じゃないか」

「でもこれで目に染みるのを３０％カットするんですよ」

「あれ、これだけ大げさなのにそれだけしかカットしないのか」

「さらにカットしたいなら。
　たまねぎを冷蔵庫に入れてから切ってください」

「はじめからそうするよ」

「これなんかどうでしょう。水陸両用ドライヤー」

「くどいっ！さっき出したじゃないか」

「あ、そうでした。お客さん、記憶力がいいですね」

「ほめられるほどのことでもないよ」

「ところでお客さん。よくキャンプはされますか」

「まぁそうだね。年に数回は家族とキャンプに行くね」

「そうですか」

「あれ、商品は出ないのか」

「聞いただけです」

「ああ、そう」

「この商品なんかどうでしょう。エレベーターの開閉ボタン用連射機」

「そこまでせっかちじゃないよ」

「ではこれは。空気いれ」

「普通なものがでてきたな」

「貧乏ゆすりのエネルギーを無駄なく使用」

「だからせっかちじゃないよ、俺は！」

「こちらの目覚まし時計はいかがでしょうか」

「ふむ。普通のように見えるが、あっ、数字が１３まである」

「よくお気づきになられました。従来の時計は数字が１２までしかなく
　どこか物足りなかったものですから勇気を振り絞って
　１３まで増やしてみました」

「そんなところに勇気を振り絞らなくっても」

「でも一つ欠点がありまして。なぜか１日に２時間ずつ遅れるのですね」

「そりゃそうだ」

「でもご心配ありません。遅れていれば、
　他の時計を見てあわせればいいのです」

「頭が痛くなってきた」

「だ、大丈夫ですか。顔が悪いですよ」

「顔色と言え！失礼だな。いいから君、帰りなさい。
　ろくなものがないんだから」

「仕方ありません。ではまた来ます」

「もう来なくていい」

がちゃり

「まったくひどい販売員だ。ん、なんだこの箱は。
　お客さん、この商品はサービスです。お受け取りください。
　ロボットのメイドです、か。うん、メイドはいいね。
　どれ、開けてみよう